外へ出たいと言ってはいけない…「Apple TV+」ドラマシリーズ『サイロ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2023年~)
シーズン1:2023年にApple TV+で配信
原案:グレアム・ヨスト
性描写 恋愛描写
サイロ
さいろ
『サイロ』あらすじ
『サイロ』感想(ネタバレなし)
タイトルの「サイロ」の意味は?
酪農地帯にたまに見かける円筒状の建物。「サイロ」です。英語では「silo」と書きますけど「シロ」じゃないですからね。
最近はあまり利用されなくなってきていますが、サイロは飼料を貯蔵する場所となっています。私の地元の北海道ではサイロが身近にありました。
また、ミサイルを収容するための軍事的な地下構造も「サイロ」と呼んだりします。こっちのサイロは…身近になかったな…(当然ながら)。
「サイロ」にはもうひとつ意味があります。それはコミュニケーションや協力を妨げるような方法で他のグループから離れて機能する孤立した集団や部門…のこと。例えば、よくあるのは企業で、あまりに組織が肥大化してくると、各部署ごとの連携が取れず、別々の部署で同じ開発や課題に取り組んでいたりしまいます。協働したり知識を共有すれば、もっと効率的に解決できるのに、その機会を失うわけです。
今回紹介するドラマシリーズのタイトルも『サイロ』なのですが、意味としては上記のうちの3番目をやはり意識することになるかなと思います。
舞台となるのは謎の地下施設。縦方向に非常に長く、複雑な階層構造を持っており、「サイロ」と呼ばれています。ここには大勢の人たちがかれこれ100年以上暮らしており、独自の社会と自治があります。外の世界は有毒物質が蔓延して荒廃しているため、ずっとこの地下空間で各自で家族を持ちながら働いて生活してきました。
ところがこの世界を当たり前として生きてきた中、何人かの人物がこの世界の隠された秘密を知ってしまう…そんなポストアポカリプスなディストピアSFとなっています。
原作は“ヒュー・ハウイー”という人が2011年から始めた小説シリーズで、当初はAmazonの「Kindleダイレクト・パブリッシング」を利用して自費出版だったそうです。最初は「Wool」という短編で、そこから「First Shift」「Second Shift」「Third Shift」「Dust」と続きました。
ドラマ『サイロ』はその映像化であり、初期は“リドリー・スコット”が企画に立って「20世紀フォックス」で進められるも実現せず。結果、まわり巡って「Apple TV+」の独占配信作として製作されました。
原案は、ドラマ『スニーキー・ピート』の“グレアム・ヨスト”。エピソード監督には、ドラマ『ジェイコブを守るため』の“モルテン・ティルドゥム”などが関わっています。
主演は、『ミッション:インポッシブル』シリーズでもおなじみの“レベッカ・ファーガソン”。今回は機械エンジニア兼保安官としてなかなかにグイグイ引っ張っていくキャラクターを熱演しています。
共演は、ドラマ『ディキンスン 若き女性詩人の憂鬱』の“チナザ・ウチェ”、『AVA/エヴァ』の“コモン”、『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』の“ティム・ロビンス”、『オン・ザ・ロック』の“ラシダ・ジョーンズ”、『グリンゴ 最強の悪運男』の“デヴィッド・オイェロウォ”、『バイオハザード』シリーズの“シエンナ・ギロリー”など。
とにかく謎ばかりなオープニングで始まり、徐々に明かされていく世界の裏側にハラハラドキドキする作品です。なのでネタバレは厳禁。ネットで調べずに、さっさと観てしまいましょう。ミステリーとしてきっちり驚いていってください。
かといってそんなに難解でわからないことだらけでもなく、基本は刑事モノとして進行していくので、丁寧に風呂敷を広げてくれるドラマでもあります。まあ、風呂敷を畳むのにはジャンルの性質上、根気がいりそうですが…。
閉鎖的なシチュエーションで巻き起こるディストピアSFが好きならオススメ。1話を観た感覚で夢中になれそうなら、そのまま視聴続行でいいんじゃないでしょうか。1話はかなりクリフハンガーとして盛り上げまくって「次が観たい!」と刺激を投下してきますからね。
ドラマ『サイロ』のシーズン1は全10話。1話あたり約40~60分。「Apple TV+」にまた魅惑的な陰湿ディストピアが追加されましたよ。
『サイロ』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :ジャンル好きなら |
友人 | :展開を考察し合って |
恋人 | :相手が興味あれば |
キッズ | :やや性描写あり |
『サイロ』予告動画
『サイロ』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):自由の日
