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ドラマ『キラー・ビー(Swarm)』感想(ネタバレ)…ファンダムとカルトの違いはどこ?

キラー・ビー

そしてファンと殺人鬼の違いも…ドラマシリーズ『キラー・ビー』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Swarm
製作国:アメリカ(2023年)
シーズン1:2023年にAmazonで配信
原案:ドナルド・グローヴァー、ジャニーン・ネイバース
性描写 恋愛描写

キラー・ビー

きらーびー
キラー・ビー

『キラー・ビー』あらすじ

世界的に有名なポップスターであるナイジャに夢中なドレは、いつもそのナイジャのパフォーマンスと曲に心酔し、それが人生の中心になっていた。スマホではナイジャのファン・コミュニティである「スウォーム」に入り浸り、日々ナイジャのトレンドを追って、他のファンの悲喜こもごもな反応を眺めては、自分の居場所を実感している。ところがドレの日常に悲劇が起こり、ドレの中にいる狂気が羽音を立てる。

『キラー・ビー』感想(ネタバレなし)

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ファンダムの闇を覗きますか?

何かの作品やジャンルを軸に寄り集まるファンのコミュニティやそのネットワークを「ファンダム」と呼びますが、それぞれの作品などのファンに固有の名称が生まれることがあります。

例えば、「シャーロック・ホームズ」の熱狂的なファンは「シャーロキアン(Sherlockian)」と呼ばれますし、「スタートレック」なら「トレッキー(Trekkie)」、「ハリー・ポッター」なら「ポッタリアン(Potterian)」、「マイリトルポニー」なら「ブロニー(brony)」などなど。

映画やドラマ、アニメ、漫画、音楽…いろいろなところにファンダムがいて、固有の名称で繋がりを深めています。だいたいはファンが勝手に名乗り始めるものが多いですが、中には公式がそのファンダムに乗っかり、積極的にファンダムの固有名を利用していくこともあります。

この「公式とファンダムはどれほどの距離感で接すればいいのか」というのは常に問題点となるものです。距離が遠すぎると盛り上がらないし、人気も拡散しません。でも近すぎると今度はファンダムに予想外の影響力が発生したり、トラブルも起きたり…。

公式がファンダムをコントロールしているのか、ファンダムが公式をコントロールしているのか、その境界線がどんどん曖昧になっているのが今のネットベースのファンダムの現状なのではないでしょうか。

こうなってくると現在も論争になるのが「トキシック・ファンダム」の存在で、有害化したファンが周囲を省みず暴走し、自身のエゴのために犯罪や不正行為さえも厭わず、大事件を起こす…なんて事態も昨今ではよくあって…。

今回紹介するドラマシリーズは、そのファンやファンダムの醜悪さをあえて極端に味付けして描き出してしまうという、かなり露悪的に翻弄してくる、そんな一作です。

それが2023年に「Amazonプライムビデオ」で独占配信が始まった本作『キラー・ビー』

原題は「Swarm」です。ちなみに2023年の同時期に『The Swarm』(邦題は『THE SWARM/ザ・スウォーム』)という全く別のドラマシリーズも始まっていて、原題だけで判断しようとすると大混乱になるんですが、まあ、日本語圏なら大丈夫かな。

このドラマ『キラー・ビー』は、とある架空の絶大なポップスターに熱狂するファンの若者のひとりを主人公にしており、その主人公がファンダムの闇に染まり、あれよあれよという間に連続殺人鬼に変貌していくという、ショッキングなスリラーです。

相当に残酷に殺しまくる内容なので(ゴアというほどではない)、倫理観ゼロなのですが、演出の独特な上手さもあって、目が離せません。怖いけど見てしまう系ですね。

本作『キラー・ビー』が凄いのは製作の座組。まず原案を務めるのは、ドラマ『アトランタ』を成功させた“ドナルド・グローヴァー”“ジャニーン・ネイバース”。ということでセンスは抜群です。加えてバラク・オバマ元大統領の娘である“マリア・アン”も脚本家デビューを果たしているというのだから驚き。

そして俳優陣の中に「え?」というポップスター関係者が混じっていて、例えば、マイケル・ジャクソンの娘である“パリス・ジャクソン”であったり、“ビリー・アイリッシュ”も俳優デビューしてます。しかも「こんな役なの!?」とびっくりする感じで…。“ビリー・アイリッシュ”は本当に凄かった…コイツはただものじゃないぞというオーラと“ビリー・アイリッシュ”がこの役をやってしまうことの“一線を超えている”恐怖が凄まじい…。

『キラー・ビー』で強烈な主人公を演じるのは『ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償』の“ドミニク・フィッシュバック”です。ちなみに“ドミニク・フィッシュバック”は30代で、本作の若手出演陣の中では実は案外と年上だったりします。

