二兎を追う者は…Netflix映画『マスタング・アイランド』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2017年)
日本では劇場未公開:2018年にNetflixで配信
監督:クレイグ・エルロッド
マスタング・アイランド
ますたんぐあいらんど
『マスタング・アイランド』あらすじ
大晦日に恋人のモリーに振られたビルは、モヤモヤした気持ちを抱えたまま、どうしても彼女のことを諦められない。どうしようもなくなったビルは仲間とともに、彼女を追って季節外れの海辺の町を訪れる。ところが、予期せぬ複雑な事態に陥ってしまう。
『マスタング・アイランド』感想(ネタバレなし)
2018年、映画の初笑い
私の選ぶ「2017年の映画ベスト10」では、劇場未公開でNetflix配信作品を3作も選んでしまいましたが、きっと今年も良い映画がたくさん配信されるでしょう。
…なんて、思ってたらさっそく来ました。早いよ…。
その名も『マスタング・アイランド』。これが素晴らしいインディペンデント映画でした。
Netflixオリジナル作品ではないようなので、どこか別の動画配信サービスでも扱っているかもしれません。こういうタイプの作品は、全く宣伝もされないので、全然存在に気づくこともない…というのがよくあるのが困ります。だから発見したらとりあえずすかさず観ることにしてます。
以前にそんな隠れた名作として『ブルージェイ』という映画がありました。こちらは二人の中年の男女の切なくも苦い青春を呼び覚ます、今、思い出してもウルウルしてくる恋愛ドラマだったわけです。
一方の『マスタング・アイランド』はというと、ある意味、全く逆で、いかにもダメそうなボンクラ男たちがいかにもダメそうなボンクラな恋愛をしていくお話。本当にそのダメさが極まっており、「おいおい…」という感じなんですが、なんか憎めない。そんなコメディです。
『ブルージェイ』と同じく映画全編がモノクロで構成されているのですが、物語の中身はこうも違うというのがまた面白いですね。
劇中の物語自体は大晦日からスタートするのですが、それに合わせて大晦日後に配信するNetflixの粋な計らいもシャレてます。
私にとっての「2018年、映画の初笑い」は本作になりましたが、ぜひ皆さんもどうでしょうか。
『マスタング・アイランド』感想(ネタバレあり)
二兎を追う者は一兎をも得ず
「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、ハッピーニューイヤー!」
新年を祝い、大騒ぎする人混みの中、こちらを苦難の顔で直視する女性。そして、背を向けて立ち去っていきます。続いて、車を走らせて無様に泣きじゃくる男。そのまま路肩のボートに衝突。腕を怪我して走るも警察の御用に…。新年早々、恋人にフラれた男、最悪の1月1日でした。
そんな人生どん底を今まさに経験している最中の男・ビルのもとに来たのは、弟のジョンとその仕事仲間のトラビス。
この3人で結局、ビルが諦めきれない元カノのモリーを探しに「マスタング・アイランド」を訪れるという話なわけですが…。3人の男たちがとにかく、こう、なんというか、冴えない…。大丈夫か、こいつらと心配になる不安定感。当人たちは一応真面目なんですけどね。このシュールな3人の健闘を観察する映画でした。「かみ合っているようで全くかみ合っていない人間関係」が終始、垣間見えます。
基本的に行動は無計画。モリーの家はどこかもわからず、情報は「一軒家、海に近い、床が高い」のみ。要するに全く特定できない。ちなみに撮影地はたぶんテキサス州のガルベストンかな? ここはハリケーンによる高潮の被害によく遭う地域で、どの家も床が高くなってます。
そんな3人のグダグダなプチ旅は目的を見失い、やがては旅先の食堂で出会ったリーという女性にジョンが惚れ、そのリーはビルに惚れるというまさかの三角関係に突入。
ビルとリーはすっかり良い関係になり、ジョンはショックを受けて兄弟の絆のピンチ。当のビルは元カノのことは忘れて新しいカノジョができたし結果オーライか…なんて思っていると、そこへ元カノのモリーが登場。わざわざ来てくれたことに感激するモリーは「やり直したい」と言ってくれるわけです。困ったビルはリーに素直に告白、元カノと別れると決めます。ところが、モリーと対面して気持ちが迷ったのか、シーンが切り替わればもうモリーとラブラブ。今度はリーを傷つけてしまい、まさに優柔不断の極み。
ラストはリーの車に追突したビルに対して、苦難の顔で直視するリーの顔のドアップで終わるという、冒頭と同じ構成。つまり、ループですね。そもそもビルはなんでモリーにフラれたのか詳細は不明ですが、絶対にこの映画と同じようなことを以前にもやらかしている予感。ほんと、「二兎を追う者は一兎をも得ず」のことわざのとおりですよ。この落語的なオチは『(500)日のサマー』を思わせますが、今作の場合はそれ以上にどうしようもない、ダメ男でした。
ビルのやっていることはクズな行動なんですが、映画全体のユーモアも相まって不思議とそこまで嫌な感じはしません。なんだかんだでビル以外の残り2人は幸せを手にしていますし、ビルは自業自得な目に遭ってますから。
ダメ男はそんな簡単に反省しないんです。
お前はなんなんだ
ただ、ダメ男で片づけられない奴がこの映画にはひとりいます。それは、ビル・ジョン・リー・モリー、この四角関係に一切介入しない男。奴です。帽子男のトラビスです。
こいつは全くもって意味不明で、そもそもなんでこの旅についてくるのかもよく考えればわかりません。冒頭から可笑しくて、ビルが「(モリーは)口を利かない」と言っているのに「そう言ったのか」と前言を理解していないかのようなセリフを投げてくるし、電話してモリーを呼びかけるビルに「誰だ?」と言ったりと、コイツは現状すら把握していないのではと思わせるアブナさ。
ひとつ言えるのは一番、旅を楽しんでます。「この貝、見てくれよ」とか、「タルタルソース、食うか」とか、「メシはどうなる?」とか、やたら食べ物に執着する姿勢。クラブでは誰よりもノリノリで踊り、ちゃっかりアフターパーティにいち早く参加するアクティブさ。そしてなぜか総合格闘技にやたらと反応するという謎の趣味。
付き合いがいいのか悪いのかわからないこのトリックスターの存在で、いい感じに物語が中和されるのだと思います。まあ、友人としてこういう奴が欲しいかと言われると困りますけど…。
モノクロの映像で会話もぎこちなく繰り広げられるのんびりした四角関係ロマンス。たまにまた観たくなりますね。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience 67%
IMDb
6.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★
作品ポスター・画像 (C)Netflix マスタングアイランド
以上、『マスタング・アイランド』の感想でした。
Mustang Island (2017) [Japanese Review] 『マスタング・アイランド』考察・評価レビュー