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『NETFLIX 世界征服の野望』感想(ネタバレ)…1枚の郵送がハリウッドを激変させた

NETFLIX 世界征服の野望

1枚の郵送がハリウッドを激変させた…ドキュメンタリー映画『NETFLIX 世界征服の野望』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Netflix vs. the World
製作国:アメリカ(2019年)
日本公開日:2020年12月11日
監督:ショーン・コーセン

NETFLIX 世界征服の野望

ねっとふりっくす せかいせいふくのやぼう
NETFLIX 世界征服の野望

『NETFLIX 世界征服の野望』あらすじ

世界最大の動画配信サービスであり、製作面でもすでにハリウッドのメジャースタジオを質量ともに凌駕し、国際的な映像ビジネスに革命を起こしたNETFLIX(ネットフリックス)。怒涛の快進撃を続ける彼らは、なぜ勝ち続けられるのか。その徹底した思想と戦略の原点は同社の創業期にあった。NETFLIXの主要創業メンバーや当時の競合相手たちが振り返る当時のエピソードは驚きに満ちたビジネスの挑戦の歴史に目が離せない。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『NETFLIX 世界征服の野望』の感想です。

『NETFLIX 世界征服の野望』感想(ネタバレなし)

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映画業界はアイツの登場で変わった

「8月29日」は何の日でしょうか? 映画業界にとっては因縁深いアイツが生まれた日です。

そう、この日に「Netflix(ネットフリックス)」が創業したのです。

映画やドラマを「動画配信サービス」で鑑賞する。今では「それがどうしたの?」というくらいに当たり前のことですが、その今の日常を最初に築き上げたのがこのNetflixでした。

今やNetflixの存在感は映画業界には無視できないものです。多くの独自の新作がNetflixで配信され、人々を毎月のように惹きつけています。そのオリジナル作品は賞レースでも圧倒的な注目を集め、アカデミー賞だけを見てもその勢いがわかります。2018年には『ROMA/ローマ』が外国語映画賞・監督賞・撮影賞の3部門を受賞し、2019年には『マリッジ・ストーリー』が助演女優賞を受賞、2020年には『Mank/マンク』が美術賞・撮影賞を受賞し、加えて『マ・レイニーのブラックボトム』が衣装デザイン賞・メイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞、2021年には『パワー・オブ・ザ・ドッグ』が監督賞を受賞。2022年は『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』が長編アニメ映画賞に輝きました。

また、社会現象になるような作品も続々と生み出しています。とくにNetflixはこれまで既存の大手スタジオが避けてきたようなマイノリティな人たちに焦点を当てた作品をあえて投入し、ダイバーシティな作品の流れを真っ先に開拓しました。『オレンジ・イズ・ニューブラック』の包括性なんていまだにあれを超えるものはないんじゃないかと思うくらいです。

こうした先駆者だったからこそ2021年の『イカ・ゲーム』のような非英語の韓国ドラマを世界中で大ヒットさせることもできたわけです。

そうしたNetflixの業界の常識を次々と覆す姿勢はときに論争を巻き起こすこともありました。その最たるものは「映画館ビジネスの存続を揺るがしたこと」でしょう。動画配信サービスだけで配信された映画は「映画」と言えるのか?…劇場で上映された作品だけが映画ではないのか?…という根源的な議論も白熱しました。

しかし、現在のNetflixの存在感を軽視する人はもういないでしょう。もう大企業です。大手の映画スタジオに匹敵するパワーを持っています。

そんなNetflixですが、もちろん創業当初からそんなとんでもない会社だったわけではありませんでした。ではNetflixはいかにして巨人を倒すまでに成長したのか…?

その歴史を関係者の証言をもとに整理したドキュメンタリーがこの『NETFLIX 世界征服の野望』です。

このドキュメンタリーの面白さは主に3つ。

ひとつは、レンタルビデオの歴史がわかるということ。Netflixは当初はレンタルビデオ業をしていたので、その事業の実態がライバル会社との競争の模様も含めてよくわかります。今ではすっかり古臭いものになってしまったレンタルですが、当時を知っている人には懐かしさが、当時を知らない人には新鮮な感覚が味わえるのではないでしょうか。

2つ目に、映画史を学べるということ。とくにNetflixのようなネットサービスで成功を果たした挑戦者側の視点で映画史が語られるというのは珍しいです。ドットコム・バブルと映画史の関係性など、他では扱われない興味深い論点がたくさんあります。

3つ目に、ビジネス起業モノとしても注目点の多い内容だということ。Netflixは典型的なスタートアップから始まり、したたかにビジネスモデルを定期的にアップデートしてきました。その姿を眺めるのはビジネスに関心がある人にとっても参考になるはずです。