1万人を超える人々が暮らす144階を超える地下建造物「サイロ」。人間たちは140年以上も前からここで生活してきました。140年前の反乱によって外の世界で生きていた頃の記録は全て消失してしまい、現在、昔の品は「遺物(レリック)」として所有禁止になっています。
今の外の世界はどうなっているのか。それはところどころに設置されているモニターでわかります。外は汚染物質で荒廃し、人が住むどころか、防護スーツでも耐えられない有毒状態でした。
外がなぜああなったのか、いつ安全になるのかもわからない…わかっているのは今日ではないこと…。
ホルストン・ベッカーは居住部屋の通気口に何やらいじり、「鏡の前の花は2倍」とメモして、職場の保安官事務所へ行き、それをファイルにしまいます。そして保安官バッジを外します。
おもむろに保安官事務所に直結する第3独房へ自ら入り、「彼女に会いたい、3年前にすべきだった。もう決心したんだ」と告げます。察した主任副保安官のサム・マーンズの制止を気にせず、ホルストンは「外へ出たい」と言い切り、独房に自分を閉じ込めて粗末なベッドで横になるのでした。
3年前、ホルストンはIT技術者である妻のアリソンと仲睦まじく暮らしていました。生殖活動許可通知が届き、喜ぶ2人。アリソンは張り切っており、食堂ではみんな祝ってくれます。
そこに妊娠カウンセラーのグロリアが話しかけてきますが、ホルストンは詐欺だと冷たい態度です。医者に避妊インプラントを摘出してもらったアリソン。これで3度目、38歳なのでもう次は無いと考えていました。
家に帰るとさっそく2人は子作りに励みます。期限は1年です。アリソンはここの規則の厳しさに愚痴を言いますが、ホルストンはルールは守るべきだと厳格です。
けれども半年以上経過しても、一向に妊娠する気配はありません。
ある日、グロリアに話があると誘われ、盗聴を気にする彼女の部屋で、グロリアは歴史の事実を知りたくないかと持ちかけてきます。それが妊娠にも関わると言い、グロリアも3度目でも妊娠できず、そこに意図があると意味深なことを言います。
反逆者を鎮圧した事を祝う自由の日。好奇心を抑えられないアリソンはグロリアの言っていたジョージ・ウィルキンスという男と秘密裏に落ち合います。アリソンのデータ復元の投稿を見たらしく、あるドライブの復元をその場で依頼してきます。140年以上前のもので、「18」と書かれたハードドライブで、遺物です。
復元に成功すると、それはサイロの詳細が書かれており、初めてはアリソンも焦ります。しかし、ジェーン・カモーディという名のファイルを視聴し、そこで再生された映像に思わず唖然とすることにあり…。
ホルストンが帰宅すると、アリソンが神妙そうに佇んでいました。「避妊インプラントは取り出されていない」と口にし、自分で今取り出したことを見せ、確かに腹部から出血しています。
さらにアリソンは食堂で外の世界の映像は作り者だとみんなに語りかけ始めます。そしてあの言葉を言い放ちます。「外に出たい!」
手錠をかけられる妻の姿を見つめるしかできないホルストン。第3独房でアリソンは夫にあのモニターの映像は操作されたものだと語ります。しかし、処罰でカメラの清掃に行かされた人の死体が映像には映っています。答えは今からアリソンが確かめることができます。
処分となったアリソンは清掃スーツを着て、エアロックから外へ送り出されます。みんなが固唾を飲んで外を映すモニターを見守る中、白い防護スーツのアリソンはモニターを拭き、そして少し歩いた後に膝をつくもまた立ち上がりますが、倒れて動かなくなり…。
やはりアリソンは錯乱していただけで、外の世界は有毒なのか…。
ジュリエットの働き方改革
ここから『サイロ』のネタバレありの感想本文です。
ドラマ『サイロ』の舞台は、荒廃した外から隔絶された施設。シチュエーションとしては『10 クローバーフィールド・レーン』を思い出しますが、『サイロ』はもっと超広大で全容把握も難しいです。階層に分かれており、下には貧困層、上には富裕層がいることがわかり、『スノーピアサー』みたいでもあります。
ディストピアSFではあるのですが、ありがちな宗教的要素は廃されており、どちらかと言えば企業文化・体質への風刺が濃いです。
例えば、最初の主人公であるホルストン・ベッカーが所属している「保安部」。名前からしても治安維持の担当ですが、「協定」という独自のルールに則って、それに従っているかで判断するので、まるで企業のコンプライアンス部門みたいです。
そして本格的な主人公のジュリエット(ジュールス)・ニコルズ。彼女は最下層の「機械部」というところで働いており、インフラの要である電力を担うタービンを維持しています。こちらはもはやブルーカラー。危険と紙一重の重労働です。
他にも、資材部、IT部、司法部などがおり、実のところどの労働者もこのサイロの全容は知らず、自分に与えられた仕事を淡々とこなすことしか考えていません。まさに孤立した分業で、協働体制はゼロです。
