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劇場アニメ『映画大好きポンポさん』感想(ネタバレ)…オタク・ケア映画を編集します!

映画大好きポンポさん

オタク・ケア映画を編集します!…劇場アニメ『映画大好きポンポさん』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:Pompo: The Cinéphile
製作国:日本(2021年)
日本公開日:2021年6月4日
監督:平尾隆之
性描写

映画大好きポンポさん

えいがだいすきぽんぽさん
映画大好きポンポさん

『映画大好きポンポさん』あらすじ

大物映画プロデューサーの孫で自身もその稀有な才能を余すところなく受け継いだポンポさんのもとで、製作アシスタントを務める映画通の青年ジーン。映画を撮ることに憧れながらも極端な自信の無さからそれは無理だと諦めかけていたが、ポンポさんに映画の15秒CMの制作を依頼され、映画づくりの奥深い楽しさを実感する。ある日、ポンポさんは新作映画の監督をジーンに任せるという大抜擢を敢行する…。

『映画大好きポンポさん』感想(ネタバレなし)

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現代のシネフィル、ポンポさん

おそらくこのサイトを今この瞬間に見てくれている人は(ありがとうございます)映画好きな人なんだと思うのですが(さすがに映画が心底憎いという人はこんな感想サイト見ないよね)、ひとくちに映画好きといってもいろいろです。別に「映画好き」と名乗るのに資格も根拠も要りません。「年に数回しか映画を観ない」という人でも映画好きだと言っていいし、「劇場ではなく配信で映画を主に観る」という人でも映画好きになれるし、「実写は全然観ないけどアニメ映画は観る」という人も映画好きだろうし…。

ただ、今や古風とも言えるかもしれない映画好きを表す言葉として「シネフィル」があります。その意味するところは人によって違うと思うのですけど、私なりに大雑把に言うなら、昔の映画や有名ではない海外のマニアックな作品や監督を嗜むようなそんな人のことでしょうか。そういう人が自分のことをシネフィルと表現するかはわかりませんが(あんまり自称では使われない)、少なくとも他者から見るとそんな趣味の人はじゅうぶんシネフィルっぽい気がします。まあ、今は「映画オタク」と呼ぶのが自称他称限らず定番でしょうけど…。

そんなシネフィルもきっと時代と共にいろいろ変化していくのでしょう。映画の歴史はまだ浅いですが、映画を取り巻く環境は激変しました。

そんな「映画好き」の印象の変化を感じさせる映画だったなと思うのが、今回紹介する作品、『映画大好きポンポさん』です。

本作はもともとは2017年に“杉谷庄吾【人間プラモ】”がイラスト投稿サイト「pixiv」に投稿した漫画で、それが評判を集め、単行本になり、続編の漫画も作られ、ついには映画化になったという経緯。そもそもが映画を題材にした作品なのでテレビアニメ化などではなく映画化にステップアップするのはこの作品らしさとしてもぴったりです。ちなみに英題は「Pompo: The Cinéphile」。

詳細な物語はというと、明らかにハリウッドを土台にしているであろう架空の映画の都「ニャリウッド」を舞台に、見た目はあどけない少女に見えるけど天才プロデューサーというポンポさん(周りからもこう呼ばれるし、自分でもそう呼んでいる)が、全く自信ゼロの映画好きのアシスタント青年を監督に抜擢し、業界をアッと言わせる名作を作ろうと奮闘する、業界裏側モノであり、創作者の苦悩を描くドラマです。

といってもそこまでシリアスでもなく、ポップなアニメなので観やすいですけどね。リアリティよりも親しみやすさに重点が置かれていて、そこは原作が漫画だというのもあるからでしょう。

そのまさに内容どおりの映画になってみせた『映画大好きポンポさん』。映画業界を揺るがしたコロナ禍の激震をもろに受けて2020年公開だったのが、1年延期、さらに2021年もまたも延期して、やっと2021年6月4日の公開になりました。そうこうしているうちに原作漫画の方は「映画大好きカーナちゃん」とか「映画大好きポンポさん3」など続編やスピンオフの単行本も続々と登場してしまっていますが、もうこれはいつでも映画も続編を作れるということかな。

『映画大好きポンポさん』の監督は、『空の境界「矛盾螺旋」』『桜の温度』『魔女っこ姉妹のヨヨとネネ』などの劇場アニメや、『進撃の巨人 Season 2・3』の絵コンテを手がけてきた“平尾隆之”。今作では脚本もやっています。キャラクターデザインは『ソードアート・オンライン』シリーズでも仕事している“足立慎吾”。音楽は「BiSH」などを音楽面でプロデュースしてきた“松隈ケンタ”

そして、編集は『怒り』『AI崩壊』『CUBE 一度入ったら、最後』など実写映画でも活躍してきた“今井剛”。なんで普段は取り上げないような編集の人をわざわざ紹介するかと言えば、この『映画大好きポンポさん』が編集に光をあてる作品だからで…それは見ればわかるでしょう。

