ミッション・マンガル
女性は最強の燃料です…映画『ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:Mission Mangal
製作国:インド(2019年)
日本公開日:2021年1月8日
監督:ジャガン・シャクティ

ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画

『ミッション・マンガル』あらすじ

2010年、インドの宇宙事業の命運をかけたロケット打ち上げが失敗に終わり、責任者のラケーシュとタラは火星探査プロジェクトという閑職に異動させられる。誰もが実現不可能だと考える火星探査だったが、小さなロケットで探査機を火星に送る画期的なアイデアを思いつく。低予算ながらプロジェクト始動を承認されたものの、集められたスタッフは経験の浅い人ばかりだった。

『ミッション・マンガル』感想(ネタバレなし)

科学は男の世界じゃない!

私は理系の大学に通っていたのですが、そのときから目の当たりにしていたのは、科学業界における女性への偏見の深刻さです。分野によって組織によって多少の差異はあると思いますが、それでも科学の世界が女性にとって非常に息苦しい場なのは一目瞭然でした。

例えば、ある人が何らかの科学的なテーマにその身を捧げて打ち込むとします。科学の世界ではごく普通のことです。科学者のスタンダードでしょう。しかし、その人が女性である場合、たちまち「女を捨てた」などと言って“女らしい人生”を犠牲にした人間扱いされます。周りの男子学生や男性指導教員でさえも、科学に夢中になる女性の“女らしくなさ”を嘲笑います

これは「科学」というものが依然として「男の世界」であると根深く偏見的に認識をされているためなのは言うまでもないことです。ドキュメンタリー『マーズ・ジェネレーション』でも描かれていましたが、女性は子ども時代においてすらも科学に興味を持つと“変な奴”とみなされてきました。


無論、いかなる科学にもジェンダーは関係ありません。優れた才能を持つ女性が科学に貢献することは特異ではないです。犠牲や嘲笑ではなく誇りと尊敬でもって語られるべきものです。

だからこそ私は女性の科学者を高らかに描く映画が好きです。『ジェーン・グドールの軌跡』のようなドキュメンタリーから、『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』のような伝記的フィクション、『ブラックパンサー』のようなエンタメ大作まで、そこに生き生きとありのままに輝く女性科学者がでてくれば嬉しくなります。これによって世間の偏見が消えていくことを願いつつ…。

今回紹介する映画もそんなお気に入りの一本に加わりました。それが本作『ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画』です。

本作はインド映画であり、2019年に本国で大ヒットした作品の一本。題材になっているのは、インドの宇宙計画です。中国が宇宙開発に全身全霊を賭けているのは『フェイフェイと月の冒険』の感想でも語りましたけど、双璧をなす大国のインドも負けじと頑張っています。『ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画』は、アジアで初めて火星の周回軌道に探査機を到達させたインドの宇宙開発計画の実話を基にしています。

しかし、単に史実に忠実というよりは、そこに「女性」を強くフィーチャーしているのが本作の特徴です。この映画は伝えたいテーマがかなりハッキリしていて、正確な史実を映し出すことはあえて捨てており、メインに据えているのは科学の世界における女性の活躍です。

最近はインド映画界でもフェミニズムが意識されるようになり、『シークレット・スーパースター』『グンジャン・サクセナ 夢にはばたいて』のような女性主体のインド映画が生み出されるようになってきました。この『ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画』も明らかにそれに連なる主軸があります。

製作しているのはインドで「生理用品」の普及に貢献した男を描いた異色作『パッドマン 5億人の女性を救った男』のチームです。監督は“ジャガン・シャクティ”で、『パッドマン 5億人の女性を救った男』で助監督を務めていました。監督デビュー作となった本作でも女性に寄り添うテーマ性は不変です。


俳優陣は、『パッドマン 5億人の女性を救った男』で主演を務めた“アクシャイ・クマール”が指揮をとりつつ、“ヴィディヤ・バラン”、“タープスィー・パンヌー”、“ソーナークシー・シンハー”、“ニティヤー・メネン”、“キールティ・クルハーリー”など女性陣の豊富さが何よりも目を惹きます。こんなにいろいろなタイプの女性が一挙に登場して主体的に活躍するインド映画なんて昔は考えられなかったですね。

なお、インド映画ではおなじみとされてきたダンス歌唱・パフォーマンスはほとんどありません。もうすでにインド映画ではそういうのは古臭くなってきた感じもあります。「インド映画ってあれでしょ、踊るんでしょ?」なんて言ってくる人がいたら「え、違うよ? それ、古いよ?」って教えてあげましょう。

本作では登場する女性キャラクターたちがダンスのセクシーな飾りにならず、しっかり自分の科学的知識を活かした登板をしている…すごく時代の変化を感じます。

とてもめでたい明るい映画ですので、1月最初の映画をこれにするのも縁起が良いと思います。

オススメ度のチェック
ひとり◎(気持ちを盛り上げたい人に)
友人◎(直球な感動作を共有するなら)
恋人◯(恋愛要素は薄めですが)
キッズ◎(宇宙の憧れに男女関係なし)

『ミッション・マンガル』予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『ミッション・マンガル』感想(ネタバレあり)

あらすじ(前半):火星にいってみせる!

