納得感にやや欠ける最高の他人…アニメシリーズ『メタリックルージュ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:日本(2024年)
シーズン1:2024年に各サービスで放送・配信
監督:堀元宣
めたりっくるーじゅ
『メタリックルージュ』物語 簡単紹介
『メタリックルージュ』感想(ネタバレなし)
火星のチョコレートは私のもの
「”A Mars a day helps you work, rest and play”」
そんなキャッチコピーで売られているチョコレートがあります。「Mars bar」です。
英語圏ではチョコレート・バーというようにああいうタイプのチョコを「bar」と表現しますが、「mars(火星)」ってどういうこと?…と思った人もいるかもしれません。これは「マース」というアメリカの有名な食品会社の企業名です。「スニッカーズ」とか「M&M’s」とかの菓子を作ってるところですね。
1932年に初めて製造され、イギリスで生まれました。歴史がありますね。“フォレスト・マース・シニア”という実業家が始めた会社なので、この名前です。だから火星は全然関係ないのです。しょんぼり…。
いつか火星で「Mars bar」を食べたりできるようになるのかな…。これが本当の「Mars bar」ってカッコつける人が続出するな…。
そんな中、ひと足先に火星もでてくるし、チョコレートもでてくるので、「Mars bar」チャンス到来になりそうで…そうはならない…今回紹介するアニメシリーズをそんな目で見る人はほとんどいないでしょうけどもね。
それが本作『メタリックルージュ』。
本作は原作なしのオリジナル作品で、アニメスタジオ「ボンズ(BONES)」と“出渕裕”が2002年の『ラーゼフォン』以来で久しぶりにタッグを組んだシリーズとして宣伝されています。海外のエンタメサイトを見ていたらたまたま“出渕裕”特集をしていて、あらためて海外アニメファンの間でも支持が熱いんだなと再実感したばかりのクリエイターです。
“出渕裕”と言えば、やっぱりメカニックデザイン。手がけた作品は『機動警察パトレイバー』など挙げだすとキリがないほど。つい最近も『シン・仮面ライダー』に名前がでていました。
今回の『メタリックルージュ』は、『ラーゼフォン』と似たような系譜で、変身ロボットSF(人がメカコスチュームにスタイルチェンジするタイプ)のジャンルであり、世界観といい、デザインといい、それらしさが全開です。しかし、舞台は地球や火星を行き来するような壮大さがあり、サイバーパンクで人造人間が当たり前にいたりして、連想するのは『ブレードランナー』ですかね。カジュアルな『ブレードランナー』。
他の大きな特徴は、女性2人のバディものになってることで、『ラーゼフォン』の軸のひとつにあった男女ロマンスから抜け出し、シスターフッドがビジュアル的には醸し出されています。
この主人公2人のうちのひとりが大のチョコレート好きという設定で…。
本当に大きな世界観の作品なので初見時はやや戸惑うのですが、「ボンズ(BONES)」と組んでいることから推察されるように、おそらくIPとしてスタジオの新たな顔になる作品が欲しいのかな。今は収益性を第一に考えて、各社でIP創出合戦が静かに激しくなっていますよね。もともとビッグコンテンツのIPを持っている出版系大企業は別にして、各アニメスタジオなんかは自社の安定的基盤を確保するために、クリエイティブの力でなんとか自分のIPを作ろうと懸命です。
そうなってくると以前に成功したクリエイターとの再タッグなどで足掛かりを作って、スタートダッシュできないかを探るしかないわけで…。
ただ、現状の日本のアニメ業界をみると、圧倒的に既存の出版系大企業の保有するIPが突出して強く、宣伝力も含めた体制&予算規模も全然違うでしょうし、厳しいスタートラインに立たされます。『メタリックルージュ』もいろいろな意味で苦戦している感じがありありと伝わってくる…。
『メタリックルージュ』も2000年代初めに制作されていたら、また違った勝負環境で注目されやすかったと思うのだけどな…。
『メタリックルージュ』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :世界観が好きなら |
友人 | :趣味が合う同士で |
恋人 | :恋愛要素はほぼ無し |
キッズ | :ジャンルが好きなら |
セクシュアライゼーション:なし |
『メタリックルージュ』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