他には、実写版『リトル・マーメイド』の主役に抜擢されている“ハル・ベイリー”の姉である“クロエ・ベイリー”や、同性愛者ゆえにイジメを受けた経験をインターネットで語ってそれが話題の出発点となった“リッキー・トンプソン”、ドラマ『The Kings of Napa』の“ヘザー・シムズ”、『KIMI サイバー・トラップ』の“バイロン・バワーズ”、『アンテベラム』の“キアシー・クレモンズ”など。

ドラマ『キラー・ビー』は前述したとおり、殺人しまくりで残酷ですし、トラウマティックな煽り方をしてくるので、あまり万人にオススメはできないのですけど、ファンダムの闇深さを覗きたい好奇心が抑えられないならぜひどうぞ。出演陣のインパクト特大な演技も見物ですしね。

『キラー・ビー』はシーズン1は全7話で、約25~35分程度なのでサクサク見れます。「Amazonプライムビデオ」で探すことになりますが、レーティングが「18+」になっているので気を付けてください。

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『キラー・ビー』を観る前のQ&A

✔『キラー・ビー』の見どころ
★目が離せない狂気のスリルとアンモラル。
★あのセレブの驚きの演技。
✔『キラー・ビー』の欠点
☆露悪的な残酷さが多いので人を選ぶ。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:スリルを堪能
友人 3.5:出演者好き同士で
恋人 3.0:癖が強いので注意
キッズ 1.0:R18+です
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『キラー・ビー』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『キラー・ビー』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):本作品はフィクションではない

2016年4月、テキサス州のヒューストン。ナイジャという大人気ポップスターに陶酔しているドレ(アンドレア)は自室でその神と崇める存在のツアーの購入手続き画面を見つめていました。おカネは無理やり用意し、無事に立見席をゲット。信じられませんが事実です。思わずSNSにその喜びを投稿し、ナイジャの他のファンから羨ましいと書き込まれ、ドレは優越感に浸ります。

同じ家ではドレにとっては姉であるマリッサが、ボーイフレンドのカリードという男と激しく体を交えていました。それを無表情に見つめるドレと、その視線に気づくカリード。

ドレが近場の買い物から帰ってくると、マリッサはドラマ・クイーンのメイクをやることになったと興奮気味に話してきます。いつかはナイジャの傍に行けるかもしれないという夢が膨らむ話です。

今はマリッサはソファでカリードとイチャイチャしており、得意げなカリードは「バージンなんだろ、俺のダチを紹介するぞ」と余計なことをドレに言ってきます。

カリードにはナイジャのチケットをとった話をしますが、カリードはその熱意に興味なさそうです。一方でマリッサはそんなナイジャのネット上のファンの「友人」なんてイカレているだけとあっさり言い捨てます。

翌日、ナイジャの代わりでシフトとなったバイトに遅刻しつつバイト仲間のエリカたちと合流

ところがカリードがやってきて売り場を離れることになり、しかもカリードは「俺が寝てやろうか」とまたしつこく誘ってきます。無視して戻ると売り場が荒らされていました。

この大失態に激怒したマリッサは家を出ていくと言います。もうカリードと2人暮らしを始めるつもりだったようです。慌てたドレは「カリードは私と寝ようとしたクソ男だ」と説明しますが、マリッサは逆上。車で消えてしまいました。

傷心のドレ。癒すのはやはりナイジャです。陶酔モードに突入。クラブに行ったような気がしましたが、気が付けば男と見知らぬ部屋で朝を迎えている状態。スマホにはマリッサからの無数の連絡があり、カリードに浮気されたと書いてあります。

家に戻るとマリッサはベッドで意識なく横たわっており…。運ばれた病院でドレは悲しい知らせを告げられます。現実として受け止められず、その場で横になって震えるしかできず…。

意気消沈でひとりっきりとなった家を片付ける作業中も放心しているドレ。葬儀の中、茫然と立ち尽くしていると、「ご家族の要望なので去ってくれ」と言われてしまいます。

ドレの心にどす黒い憎しみが宿ります。嘆き悲しむカリードの家へ足を運び、その根源の男を躊躇なく殴り殺すドレ。血塗れになりながら自分のやったことを実感するだけです。

敵とみなせば刺し殺す。それは比喩ではなく、本気の狂気。ドレには引き返す場所はもうなく、あとはひたすらに闇に沈んでいくのみでした。

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ビヨンセは懐が広い

ファンダムの純真な理想像を描くのが『メタモルフォーゼの縁側』だとすれば、この『キラー・ビー』は徹底してファンダムの闇を掘り下げます。

ただ掘り下げると言っても真面目に社会問題として解説するわけではなく、この『キラー・ビー』というドラマ自体が露悪的なスタンスをとっており、「闇を題材にするが責任はとらない」みたいな飄々とした振る舞いです。

冒頭の「本作品はフィクションではない。実在の人物や事件との類似性は意図的なものである」という表記からして、やたらと好戦的ですからね。

実際に本作の「ナイジャ(Ni’Jah)」というポップスターとその「スウォーム」というファンダムは基になったものがあって、それはあの伝説的なスターである“ビヨンセ”です。

