世知辛いです…Netflix映画『カマキリ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:韓国(2025年)
日本では劇場未公開:2025年にNetflixで配信
監督:イ・テソン
かまきり
『カマキリ』物語 簡単紹介
『カマキリ』感想(ネタバレなし)
韓国からのカマキリです
私の地元の北海道では本州とは違って観察できない昆虫が結構たくさんいるのですが、カマキリもそのひとつ…でした。
「でした」と過去形で語っているのは最近はどうやらそうではないようだからです。カマキリの北限は道南(北海道の南部)とされてきましたが、近年になって苫小牧などでも頻繁に採集されています(苫小牧民報)。北海道は寒さで冬を越せないとみられていたものの、気候変動による気温上昇で状況は変わったのか…。とにかく北海道でもカマキリと顔を合わせることは普通になっていくのかもしれません。
カマキリ、可愛い虫ですよね…(私の感想です)。大きな鎌を持っているから攻撃力が高そうで怖い生き物に見えますけど、鎌を上げてバンザイしている姿はすごく愛嬌あると思う…。
今回紹介する映画のカマキリも、まあ、可愛い奴じゃないでしょうか。人間だけども。
それが本作、その名もずばり、『カマキリ』。
そもそも本作は2023年に「Netflix」で独占配信された韓国の殺し屋アクション映画である『キル・ボクスン』の世界観を拡張したスピンオフとなっています。
『キル・ボクスン』は、“チョン・ドヨン”が主演で、殺し屋業界内を渡り歩いてきてトップクラスの名実ともに存在感を獲得したひとりの女性主人公が、その業界を大番狂わせでぶち壊していくアクションでした。
早い話が韓国版『ジョン・ウィック』で、その世界観を広げていく手さばきといい、ますます『ジョン・ウィック』と同じ路線を進んでいる感じです。
『カマキリ』は時間軸としては『キル・ボクスン』の後を描いており、そちらのキャラクターも一部にゲスト的に登場します。でも主人公は完全に新規なので、単独の映画としても問題なく楽しめます。
今作の主人公はタイトルがそのまま表しているとおり、「カマキリ」という異名を持っていて、両刀使いの鎌で戦うスタイルです。絶対に銃で撃ったほうが早いだろ…とかは言わないであげて…。
韓国映画『カマキリ』を監督するのは、ドラマ『三姉弟が勇敢に〜恋するオトナたち〜』などで俳優として活躍していた“イ・テソン”で、本作で監督デビューしています。
『カマキリ』で主役を演じるのは、ドラマ『イカゲーム』のシーズン2&3でも大活躍した“イム・シワン”。
さらに同じく『イカゲーム』のシーズン2&3で共演した“パク・ギュヨン”も重要な役で肩を並べています。こっちのほうが関係性は深いですけども…。
共演は、『スンブ:二人の棋士』の“チョ・ウジン”、ドラマ『あいつは黒炎竜』の“チェ・ヒョヌク”、ドラマ『無人島のディーバ』の“ペ・ガンヒ”など。
『カマキリ』は「Netflix(ネットフリックス)」で独占配信中です。
『カマキリ』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2025年9月26日から配信中です。
A:『キル・ボクスン』を観ておくとキャラクターの繋がりが理解できます。
鑑賞の案内チェック
基本 | — |
キッズ | 殺人の描写がたくさんあります。 |
『カマキリ』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
不景気は殺し屋業界も同じでした。業界1位の大手暗殺請負企業「MKエンターテインメント(MK. ENT)」が都合のいい規則で牛耳っているので、無所属には新規参入も難しいのです。A級、B級、C級、D級とターゲットのリストに基づき、報酬が決まっていますが、MKの独占によってろくな仕事も回ってきません。そのため、無所属の殺し屋はこっそり規則を破りながら仕事するしかありませんでした。それをMKの代表のチャ・ミンギュは許すはずもなく…。
