青春とはすなわち部活内政治である…アニメシリーズ『響け!ユーフォニアム』(1期~3期)、『劇場版 響け!ユーフォニアム〜誓いのフィナーレ〜』『特別編 響け!ユーフォニアム〜アンサンブルコンテスト〜』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:日本(2015年~2024年)
シーズン1:2015年に各サービスで放送・配信
シーズン2:2016年に各サービスで放送・配信
映画(誓いのフィナーレ):2019年4月19日
映画(アンサンブル):2023年8月4日
シーズン3:2024年に各サービスで放送・配信
監督:石原立也
恋愛描写
ひびけゆーふぉにあむ
『響け!ユーフォニアム』物語 簡単紹介
『響け!ユーフォニアム』感想(ネタバレなし)
「音楽×部活」ジャンルの新たな金賞
日本のアマチュア吹奏楽団体を対象としたものの中でも、最大規模で歴史があるのが「全日本吹奏楽コンクール」です。
「中学生の部」「高等学校の部」「大学の部」「職場・一般」の部の4部門があり、支 部/都道府県/地区とそれぞれの大会を突破した団体が、この全国大会へ出場できます。中学の部・高校の部では出場団体数は前半の部・後半の部ともに各15団体(合計30団体)。課題曲及び自由曲を演奏して審査を受けることになります。
特徴的なのが、審査結果は「金賞」「銀賞」「銅賞」に分けられるのですが、それぞれ1団体だけが各賞を受賞できるわけではなく、団体ごとに「金賞」「銀賞」「銅賞」のいずれかを審査されること。なので「金賞」の団体が複数存在することもありえます。審査方法が2024年に変更になっているのですけど、「金賞」「銀賞」「銅賞」であることには変わりありません。
これはやっぱり「音楽」という分野の特有だなと思います。スポーツのようにタイムや点数で絶対的な数値化ができず、感覚に依存するしかない音楽。それを評価するのは至難の技ですし、高評価を目指す側も大変です。
そんな世界に青春を全力でぶつける10代の生徒たちを、たっぷりのドラマ性とともに活写する骨太のアニメシリーズ、それが『響け!ユーフォニアム』です。
原作は、”武田綾乃”による小説で、2013年から刊行され、シリーズ化し、スピンオフでも広がっています。
その原作は小説時点ではそこまで熱狂的なファンダムは育っていなかったと思うのですが、2015年にアニメ化したことで、徐々にその作品の魅力に憑りつかれる人が続出。今や心を鷲掴みにされて熱中するファンがたくさんいます。
本作がユニークなのが、吹奏楽部を舞台にした王道の部活モノなのですけども、とにかく徹底してその部活内での人間ドラマに比重を置き、リアリズムを突き詰めている点。本作を観た吹奏楽部経験者が「ああ…」と自身の熱い想いやトラウマをフラッシュバックしてしまうくらい、その描写は生々しく、心をエグるほど。
だからといってわざとらしくトラウマ搾取的に描いているわけでもなく、吹奏楽に対する姿勢は誠実で、率直に共感を与えます。吹奏楽をよく知らない、またはそんな楽しい青春を送ったこともない私のような人間でも、こういう人間関係の生々しさは既視感がありますし、揺さぶられるものがあります。
部活モノというと、日本のアニメ界隈ではカジュアルなジャンルとして消費されるのが一般的でした。何より本作の制作である「京都アニメーション」が『涼宮ハルヒの憂鬱』などでキャラクター主導のオタク特化な部活ジャンルを先駆的に開拓した歴史さえあります。とくに『けいおん!』は「音楽×部活」のスタンダードとして確固たる成功方程式を築きました。
『響け!ユーフォニアム』はその「京都アニメーション」が自身で確立した「音楽×部活」のサブジャンルを解体し、新しいものに再構築するような作品として、結果的になったのではないかなと思います。そういう意味ではジャンルのパラダイムシフトな作品になりました。
とは言え、『響け!ユーフォニアム』級のものはそうそう量産されないでしょうけどね。商業性と微妙に相性が悪いというのもありますが、根本的に作るのは苦労しますよ。
それでも1期、2期、劇場版、中編映画、3期と、2015年から2024年までの長期間の付き合いで、クオリティを維持して駆け抜けたのは本当に素晴らしいクリエイティブでした。その実績だけでも「金賞」ものです。
まだ見ていない人は、これから『響け!ユーフォニアム』に感化される興奮が待っていると考えると羨ましいですね。ぜひ、響いてください。
なお、以下の後半の感想は、『響け!ユーフォニアム』のアニメシリーズの1期・2期・3期、および『劇場版 響け!ユーフォニアム〜誓いのフィナーレ〜』と『特別編 響け!ユーフォニアム〜アンサンブルコンテスト〜』の2作の映画を合わせた感想となります。
2018年のスピンオフ映画『リズと青い鳥』はちょっと立ち位置が異なるので、以前に別の記事で感想を書いています。
『響け!ユーフォニアム』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :見ごたえはじゅうぶん |
