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ドラマ『インベスティゲーション』感想(ネタバレ)…立証責任の重みをひたすらに描く

インベスティゲーション

立証責任の重みをひたすらに真摯に描く…ドラマシリーズ『インベスティゲーション』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Investigation
製作国:デンマーク・スウェーデン(2020年)
シーズン1:2021年にスターチャンネルで配信
製作総指揮:トビアス・リンホルム

インベスティゲーション

いんべすてぃげーしょん
インベスティゲーション

『インベスティゲーション』あらすじ

2017年8月11日、スウェーデン人の女性記者が潜水艇を自作した発明家の男を取材しに行ったまま行方不明との第一報が、コペンハーゲン市警察に入る。潜水艇はすぐに発見されるが、所有者である発明家が救助された直後に潜水艇は沈没してしまう。凶悪事件捜査課のベテラン捜査官イェンス・ムュラー率いる捜査チームは、事件の証拠を掴むべく潜水艇の引き揚げを試みるが、発明家の男はとある証言をしたことでその信憑性が疑問視される…。

『インベスティゲーション』感想(ネタバレなし)

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私が北欧の刑事犯罪モノが好きな理由

私は日本の刑事犯罪モノでどうも気に食わない部分があって、それは作品のノリが妙に体育会系というか、感情で押し切った方が勝ち…という雰囲気を全編にわたって漂わすところです。例えば、刑事や警官が感情全開で犯人を問い詰めたり、勢いよく熱血で捜査をしたり、それが仕事の在り方として平然と描かれる。韓国の刑事犯罪モノも感情型なのですが、あちらは自己批判があるのでいくぶんマシで、日本の場合だとそれも無いことも多く…。おそらく日本特有の組織論の定番なんでしょうね(そしてそれは往々にして男社会のマチズモを土台にしている)。

私はそういう感情全開な生き方が性に合わない人間なので、そういう組織の空気感が苦手なのですが…。そんな私だからこそこの国の刑事犯罪モノはとても好みにマッチします。それが北欧の同ジャンルです。

北欧の刑事犯罪モノは日本と真逆でとにかく静か。ハッキリ言って超地味です。でもこの淡々と仕事をこなしている感じが私にはとても居心地がよく、そこにプロ意識を感じるし、ノイズもなく心底ジャンルを満喫できます。

そんな北欧の刑事犯罪モノの新たな傑作ドラマシリーズが2020年に登場し、日本では2021年に「スターチャンネル」で放送・配信されました(アメリカではHBOが配信)。

それが本作『インベスティゲーション』です。

本作はデンマークの作品で、実際に起きた事件を元にしています。しかも、その事件の発生は2017年なので結構新しい話題なんですね。その内容はちょっと変わっていて、自作の潜水艦を持つ男を取材していた女性ジャーナリストがある日忽然と姿を消し、その捜索が行われる…という通称「潜水艦事件」と呼ばれる出来事。「せ、潜水艦!?」とこっちも困惑しますけど、別にミリタリーものじゃないですし、肝心の潜水艦は外見しかでてきません。

じゃあ、この『インベスティゲーション』は何が面白いのか。題材になっている事件はなかなかに表面上は奇抜なのですが、本作はその突拍子もなさに流されず、ただひたすらに事件の真相を突き止めるべく捜査する警察とその関係者に焦点があてられています

そこでキーワードになるのが「立証責任」。これは裁判用語であり、どちらか一方の当事者が事実の立証が十分にできなかった場合に敗訴するリスクを負わされるということ。裁判は二者で争いますが、別に正論で論破したら勝ちとかそんなわけもなく、実際は片方の側が証明しないといけなくて、それができないと問答無用で負けになってしまう世界なのです。刑事訴訟では原則として検察官が立証責任を負担することになります。要するに「コイツが犯人だ」と警察がみなすにしても証明しないと有罪にできない…というわけですね。

『インベスティゲーション』はこの立証責任の重みを淡々と描き抜いており、その大変さが痛いほどよくわかる一作になっています。なんか法律をこれから学ぶ法科の大学生1年とか警察学校の入学生に真っ先に見せたいドラマなんじゃないだろうか。題材に対して誠実で真摯です。

この『インベスティゲーション』を監督するのが、『偽りなき者』『アナザーラウンド』の共同脚本として参加し、自身の監督作として『ある戦争』(2015年)が国内外でとても高い評価を受けた“トビアス・リンホルム”。ドラマ『マインドハンター』でもいくつかのエピソードを監督していました。

『ある戦争』も『マインドハンター』も、ある仕事に努める人間の姿を淡々と描き切ったものという点で共通しており、たぶんこの“トビアス・リンホルム”監督の作家性なんでしょうね。私はすっごく相性がいいと感じる監督のひとりです。

俳優陣の名演も見逃せません。『バニシング』『ハートストーン』の“ソーレン・マリン”、『オーヴァーロード』『ゴースト・イン・ザ・シェル』の“ピルー・アスベック”、『愛の風景』『スター・ウォーズ エピソード1 ファントム・メナス』の“ペルニラ・アウグスト”、『らいおんウーマン』『ダウンサイズ』の“ロルフ・ラッスゴード”、『Riget』の“ラウラ・クリステンセン”、『ヴァルハラ 神々の戦い』の“ドゥルフィ・アル=ヤブーリ”など。

