ペパーミントは血の味…映画『ライリー・ノース 復讐の女神』(ライリーノース)の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ・香港(2018年)
日本公開日:2019年9月27日
監督:ピエール・モレル
ライリー・ノース 復讐の女神
らいりーのーす ふくしゅうのめがみ
『ライリー・ノース』あらすじ
ロサンゼルスの郊外で夫とひとり娘の3人で、平凡ながらも幸せに暮らしていたライリー・ノース。しかし、ある日、麻薬組織の凶悪な犯行によって家族の命を無残に奪われた彼女は、どこへともなく姿を消す。それから5年後、復讐のため再びこの街に舞い戻ってきたライリーは、警察やメディアも巻き込み、麻薬組織と決着をつけるために熾烈な激戦を繰り広げる。
『ライリー・ノース』感想(ネタバレなし)
主婦だって復讐する時代
抹茶味がいつのまにか食品フレバーの世界でトップの座に君臨するようになったこのご時世、最近はチョコミント味が猛ダッシュし始めたことも久しいです。ミントは植物の総称で、日本語では「ハッカ」と言います。ニホンハッカというミントも日本に自生しているくらいで、そんなに珍しいわけでもありません。ペパーミントなど種類があるのですが、食品に利用されているのは今ではたいていが合成ハッカであり、化学反応によって人工的に作られています。
なんでこんな話を始めたのかと言えば、今回の映画のタイトルになっているからです。それが本作『ライリー・ノース 復讐の女神』。原題はズバリ「Peppermint」です。
なぜ題名にペパーミントの名を冠しているのか、それは映画を観ればわかる…と言いたいところですが、かなりさりげないのでわからないかも…。いや、そもそもそんなに重要なキーワードでもないので、あまりペパーミントを気にしないでください(じゃあなぜ紹介したんだ)。
『ライリー・ノース 復讐の女神』は、ありていに言えば「リベンジ系」のアクション映画。ジャンルの中でも最も王道で定番。年に同様の映画が何本公開されているんだっていうくらい、よく見るやつです。やっぱり人間は常日頃、“復讐したい”という感情を抱くものなんですよ(知ったかのように)。
ただし、本作は他の同類ジャンル作とは少し異なる面がドカンとメインに一発あります。それは女性…しかも割と何の変哲もない主婦が主人公だということ。これまで女性がこの手のアクション映画の主役をするのは別に多くはないにせよゼロではないです。比較的近年だと『アトミック・ブロンド』とか『トゥームレイダー ファースト・ミッション』とかがありました。でもアクションする女性は昔から存在します。フェミニズムどうこうとか関係なしに。
しかし、それらは基本、特殊なスキルを持った、すでに超人的な人物の場合がほとんどです。一方でこの『ライリー・ノース 復讐の女神』は本当に普通の主婦でスタートするんですね。
ある日、突然、家族を不幸な出来事で失い、怒りに燃えたその主婦(名前はライリー・ノース)は復讐のために身を捧げる。それこそ何かに憑りつかれたように、自分の愛する者を奪った者たちに制裁を加えていく。派手さよりも苦痛で暴走する主人公の心に主軸を置いた、シリアスな復讐を描いているので、最近のものだと『デス・ウィッシュ』とか、『ザ・フォーリナー 復讐者』と同じ系列ですね。
邦題が例のペパーミントではなく「ライリー・ノース」になったのは『ジョン・ウィック』みたいな主人公の名を冠するアクション映画という一番わかりやすいパターンに従ったのかな。まあ、無難な邦題センスですよね。今のところ本作がシリーズ化されるなんて話は聞いていませんけど…。
あともうひとつ、『ライリー・ノース 復讐の女神』の特筆すべきポイントは監督。本作の監督はあの“ピエール・モレル”。代表作はもちろんリーアム・ニーソン主演の『96時間』です。
“ピエール・モレル”の『96時間』はアクション映画界隈では大きな変化を与えたマイルストーンです。昔は筋肉ムキムキ男が銃を乱射しまくるそんなスタイルが主流だったアクション映画。そこに1988年に『ダイ・ハード』という新スタイルを確立した存在が現れ、“巻き込まれ型”主人公が人気に。さらに業界を変えたのが2008年の『96時間』でした。社会に実際に起こりそうな事件や事故のせいで復讐に憑りつかれる主人公という心にウェイトを置いたミニマムでシリアスな作品は、予算規模的にもその時代に合っていたのか、あちらこちらでマネされ量産されたものです。