2128年、人類が多く居住するようになった火星。キャナルシティでステージに立つ有名な歌手サラ・フィッツジェラルドは今日も歌声を披露しています。ルジュ・レッドスターはそんなサラのアシスタントで、道端にいたところを拾われたばかりでした。
ルジュはボーっとしており、どこか抜けています。サラが車で帰るのを見送り、仕事は終わり。
ルジュはネアンという人造人間で、ここでは他にもネアンが働いています。ネアンはネクタルを打つことで機能するのですが、このネクタルは人間が打つとドラッグ的に気持ちがいいため、別の需要もありました。
ネアンはアジモフコードが埋め込まれており、人間には逆らえず、危害も加えられません。
そんなルジュのもとに1羽の小鳥型のロボットがやってきます。その小鳥は業務連絡のように喋ります。聞いてきたのはサラについてです。ルジュはサラを密かに観察していました。
「彼女は違うと思う」とルジュは返事し、「明日の正午、劇場裏で待つ」と小鳥に言われます。通話が終わり、部屋とは呼べない粗末な場に寝転がるルジュでした。
一方、サラは密かにネクタルを打ちます。実はサラもネアンです。そのとき、何か襲ってきます。一部の特殊なネアンだけが変身(ディフォルム)であるグラディエーターです。襲ってきたグラディエーターは全身が赤いものでした。
他の場所で赤いグラディエーターは人を殺害したらしくニュースになっていました。これは数カ月前に起きたロイ・ユングハルト殺害事件で目撃された赤いグラディエーターに似ていると報道されています。
しばらく後、ルジュのもとに眼鏡の女性が現れます。あの小鳥ロボの中の人だそうで、ナオミ・オルトマンだと名乗ります。
よく食べるナオミを眺めながら、進捗を聞かれます。「サラはヴァイオラとは違うと思う」とルジュは意見を述べますが、しかし、鳥で事前に偵察していたナオミはサラがネクタルを打っている現場を目撃しており、「彼女はネアン、しかもインモータルナインのひとり、『煉獄のヴァイオラ』だ」と告げます。
ところかわってサラは教会でジャロンという人物と密かに会話。ジャロンは「今回の件が成功していれば私どもアルターとも縁が切れたのに。我らがシルヴィアはあなたが情報を漏らしたと疑っておいでです」「最近何か見知らぬものが近づいてきたということは?」とルジュに疑いを持たせます。
それを踏まえ、サラがルジュに会いに来ます。ひと気のない橋で、サラは「あなたこと、好きだったのだけどな」と言い、2人は対峙。
そこに赤いグラディエーターがルジュを投げ飛ばし、襲ってきます。その赤いグラディエーターの正体は偽装能力を持つジャロンでした。擬態を解いて黄色いグラディエーターに戻るジャロン。
しかし、緊迫感が高まる中、本物の赤いグラディエーターが出現します。ジャロンは立ち去り、今度はサラが変身。赤いグラディエーターはルジュの声で「メタルルージュ」と名乗り、サラと激戦を繰り広げます。
その戦いを遠くでナオミが解析していました。
サラは「なぜ私たちを狙う? お前は何なんだ? 私は歌いたかった。幸せになりたいだけだった!」と感情をぶつけますが、決着はルジュに軍配が上がりました。
ナオミのもとへ戻ったルジュは平然とした顔で「次はどこ?」と問います。
ルジュとナオミ、この2人の使命はまだ残っています…。
合理的に2クールほしかった…
ここから『メタリックルージュ』のネタバレありの感想本文です。
『メタリックルージュ』は冒頭からこの作品自体が全力で変身してくるようなもので、世界観はとんでもなく壮大で、しかも1話目の壮大さを回収せずに、さらに変身を繰り返して世界観を拡張してきます。結果、独自の印象的なアイデンティティを確立して観客を夢中にさせるほどゆっくり馴染ませる時間もなく、瞬く間の速度で駆け抜ける…そんなストーリー展開になっていたと思います。正直、明らかに2クールは必要なボリュームでした。2クールでも足りなかったかもしれません。
まず人類と対になる存在としてネアンがいます。この人造人間が人間社会に迫害されて…みたいな人権を問う視点はアニメ『PLUTO』などでも見るとおり、定番ではあります。
労働者としての酷使だけでなく、自由ネアン評議会(CFN)が統治するネアン居留地があったり、金星をテラフォーミングするための消耗品として奴隷制みたいになっていたり、社会問題として論点を各所に設定しています。
そんなネアンを言わば奴隷解放のように革命として自由の身にさせるために活動する、世間では「過激派テロ集団」と呼ばれる「アルター」という組織があって、それを「インモータルナイン」と称される特別なネアンが主導している…。ここまでは構図としてはわかりやすいです。