『インベスティゲーション』はリミテッドシリーズで全6話(1話あたり約45分)。じっくり噛みしめながらの鑑賞がオススメです。

なお、凄惨な事件を描くドラマではあるのですが、暴力的なシーンは意図的に映し出されることがないように配慮が利いています。そこも本作の真面目な真摯さですね。

作品を観れます!
『インベスティゲーション』
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オススメ度のチェック

ひとり4.5:見ごたえのある良作ドラマ
友人4.0:ドラマ好き同士、紹介したくなる
恋人3.5:ロマンス要素ほぼなし
キッズ3.5:大人のドラマだけど
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『インベスティゲーション』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『インベスティゲーション』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):潜水艦事件は解明できるのか

法廷で検察官のヤコブ・ブック-イェプセンが証人2名の証言を説明します。防犯カメラの映像、携帯の脅迫的なメッセージ…。それらをテキパキと提示して仕事を終えます。結果は…無罪。有罪判決とするには証拠不十分と裁判官は判断しました。

裁判が終わり、犯罪捜査課の主任イェンス・ムュラーと小話。上訴するか問いかけられますが、防犯カメラ映像と脅迫文で不十分ならどんな証拠を出せばいいのか、見当もつきません。

2017年8月11日。イェンスは捜査員たちを集めて日報を確認。どんな事件があったか簡単に報告してもらいます。レイプ、発砲事件…その中でも少し変わった一件がニコライから口に出されました。スウェーデン人の恋人の捜索願で、その行方不明者はジャーナリストらしく、夜7時に自家製潜水艦に乗ったが予定を過ぎても戻らなかったとか。何でも潜水艦の建造者を取材予定だったそうで…。今は消えた潜水艦を捜索中で、中に取り残されている可能性もあるとのこと。

外に出ていたイェンスにニコライから電話がかかってきます。潜水艇の件で、潜水艦を発見したもののその瞬間に沈んでしまい、所有者は発見されたがジャーナリストはわからない…と。取り調べと鑑識のために任意同行を指示。その所有者の男は夜10時半にジャーナリストを降ろしたと述べ、一方でジャーナリストの恋人は8時以降連絡がないと言っているそうです。警察犬を導入して周辺を捜査させます。

ムサマイブリット・ポーセも捜査会議に加わり、この女性の恋人にはアリバイがあることを確認。海軍から電話があり、潜水艦は自然に沈没しないと専門家の指摘を受け、所有者の男が故意に沈めた可能性も浮上。ただちに男を殺人の容疑で連行しろと指示します。

検察官のヤコブも呼びますが、現段階では根拠なし。推測だけではダメだと釘をさされます。

現場へ。被疑者と女性の面識があったかはわかりません。軍の知り合いであるLMは「生存者の兆候はない」と言いますが、肝心の潜水艦にはダイバーも入れず、引き揚げは困難を極めるとのこと。

そして女性の親がテレビで事件を知ったらしく、父のヨアキム・ウォールから電話があり、「娘の生存は不明なのですか?」と必死の質問が…。まだ結論は出せないと答えるしかできません。殺人なら動機は何なのか、2人の関係は…謎だらけです。両親と会い、「まだ何とも言えない状態です、生存を信じて捜索しています。明日に引き揚げます」と説明するのがやっと。

事件のことで頭がいっぱいで、家で娘のセシリエが恋人を連れてきて食事した際に妊娠したと報告されてもそっちのけになってしまいます。

捜査2日目。勾留している男は取り調べのやり直しを求め、思わぬ供述をしてきます。女性は死んだというのです。しかも、ハッチに頭をぶつけたそうで、海に捨てた…と。その理由は、あまりにも悲惨で全てを消し去りたかったとか。

兎にも角にも潜水艦の中に鍵があるはず。引き揚げは難航しつつも、潜水艇はついに海上に姿を現しますが…。

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立証責任の重み

『インベスティゲーション』はそのタイトルどおり「investigation」…捜査を題材にしています。刑事犯罪モノなんだから当然だろうと思うのですが、その捜査に対する本作の向き合い方は非常に丁寧です。こんなに敬意と誠実さに溢れる刑事犯罪モノはなかなかないくらいに。

まず冒頭で立証責任の難しさを痛烈に観客に突きつける出だしがあります。これで無罪になってしまうのか…と。この冒頭があるせいで以降の本題である潜水艦事件の捜査を見守ることになる視聴者も否応なしに緊張してきますよね。

でも立証責任は大事です。ひとりの人間を殺人の罪として罰するのはとてつもなく大きな行為。それを許されている権力には大いなる責任がともなうのも当たり前。それはわかる、わかるけど…こんなにも大変なのか…と茫然とさせる展開がずっと続きます。

自然死、自殺、事故、殺人、ハプニング…あらゆる想定のもと、反証していかないといけません。胴体の発見で事件の手がかりが進展。DNA鑑定でやっと行方不明者のものと確認。そして第4話、57日目にしてついに頭部を発見。しかも頭部の頭蓋骨に傷はない。これで被疑者の供述は嘘とわかった、殺人で間違いない…と思いきやのヤコブからの残念なお知らせ。