これはおそらく反乱を防ぐためなのでしょうけど、みんな「自分の仕事さえできればいい」とつい従ってしまうのは、なんだか労働あるあるですよね。
「外へ出たい」と言ってはいけないのも「会社を辞めたい」と言ってはいけないと置き換えれば、非常に労働搾取システムの維持ありきなんだなとわかります。
そこにジュリエットが風穴を開けるのですが、彼女はこのサイロでは異例の部門飛び越えの「異動」を果たします。機械部から保安部へ。しかも出自は実は父が医療の仕事で、そことも繋がっています。要するにこの分離した労働環境の壁を突破しているわけなので、このジュリエットがサイロの秘密を暴いていくのも、ある意味では必然です。
ポール・ビリングスという元司法部の協定オタクな主任副保安官の男とバディを組みつつ、いろいろな部門とあれこれとコネを作りつつ、どんどん分離した労働環境を線で結んでいきます。この過程こそが本作の意味深いテーマだと思います。
ひとりで自分の部署だけ考えて働くのではなくて、他の部署にも顔を出して連携しなさいよ…という、“できる仕事”のお手本ですね。ジュリエットの己で示す働き方改革ですよ。それがやがて反乱というアナーキズムになるのです。
シーズン1:やっぱりサイロだった
ドラマ『サイロ』は序盤から謎、謎、謎…とわからないことだらけ。
なぜここでは技術発展が抑制されているのか。電力不足を心配しているのか、それとも反乱対策か。随分とローテクに後退させていますが…。
なぜ遺物と呼ばれる過去のモノを排除し、過去の時代の記録まで抹消してしまったのか。思い出として残してもいいのに。
なぜ妊娠できない人がいるのか。わざわざ繁殖許可をだしても、意図的に抑制する意図には何があるのか。認可された関係ではないとパートナーになれないのに、それ以上の規制の意味は…?
そして一番の謎。外の世界はどうなっているのか。
第1話からアリソンの行動のおかげで、清掃人が見た美しい外の映像が確認できます。これは視聴者には提示されるので、その後の主人公であるジュリエットは後追いです。清掃に出されたホルストン視点の映像だったり、初めての発電機停止修理時にサイロの照明が消えて外部の緑豊かな風景が一瞬チラっとモニターに映ったり、何度も示されます。
もう「荒廃していると思っていた外は実は緑豊かな地だった!」というオチをずっと知ったうえで進むので、驚きはないだろうと油断していると…これはミスリードでした。
最終話でハードドライブの中を確認したジュリエットが清掃に送り込まれて目撃した光景。それはやはり綺麗な風景…と思いきや、ヘルメットのバイザーは細工されており、実際は荒れ果てた景色が広がっていました。「やっぱり荒廃していた!でもなんで???」状態です。
そこからさらに謎の畳みかけ。カメラがぐぐっと遠景を映すと、センサーの視界の範囲外に出た最初の掃除人としてジュリエットが目撃したもの…それは他のサイロの痕跡。それも無数にあって…。タイトル回収ですね。サイロ自体が分離していた、と。
この壮大なオチのオチを隠すために本作はかなりだんまりと嘘をつき続けていました。ストーリーテリングとしては地道に良い仕事してるけど…。
ここで黒幕の話を考えてみると、最初は市長や司法部長のメドウズが知ってそうに見えましたが、これらはただの雇われ下っ端部長みたいなものでした。IT部部長兼市長のバーナードと司法部の警備隊長のロバート(ロブ)・シムズが事情を知っていてモニター室で監視までしていましたが、でも彼らさえも黒幕の中心ではありません。
バーナードがたまに口にする「創始者」とやらが秘密を握っているようで、これにシーズン1最終話のラストで突きつけられる事実が合致します。他にもいくつもサイロがあるということは、それを統べる人間がきっといるはず。企業で言えば社長です。
過去に起きたとされる反乱はジュリエットのサイロ内だけの転覆を狙ったものなのか、もしかするともっと壮大で根本的な反乱であった可能性も浮上してきます。
腕の震えを抱えつつ、妻キャスリーンのためを思い、このサイロに従うことにしたポール・ビリングスはどうなるのか(でも「ジョージア州冒険の旅」のページは持ってる)。マーサ・ウォーカーの勇気の一歩が資材部を繋げてジュリエットを救いましたが、部門の連結は続くのか。10年間の鉱山行きを命じられた星観察好きのルーカスの運命は…。
ドラマ『サイロ』、いい具合にシーズン2へと昇進です。
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 88% Audience 88%
IMDb
8.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Apple
以上、『サイロ』の感想でした。
Silo (2023) [Japanese Review] 『サイロ』考察・評価レビュー