制作は『この世界の片隅に』のプロデューサーを務めた“松尾亮一郎”が独立し2016年に設立した「CLAP」

声を担当するのは、『ブルーアーカイブ Blue Archive』『無職転生 〜ゲームになっても本気だす〜』『ヒルダの冒険』の“小原好美”、『渇き。』『ソロモンの偽証』の“清水尋也”、『ミスミソウ』の“大谷凜香”、『ヒーリングっど♥プリキュア』『ニンジャバットマン』の“加隈亜衣”、『METAL GEAR SOLID』シリーズの“大塚明夫”、『転生したらスライムだった件 転スラ日記』の“木島隆一”など。

映画大好きな人も、まあまあ好きな人も、それほど好きというわけもない人も、『映画大好きポンポさん』はご自由に観てください。そんな映画通とかでなくても大丈夫です。ポンポさんに何を言われるかはわからないけど…。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:なんだかんだで映画が好きなら
友人 3.5:映画マニア同士でも
恋人 3.5:アニメ好きな人と
キッズ 3.5:映画業界に関心あるなら
↓ここからネタバレが含まれます↓

『映画大好きポンポさん』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):ポンポさんがきたぞ!

ペーターゼンフィルム・スタジオでは今まさに映画の撮影が行われていました。女優のミスティアが水着で撮影に臨む中、アシスタントのジーンは地味に黙々と仕事しながら、現場で気づいたことをこまめにメモしていきます。

そこにやってきたのはジョエル・ダヴィドヴィッチ・ポンポネット、みんなからは「ポンポさん」と呼ばれています。ジーンはポンポさんのアシスタントになって1年。その類まれなるポンポさんの才能に感心しつつ、B級映画ばかりをプロデュースしているポンポさんに疑問を持ち、質問してみます。

「ポンポさんってB級映画好きなんですか?」「映画は女優を魅力的に撮れればOKでしょう」

ポンポさんは独自の映画美学を持っていました。

ある日、完成したB級映画『MARINE』の試写で、こんなくだらない内容でも面白いと納得するジーン。映画のツボをおさえているポンポさんの審美眼はやはり凄いものです。ポンポさんの祖父はペーターゼンという映画業界の大物。試写終わりでたまたま出会ったので思い切ってジーンは「いい映画を撮る秘訣ってあるのでしょうか」と聞いてみます。すると「一瞬のひらめきを逃さぬように絵に対する感覚を磨いておくといい」と言われ、自分で映画を撮る気があるのかと逆に尋ねられます。すぐに自分には無理だと否定するジーンに、「卑屈になるな。あの子が君を傍に置いているということは能力があるということだ」と語るペーターゼン。

その後、ポンポさんからとんでもない言葉を言われます。

「『MARINE』の予告をジーンに作ってもらうことになったから。15秒スポットをお願い」

それは大仕事です。出来栄えが売り上げにつながります。恐れおののきつつ、編集作業を開始するとすっかりその楽しさにのめりこむジーン。

出来上がった予告動画をコルベット監督に見てもらうと、「すごくいい」と褒められ、30秒とWeb用も作成を依頼されます。

「なんでポンポさんは僕をアシスタントに選んでくれたのですか?」とふと質問すると、「ジーンくんが一番ダントツで目に光が無かったからだよ」とクリエイターとしての潜在性に期待していると言われます。

そしてポンポさんの新しい映画『MEISTER』の脚本をジーンに読んでもらい、感想を聞きます。歌っているリリーが振り向くシーンが好きと答えたジーンの言葉を耳にして、「合格だな」と呟くポンポさん。

主役のダルベール役はあの伝説の俳優マーティン・ブラドックに頼むそうで、そんな彼と共演する少女の役として今部屋に入ってきたのがナタリー・ウッドワードでした。まだ俳優デビューもしていない卵。実は少し前からポンポさんの発案でナタリーはミスティアの付き人になって、経験を積んでいました。その姿にベストキャスティングとしての可能性をすぐに感じるジーン。

さらにポンポさんはまたも仰天の発言をします。

「この映画は君に撮ってもらうから、ジーン監督」

こうしてジーンの初監督というキャリアが幕を開けることに…。

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オタク・ケア・ムービー

『映画大好きポンポさん』は架空とは言えハリウッドを題材にしているのは明白ですが、正直言ってリアリティは皆無に等しいです。創作業界裏モノだと、日本のアニメ作品でも『映像研には手を出すな!』『SHIROBAKO』などがありましたが、あれらと比べてもこの『映画大好きポンポさん』は業界の実情を精密に活写する感じでは全くありません。

だいたいあのポンポさんの立ち位置も意味不明で、超大物の孫で会社を引き継いでいながらB級映画を撮っているという設定ですが、本作の様子を見る限り、かなりスタジオセットも完備しているし、ロケもしているので、B級映画というクオリティをはるかに超えています。たぶん本作における「B級映画」というのは、トロマ作品、ロジャー・コーマン、エド・ウッド、エクスプロイテーション映画、モックバスター…みたいな映画史的に語られるB級映画ではなく、一般の映画にそれほど詳しくない人がイメージする「チープな内容の作品」のことを言っているのでしょうね。