ただ、そんなインモータルナインも各メンバーで思惑というか考え方が違っていて、その相関図の理解が大変なのですが…。あと、各インモータルナインは二つ名みたいな名称を持ち合わせているのですけど、ジル・スタージョンは「閃光のシルヴィア」だったり、基本は全く異なる名なのかなと思ったら、ジャロン・フェイトは「黄泉のジャロン」だったり、とにかく名前に統一感がなく覚えづらかったな…。加えてアエス/アリスみたいな多重人格者までご都合的に登場させるのでややこしいったらこのうえないです。
しかし、このインモータルナインの設定だけでまごついていると本作はもっと追い打ちをかけてきます。さらにネアンの起源の話に移っていくんですね。
人類が最初にコンタクトした異星人が「来訪者(ゼノア)」と呼ばれていて、ネアンの技術の基はその異星人から与えられました。そして2番目にコンタクトしてきた異星人が「簒奪者(ユノイド)」で、かなり攻撃的で、来訪者と対立。人類はネアンを駆使して火星で大戦を経験しました。
一方で来訪者も故郷の星を失って金星を提供してもらう契約を人類と結び、そういう意味では人間社会と並んでネアンを搾取する根源でもあります。
この巨大設定が鎮座することが9話あたりで明らかになり、やっと世界観が広がり切ったのかなと思ったら、まだ広がります。
今度はネアンを開発したロイ・ユングハルトこそが黒幕で、そのコピーネアンが人形遣い師として全ての裏で暗躍し、インモータルナインの記憶さえも操作していたと最後の最後で自己宣伝されます。
こうなってくると前半でインモータルナインの各キャラの設定や立ち位置を頑張って覚えた視聴者の努力を愚弄するような気持ちもなくはない…。
全体を振り返ると、ここまでややこしくする必要はあったのかなというのが感想の本音ではありますが…。
せっかくの良い言葉もあまり響かない
『メタリックルージュ』で一番キャッチーな魅力になりそうなのが、ルジュとナオミという2人のシスターフッドです。
本作においてこの2人はとくに過度にセクシュアライゼーションされて描かれませんし、ディフォルム時のメカニックデザインも女性らしさはあれど、露出させるみたいな感じでもなく、視点偏向を感じさせません。ただでさえ、ナオミは肌の色は濃くてブラック・コード化されたキャラクターなので、このセクシュアライゼーションを回避しているのは本当に大事です(アニメ『でこぼこ魔女の親子事情』の感想も参照)
一方で、このルジュとナオミの関係性をエモーショナルに際立たせる積み重ねに乏しく、どうしてもSF的な要素だけで強引に引っ張ろうとする癖が目立ちます。
チョコレートを食べたいという欲求以外にはほとんど何も知らなそうなルジュはプロトネアンで、最終コードを内に秘める特別なネアンの中でもさらに特別な存在。ルジュ専属ハンドラーのナオミは「ファースト」と呼ばれる来訪者直々のネアンで「真理部」特務捜査官の肩書も建前。互いに存在意義があやふやの中、互いを信頼し合えるのか…と。
終盤で、ルジュはナオミを「最高の他人」と自身で評するシーンがあります。これはその言葉センスからみて、こんな素晴らしいリレーションシップにまで到達したのだというエモい場面になることを意図しているはずなのですが、それまでの描写が薄いので「他人」部分がなおも頭にこびりついて本当によそよそしいのではないかと思わなくもない…。最終話の一体化もイマイチ盛り上がりにくいです。
にもかかわらずシアンという第3者の割り込みまで追加するものだから、「え? まだそんな展開に進むほどシスターフッドが成熟してなくない?」とこっちも困惑…。
SFを拡張しすぎずシスターフッドだけにもっと専念していれば、アニメ『リコリス・リコイル』みたいな売りがわかりやすい作品にひとまずはなれたかもしれません。
あと、ビジュアル的なメインであるメカニックデザインを堪能できる時間がもっと欲しいなとか(作画コスト的に厳しいのかもだけど)、いろいろ惜しい作品ではありました。
ROTTEN TOMATOES
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シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
日本のアニメシリーズの感想記事です。
・『ゆびさきと恋々』
・『葬送のフリーレン』
・『薬屋のひとりごと』
作品ポスター・画像 (C)BONES・出渕裕/Project Rouge メタリック・ルージュ メタリックルーシュ
以上、『メタリックルージュ』の感想でした。
Metallic Rouge (2024) [Japanese Review] 『メタリックルージュ』考察・評価レビュー
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