ともあれ今や天下のNetflix。そのNetflixの成功の秘密を知っておけば、映画業界にさらに詳しくなれて、これまでとは違う視点でこの業界を俯瞰できると思います。映画ファン、映画業界で働いている人、批評家、クリエイター…色んな人にとっての教材にもなるドキュメンタリー、それが『NETFLIX 世界征服の野望』です。

注意点として、2019年のドキュメンタリーなので、それ以前のことしか扱われていません。最新のNetflix事情は語られていないので、そのへんはニュースでチェックしてください。

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『NETFLIX 世界征服の野望』を観る前のQ&A

✔『NETFLIX 世界征服の野望』の見どころ
★レンタルビデオや映画の歴史が学べる。
★ビジネス起業モノとしても面白い。
✔『NETFLIX 世界征服の野望』の欠点
☆2019年以降の話題はない。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:歴史を知りたい人に
友人 3.5:映画好き同士で
恋人 3.0:デート向きではない
キッズ 3.5:興味関心があるなら
↓ここからネタバレが含まれます↓

『NETFLIX 世界征服の野望』感想(ネタバレあり)

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始まりは1枚の郵送

ここから『NETFLIX 世界征服の野望』のネタバレありの感想本文です。

1990年代、インターネットの利用者が急増し、「Netscape」などに象徴される空前のドットコム・ブームが開幕しました。投資家は将来性を買うようになり、次々とネット上の新サービスにびっくりするような投資額が押し寄せます。

映画業界も無縁ではありません。“ジョージ・ルーカス”の「ILM」に所属しながら「CGでアニメーション映画を作ってみたい」と夢を思い描いていたクリエイターたちは”スティーブ・ジョブズ”に買われ、ピクサーを設立(ドキュメンタリー『ライト&マジック』も参照)。CGアニメーション映画はハリウッドに衝撃を与え、業界の流れを変えます。

でも映画業界を変えたのそれだけではありませんでした。ちょうどこの時期、ある会社が創業し、その会社が映画史を変えるとはまだ誰も知らず…。

『NETFLIX 世界征服の野望』をまず見て驚くのは、Netflix誕生の背景です。本当に些細な行動が運命に繋がっていく。あらためて振り返ると不思議なものです。

1977年12月、アメリカ発のレンタルビデオ店が開店して以来、ビデオ市場は当時は急成長しましたが、その最大手になったのは「ブロックバスター」という会社でした。80年代初めはビデオデッキで映画を観るという見方は新鮮で、みんな慣れていない中、ファミリー向けの店として特化し、草分け的存在に。でも順風満帆ではなく、「レンタル中」の多さと延滞料は不満の種でビデオテープも壊れやすく、ひたすら在庫を回すビジネスのやり方は採算をとるのは大変だったと語られます。

そんな中でDVDの登場。直販が主流になると映画会社は考え、専門のレンタルショップはますます立場が危うくなるかもと思われた時期。

そこに現れたのがNetflix。“リード・ヘイスティングス”とピュア・エイトリア社で働いていた“マーク・ランドルフ”は会社売却の際に解雇され、今度は自分で起業しようと決意。Amazonも創業2年目だった当時、物の売り買いの市場は未熟だったので、目を付けたのがレンタルビデオ業でした。しかも「郵送で事業展開できないか?」と模索。つまり、実店舗を持たず、ネット上のサイトを拠点に、DVDを郵送して顧客に届けるサービスです。

そのアイディアのきっかけが1枚のCDを郵送で送ってみたことで、そのCDが割れずに当日に届いたので、イケると判断した…と。これがもし割れてたらNetflixは存在しなかったのですから、このCD、博物館に展示してもいいくらいの大役でしたね…。

カリフォルニア州スコッツバレーに最初のオフィスを構え、3000タイトルを用意し、映像ソフト販売者協会の理事“ミッチ・ロウ”を引き入れて業界にも精通。でもやっぱり割れないのかという心配はある。そこで『カジノ』のDVDでテストしたという話も。Netflixに図らずも最初に貢献した監督が“マーティン・スコセッシ”になっちゃってるというのも今となっては変なエピソードですね。

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粘り強くしたたかな戦略で攻める

『NETFLIX 世界征服の野望』を鑑賞して気づかされるのが、Netflixのしたたかなビジネス戦略。もっと一発ひと山あてた感じなのかなと勝手に思っていましたが、かなり臨機応変に事業を改善・変更しています。このフィードバックを重視して着実に手をうっていくチャレンジャーの姿勢は、動画配信サービスを始めてからのNetflixにも重なりますね。

