正しさは悩んでこそ無限に広がる!…アニメシリーズ『ひろがるスカイ!プリキュア』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:日本(2023年~2024年)
シーズン1:2023年に各サービスで放送・配信
シリーズ構成:金月龍之介
ひろがるすかいぷりきゅあ
『ひろがるスカイ!プリキュア』物語 簡単紹介
『ひろがるスカイ!プリキュア』感想(ネタバレなし)
「プリキュア」は正しさを冷笑しない
悲しいことが起きる。悪いことをする人がいる。これは世の常かもしれません。
でもそれ以上に嫌なのは、そんなときにここぞと正しさを冷笑するような言動しかとれない人が現れることです。人が悪いことをしたとき、それを「正しさの暴走」だとか、「行き過ぎた正しさ」のような言葉でしか表現できない…。「正しさと正しさのぶつかり合いだ」というような認識しかできない。
そうした一見すると的を得ているかに見える言葉の連なりは、実際は問題をすり替えているだけだったりします。
正しさを脇に置いて見下ろすだけのような姿勢は結局のところ「あなたは正しくあれていますか?」という質問から逃げているだけで、あげくには「正しくあろうと頑張っている人たち」をバカにすることしかできなくなってしまいます。
正しさが完璧ではないのは「正しくあろうと頑張っている人たち」が一番よくわかっています。失敗することもあるし、悩むこともある。その姿を「だから正しさはダメなんだ」と呆れるのは、すごく失礼で、酷いことじゃないですか。
「プリキュア」シリーズは常に「正しくあろうと頑張っている人たち」であり、そして正しさを冷笑しません。正しさに前向きで、ときに率直に葛藤することを、子どもたちにありのままに伝えてきました。
2023年から2024年1月にかけて放送されたシリーズはとくにそのメッセージが全面にでていたかもしれません。
それが本作『ひろがるスカイ!プリキュア』です。
「プリキュア」は毎シリーズでそれぞれのコンセプトがありますが、前作『デリシャスパーティ プリキュア』は「料理」「食べる」が題材になっていましたが、今作『ひろがるスカイ!プリキュア』は「ヒーロー」となっています。
「プリキュア」は1作目からずっと実質的にはヒーローだったわけですが、あらためて「ヒーロー」をコンセプトにするというのは原点回帰な感じもあります。
しかし、同時に本作は、中心に立つプリキュアを従来の定番だった「ピンク」ではなく「青」をイメージカラーにしたキャラにしたり、レギュラーキャラとしては初めての「男の子プリキュア」が登場したり、18歳の「成人女性のプリキュア」が加わったり、新しい試みも豊富に揃っています。
『ひろがるスカイ!プリキュア』は昔ながらのレガシーと新しいチャレンジがバランスよくまとまった作品と言えるのではないでしょうか。
通算20作目とキリがいいので、ひとつのマイルストーンなのかな。
「プリキュア」は日本の特大級のフランチャイズ&IPなのは言うまでもないですけど、それでも安易なリメイクや焼き直しに依存せず、少しずつ現代を意識しながらアップデートを試みる姿勢は今の「プリキュア」製作陣の良さだと思います。そういうのは地味でも確実に作品が将来の子たちに愛される土台になっていきますから。
「プリキュア」は基本的にどの作品でも初心者にものすごく見やすく作ってあると思うのですが、今回の『ひろがるスカイ!プリキュア』は「プリキュア」らしさとその時代の変化を象徴するような一作ですし、非常にオススメです。
『ひろがるスカイ!プリキュア』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :シリーズ初心者も安心 |
友人 | :オススメし合って |
恋人 | :気楽に触れて |
キッズ | :子どもに正しさを! |
『ひろがるスカイ!プリキュア』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):ヒーローの出番です!