そんなアクション映画の功労者“ピエール・モレル”監督が次に送り出す『ライリー・ノース 復讐の女神』は鑑賞前から新しさも見えるので、当然、期待する人もいました。結果はどうなったのか…それは見てのお楽しみ。
主演は“ジェニファー・ガーナー”。彼女は過去に『デアデビル』(ドラマシリーズではなく2003年の映画の方)でエレクトラを演じ、すでにアクション系とは馴染みのある女優。今回『ライリー・ノース 復讐の女神』ではこれ以上ない舞台が用意され、あの『エレクトラ』の惨劇(多くは語るまい;でも日本公式サイトで“アベンジャーズの『エレクトラ』”と紹介するのは誇大すぎじゃないですか…)の雪辱を晴らす…ことができてたらいいな…。
ジャンル好きの人なら見て損はない一作なのは間違いありません。
オススメ度のチェック
ひとり | ◯(ひとりでも楽しめる) |
友人 | ◯(ジャンル好き同士で) |
恋人 | △(恋愛気分ではない) |
キッズ | △(お母さんが残酷です) |
『ライリー・ノース』感想(ネタバレあり)
私はこうして復讐者になりました
『ライリー・ノース 復讐の女神』の物語の始まりは、ひとけのない車の中。男女が前方に乗っていますが、別にふしだらなことに興じているわけではありません。突如始まる大乱闘。女は男を発砲して殺し、スタスタと手際よく死体を処理。その後、どこかのスラム街のような寂れた場所にとめてあるバンに入り、中で怪我をした脚を治療していく女。簡易縫合ホッチキスでバチンバチンと痛々しい傷を応急処置。一体この女は何なのか。
そして物語は回想風に過去のパートに移行します。
ロサンゼルスの郊外。ライリー・ノースは、夫のクリスと10歳になる娘のカーリーとともに平穏で幸せに暮らしていました。経済水準はなんとなく見ている限りは、中流階級の下の方。きっと苦しい瞬間もあるはず。でも今日だけは特別。なぜならカーリーの誕生日なのでした。
ママ友の嫌がらせのせいで肝心の夜の自宅誕生日パーティーに誰も来ないという冷めた状況になってしまったので、遊園地に行き、仕切り直し。華やかな空間で嫌なことを全て忘れてハシャぐ家族3人。無邪気にアトラクションに乗り、ペパーミントのアイスクリームを買ってご満悦のカーリー。
しかし、唐突に、本当に一瞬の出来事によってこの愛らしい家族の団欒は幕を閉じます。
ライリーが離れた隙に通りすがりの車から男が銃を乱射。明らかにそれは殺意に基づくものであり、父と娘が撃たれ、駆けつけたライリーも倒れます。なんとか起き上がった彼女の前には息をしていない家族の姿が…。
病院のベッドで目覚めるライリー。目の前には刑事がおり、事情を聞かされます。なんでもディエゴ・ガルシアという男がいて、夫はそいつに手を出す企てに巻き込まれて、逆に仕返しにあってしまったのだとか。有罪を立証できるほどの証拠もないと言われつつも、自分は銃を撃っていた車に乗る男たちを見たことを話します。この有力な証言によって3人の男が容疑者に。ここからはプチ法廷劇です。
ところがこのガルシア、只者ではなく、警察や司法関係者にも内通者がいるらしく、いざ実刑間違いないと思われた裁判が始まると、その犯人の男たちは無罪に。しかもライリーは精神病扱いされて病院送りになるのでした。
このままでは無念を晴らすことはできない…そう考えたライリーは即断即決。救急車から逃げ出し、自ら姿をくらまして、全ての関係者に復讐を誓います。
この日からライリーは世界各地で散発的に目撃され、とある地域では“女神”として恐怖と畏敬とともに神聖化されるような存在になっていくことに…。来るべき復讐の時が来るまでは。
『ライリー・ノース 復讐の女神』ではこうやって主人公がどうして復讐という境遇に陥ってしまったのか、比較的じっくり描いてくれるので、観客もとても感情移入しやすかったのではないでしょうか。
男も女も関係ねぇ!