1998年についに郵送サービス開始。サイトに人が押し寄せ、サーバーがダウンするほどの繁盛。初日の注文は108件で大満足。でも月商10万ドルを稼いでも、セルDVDの売り上げが大半で、これではAmazonやウォルマートが売りだせば負けてしまうのは確実。セルとレンタルの二足の草鞋を履くビジネスは中途半端でした。

そこで試したいアイディアとして、利用者に預かってもらって次のタイトルを送るときに返してもらうこと、見たい映画のリストを作ってもらって返却後にリストの作品を送ること、回数制限なく借りられるようにして月額制にすることを構想。月20ドルでDVDを借り放題という新サービスは好評となり、固定客を生みます。

また、意外なNetflix初のオリジナルタイトルも紹介されました。それはモニカ・ルインスキーにまつわるクリントン大統領の不倫スキャンダルに関する証言動画。それをDVD化したら大反響。Netflixオリジナルは不倫モノから始まったんだな…。これで売れるというのも時代らしいけど。

そんな中、ドットコム・バブルがはじけ、Netflixは損失が悪化。最大の危機となります。

時を同じくしてブロックバスターにエンロンが訪ねてきてビデオオンデマンドサービスのアイディアを提案していたものの、エンロン事件でおじゃんになったというのも運命的な話です。つまり、エンロン事件が無ければブロックバスターが動画配信サービスで覇者になっていたかもしれなかったのですから。

運命の歯車なんて安っぽい言い回しかもですが、本当にコレとアレが連鎖してこうなって…と歯車のちょっとしたかみ合わせで決まっている。恐ろしいもんですね。

そしてブロックバスターも今さらながらNetflixと同じ郵送のサブスクリプションサービスで追従してきて、ここで競争が勃発。ここでもNetflixが粘り強さを発揮。生存競争を生き抜いてきたNetflixの戦歴はなかなかのものでした。

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赤いNは次はどうする?

こうして2007年、Netflixはストリーミングに完全移行すると決意。DVDを切り捨てたことで登録者の反発を多少は招いたものの、ここでもiPhoneなどのブームに乗っかり、躍進。運をたぐり寄せるなぁ…。

印象的なのはこうしたレンタル業を大手の映画スタジオは馬鹿にしていたということ。映画会社は完全に自分が一番上だと思っており、業界の上下関係がありました(スタジオ>映画館>レンタル業)。それをNetflixは覆してしまったんですね(スタジオ=Netflix>映画館)。下請けがトップに下克上したようなものです。スタジオ側は「あの弱小が俺たちの横に並ぶだと!?」と大焦り。自業自得だなとしか思わないですけど…。

かつてのライバルだったブロックバスターは破産し、Netflixは次のステージへ進みました。オリジナル作品は『ハウス・オブ・カード』を始めとして大好評で、強力な武器になり続けています。

でも永遠に覇者ではいられません。また競争が待っています。競争はずっと続くのです。

『NETFLIX 世界征服の野望』では描かれない2019年以降の話をすれば、Netflixは動画配信サービスの大競争時代へと突入しました。しかも、新型コロナウイルスのパンデミックによって一時的に映画館が停止となったため、動画配信サービス競争が一足先に本格化してしまい、各社がかなり慌ただしくスタートラインを駆けだしたかたちです。

Netflixは先に出走していましたが、こうなってくると持久力と瞬発力の勝負。すでに2022年に猛ダッシュに成功した「Disney+」に追いつかれつつあります。単純な持久力ならディズニーの方が上です。MGMを取り込んだAmazonも無視できないライバルになっています。

でも『NETFLIX 世界征服の野望』で映し出されたようにNetflixは競争が得意な企業。上手く出し抜く方法を思いつくのか、それともまたも大胆なビジネス転換をするのか…。

Netflixも問題点を抱えています。アカデミー賞をとれる良作ばかりではない、がむしゃらにオリジナル作品を量産しすぎる傾向は批判されてきました。また、多様性溢れるコンテンツがあるのと同時に差別的なコンテンツもあったりと、その姿勢のダブルスタンダードを非難もされています。

そして2023年のストライキがその強制的変化のマイナスの犠牲者の存在を突きつけていますし…。

『NETFLIX 世界征服の野望』では「人々がエンタメを求める限り、Netflixのような企業に居場所はある」と締めくくっていましたが、未来は私たちがどんなエンターテインメントを求めるのかにかかってくるのかもしれませんね。

『NETFLIX 世界征服の野望』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience 68%
IMDb
6.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0

作品ポスター・画像 (C)NotApollo13, LLC. 2018

以上、『NETFLIX 世界征服の野望』の感想でした。

Netflix vs. the World (2019) [Japanese Review] 『NETFLIX 世界征服の野望』考察・評価レビュー