天空に浮かんだスカイランドという王国では多くの者たちが平和に暮らしていました。しかし、まだ幼いプリンセスであるエルがカバトンという怪しい奴に誘拐されてしまい、騒然となります。
そんな騒ぎも知らずにこのスカイランドにやってきたのが、大きなリュックを背負った青い髪の少女。名前はソラ・ハレワタール。
誘拐の現場を目撃し、「見て見ぬふりはできない」と颯爽と現れ、軽快な身のこなしで街を駆け抜けます。馬飛びで飛び越えて赤ん坊のエルを助けますが、カバトンは強烈なおならで反撃。赤ん坊を奪って謎の次元の穴から消えてしまいました。
ソラは「ヒーローは泣いている子どもを絶対に見捨てない!」と意を決して追うことにします。
異空間でカバトンは岩にぶつかり、赤ん坊のエルを放してどこかへ去りました。追いかけていたソラは赤ん坊を受け止めます。「もう大丈夫です。おうちに帰ろう」
ところがひと安心したのもつかの間、また謎の次元の穴が開き、そこに飲まれます。
気づくと空の上。真っ逆さまに落下していくソラは大慌てです。
その頃、「私立ソラシド学園」中等部の2年生の虹ヶ丘ましろはおつかい中、どこからか落ちてきた手帳を見つけます。さらに空から真っ直ぐ少女が急降下。しかし、謎の力でゆっくり着地しました。
あっけにとられるましろ。「なんですかこの変な町!?」とソラもパニックの様子。見慣れないものがいっぱいある…。夢だと2人も納得しますが、互いに現実です。お互いに自己紹介する2人。
ここはソラシド市で、ソラにとって知らない世界。ましろにとってはソラの言っている世界を知りません。
そのとき、カバトンも落ちてきます。そして不気味な力で巨大な敵を出現させてきました。ソラは赤ん坊のエルをましろに預け、立ち向かおうとします。
「相手がどんなに強くても正しいことを最後までやり抜く。それがヒーロー」
しかし、敵は強く、苦戦するソラ。逃げるましろは追いつかれ、ソラは疲労困憊で動けません。
余裕のカバトンはソラの手帳を拾い、読み上げて、その内容を笑います。それでもソラは屈せずに立ち上がり、まだ戦おうとします。
その瞬間、不思議なアイテムがソラから飛び出し、それを使うとソラはキュアスカイに変身。「無限に広がる青い空!キュアスカイ!」
圧倒的な力で敵を倒し、カバトンは退散を余儀なくされました。
「あなたってヒーローなの?」とましろに聞かれ、「私にもわかりません」とソラは答えます。
世界はここから広がっていくことに…。
考え悩むことを恥じないヒーロー
ここから『ひろがるスカイ!プリキュア』のネタバレありの感想本文です。
『ひろがるスカイ!プリキュア』の主人公のひとり、スカイランド出身のソラ・ハレワタールは、幼い頃に助けてくれたシャララに憧れて、一直線にヒーローを夢見るという、非常に王道なキャラクター性です。ボーイッシュな言動が目立ちますが、容姿自体は少女らしさもあり、ジェンダー規範に依存しないオリジナルなデザインを確立していると思います。女子野球部の助っ人に入るなどのエピソードはそれっぽくでいいですね。
キュアスカイに変身するソラは、考え悩むことを恥じないヒーローの体現者。作中でもさまざまな葛藤を経験するのですが、それをバネに着実にたくましくなっていきます。
終盤では、スキアヘッドの策略でアンダーク・エナジーの入れ物にされ、闇深い黒い見た目で、『ドラゴンボール』級の戦闘力を発揮するのですが、それでも元に戻れたのは、虹ヶ丘ましろとの絆はもちろんのこと、これまでの葛藤が経験値として活かされているからでしょう。
一方、キュアプリズムに変身する虹ヶ丘ましろは、ピンクカラーのキャラクターですが、過度に女の子らしさに染め上げられたキャラではありません。両親が海外赴任でいないということで、家庭に物寂しさを抱える背景もありますが、それをネガティブには描いていないのも良いところ。
ましろは、絵本の制作に関心を持つようになり、そんな絵本でみんなに元気を与えることに意味を見い出します。ソラの物理的な救いを土台とするヒーローとは違いますが、創作が人を救うという点で、とてもクリエイターの立場とシンクロする存在です。子ども向けのアニメではありますが、ましろの描かれ方はかなり創作者としての主体性をきっちり映していたのではないかな。
この2人の主人公を通して、自分の信念に悩むのはカッコ悪くないと素直に伝える物語が織りなされていました。
ジェンダー規範を飛び越えて
他のプリキュアもキャラクター・アークはしっかりできています。
キュアウィングに変身する夕凪ツバサ。少年がプリキュアに変身する(厳密にはプニバード族という鳥の種族だけど)設定を本格投入する中で、おそらくデザインは相当に悩んだと思いますが、今回のキュアウィングのデザインは私はとても好きです。