友人 | :いろいろ語り合って |
恋人 | :素直に話せる相手と |
キッズ | :悩みを聞いてあげて |
セクシュアライゼーション:なし |
『響け!ユーフォニアム』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
京都府吹奏楽コンクールの予選結果は発表され、黄前久美子の北中は金賞を獲りましたが、関西大会への出場はできませんでした。それでも黄前久美子は充実した結果ではあったと思っていると、ふと横ですすり泣く同級生に気づきます。
それは同学年の吹奏楽部の高坂麗奈。そんなに親しくないです。泣くほど嬉しかったのかと思い、「良かったね、金賞で」と声をかけると、高坂麗奈は「悔しくて死にそう。なんでみんなダメ金なんかで喜べるの…私ら全国を目指してたんじゃないの」と呟きます。
その言葉を耳にして「本気で全国行けると思ってたの」とつい言ってしまう黄前久美子。それが中学の吹奏楽の最後の思い出…。
黄前久美子は高校生になりました。気合いを入れてポニーテールで初登校。少し離れた北宇治高校で、中学の馴染みの子はあまりいません。セーラー服が良かったし、いろんなことをリセットしたかったのでした。
入学式の日、正門前ではさっそく賑やかでしたが、そのとき「新入生の皆さん!」という掛け声のもと、吹奏楽部が演奏を野外でしているのを目にします。その演奏はお世辞にも上手いものではなく、聞き慣れている黄前久美子には下手っぷりがよくわかりました。
1年3組の教室であの吹奏楽部の下手くそな演奏を思い出していると、後ろの席の加藤葉月が話しかけきます。随分とフレンドリーで一緒に帰ろうと誘ってきます。新しいことをいっぱいしたいらしいです。
また、同じクラスの川島緑輝から鞄についていたマスコットキャラクター「チューバくん」を指摘されます。川島緑輝は中学ではコントラバス奏者だったらしいです。加藤葉月は金管楽器が何かもわかっていません。黄前久美子も「私も吹部だったよ。ユーフォやってたよ」と口にします。
加藤葉月も吹奏楽部をやりたいらしく、川島緑輝も吹奏楽部の見学に行くそうで、黄前久美子も流れでついていくことにします。
中では副部長の田中あすかが陽気に案内してくれ、部長の小笠原晴香はお調子者の田中あすかを引っ込めさせます。
その瞬間、ある女子高校生が堂々と音楽室に入ってきて「入部したいんですけど」と宣言します。それは高坂麗奈でした。
気まずい黄前久美子はその場を去ります。川島緑輝はこの吹奏楽部の実力の低さを素直に語り、府大会で金賞を目指す程度だと分析。
「久美子はどうする? 吹部」「私は…ちょっと考える」
高坂麗奈がこの学校にいたことを家の近くのベンチで落ち込んでいると、幼馴染の塚本秀一が話しかけてきます。塚本秀一も吹奏楽部をしていたので高校もそうしようと考えているようです。しかし、黄前久美子は「吹部はやめることにした」とその場で告げます。
自室で黄前久美子は何度もみたかつての楽譜を見つめ、悩んでいました。
けれども、あらためて「一緒に吹部に入らないか」と加藤葉月と川島緑輝に誘われ、「うん」と返事をします…。
部活内政治と実力主義
ここから『響け!ユーフォニアム』のネタバレありの感想本文です。
『響け!ユーフォニアム』は、前述したとおり、スポーツのようにタイムや点数で誰でも自明な数値化ができず感覚に依存するしかない「音楽」、しかも個人技で突破できない”合奏しないといけない”という「吹奏楽」ならではの、そこで起きる人間関係のメカニズムがリアルに描かれており、そこが何よりも見ごたえになっています。
それはさながら「政治」です。
そのうえ、舞台は高校の部活。60~100名近い人数のコミュニティが形成され、毎年3分の1が入れ替わり、政権交代よろしくリーダーも変わる。目まぐるしく人間関係が激変します。「部活内政治」は本当に勢力図が不安定で、ついていくだけでもいっぱいいっぱい。
そこに大きく作用するのが「実力主義」という方針です。
コンクール出場編成人数に制限があるので、「学年を問わずに演奏の上手い人が出場メンバーとなる」…その前提でオーディションが行われる。至極シンプルなことですが、これを理想どおりに実現するのは本当に難しくて…。
実力主義の方針がなかった以前でさえも、中川夏紀・吉川優子・鎧塚みぞれ・傘木希美などが1年時に経験した大量退部事件など、どこまで”やる気”があるのかで軋轢が生じていました。そして実力主義が本格始動すると、1期で勃発する高坂麗奈(当時1年)と中世古香織(当時3年)のトランペット・ソロをめぐる対立、他にも下級生に出場を奪われる上級生は何人も現れ、3期の各大会ごとのオーディションで苛烈さがさらに増し…。
実力主義以外にも、受験で身を引く斎藤葵、健康上の不調で身を引く加部友恵、現実主義に引きこもって私情を隠す田中あすか、自分の部長の実力に自信を持てない小笠原晴香、家族関係を引きずる月永求、家庭のプレッシャーで遠慮してしまった姉の黄前麻美子などなど、ただでさえ個人レベルの問題も多いのに…。