これら証拠でさえも重罪どころか有罪にすらできない。こんなに頑張ったのに…。なんだかもうドっと疲労感が圧し掛かってくるような現実(実際にそのヤコブの見解を聞いたときの刑事たちの“無”みたいな顔がまた…)。

でもここであらためてしつこいくらいに立証責任の重みを強調してきます。本作は犯罪者を裁くカタルシスなんて微塵も与えません。立証するというプロセスの重要性を黙々と教えるドラマでした。

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従事した人々を静かに讃える

『インベスティゲーション』はその捜査、もとい立証責任のための証拠探しという真相解明に関わるあらゆる人々の仕事を静かに讃える作品でもありました。

潜水艦引き揚げ作業に取り組んだ作業員たち。ジャックステイという海底探索方法で気の遠くなるような作業に従事したダイバーたち。専門的な海流の知識で遺体の場所を見事に特定した海洋学者。地上での捜索に協力してくれたボランティア。バラバラ遺体の分析にあたった法医。そして日夜ずっとこの事件に身を捧げた刑事たち

もちろんミスをすることもあります。苛立つこともあります。終わりの見えない仕事に憂鬱になることもあります。それでもこの『インベスティゲーション』はそんな労働者を責めることはしません。

作中で登場するその心血を注いだ作業従事者の多くが実際に事件で出動した本人だそうで、本作はその労働を素直に労います。確かに人間はちっぽけな存在だけど、こうやって団結し合って大きな正義を果たすのだということがよくわかります。

あと忘れてはならないのはですね。海洋遺体捜索犬なんているのを私も初めて知りましたけど、あの犬だけでなく、イェンスや被害者の両親夫妻も犬を飼っていて、その犬がメンタルヘルスとして心の支えになっていました。両親夫妻の犬は本当に遺族が飼っている犬だそうで、本作の制作に協力した遺族が出演を要望したそうです。この作品は本当に犬愛に溢れてますよ。

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元ネタになった事件

こういう凄惨な事件を描くとどうしても事件の闇を掘り起こそうとしてしまいがちです。加害者の心の闇とか、はたまた周囲の反応を露悪的に描くとか…。

でも『インベスティゲーション』はそういうことは一切しません。そもそも被害者の姿はもちろん、作中で勾留されている加害者の姿を全く映さないという作りになっているのが驚きです。

実はこの犯人、本作からだけではわからないのですが、その後の顛末も含めてかなりの大騒ぎを起こしています。犯人の名前はピーター・マドセンと言って、職業は発明家で、航空宇宙工学の専門家で、民間で有人宇宙飛行を成功させようと励んでいたそうです。そのロケット制作の傍らで潜水艦も作っていたんですね。そして、終身刑を言い渡された後は、2020年10月20日には刑務所からの逃走をしようとするという騒動まで…。

『インベスティゲーション』がその加害者のネタに困らないようにスキャンダラスな性質に視点を移さないのはやはり加害者の悪名を高めることに加担はしたくなかったからでしょうし、何よりもそれでは事件を消費しているようになってしまうからなのかな、と。本作はそんな事件に消費的に熱中する私たち庶民を諫めるような目線もありますし。

そして最後のシーンがとくに私は良かったなと思います。振り返ると本作は序盤に別件でレイプ事件の言及があり、合意があったと男たちは主張しているという報告に対して、イェンスが「女性の方が悪いというのか」とポツリと呟くシーンがあります。そして本作では、刺通、殺人ビデオ(スナッフ・フィルム)、権力欲といった主に女性が餌食となってしまう社会に蔓延るあれこれを提示。立証では、取材のためなら多少のリスクも飲まざるを得ないジャーナリスト特有の立場を利用したという加重事由も挙げられます。

日本でも女性ジャーナリストを狙った犯罪、性暴力はありましたが(ドキュメンタリー『日本の秘められた恥』を参照)、これはただの殺人ではなくフェミサイドなんだという事実。

つまり、本作には社会で働く女性に対する暴力への怒りが根底にあるわけで…。ゆえにラスト。被害者の母がジャーナリストを目指す若者の前で語りかける言葉にグっとくる。女性を狙う暴力が蔓延する過酷な世界で、それでもジャーナリストになろうと思った、そんな女性たちを心から尊敬するという姿勢です。そして「昔と比べて今は平和になった」なんてお気楽な言葉で片付けさせないという戒めの態度。私たち社会は全員が一丸となって立証責任を果たして犯人を有罪にしてみせますという正義の眼差し。

『インベスティゲーション』、これほどまでに品行方正な刑事犯罪モノのドラマがあっただろうかと、私も襟を正したくなりました。

『インベスティゲーション』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 83% Audience 74%
IMDb
7.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
9.0

作品ポスター・画像 (C)2020 Fremantle. All Rights Reserved.

以上、『インベスティゲーション』の感想でした。

The Investigation (2020) [Japanese Review] 『インベスティゲーション』考察・評価レビュー