ミンギュは両手に鋭い鎌を持った「カマキリ(マンティス)」のコードネームを持つMK所属の忠実な若い有能殺し屋を派遣し、さっさと規則違反の殺し屋を片づけさせます。カマキリは飄々としているものの、戦闘の腕前は一流で、無駄のない動きで鎌を操り、相手を切り刻みます。残るのは地面に横たわるバラバラの遺体だけです。清掃員を電話で呼んで、これで終わり。
仕事も完了し、カマキリは休暇を許されます。本音ではこの契約に縛られた生き方に不満がありましたが、逆らえる業界でもありません。言葉を飲み込んで休暇に出ることにします。しかし、ミンギュは契約を見直そうと言ってくれます。
休暇が終わり、ヨーロッパから空港に帰ってくると、業界は一変していました。ミンギュはもうこの世にいません。なんでも業界でもトップクラスの実力で圧倒していたあのギル・ボクスンという名をもじって「キル・ボクスン」と呼ばれていた殺し屋が、ミンギュもろともMKの幹部を殺したらしいです。
カマキリは韓国に戻って早々に殺し屋業界の各社にスカウトされ、大人気です。彼の仲間であり昔からのライバルでもあるシン・ジェイは、小さな会社のもとにいました。本名はハヌルであるカマキリも駆けつけます。業界事情がどうであろうとカマキリはマイペースです。
ドンヨン、ブンパイ、スミンなど若い殺し屋仲間は会社を新規で立ち上げようとカマキリを焚きつけます。カマキリのネームバリューとジェイの確かな安定感があればそれもありです。しかし、カマキリは以前から好意を持っているジェイを意識しすぎており、今回も喧嘩の雰囲気になってしまいます。MKに先に就職していたカマキリはジェイをMKに誘うつもりでしたが、もうその計画も潰えました。
もし会社を作るとなれば、まだひと押し足りません。そこでトッコという師匠に会いに行きます。乱暴な人ですが、業界で生きる術を叩き込んでくれた人間です。その実力は健在で、現役のカマキリもたじたじになるほど。トッコはミンギュに追い出されてしまい、それ以来は連絡をとりづらい状況でした。複雑な因縁があったようです。
師匠がいる邸宅パーティーに足を運ぶと、ファンだ軽快に言い放つ馴れ馴れしいゲームソフト企業のベンジャミンに名刺を渡されます。「ブラッドハイスクール」という殺し屋のゲームを開発しているそうです。
結局、師匠はあまり気乗りしない様子でした。殺し業界の転換点を慎重に見定めているらしく、若者に気を配っている感じはないです。
そこでカマキリことハヌルは、ジェイと他の若者と一緒に、あのおカネを持ってそうなベンジャミンに投資してもらうために会いに行きます。しかし、ベンジャミンは殺し屋の存在を自分のビジネスの材料としか思っておらず、ドンヨンは嫌になって去っていきます。
ブンパイとスミン、そしてジェイととりあえずの新会社「カマキリカンパニー」を立ち上げますが…。
殺し屋の就活

ここから『カマキリ』のネタバレありの感想本文です。
昨今は「殺し屋」という非現実的な存在を、実在の職業としてわざとらしく社会に根付いたリアルな労働者風に描くというのが、ジャンルでも定番化しており、一種の業界モノになっています。
『ジョン・ウィック』は「辞めさせてもらえない殺し屋」、『Mr.ノーバディ』は「家族との時間を作れない中年殺し屋」、『サンダーボルツ*』は「ヒーローになれない劣等感を抱える殺し屋」…。
どの作品でも殺し屋というのは世知辛い立場です。業界に利用されるだけの駒ですから。
この韓国映画『カマキリ』もそのアプローチですけども、若者が主題ということで、より「就活」っぽさが全面にでているのが印象的です。『ベイビーわるきゅーれ』よりは就職活動的なフォーマルさがまだあります。
カマキリことハヌルは最大手に就職できたという、いわば「勝ち組」だと思っていましたが、その就職を支援してくれた上司を失い、後ろ盾が消えます。となってくると、後は自分で何とかするしかありません。
雇用(転職)の誘いはあれど、ハヌルは「自分で殺し屋の企業を立ち上げたい」という起業精神に刺激され、いかにも若者らしくエネルギッシュな体当たりの姿勢で突き進んでいきます。
この若者殺し屋たちでわいわいと頑張ろうとする姿は、このジャンルとしては新鮮で楽しいです。やっていることは「殺し」ですけど…。
しかも、ここに色恋沙汰が絡んできて、ハヌルとジェイがすれ違っていくというのがまた若者っぽい空気感です。実際はスミンの片想いもあって、三角関係ですが…。