2010年。インドのベンガルール。忙しく家事をする女性・タラは、娘のアニャや息子のディリップの相手をしつつ、夫のスニルやその夫の父まで面倒を見ます。全く息をつく暇もありません。しかし、タラは専業主婦ではないのです。

タラは家族を置いて、車で家を出ていきます。到着したのは厳重な警備の施設。そこはインド宇宙研究機関(ISRO)。インド政府が主導する国家規模の宇宙開発は全てここがコントロールしています。

タラはここで働いています。掃除? いいえ。料理? いいえ。事務? いいえ。今一番注目を集めているプロジェクトのリーダーです。

打ち上げ発射場の準備が着々と整う中、打ち上げ責任者で天才科学者としても一目置かれているラケーシュ・ダワンが、各チームに最終確認を求めます。それぞれが準備完了を合図します。タラが見ているチームでは、「ターボポンプの温度が上がっています」と懸念の報告がありましたが、「射場が暑いだけでは?」と考えて平気だろうとGOサインをだしました。

完全に準備完了。打ち上げの許可がおります。カウントダウン。3、2、1、上昇。遠くで観ている観衆は沸き、インドの宇宙開発の船出となるであろうロケットが飛びたちました。

しかし、機体から煙があがり、管制室のモニターに警告が表示。すぐに機体は炎上し、軌道を離脱して落下コースを辿り始めます。ミッションを中止させたラケーシュは、危険と判断し、自爆させました

一同、沈黙。ラケーシュは「失敗は私のせいです」と意気消沈するタラを責めることもなく、記者会見に臨み、「私の責任です」と平然と言い放ちました。メディアにこきおろされ、世界中の笑い者になったことを起こるインド政府。

インド宇宙委員会にてラケーシュは尋問され、NASAのルパートというインド系の後任への交代を命じられます。「ISROはNASAより50年遅れています」と断言するルパートですが、ラケーシュは「実験を行わなければ科学者とは言えません。失敗はあります。アポロ1号もそうでした」と自信を失っていませんでした。

委員会は「過去ではなく未来を考えろ。火星ミッションに取り組め」とラケーシュに命令。簡単にやめさせられないので無理難題を押し付けて自ら退職に追い込む気です。しかし、ラケーシュはその難題に笑みを浮かべます。「私には科学と宇宙しかありません。これから科学に向き合います」と言い残して…。

火星部門の施設は古いオフィスでした。ラケーシュは足を踏み入れ、陽気に探索。そこにタラがやってきます。才能あるラケーシュが閑職に追いやられたことに納得できないようです。

家でまだ沈んでいたタラ。しかし、ふと思いつきました。きっかけはプーリー(揚げパンみたいな食べ物)を揚げていたこと。

「火星を目指しましょう」とラケーシュに進言。「PSLVでもいけます」と明言してみせます。PSLV(極軌道打ち上げロケット)では遠い火星には普通は行けません。しかし、タラは秘策を考案しました。

さっそく上層部に提案。プーリーを目の前で揚げてみせて、「火を消しても油が高温になれば揚がる。節約になる。これと同じ要領で火星にいける」と力説。「重いものをどうやって運ぶつもりだ?」と祖適され、「軽量化します」と粘るタラ。

「インドは遅れている、だからこそ大きく飛躍しないと。誰も火星には行っていない」「1日15時間働きます。チームが必要です」

その熱意に推され、トップは容認してくれました。けれどもルパートは納得いっておらず、若手をわざと配置させて嫌がらせすることに…。結果、チームは若手の女性ばかりになりました。

こうして不安の残るチーム編成ながらも、「マーズ・オービター・ミッション(Mars Orbiter Mission)」、通称「MOM」と呼ばれる火星探査計画は始動したのです。

科学のロマンに性別なんて関係なし

『ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画』は基本のストーリーラインは王道です。

まずはチームを成立させることからスタートします。ここで各キャラクターが初お披露目となるのですが、すでにその能力がプライベートでも片鱗を見せているのがいいですね。

船体設計担当のヴァルシャー・ピライは家では何でも収納するのが上手く、机もベッドも狭い部屋を有効活用しています。航行・通信担当のクリティカ・アガルワルは車の講習に必死ですが、どうやら他人に一方的に命じられるよりも、相手との相互コミュニケーションの方が得意なようです。自律システム担当のネハは、ムスリムなせいで家を借りられずに困っていました。ジェット推進担当のエカ・ガンディーは結婚していないですが男と寝ており、サリーは着ないという伝統に従わない性格。

