キャプテン・アンソニー・マッキー、戦います!…Netflix映画『デンジャー・ゾーン』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2021年)
日本では劇場未公開:2021年にNetflixで配信
監督:ミカエル・ハフストローム
デンジャー・ゾーン
でんじゃーぞーん
『デンジャー・ゾーン』あらすじ
果てしない戦争が続く近未来の世界。自分自身の独断による失態のせいで、紛争地帯へと送られたドローン操縦士の男。そこはこれまでの職場とはまるで違う世界。しかも、上官となる存在は軍の最高機密を内に抱えており、そのあまりのイレギュラーな経験に戸惑う。狂気に溺れた危険人物が核攻撃を企てていると知り、それを阻止するための危険な作戦に挑むことになるが…。
『デンジャー・ゾーン』感想(ネタバレなし)
アンソニー・マッキー昇進中
世界を指パッチンで滅茶苦茶にした奴をぶっ倒し、アメリカンなヒーローから盾を引き継いだ男。そのナイスガイはピカピカの盾を構え、次のヒーローとして正義を胸に各地を翼とともに駆け回る…ことはなかったのです。
盾にも翼にも飽きた男は人間の体を捨て、超高度なAIとともにアブノーマルなアンドロイド有機体へと進化。薬でスーパーパワー? そんなの時代遅れだ、やっぱり今は最新バイオテクノロジーだよねということで、あっさり肉体は放棄しました。これで敵襲の猛攻も怖くない。ちっさくなれる変な奴も怖くない。感染症にだってかからない。まさに最強。
こうしてキャプテン・アンソニー・マッキーは誕生しました。
はい、かなり雑な文章でした。なんかいろいろ混じってしまいました。
でも今回紹介する映画と30%くらいは重なっているのです(たぶん)。それが本作『デンジャー・ゾーン』。
本作は、あの全世界を熱狂させたマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)にてサム・ウィルソン(ファルコン)をクールに演じた“アンソニー・マッキー”の主演作。しかも、製作も手がけています。
“アンソニー・マッキー”をMCUで知った人はかなり多いと思いますが、スパイク・リー監督の『セレブの種』(2004年)に主演したり、『ミリオンダラー・ベイビー』(2004年)や『ハート・ロッカー』(2008年)といった高評価作品にも出演していたり、結構前から活躍している俳優です。2009年の『ノトーリアス・B.I.G.』では2パック役として熱演もしています。そもそも映画俳優だけでなく、舞台役者としてのキャリアも充実しており、最近映画にもなった『マ・レイニーのブラックボトム』においてもその2003年のリバイバルのブロードウェイにて出演していました。
だから相当にベテランなのです。あまり目立ってない感じがするのは、彼が黒人であり、主役をもらいづらいからなんでしょうね。
ただ、最近はさすがにMCUで大活躍しただけあってキャリア事情も変わってきたようです。本作『デンジャー・ゾーン』のように主演&製作の立場になれるくらいには。
ちなみに本作はNetflixオリジナル映画ですが、“アンソニー・マッキー”出演のものは『ユピテルとイオ 地球上最後の少女』と『ポイント・ブランク この愛のために撃て』に続いて3度目ですね。
『デンジャー・ゾーン』の中身ですが、ざっくり言ってしまうと戦争SFみたいな作品です。近未来のリアル戦場モノで、ロボット兵とかアンドロイド兵とか未来的なガジェットも登場します。なんかゲームみたいだなと思うでしょうが、それもそのはず、本作の脚本を手がける“Rob Yescombe”は「ディビジョン」などのテレビゲームのシナリオを担当しています。「ディビジョン」は荒廃した街を舞台にハイテク部隊が活躍するゲームであり、こういうメカメカしい戦争モノが得意なのかな。こういうジャンルが趣味な人にはほどよい食べ応えのスナックになってくれるのではないでしょうか。
監督は『ザ・ライト エクソシストの真実』(2011年)や『大脱出』(2013年)を手がけたスウェーデン人の“ミカエル・ハフストローム”。なんでこれを監督しようと思ったのだろう…。
“アンソニー・マッキー”以外の俳優陣は、ドラマ『Snowfall』の“ダムソン・イドリス”(実際は彼のほうが主人公です)、『リトル・ジョー』の“エミリー・ビーチャム”、ドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』の“マイケル・ケリー”、『ゴースト・イン・ザ・シェル』の“ピルウ・アスベック”。キャスティングがどことなくヨーロッパ感ありますけど、アメリカ軍の物語です。
『デンジャー・ゾーン』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2021年1月15日から配信中です。
オススメ度のチェック
ひとり | ◯(暇つぶし感覚で) |
友人 | ◯(ちょっとした時間の埋め合わせ) |
恋人 | ◯(かなり無骨な作品だけど) |
キッズ | ◯(そこまで残酷描写はない) |
『デンジャー・ゾーン』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):上司は人間じゃない?