ただ、本作はロマンスというほどにベタベタなことはしないんですね。そこは殺し屋のジャンルの維持なのか、それをやると作品のトーンが変わりすぎると考えてやめているのか。
ただ、ハヌルの思考は「好きな相手よりも自分が良い思いをしてしまって申し訳ない」という罪悪感と「どうしても相手よりは強い自分でいたい」という小さな意地っ張りが混じっていてわかりやすいのですが、それと比べるとジェイの思考は少し見えにくいです。
私は本作を観ていて、これはジェイを主人公にするほうが面白かったのではないかと思うくらいには、もっとジェイのキャラクター性を深く描ける余地があったと感じました。こう言ってはあれですけど、ハヌルはそんなに成長を期待されるキャラではなくて、常にどういう世の中にあってもテンションを保ってくれる、サイドキャラクターにこそふさわしい奴じゃないですか。
対するジェイはまだまだ成長できる存在であり、感情をいろいろと隠しているので、それを広げていく面白さもいくらでもある、ポテンシャルの高い存在だと思うのです。
そうすることでジェイが師匠を殺める葛藤が整理されてきますし、終盤の没入感も変わってきたような…。
せめてジェイとハヌルのダブル主人公でプロットを構築すれば、また全然違った映画になったろうなと、そこは惜しいところです。
あの男2人の関係軸をもっと!
全体的にもこの韓国映画『カマキリ』は完成度不足な感じは否めず、個人的にはジャンルでどこを押し出したいのかが曖昧なのは気になりました。
先ほども書いたように、殺し屋業界の就活という部分の描き方は確かに新鮮味はありました。でもそこも後半はトーンダウンしてしまいます。
そして何よりもアクション映画としてたっぷりサービス精神を注ぎ込む作りにはなっていません。アクション・シーンはあるにはありますが、キレのあるアクション・シーンは健在だけども、本作の顔となるアクションの域には到達しません。
登場人物の確執に焦点をあてつつ、その過程でアクションを入れているだけな感じがします。映画としての見どころにアクションが輝いてきません。
『キル・ボクスン』は中年女性アクションという斬新さが真っ先にトレードマークとなり、アクションにもこだわりを随所に感じられたのですが、『カマキリ』はその全てで過去作以下で…。
いや、やりたいことはたくさんあった映画だと思うのですが、いろいろ手をつけたわりには器用貧乏になってしまったのかも…。
私の中ではあの師匠とミンギュの関係性をもっと深掘りしてくれよ!という渇望が渦巻いてはいました。“ソル・ギョング”の名演をここで無駄にしたくはないじゃないですか。あの職業的にも人生的にも老熟した男2人はクィアリーディングできる余白もじゅうぶんあったけども…。
そしてキル・ボクスンの登場シーンもこれは一番つまらないクロスオーバーじゃないかな、と。『バレリーナ The World of John Wick』はまだ上手くやっていたかもだけど、基本的にオリジナルのメイン主人公、それも業界でカリスマ的な存在を他の作品にだすときは、そっちの主人公の存在感を喰わないようにしつつ、やはりオリジナルの主人公としての存在感は健在だなと観客を満足させないといけなくなります。結構面倒です。
この『カマキリ』のやりかたは「とりあえず顔をだす」というそこで終わってしまっていました。だいたいあの業界があそこまで大揺れしているのは、キル・ボクスンのせいなのだし、もうちょっと彼女に注目が集まってもおかしくないのだから、あんな達観した立場でアドバイスしている場合でもないだろうに…。
あらためて思いましたけど、殺し屋業界を描く作品を拡張するのって難しいですね。基本は「殺している」だけの世界なので。
このフランチャイズは「Netflix」という大企業に支配されていますが、若者支援は期待できそうにないか…。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
作品ポスター・画像 (C)Netflix
以上、『カマキリ』の感想でした。
Mantis (2025) [Japanese Review] 『カマキリ』考察・評価レビュー
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