トム・ホランド、別のところでも頑張ります!…映画『アンチャーテッド』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年)
日本公開日:2022年2月18日
監督:ルーベン・フライシャー
アンチャーテッド
あんちゃーてっど
『アンチャーテッド』あらすじ
『アンチャーテッド』感想(ネタバレなし)
PlayStation Productions!
世の中にはいろいろな映画会社があり、それぞれでビジネス戦略は違うものです。ハリウッドの大手企業が一斉に動画配信サービスに重きを置くようになっている中、少し違った路線に進んでいるのが「Sony(ソニー)」です。
ソニーは「コロンビア・ピクチャーズ」などを抱え、ハリウッドでも有数の映画企業のひとつですが、自社の動画配信サービスを展開していません。そのため、他者のサービスに配信権を売るなどしてきました。
しかし、それだけではありませんでした。ソニーはソニーにしかできない独自の策があったのです。その策を担う要の制作会社がついに始動しました。それが「PlayStation Productions」です。
このプロダクションはその名のとおり、ソニーが開発・販売するゲーム機「プレイステーション」で展開しているゲームタイトルを映画化するための制作拠点です。つまり、ゲームを映画化し、その映画がヒットすれば元のゲームも売れる…この好循環でソニーがガッポリ儲けていく…というのが狙い。ゲーム業界をリードするソニーならではの作戦ですね。
プロダクション自体は2019年に設立されたのですが、その「PlayStation Productions」映画第1弾となる作品がいよいよ2022年に登場しました。
それが本作『アンチャーテッド』です。
このタイトルを聞いて「ソニーのゲーム映画化第1弾としてこれ以上なくふさわしい最初の一発だな」と思ったものです。それくらい元のゲーム「アンチャーテッド」は映画化に向いていました。
「アンチャーテッド」はソニー・インタラクティブエンタテインメントから発売されているアクションアドベンチャーゲームのシリーズで、1作目は2007年。それ以降、ゲームファンに愛され、大ヒットしてきました。このゲームのコンセプトがそもそも「動かせる映画」であり、映画のような大迫力のアクションとスケールの映像を自分でキャラクターを動かせる…ここに魅力を全力投入しています。
ジャンルとしては『インディ・ジョーンズ』みたいな、世界を股に掛けた大冒険に繰り出して謎を解いて財宝を探す…という主軸があります。プレイヤーの分身となる主人公は、崖や建物を登ったり、はたまた敵と戦ったり、さらにはド派手なアクションに突入したり、なかなかに大忙しです。でも本当に映画みたいなゲーム体験ができ、フォトリアルなゲームの真髄を味わえます。
そんな「アンチャーテッド」ですから映画化にぴったりなのは当然。そもそもが映画を意識して作られたゲームですからね。
ただ、この「アンチャーテッド」の映画化は難航していたようで、実は2009年頃から企画はあったらしいですが、二転三転。結果、2020年にやっと今のかたちで動き出したようです。
映画『アンチャーテッド』はゲームの1作目である「アンチャーテッド エル・ドラドの秘宝」と4作目の「アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝」を土台にしているのですが、内容はかなり変更されています。一番の特筆点は何と言っても主人公。ゲームと同じくネイサン・ドレイクという名前のキャラクターが主人公なのですが、映画で演じるのは“トム・ホランド”なのです。
ゲームをプレイしたことがある人なら「え? トム・ホランド?」と思ったでしょう。ゲームのネイサン(ネイト)は30代でわりと中年男性風の顔立ちなんですが、“トム・ホランド”は当然若くて、せいぜい20代前半に見える。明らかに年齢が全然違います。つまり、映画の方向性としては主人公の若かりし頃のエピソード・ゼロを描くスタイルなんですね(ゲームでも若いときを描くシーンもあったけどメインではなかった)。