2036年。東欧で激しい内戦が勃発。アメリカ軍は無法地帯と化した前線に駐留し、平和維持活動に従事中。その悲惨な戦場で暗躍するのはヴィクトル・コバル。人前に姿を見せないために幽霊と呼ばれています。最大の軍事力を誇りとするアメリカ軍はロボット兵士団、通称「ガンプ隊(Gumps)」を創設。戦況の好転を狙って戦地に派遣しました。
夜間の激しい戦闘。ガンプ隊は罠にハマり、ほぼ全滅。前方にいる負傷兵を助けるべく、人間たちの部隊は突破しようとします。しかし、さらなる負傷者が発生。それをじっと見つめる無人ドローン。
さらに敵の車両が出現。大規模攻撃の予感です。ドローン操縦士のトーマス・ハープ中尉はそれを監視モニターで確認し、すぐさま空爆許可をとろうとしますが、現場のミラー特務曹長は負傷者を見捨てる気はなく、必死。空爆すれば負傷兵もろとも吹き飛ばすことになってしまうのです。
空爆は却下されます。しかし、「このままでは全員が死にます」とドローン操縦士のハープ中尉は焦り、独断でミサイルを発射。爆発とともに敵は沈黙。味方の負傷兵も消え…。
「人殺しめ!」…ネバダ州のクリーチ空軍基地では海兵隊2名が死亡した事件の対応にあたっていました。倫理委員会に厳しく叱責されるハープ。軍法会議は免れましたが、命令違反で別の場所に飛ばされることに。「君の上官はナサニエル駐屯地のリオ大尉だ」…そこは小隊の基地です。
さっそくその基地に悪天候の中で行くと、「ここで耐え抜けば、またドローン操縦士に戻れるかもしれない」と言われますが、ずっとドローン操縦士だったハープにはキツイ現場です。あきらかに自分に期待をされてはいません。
とりあえずリオ大尉に挨拶。すると彼は冷静沈着に「これは補給係ではない。表向きは基地にワクチンを届けにいくのが任務だ」「しかし真の任務は幽霊狩りだ。反乱軍の最新兵器を見つけて回収する」と説明をします。
「ヴィクトル・コバルを聞いたことはあるか?」
なんでもそいつは核兵器をためらわず使用するヤバい奴で、システマ・ペリメーターを探しているとか。それはソ連の自動核報復装置であり、まだ機能しているらしいのです。
24時間以内にコバルは動くと推測され、世界各地の都市に核ミサイルを撃つだろうと恐ろしい分析もあり、状況は一刻を争います。
しかし、ハープは野外訓練は受けておらず、不安です。すると「心配するな、俺は人より特別だ」とリオ大尉は言い放ちます。
上着を脱ぎ、半裸になるリオ大尉。その体を見てハープは驚きます。高度にカモフラージュされていますが体が人工物なのです。「私は第4世代のバイオテクノロジーだ」と衝撃の言葉を言うリオ大尉。こんな技術があったなんて…。
「俺の正体を知っているのはエックハート大佐と君だけだ」「枠にとらわれない君が必要だ」
まだ動揺していますが、とにかく今はリオ大尉と車で現場へ向かうことに。そこでは軍と住人が一触即発でした。住人は市民兵です。リオは銃を下ろせと言って、怒り狂う群衆に近づきます。武器も防具も捨て、両手を上げてゆっくり近づくと、話をつけ、握手。
しかし、ビルの屋上から攻撃を受けます。コバルの武装兵です。ハープは恐怖で立ち尽くすしかできない状態。それでも2人は強行突破。
以降もあまりにやりたい放題なリオの横暴さに整理が追い付かないハープ。「なぜ人間らしいんですか? 人間性は欠点です」とハープは訴えます。戦場において人間の感情は邪魔だと思っているので、リオの存在は納得できません。
到着したのはのどかな村に。そこでレジスタンスの女性・ソフィアに会い、コバルは核を発射するまであと一歩で、この町のどこかにコードがあることを知ります。
そこにはもっと秘密があるとはハープはまだ知らず…。
AIまでナルシストになるのか
本作は原題が「Outside the Wire」。それで邦題が『デンジャー・ゾーン』ですからずいぶんざっくばらんなネーミングになっちゃったなぁと思うのですけど、まあ、でも内容はその邦題どおりのフワっとした感じでした。デンジャーだった…。
まず世界観の前提としてなんかとりあえず東欧がヤバいってことになってます。で、毎度のことながらアメリカがノコノコ首を突っ込んできています。そこがそもそも問題じゃないかって話なのですけど…。それにしてもあのトランプ狂騒を見てしまった以上、アメリカになにひとつ正義なんて期待する気持ちは沸かないですね(まあ、昔からその期待はないですけど)。
そのアメリカ軍ですが、2036年はどうやらロボット・ソルジャーが一般化しているようです。このガンプ隊、これがまた妙にポンコツです。見た目はかっこいいのですけどね。基地では兵士に小馬鹿にされて虐められているし、いざ実践でもうっかり発砲しちゃったり、やたら攻撃が乱暴だったり…。正直、どう考えても実戦向きじゃない。まだ、戦車とかのほうが役に立ちますよ。ガンプ隊はせいぜいがれきの撤収作業とかに従事させるのが無難な気がする。
なんでこのガンプ隊は情けないのか。それはその後に登場するバイオテク満載のアンドロイド・ソルジャーであるリオを際立たせるためでした。人間的な繊細さも持ち合わせつつ、スマートに仕事をこなし、コミュニケーションにも長け、戦闘能力も申し分ない。ガンプ隊、涙目じゃないですか。ターミネーターがいるんですから、このチャッピーもどきのロボットはお役御免です。