『ライリー・ノース 復讐の女神』の特徴は何よりも「ごく普通の主婦」という人間が復讐者に変貌する展開です。
これは昨今の女性主体を後押しするジェンダー平等を意識したハリウッドの流れのように見えますが、“ピエール・モレル”監督のフィルモグラフィーを見ていくとこの監督なら別に異色でもなんでもないとも思います。なにせ監督初期作の『アルティメット』(2004年)でも主人公の妹がやたらと肝が据わっており、ほぼ同等な戦闘根性があるキャラクターとして登場していますし、『パリより愛をこめて』(2010年)なんかでも女性がアクションすることに遠慮はない感じがヒシヒシと伝わります。これは私の勝手な推測ですが、“ピエール・モレル”監督的にはもとから“男も女も関係ねぇ!”のスタンスなんじゃないかな、と。もちろん今の時代だからこそ“主婦”主人公の映画の企画が通りやすいというのはあるでしょうが…。
で、復讐者と化したライリーの華麗なるリベンジですが、これも“ピエール・モレル”監督作らしい、リアリティよりもカタルシス重視の派手めな“お返し”がボンボン飛び出します。
いきなり観覧車での死体の宙吊りですからね。どうやって吊るしたんだよ!という感じですが、あれです、主婦の知恵です(雑)。大量の銃器をショッピングしてからの(さすがアメリカ、銃が気楽に買える国)、手の込んだ裁判官爆破トラップも、まあ、不必要なほど用意周到ですし。というか、あれだけの規模ならそこらへんの通行人とかも巻き込まれてそうですけど(少なくとも衝撃波は凄まじい)、いいんですか、ライリーさん。
メリケンサックで殴ったかと思えば、敵のアジトを重武装で制圧…など、明らかにその手際はプロの殺し屋級です。ドライビングテクニックもなかなかのもので、これはもう他作品の暗殺者スパイと互角に渡り合えますね。断言できます。
さすがに終盤の憎きボスと一騎打ちしている中で、警官に囲まれて「やめるんだ」と制止を促されながらも発砲する一幕での、いつのまにか消えるライリーという展開は、“いや、無理だろう”と心の中で総ツッコミを入れましたけど…。
ラストでも手錠の鍵を渡されて病院から忽然と消えましたし、このライリー、絶対に透明マントを持っています。
演じた“ジェニファー・ガーナー”は非常にカッコよく、彼女の身体的演技力の高さを証明してみせたと思いますけど、ゴールデンラズベリー賞では最低女優賞にノミネートされてしまいましてね…。
まあ、お察しのとおり、『ライリー・ノース 復讐の女神』の批評家評価は低め。“ピエール・モレル”監督は『96時間』から後の作品はどうも伸び悩んでいる感じですね。今、アクション映画界隈はバトル演出面でもとても極上級のハイクオリティな作品が溢れかえっており、ちょっとハードルが際限なく高くなっているという不利な状況もありますが…。
一応、言っておくと、私の感想としては今回の“ジェニファー・ガーナー”は良かったと思っていますよ。
あそこが見たかったのに…
個人的に一番残念だなと思ったのは、ライリーが強くなっていく過程が描かれないことです。
私はトレーニングシーンが好きなので、ひ弱な主人公がどんどんと厳しい訓練を重ね、ついに本番を迎えて成長したところを見せ、あの時のこの試練がここで活かされた!と快感につながる…そういう展開が見たかったなぁ…。
“ピエール・モレル”監督作品は、『96時間』は元CIA工作員、『パリより愛をこめて』はCIA、『ザ・ガンマン』は元特殊部隊と、スタート時点で最強なパターンですけど、『ライリー・ノース 復讐の女神』は主婦なんですから、強くなっていくプロセスを描く余地はあったはず。
おりしも『ロスト・マネー 偽りの報酬』のように夫に先立たれた普通の妻が犯罪に手を染めていく良質な作品が最近も存在し(こちらは強盗する映画ですが)、怒りを煮えたぎらせながら妻がジェンダー的な苦境に立たされつつも自分のできることを遂行するという物語もあるわけです。
その点、『ライリー・ノース 復讐の女神』は「主婦、つよーい!」という、割とただそれだけの映画になってしまい、いくらラストで墓の前で死を願う感傷的なシーンを入れたとしても、全体的にはスナック感覚なジャンル映画っぽさは拭いきれません。
でもこれも含めて“ピエール・モレル”監督の手作り料理の味なんでしょうね。たぶんあのライリーも、悲劇に見舞われる前から結構アグレッシブな人だったんでしょう。序盤でママ友と喧嘩していますし、娘も口汚い言葉を使っていましたから(きっと母をマネしていたのかな)。そのママ友に復讐者になって以降、意外なかたちで反逆しているのが笑えるシーンでした。ライリー、若い頃は女番長としてぶいぶい言わせていたタイプですよ(憶測です)。
本作の脚本は『エンド・オブ・キングダム』や『レプリカズ』の“チャド・セント・ジョン”ということで、相も変わらずゴリゴリでした。
私の妄想ではライリーはこの後、スラム街の子どもたちを鍛えて、最強軍団を組織するんだ…。
本作を観て、“もっと母が復讐に燃える話を見たい!”と思ったら、『ハイ・フォン ママは元ギャング』というNetflixオリジナルのベトナム映画があるので、そちらがオススメです。アクションが凄まじい勢いで炸裂しています。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 12% Audience 72%
IMDb
6.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 4/10 ★★★★
作品ポスター・画像 (C)2018 LAKESHORE ENTERTAINMENT PRODUCTIONS LLC AND STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
以上、『ライリー・ノース 復讐の女神』の感想でした。
Peppermint (2018) [Japanese Review] 『ライリー・ノース 復讐の女神』考察・評価レビュー