そして事実上、“トム・ホランド”を眺めて愛でる映画になっています。やはりソニーはMCU『スパイダーマン』で会社に絶大な利益をもたらした“トム・ホランド”にすっかりゾッコンで、「トム・ホランドならいける!」という期待の表れなのかな。それにしても『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』であんなオチになったばかりなのにもう次の大作映画で活躍していると、観客として切り替えるのも大変だ…。
共演は、『スペンサー・コンフィデンシャル』『インフィニット 無限の記憶』とアクション映画に頻繁にでている“マーク・ウォールバーグ”、『ペイン・アンド・グローリー』の“アントニオ・バンデラス”、ドラマ『The Wilds ザ・ワイルズ 孤島に残された少女たち』の“ソフィア・アリ”、ドラマ『YOU ー君がすべてー』の“タティ・ガブリエル”など。
監督は、『ヴェノム』『ゾンビランド: ダブルタップ』とすっかりソニー御用達の職人監督になっている“ルーベン・フライシャー”です。
映画『アンチャーテッド』はゲームを知らない人でもすんなり楽しめるエンタメ大作。“トム・ホランド”と一緒に冒険してください。
オススメ度のチェック
ひとり | :ゲーム好きの人も |
友人 | :気軽なエンタメ |
恋人 | :ロマンス描写は薄い |
キッズ | :子どもでも観やすい |
『アンチャーテッド』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):兄を追って
少年のネイサン・ドレイクは兄のサムに誘われるがままに、ある建物に展示されているマゼラン遠征で作成された最初の地図を盗もうとしていました。しかし、サムが鍵開けに取り掛かろうとした瞬間に見つかってしまい、あえなく捕まります。
ネイサンとサムは孤児院で暮らしていましたが、サムはここにいるつもりはありませんでした。サムは独りでここから脱出しようとします。その別れ際、サムはネイサンに自分たちの先祖だと信じているフランシス・ドレイクの指輪を渡します。
また戻ることを約束して窓から去るサムを見送り、ネイサンはサムの残した用紙を見つめます。それをライターであぶると文字が浮かび上がり、サムの遊び心を感じます。
それから年月は経過。ネイサンはニューヨークでバーテンダーとして働いていました。ひとり暮らしです。仕事は順調。慣れた手つきでドリンクを用意。女性客のたばこに火をつけてあげるサービスも。しかし、その隙に手首のブレスレットを盗み、手癖は悪いです。
その不届きなバーテンダーの悪行を見抜いたのが、ビクター・“サリー”・サリバンという男。急に話しかけられるも、怪しいのでネイサンは追い出します。けれども名刺がいつの間にかポケットに…。
しょうがないのでサリーのもとへ行くと、彼はトレジャーハンターらしく、かつては兄のサムと行動してフアン・セバスティアン・エルカーノの日記を盗むのを手伝ったこともあると言ってのけます。
最初は興味がなかったものの、サムから送られてきたポストカードを引っ張り出して眺めていると思い出が溢れ、あのもらった指輪を首にかけると気持ちが切り替わります。
自分もサムの後を追おう。こうしてサリーと一緒にトレジャーハントの冒険へと出ることに…。
まず目指すはマゼラン遠征時の関わっている金色の十字架。これがマゼランの残した財宝の在りかを示す鍵になるはず。そのオークション会場に潜入する2人。
しかし、そこには強欲な大富豪のサンティアゴ・モンカーダと彼に雇われた傭兵組織のリーダーのジョー・ブラドックが待ち構えており、2人の行く先々で邪魔をしてきて…。
トム・ホランドを愛でる・育てる