いよいよ3年時に部長に抜擢された黄前久美子はその政治を治めるべく悪戦苦闘するハメになりますが、転校生の黒江真由の出現で実力主義問題の当事者となり、己が試されます。
本作の良さだなと思うのは、「実力主義」を殴り合いで決めるコロシアムのようなマッチョイズムに解釈していないことです(『ブルーロック』みたいな方向性ではない)。「勝つか負けるか」ではない、「いかにケアし、”納得”するか」という受け止め方をしているな、と。
3期にてユーフォニアムのソロをめぐる騒動で渦中にある黄前久美子に対して、出場ポジションが揺らいだことのない川島緑輝が「3年に花を持たせる」ほうへと温情に傾き、やっと念願の出現を果たした初心者の加藤葉月が実力主義への貫きを支持する…あの最も親密な同級生の2人の姿勢の差異が印象的ですね。
「実力主義」というものが見かけ以上に複雑で単純ではないことを思い知らされます。これって本当に大切な気づきだと思うのです。世の中、「努力が全て」「結果が全て」みたいに単純化する横暴なパワーゲーム思考がまかりとおりやすいですから。
本作のようなメンタルケアな軸があるマネジメントを根底に描く作品というのは、近年もドラマ『テッド・ラッソ 破天荒コーチがゆく』など実写劇でも見られますが、『響け!ユーフォニアム』はアニメで見事に表現してみせました。
進路の熟考をこれほど上手く描く作品は他にない
『響け!ユーフォニアム』における実力主義の解釈が多層的に含みを持たせているという部分が、最も際立つストーリーがあるのがやはり主人公の黄前久美子。
冷めた一歩引く主人公ですが、”やれやれ”系の冷笑ではありません。人並みの友達付き合いをし、孤立もしていないですけども、自己のアイデンティティへの決定的な根が生えていない感じ。でもそれはこれくらいの年齢なら別に珍しくもないことです。
そんな主人公である黄前久美子が高坂麗奈という運命的出会いによって感化されていきます。1期からこの2人は最大風速のシップが成立し、そのまま3期まで最大風速を観測し続けるあたりは凄まじいですね。恋愛保留関係にある幼馴染の塚本秀一が入る隙もないほどでしたけど、でも塚本秀一も彼なりに献身を学んでいく成長のエピソードが背後にあったと思ったので、あれはあれで悪くはなかったですけど…。なんだかんだで誰よりも慕ってくれるほどに懐いた後輩の久石奏とのひねくれ感のあるシップも個人的には好きです。
黄前久美子は最終的に黒江真由とのユーフォニアムのソロをめぐる争いに堂々と負け、高坂麗奈と悔し涙を流します。全国で金賞を獲るという3年間の努力は実りましたけど、全てが理想ではない。その匙加減も良いところです。
他者の機微に触れ、さまざまな人間関係に揉まれ、本人に自覚はないせよ、実は着実に成長した黄前久美子。ユーフォニアムの演奏スキル以上にそのマネジメント能力の成長が黄前久美子の「努力の賜物」なんでしょうね。
そして黄前久美子は教師になるという進路を選び、再び母校に戻ってくるのですが、このオチも思いつきやすさで言えばベタではあります。
ただ、私が良いなと感じたのは、このオチがとってつけたものではなく、ちゃんと「黄前久美子は教師になる」という、どうしてそうなのかという成長と心理の過程を丁寧にみせることで、作中では黄前久美子が納得していくまでを描いていますが、視聴者も”納得”させてくれる部分です。
滝昇という顧問のキャラクターの扱いも上手く、あの先生の指導者としての成長を裏で描きつつ、「先生」という神格化ではなく、ひとりの人間なんだという感覚にまで到達できて、だからこそ教員の仕事が身近に自分と接続した黄前久美子。
『響け!ユーフォニアム』ほど進路の熟考を描くのが巧みな作品はなかなかないと思います。人は脆く小さいけれど、こんなにも内で成長するのだという感動がありました。
ということで、表向きのジャンルは「音楽×部活」の吹奏楽部モノというミニマムな作品でしたが、あらゆる青春学園モノの中でも群を抜いて傑出した完成度の一作でした。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
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日本のアニメシリーズの感想記事です。
・『ガールズバンドクライ』
・『ぼっち・ざ・ろっく!』
・『スキップとローファー』
作品ポスター・画像 (C)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会 響けユーフォニアム
以上、『響け!ユーフォニアム』の感想でした。
Sound! Euphonium (2015) [Japanese Review] 『響け!ユーフォニアム』考察・評価レビュー
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