変に男っぽくせず、絶妙にプリキュアらしいヒラヒラっぽさとか、そういうのを組み合わせて上手いことバランスをとっているあたり。少年がプリキュアに変身するならこうだというひとつの答えとして、これ以上のベストがある?ってくらいに良いんじゃないでしょうか。ジェンダー・ノンコンフォーミングなプリキュアの可能性の出発点ですね。
2023年は『仮面ライダー』最新作でもシリーズ史上初の女性2号ライダーが登場したり、子どもも見る往年の日本フランチャイズ・タイトルがジェンダー規範を振り切り始めた1年でした。
また、キュアバタフライに変身する聖あげはも語りがいがあります。あげはは、いわゆるギャルのキャラクターなのですが、消費的なステレオタイプっぽさは全くないです。加えて、最強の保育士を目指すという、下手すれば母性で安易に回収されかねない設定がある中、あくまでキャリアとしての信念を描くことで、保守的に傾くことを回避しています。
日本のサブカルチャーではギャルが男性目線で保守的女性として描かれやすいという問題点を、アニメ『経験済みなキミと、経験ゼロなオレが、お付き合いする話。』の感想でも指摘しましたが、今作のあげはのキャラは見事にその落とし穴に落ちずに済んでました。
個人的にはこの夕凪ツバサと聖あげはの関係性が良いなと思っていて、あげははツバサのことを「少年」と呼ぶのですけど、年下の男の子を変にフェティシズムに消費するみたいな日本のサブカルにありがちなことを全然しないのです。「少年」とあえてぶっきらぼうに見えるこの呼びかけが、むしろ対等であることの証になっている。子どもと接する仕事を目指す者としてしっかり模範的な姿勢になっているあげはの描かれ方は、昨今の日本のサブカル界隈の中でもなかなかに希少だと思いました。
アンダーグ帝国の冷笑主義
『ひろがるスカイ!プリキュア』の悪役として立ちはだかるのは、スカイランドと因縁のあるアンダーグ帝国。「力こそが全て」という考えを絶対視しています。
そんなアンダーグ帝国から送り込まれてくる存在として、カバトン、バッタモンダー、ミノトンというキャラクターがいますが、武人タイプのミノトンはさておき、カバトンとバッタモンダーの2人はとくに帝国の力による上下服従に内心では怯えています。
その2人が当初はプリキュアたちの掲げる真っ直ぐな正しさに対して、冷笑的に振舞うしかできないというのも印象深いところ。”男らしさ”を内在化する下っ端の男性陣が、正しさの声をあげる若い女性を嘲笑うというのは、まあ、現実でもよく見る光景ですから。
最終的にはカバトン、バッタモンダー、ミノトンの3人はすっかり改心し、最終戦ではプリキュア側の味方に。
対して、スキアヘッドはラストでダークヘッドとして本性を現し、カイゼリン・アンダーグへの非道な行為を平然と正当化。今回のラスボスはなかなかに虐待的なヴィランで、カイゼリンのメンタルケアが心配になりますが、キュアノーブルことエルレインがいるので、きっとベストフレンドになってくれることでしょう(それにしてもあの世界の年齢概念、かなりざっくりしてるな…)。
本作『ひろがるスカイ!プリキュア』は異世界モノのサブジャンルでもあり、「ひろがるチェンジ」という掛け声のとおり、自分の世界を広げることで強くなっていきます。それは相手の世界を侵略することではなく、相手の心を知り、自分の弱さを認め、尊重し合うという連帯の強さです。力が全てじゃないのなら何を信じればいいのかという疑問の答えがまさにそれでした。
もちろん子ども向けの前提があるので、あまり複雑な政治構造を描き切ることはできていません。スカイランドとアンダーグ帝国のあの二国間の立ち位置も善悪がハッキリしすぎるのは少々あれかなとは思いましたが…。
私はいつか「プリキュア」でワールドクラスな世界を舞台にした作品が見てみたいんですよね。現実の世界中の子たちがプリキュアに変身して、交流を深め、世界を繋げるような物語を…。今の製作体制ではそれほど巨大な世界観を構築するのは厳しいのはわかっていますが…。でもプリキュアならできると思いますし、それを望んでいるファンは世界中にいると思いますよ。
プリキュアは未来を見据え、これからも正しさに誇りをもって広がってほしいです。
ROTTEN TOMATOES
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・『パインコーン&ポニー』
・『デッド・エンド:ようこそ!オカルト遊園地へ』
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作品ポスター・画像 (C)ABC-A・東映アニメーション ひろがるスカイプリキュア
以上、『ひろがるスカイ!プリキュア』の感想でした。
Soaring Sky! Pretty Cure (2023) [Japanese Review] 『ひろがるスカイ!プリキュア』考察・評価レビュー
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