“ビヨンセ”には「Bey Hive」(「hive」は蜂の巣のこと)というファンダムが存在し、このファンたちの一部は自分たちが心酔する“ビヨンセ”を不快にさせるようなコメントをネットで見かければそこに突撃し、蜂の絵文字を残して、マーキングするという風習があります。

もちろん「自分の好きな人物や作品を咎める奴は許さん!」みたいな心理を持つファンは“ビヨンセ”ファンダムだけではなく、どこにでもいるのですが(この私の感想サイトだって同類の苦情を受けたことが何度もある)、主体がカリスマ的な超有名スターだとそのファンダムまでパワーを持っている気分になってしまうもので…。

なお、作中ではドレはナイジャを噛んでしまう事件を起こしますが、これも“ビヨンセ”に同様のことが実際に起きたそうで、それが元ネタのようです。

こんなストーリーにして“ビヨンセ”本人に怒られないのかなと思うのですけど、“ビヨンセ”と“ドナルド・グローヴァー”は友達なので、そういうノリだからできる変則的な裏技ドラマなんでしょうね。ズルいなぁ…。

第6話では急にガラっと変わって犯罪ドキュメンタリー風になり、メンフィス警察刑事のロレッタ・グリーンの捜査模様を追いかける内容に変身。犯人は連続殺人鬼の黒人女性では?と疑いだすきっかけのものすごくどうでもいい理由とか笑ってしまいますけど、このへんも遊び心満載です。

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ビリー・アイリッシュのカルト信仰

『キラー・ビー』の「ナイジャを批判する奴は全員死ね」なシリアルキラーと化す主人公のドレ。

その背景は複雑で、ジャクソン家に里子としてやってきて、マリッサとは血縁関係にはありません。子ども時代からかなり協調性のない突発的な問題行動が目立っていたようで、それでもマリッサだけは親しくし続けてくれました。ドレには推察するにニューロダイバーシティとクィアな性質が備わっているようですが、適切なサポートができる理解者は周囲にいません。

そのドレにとってかけがえのない大切な存在が2つあります。ひとつはマリッサ、そしてもうひとつはナイジャです。

このうちマリッサはカリードによって滅茶苦茶にされ、ドレの手元から離れてしまいます。そしてナイジャのみとなったことで、その執着性が尋常ではないことに…。

このドレは怖いのですけど妙にその行動が面白おかしくもあり、毎話絶妙にユーモアを交えてくるのがシュールです。そして行く先々で出会う人たちもこれまた個性が強くて…。

第2話のヘイリーは「私は黒人のハーフ」と言ってのける、なんともこちらを逆撫でする人ですし(“パリス・ジャクソン”なので間違ってはいないけど、当人もそんな発言をして物議を醸している)、第3話の殺害対象になるアリス・ダドリーはトランプ支持者らしい白人のファンで、まあ、きっとこういう人もいるんでしょうね。

そして第4話のイヴァ。あのコミュニティは女性たちで構成され、肌にシンボルが刻まれていることから、明らかに実在のカルト集団「ネクセウム(NXIVM)」(詳細はドキュメンタリー『カルト集団と過激な信仰』を参照)をモチーフにしていると思うのですけど、イヴァを演じる“ビリー・アイリッシュ”が怖いのなんのって…。これだけで映画一本作ってほしいほどの怪演だった…。

どんどんマインドコントロールされてしまうドレでしたが、この第4話はカリスマ性に群がるファンダムは一歩間違えればカルトも同然だということを冷酷に示しており、わかっていてもゾっとさせられます。

第7話では2018年6月と最初の2016年4月から2年も経過し、ジョージア州アトランタにてついに新しい寄り添い合える大切な人を見つけたかと思ったら、その人はナイジャのファンではなかったという残念な事実…。推しの不一致は悲劇を生む…。いや、惨劇か…。

結局この『キラー・ビー』はどう終わらせるんだろうと固唾をのんで見守っていたら、最終的にはわりとアーティストに忖度したというか、パラソーシャルな関係性をまるっと肯定するような、ある種の「これができてしまうから真のポップスターはスゴイ!」という着地にもなっているのかな。

でも思うのだけど、あのラストも含めてこのドラマ自体が“ビヨンセ”のカリスマ的なウルトラパワーに依存しまくりなので、やっぱり“ビヨンセ”にしか通じないイレギュラーな別世界エピソードだったな、と。

私は唯一無二のカリスマに心酔するファンダムはそんなに好きじゃないので(むしろ苦手)、もう少し緩く穏やかに楽しんでいこうと思います。「自分の好きな人物や作品を咎める奴は許さない!」と攻撃衝動に駆られたら、それをもっと健全なファン愛を捧げて、ファングッズとかの購入に費やした方がいいですし、皆さんも健康的にファンダム・ライフを過ごしましょう。

『キラー・ビー』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 84% Audience 77%
IMDb
7.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0

作品ポスター・画像 (C)Amazon キラービー

以上、『キラー・ビー』の感想でした。

Swarm (2023) [Japanese Review] 『キラー・ビー』考察・評価レビュー