頑張れ、動物たち!…映画『グラディエーター2 英雄を呼ぶ声』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
日本公開日:2024年11月15日
監督:リドリー・スコット
ぐらでぃえーたー2 えいゆうをよぶこえ
『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』物語 簡単紹介
『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』感想(ネタバレなし)
古代ローマは一本にして成らず
SNSが無い時代であろうとも、その年を象徴するバズった映画というのがあるものでした。
2000年はこの映画の影響でアメリカでは一大「古代ローマ」ブームが起き、社会現象になりました。そうです、『グラディエーター』が暴れたからです。
『グラディエーター』は、100年代のローマ帝国を舞台にした壮大な歴史スペクタルアクション。歴史といっても史実をそのまま映像化したような構成ではありません。奴隷の身分となったマキシマスという架空のフィクションのキャラクターを主人公とし、そのマキシマスが剣闘士(グラディエーター)として名をあげながら皇帝に復讐を果たそうとする…そんなわりと自由奔放なエンターテインメントになっています。
そのカタルシスある物語と同時に、当時はまだ真新しいVFXを駆使した古代ローマをリアルに再現した世界観が、2000年の観客を魅了しました。1900年前は円形闘技場に押し寄せた大勢の観客が目の前で繰り広げられる暴力的な戦いに熱狂したわけですが、2000年はその場が映画館に移ったのでした。
こうして『グラディエーター』はアカデミー賞で作品賞、主演男優賞、衣裳デザイン賞、録音賞、視覚効果賞を受賞。映画史に残る一本になりました。
ただ、あれだけ話題になれば、作中の古代ローマの描写があまりに史実どおりではないので、専門家の人の中には「間違った印象を持ってしまう人が続出する」と危惧する声もありました。確かに『グラディエーター』は歴史の教材にはなりませんね。
まあ、監督はあの“リドリー・スコット”ですから、史実をそんなに気にする人ではないですが…。“リドリー・スコット”としては『ベン・ハー』(1959年)や『スパルタカス』(1960年)を意識して、2000年当時の技術で最高峰の映画を作りたかったのでしょうけども。
その伝説の映画となった『グラディエーター』。大ヒットした当時から続編の企画が検討されてきましたが、長らく停滞していました。それが24年後の2024年についに2作目の公開となりました。
それが本作『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』です。
続編といっても1作目の主人公は継続せず(“ラッセル・クロウ”はでてきません)、新しい主人公のもと時代も少しジャンプします。なのでシリーズ未見でもこの2作目から鑑賞でOKです。
同じく剣闘士が主役であり、前作よりもスリルも規模もパワーアップした戦闘がたっぷり楽しめることは保証します。今作ではなぜか動物要素が多めです。予算アップのおかげなのか…?
『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』の主人公に抜擢されたのは、『aftersun/アフターサン』や『異人たち』で繊細な演技を披露し、最注目の俳優のひとりとなっている”ポール・メスカル”。今回でかつてない大作デビューとなりました。
共演は、ドラマ『THE LAST OF US』の”ペドロ・パスカル”、そして『イコライザー THE FINAL』の“デンゼル・ワシントン”。渋カッコいいおじさんが周りに勢揃いで、これはもう”ポール・メスカル”が両手に花ですよ。今作、1作目と違う雰囲気があるとすれば、「俺のまわりはイケオジが多すぎる」というシチュエーション萌えみたいな図式が濃いってことですかね。
2024年の渋くてワイルド&クールなおじさん映画の最高峰は間違いなくこの『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』でしょう。
『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』を観る前のQ&A
A:1作目を観なくても物語のほとんどは理解できます。1作目を観ておくと登場人物の背景がよりわかります。
オススメ度のチェック
ひとり | :おじさんに夢中 |
友人 | :エンタメを満喫 |
恋人 | :異性ロマンスはほぼ無し |
キッズ | :やや暴力描写あり |
『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