そんなメカたちの魅力はじゅうぶんですし、映像も迫力があります。
でもなんでしょうか、このまとまりのなさ。
結局のところ、主人公の葛藤にあまり乗れないままでしたね。多きを助けるためにわずかの犠牲に目をつぶってしまったハープが、その逆で自分が犠牲になる展開はいいものの、その後のオチはずいぶんとぶん投げました。「世界を救ったな、帰れるぞ」とか声をかけられて、かっこよく振舞っていたけど、そもそもの話、世界は救えているのか?という根本的な問いも残るし…。やっぱりアメリカが他国で余計なことをしているだけじゃないのか…。
リオもリオでよくわかりません。「俺は怪物を倒すんだ、この俺を作った奴らを。俺は終わりなき戦争の象徴だから」と急にナルシズムに浸り始めるのですが、アンドロイドもこんなこじらせてしまうと面倒くさいですね。
他のキャラクターも描写は薄っぺらいです。ソフィアは何をしたいのか意味不明な存在ですし、びっくりしたのはコバル将軍。“ピルウ・アスベック”という素晴らしい名俳優をキャスティングしておきながら、この使い捨て手りゅう弾のような簡素な出番。それで終わり?というサプライズ(いや、嬉しくないけど)。“ピルウ・アスベック”主演の『ある戦争』という映画ではあんなに戦場の残酷さに心が疲弊していく男を熱演していたのに。無駄遣いとはこのことだった…。
ほんと、ゲームのシナリオって感じのスカスカです。ゲームならそこにユーザーのプレイ体験が加わるので、多少世界観やストーリーに穴があっても自力で補強できるのですけどね。映画だとどうしようもないですから…。
ロボットよりもAIの時代
では見方を変えて『デンジャー・ゾーン』のような世界観は本当に訪れるのでしょうか。
ガンプ隊のような二足歩行ロボット兵は確かに現実的にありえそうです。
戦争での活用を前提にしたロボットの開発で有名だったのが「ボストン・ダイナミクス(Boston Dynamics)」でしょう。初期からネットではよく話題になっていたので知っている人も多いと思います。
最初に注目を浴びたボストン・ダイナミクスが作っているロボットは4足歩行で、そのなんともいえない危なっかしい動きと、それでも挫けずにバランスをとる姿に、なぜか愛嬌を感じたり…。この頃はまだ変なロボット扱いで笑いのネタでもありました。
しかし、今はどうです。格段に進化しており、ロボットは2足歩行に。ダッシュもできるし、障害物も飛び越えられるし、バク転もできるし、キレのいいダンスもできる…。あれ、戦争に行くのではないの?
そうです、なんだかんだで戦場での活用は棚上げになり、今や能力を持て余している感じ。そんなロボティクス分野のパイオニアであるボストン・ダイナミクスは2020年12月にHyundai(ヒュンダイ)に買収されるという話も。アメリカの企業技術が韓国に流れていくあたり、やっぱりテクノロジーが放浪している…。
たぶん戦場で二足歩行ロボットはさすがに今は絶対必要ってわけでもないんでしょうね。
その代わり、今まさに脚光を浴びているのがAIを駆使して戦場を効率化するシステムです。
VRデバイス「Oculus」の創業者パルマー・ラッキー氏が共同創業した「Anduril」という軍用監視用システムとドローンスマッシャーを提供するシステムは、これまで大量の人員を必要とするのがネックだった戦場を少人数で効率的にコントロールすることを可能にすると謳っています。広大な戦地もひとりで統制できるなら、それはもうさながらゲームをしているプレイヤーですね。
これからの戦場はAIなのか。
もちろん危険性も指摘されています。Googleなんかは批判を受けた結果、戦争ビジネスから距離を取る意向を発表していますが、他の企業はどうなるやら。AIが人の生死を決める現場は今後はどんどん増えてしまうのでしょうか。そのとき、誰が責任をとるのか。何もかもうやむやになってしまうような…。
そういう近況を考慮すると、この『デンジャー・ゾーン』の主人公ハープの職業もドローン操縦士ではなくてAI開発者とかにすればよかったのになとも思います。それだったらリオのAIとしての苦悩に向き合ってあげられる立場ですし、そこでどんな決断をするかで今の戦争AIの問題提起もできます。
人間が始めた戦争責任をAIに擦り付けたくはありませんね。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 37% Audience 38%
IMDb
5.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 3/10 ★★★
関連作品紹介
アンソニー・マッキー出演の作品の感想記事です。
・『ユピテルとイオ 地球上最後の少女』
作品ポスター・画像 (C)Automatik Entertainment デンジャーゾーン アウトサイド・ザ・ワイヤー
以上、『デンジャー・ゾーン』の感想でした。
Outside the Wire (2021) [Japanese Review] 『デンジャー・ゾーン』考察・評価レビュー