男性も少しいて、ペイロード担当のパルメーシュワル・ジョーシは祭司から結婚したければ火星に気を付けなさいと運勢を語られており、高齢のアナント・アイアンガーは早く退職したかったようですが、現場に逆戻り。

もちろん実際の史実ではこんなメンバーではありません。もっと人も関わっています。それでもあえてこのようなアレンジをしているのは、すでに何度も語ったとおり科学の世界における女性への偏見を抜け出させるため。

この女性率になったのも、もともとルパートが「これなら上手くいかないだろう」と画策したからであり、つまり「女性=失敗要因」としか見なしていません。しかし、ラケーシュは違いました。彼は基本的に科学を純真に信じる存在となっており、とくに女性でも気にしていません。それどころか妊娠しているヴァルシャーに「産休してもいいし、別に働いてもいい。残るなら全力でサポートする」と言ってあげるくらいです。

彼女たち含むチーム全員はじゅうぶんな才能を持っていました。しかし、あまりにも前代未聞のプロジェクトなのでチームの士気は低いまま。そこでそれぞれの科学への興味のきっかけを語り合うシーンがあり、そこは非常に良いなと思う場面でした。タラは「スター・ウォーズ」で科学者になろうと思ったと語り、各個人でロマンがありました。

これこそジェンダーは関係ないでしょう?という証明。科学の心は誰にでも芽生えるものです。性別や宗教を乗り越えた繋がりが科学の本質にあるというメッセージは、『オデッセイ』のラストにも通じるものがあります。

『ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画』の構成自体は、女性と宇宙計画という意味でも『ドリーム』に近いのですが、より史実をアレンジしている大胆さもあって、『ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画』の方が素直にテーマ性が刺さるものになっていました。これはこれでアリなんじゃないかなと思います。

インドの宇宙史と女性運動史の意外な関連

苦言があるとすれば、物語自体は最終的には火星探査ミッションの成功に直結するのはわかりきっているので、物語が進めば進むほど予定調和的になることですかね。

確かに感動はするのだけど、プロジェクトがまとまって成功に向けて突っ走るようになればなるほど、女性の活躍という個人レベルの主軸がいつのまにか国家の威信を賭けた計画の成就という、割とナショナリズム全開なものにすり替わってしまいます。

本当ならばあまり国家万歳!にならないように、最後までパーソナルなストーリーに軸足を置き続けてほしかったのですけど、ちょっとインド内情としては厳しいのかな。まあ、宇宙計画を描く映画はどこも基本的に国家への貢献ありきになってしまいますよね。そうならなかった『ファースト・マン』のような異色な映画もありましたけど。

ラケーシュの存在も女性主体におけるテーマとの相性はそこまで100%機能している感じでもなかったかな…。本音を言えば、男性を描かずに女性だけでストーリーを初志貫徹できればベストなんですが。

一方で、本作はインドの宇宙開発史を少し知ることもできて、教養として勉強にもなれました。インド宇宙開発のパイオニア「ビクラム・サラバイ」のエピソードとか、まだまだ私のよく知らないことも多く、興味深かったです。

このビクラム・サラバイの家族周辺も凄くて、彼の妻である「マリナリーニ・サラバイ」はインド伝統舞踊に多大な貢献をしたダンサー。そしてその妻の姉があのインドの女性活動家にしてインド独立運動の革命家としても活躍した「ラクシュミー・スワミナタン(セーガル)」なのです。

本作は実際の宇宙計画にむりやりフェミニズムな要素をドッキングしていると思うかもしれませんが、歴史をたどれば宇宙開発の原点に女性運動の原点もあって、密接なんですね。歴史って面白いものです。

「ミッション名がDADだったら絶対に失敗していた」とラストで皮肉なセリフがこぼれますが、インドの宇宙史は常に女性の支えあってこそ。それは史実です。この当たり前の事実を観測してくださいね…という映画だったと思います。

日本も2020年は探査機「はやぶさ2」が小惑星のサンプルを採取して帰還したことで話題になりました。

私たちははるかかなたの星を観測するのに一生懸命ですが、もしかしたら私たちがどこかの星の生命体に観測されているかもしれないことを忘れないようにしたいです。性差別だらけの恥ずかしい姿を見せたくないでしょう?

『ミッション・マンガル』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 60% Audience 95%
IMDb
6.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2019 FOX STAR STUDIOS A DIVISION OF STAR INDIA PRIVATE LIMITED AND CAPE OF GOOD FILMS LLP, ALL RIGHTS RESERVED.  ミッションマンガル

以上、『ミッション・マンガル』の感想でした。