ルシアスは妻と幸せな日々をヌミディアで過ごしていました。平穏な時間が流れ、そのひとときを愛する者と味わうささやかな喜びだけで充実しています。
実はルシアスはローマに暮らすルッシラの息子で、父はあの伝説の剣闘士としてローマでその名を轟かせたマキシマスなのですが、本人は子どもの頃にここヌミディアに移り住み、もはやローマとは無縁でした。
ところはそうもいかない事態が訪れます。ローマ軍が海を渡ってこのヌミディアの地を侵攻してきたのです。この危機にすぐさま妻と共に迎え撃つべく、海岸に向かいます。
海岸では防衛壁が作られており、その上から大海原の向こうを見渡せば、ローマ軍の大量の船団が見えました。ローマ軍を率いているのは熟練のマルクス・アカシウス将軍。アカシウスは船に前進の指示をだし、開戦は避けられません。
ルシアスは兵士たちを鼓舞し、戦闘を開始しました。カタパルトで投石をし合い、弓矢の応酬も激しくなります。戦場は一気に騒乱へと変わりました。
船が壁に接岸し、敵が乗り込んできます。次は剣と剣の乱戦です。みんなが死に物狂いで切りつけ合います。
そのとき、ルシアスの妻の体を敵の放った矢が突き刺さり、妻は炎の中に落下しました。その絶望的な光景に動きが止まったルシアスも一撃を受け、海に落下。
目覚めると無数の死体が浮かぶ海辺。ルシアスは疲労困憊ながらも妻の遺体を見つけて抱きかかえますが、もう何もできません。
ルシアスたち一部の生き残りは捕虜となるしかありません。遺体は燃やされ、嘆きます。アカシウスは複雑な心境でした。敵とは言え、もっと相手の武勇を尊重すべきではないかと考えていました。
勝利したアカシウスは栄華を極めるローマの荘厳な街に帰還。共同皇帝であるゲタ帝とカラカラ帝を前にお褒めの言葉を頂くことになりますが、あまりに戦士への敬意もない退廃的な政治の状況にアカシウスは苛立ちを露わにします。
一方のルシアスたちは船で運ばれ、見世物として小さな闘技場へ。野次が飛び交う中、わけもわからず棒立ちしていると、錯乱したマントヒヒの群れが放たれます。どうやらこの獰猛な生き物と闘う姿を見物して観衆は楽しみたいようです。ルシアスは相手の腕に噛みつく闘志をみせ、吠えてビビらせ、取っ組み合いのすえ、首を絞めて倒してみせます。
それを高見の席で眺めて満足していたのはマクリヌスです。彼は奴隷でしたが、そこから剣闘士として実績をみせ、さらには奴隷商売で財を獲得し、今では完全にローマでも知らぬ者はいないほどに力を持っていました。
マクリヌスはあのルシアスならなかなかの剣闘士になるのではないかと可能性を見い出します。そして鍛えることにしました。
この世界で生き抜くのは戦闘で大衆を魅入らせることができる者のみ…。
古代ローマの動物コロセウム
ここから『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』のネタバレありの感想本文です。
『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』は前述したとおり、1作目から史実は気にしないスタイルを貫いていましたが、2作目も一貫しています。むしろ2作目のほうがもっと吹っ切れている感じもしました。
なにせ今作の脚本は『ゲティ家の身代金』や『ナポレオン』と近年の“リドリー・スコット”監督作で手を組んできた“デヴィッド・スカルパ”です。権力というものを冷笑的に映し出すことに長けた脚本家なので、“リドリー・スコット”との相性も良いのでしょう。
とは言え、『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』はやはりエンタメとしても盛り上げまくってくれるもので、“リドリー・スコット”監督の「古代ローマでこんな戦いをやりたい」という脳内希望を実現しまくっていました。
まず冒頭の激しい戦争シーン。これすらもまだ前菜。メインはやっぱりアンフィテアトルム(円形闘技場)です。
それにしてもなぜか今回は動物がやたらと襲いかかってきます。
1戦目はマントヒヒ。ただ、どう見ても「こんなマントヒヒ、野生にいないだろう」ってくらいに凶悪なビジュアルをしています。絶対にT-ウィルスに感染してるやつだ…。きっと“リドリー・スコット”おじいちゃんは「人がマントヒヒに食い殺されるところが見たい」と思ったんでしょう。
2戦目はサイ。史実でもサイはローマで当時から知られていたらしいですが、あんなふうに騎乗するのは普通はサーカスでもやらないです。きっと“リドリー・スコット”おじいちゃんは「人が乗ったサイのひと突きで相手が絶命するのを見たい」と思ったんでしょう。
3戦目は模擬海戦。闘技場で海戦が用意されるのは実際にこれもあったと言われていますが、“リドリー・スコット”おじいちゃんはここに「サメも加えたいな」と要望して水場にサメを参戦させました。それもサメがうじゃうじゃいるという…。古代ローマにはサメ映画のポテンシャルもあったのか…!