でもそのリアリティの無さは別にどうでもよくて、なぜなら本作の趣旨はきっとそこではないからです。

『映画大好きポンポさん』は身も蓋もない言い方をしてしまえば、自分に自信を持てない、劣等感を抱えて負を放っているオタク、とくに男性オタクが、ある特定の自分だけに特化したフォローアップのある世界で自分を肯定していくという、典型的なオタクケア物語なのです。いわゆる異世界モノなんかと同じ。このニャリウッドも異世界なのです。男性オタクにとっての理想的なケア(それが専門的に有効かどうかは別)が物語として提供されるという点ではある意味でこういうポジションの作品もエクスプロイテーション作品だと言えるかもしれないですね。日本のアニメはこういう男性オタクケアに従事している面が本当に強いです(問題はそれが適切なケアではなく、余計に劣等感や憎悪を増幅させたりすることもあるということなのですが)。

まあ、でもあのポンポさんという存在は実際にいたらジーンみたいな自己肯定力の低い人間には危険かもしれないですけど。こういう自己肯定感の低い人間を「社会不適合な目がむしろいい」とか言葉巧みに誘って都合よく口車に乗せて社畜に変えていく奴、世の中にはいますから。リアルではポンポさんみたいな人を見かけても、絶対に近づかない方がいいですよ…。

映画ではオリジナルキャラクターとしてアラン・ガードナーという存在を追加しており、単なる“性格や恋愛経験だけで決めつける劣等感”に陥らないような補足もありましたが…。

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本作で描かれる編集と実際の編集

『映画大好きポンポさん』はついにジーン監督のもとで撮影が開始され(スイスの高原で撮るあたりですでにカネかかっている)、多少のトラブルを機転で乗り越えつつ、無事にクランクアップ。

そして本作のメイン。それは編集。本作は編集の重要性をひたすらに描く作品なのでした。確かに編集は軽視されがちですし、こうやってスポットがあたるのは良いなと思います。

ただ、本作は編集という過程を通して「生きることは選択の連続」という人生哲学的な部分にまで踏み込んでいくので、やや狂気じみているところもあり、そこもクリエイターらしいタッチとも言えます。

なお、編集をする人は、作中のようにほとんどの時間を編集ブースで自分たちで作業することに費やしているのですが、決して部屋に閉じこもっているだけでもなく、かなり大勢の人と日々密接にやりとりしないといけないことになるのが現実。なぜなら編集は、撮影、セリフ、効果音、音楽、VFX、俳優、広報などあらゆる分野が関与してくるので調整が大変だからです。ハリウッドの映画編集業界のサイトとかを見ると、コミュニケーションスキルとセルフモチベーションが大切と書かれており、たぶんジーンみたいな人間には一番向いていない仕事かもしれない…。

『映画大好きポンポさん』で個人的に苦言があるなら、最後はジーンはニャカデミー賞で編集賞を受賞してほしかったですね。さすがに主演男優賞・主演女優賞・脚本賞・監督賞・作品賞はサクセスストーリーとして出来すぎている気もするし、本作こそ編集賞が輝くのに…。

ちなみにアメリカ映画編集者協会(ACE)が毎年「Eddie Awards」という編集に特化した賞を発表しているので、どんな作品が受賞しているのか調べると面白いですよ。

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ファスト至上主義のポンポさん

『映画大好きポンポさん』を見ていて他に思ったのは、ポンポさんというキャラクターの象徴性。

ポンポさんは物語上は映画界の寵児であり、圧倒的才能があるということになっています。ポンポさんの言っていることはとりあえず核心をついており、ともかく正しいという設定です。

でも、そのポンポさんを見ていると、明らかにシネフィル風の映画知識を持ちながら、その思考は全然シネフィルっぽくないというか…。例えば、映画が好きだからなるべく長く観ていたいというジーンの意見を典型的な映画オタクの思考として対置させ、一方のポンポさんには「2時間以上の娯楽は現代人には受けない。90分がいい」と言わせる。このへんはものすごく論破カルチャー的な感じだなと思ったり。

実際、映画の上映時間はその作品のジャンルとか、観る環境とか、観客のターゲット層とか、興収との兼ね合いとか、予算規模とかに左右されるので、いわゆる個人の映画論で決定できるものじゃないわけです。

ただ、こういう短ければ良しという思想は、すごく今の映画を取り巻く一般人の感覚にフィットするのだと思うのです。それこそファスト映画なんてものが流行るくらいに(ファスト映画は著作権侵害なので根本的にアウトですけどね)。

ポンポさんこそ正論だと憧れる映画ファンが増えているであろう昨今、映画というもののコンテンツ化をひしひしと感じてしまいました…。

『映画大好きポンポさん』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
?.? / 10
シネマンドレイクの個人的評価
4.0

作品ポスター・画像 (C)2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/ 映画大好きポンポさん製作委員会

以上、『映画大好きポンポさん』の感想でした。

Pompo: The Cinéphile (2021) [Japanese Review] 『映画大好きポンポさん』考察・評価レビュー