いや、本作にだってたぶん歴史考証の専門の人も製作にあたって同席していたと思いますよ。それでも“リドリー・スコット”監督の「私はこれをやりたいんだ。いいよな。な?」という圧力には敵わなかったんだろうな…。
これだけゲーム性を盛り盛りに底上げされると、確かにスリリングで楽しくなっちゃいます。そこは悔しいところですけど、楽しいものは楽しい。
なんだかんだで動物はそこまで残酷な目に遭っていない(マントヒヒもあまり殺される瞬間がカメラに映っていないし、サイにいたってはなぜか平然と生存している)あたり、“リドリー・スコット”監督の動物への優しさを感じるところ。ただし、人間は容赦なく殺しまくる。この監督、人間のこと、とことん嫌いだな、やっぱり…。
浮かれる無能権力者を消します
動物はこれくらいにして『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』の人間の話に移ると、これも先に述べたとおり、本作は「俺のまわりはイケオジが多すぎる」というシチュエーションで押してきます。
一応は冒頭のルシアスとその妻のパートとか、アカシウスとその妻ルッシラのパートで、異性愛夫婦の描写も入るには入るのですが、「とりあえず入れといたからな」くらいのぞんざいな感じで、主なお楽しみはワイルド&クールなおじさんに挟まれる主人公の図です。
ちなみに監督いわく、マクリヌスは両性愛的なキャラクターとして設定されていて、演じた“デンゼル・ワシントン”も撮影では男性とのキスのシーンも演じたらしいですが、カットされたそうです(PinkNews)。 ちゃんと公開版に残っていれば、もっと盛り上がったのに…。
その“デンゼル・ワシントン”演じるマクリヌスですけど、これは観た人はたいてい思うだろう…「完全にイコライザーじゃないか」っていうね…。立ち回りかたがプロフェッショナルすぎますし、ゲタ帝とカラカラ帝をそれぞれ殺す方法も手慣れていて…。ロバート・マッコールの祖先は古代ローマにいたんだ…。
マクリヌスは実在のローマ皇帝「マルクス・オペッリウス・セウェルス・マクリヌス・アウグストゥス」を基にしていますが(北アフリカのベルベル人だった)、役柄としては限りなくオリジナル・キャラクターでしたね。主役を食うくらいの魅力があったな…。
対するもうひとりのイケオジ、“ペドロ・パスカル”演じるアカシウス。こちらは本当にこの世界では数少ない良識のある人柄。アカシウスみたいな人が国を統治するべきなんですが、世の中は理不尽にできているのでした。最期のルシアスとの決闘は切ないです。
アカシウスは完全にオリジナル・キャラクターです。
そんな2人の活気のいいおじさんとは真逆に位置する、非おじさんの双子皇帝。ゲタ帝とカラカラ帝のキャラクターはいかにも反知性的で快楽至上主義のなれの果てというありさま。まあ、こういう振る舞いの権力者、つい最近もそっくりな奴らを頻繁に目にしたからなぁ…。極端に誇張しているとも言えない…。
なお、この双子皇帝はロムルスとレムス(作中でもでてきたオオカミの乳を飲む双子の兄弟の像)と重ねてもいますが、偶然ですけど、“リドリー・スコット”監督の代表作『エイリアン』シリーズの最新作『エイリアン ロムルス』も同じモチーフでした。
作中の狂気と暴政にうんざりしている人々の姿は今と一致しますが、英雄の待望は一時の幻想なのでしょうか。『グラディエーター』シリーズの3作目も検討中とのことで、剣闘士の闘う相手が次は何になるのかも気になりますね。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
作品ポスター・画像 (C)2024 PARAMOUNT PICTURES.
以上、『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』の感想でした。
Gladiator II (2024) [Japanese Review] 『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』考察・評価レビュー
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