ゲームを映画化するともともとのインタラクティブな面白さが減退する…というのは散々話したとおりですが、この映画『アンチャーテッド』はそれをどう補うのか。取った手段はひとつ。“トム・ホランド”を愛でるという要素の主軸化、もっというと“トム・ホランド”育てゲーですよ。鑑賞型育成エンターテインメント。この映画は“トム・ホランド”をみんなで育てて「よし、強くなったね~、えらいぞ~」と盛り上がる、そんな内容です。
まず本作のネイサン(ネイト)は最初はバーテンダーなのです。なんでバーテンダー?とちょっと笑ってしまうのですけど、この初期状態から最終的には超人なの!?というくらいの大成長を見せる。しかも超人血清とか打ってないのに…。ゲームでも「人間を超越している」と散々プレイヤーにネタにされてきたネイサンなのですが、あらためて映像化するとヤバイな…。
映画ならではの変更点としてサリーとの関係があります。ゲームではサリーは初老のオッサンで、ネイサンとのオッサン感漂わす雑談が密かなお楽しみポイントだったりしました。映画では“マーク・ウォールバーグ”演じるムキムキマッチョ男がサリーとなっており、ゲームの面影はゼロです。これはそもそも映画化企画の初期では“マーク・ウォールバーグ”を主演にすることが検討されていたので、その名残なんだと思います。ともあれ結果として映画のネイサンとサリーは疑似的な兄弟感が濃くなりました。
ただ今回の“トム・ホランド”を育てる人はそれだけではありません。今作ではクロエ・フレイザーという女性のトレジャーハンターも登場。ゲームでは2作目から登場するキャラなのですが、今回の映画版では実質的に初心者ネイサンを現場で指導する役柄に。作中では敵か味方か曖昧な立ち位置なのですが、ライバル的なポジションですね。
逆にゲームではヒロインであり恋相手でもあったエレナ・フィッシャーというキャラクターはカットされており、ロマンス要素はほぼありません。恋愛なんかさせている場合じゃない、トレジャーハンター育成に全振りしている感じでしたね。
キャラクターと言えば、今作で悪役となるジョー・ブラドックがゲームにはない独自の存在感で暴れていました。演じた“タティ・ガブリエル”のオーラもあって、ヴィランとしては単独では輝いている方だったかも。傭兵という組織自体はふわっとしすぎなんですが…まあ、そこはゲームと同じか…
個人的には『スパイダーマン』を引きずっているので、“椅子の男”的な同世代同性親友ポジションが欲しいところでしたけど、この世界は基本は全部筋力で解決するのでIT担当は要らないんだよなぁ…。
私たちの世界線の物理法則は通用しない
映画『アンチャーテッド』はプロローグ兼キャラクター紹介みたいなもので、登場人物の関係性も構築されていないので、ストーリーのペースとしてはスローです。なので観客としては退屈するのも無理ありません。ゲームだったら論外です。バーテンダー格闘術とか見せられてもね…。
しかし、ついにアクションが炸裂する中盤になると「待ってました!」と大盤振る舞い。はい、本作は『ワイルド・スピード』物理法則で成り立つ世界線でした。私たちの世界線の物理法則は通用しません。皆さんが習ったニュートンの運動方程式は「加速度(a)= 力(F)/ 質量(m)」ですが、この世界では「加速度(a)= { 力(F)× 根性(K)× 映画見せ場パワー(E)} / 質量(m)」で成り立ちます。
中盤すぎの飛行する貨物機からの貨物ごとスカイダイビング。このスリリングなシーンはゲームにもあった場面です(この映像をゲームでは操作できたんですからあらためて考えるとスゴイですね)。貨物に必死に捕まり、ぐるんぐるん回転しながら落下するネイトを見ていると、「ウェブシューターをどうして使わないんだ!」って声をかけそうになる…。ここでさらっとクロエが超人的握力でネイトをキャッチしているし…。
そして終盤。ここはゲームでも見たこともない、ぶっとんだ展開の連発。まさかヘリで吊るされた船でチェイスするとは思わなかった…。これは『パイレーツ・オブ・カリビアン』でも見たことない絵だった…。荒唐無稽にもほどがあるアホさなのですが、なんかもう、考えたら負けです。ハリウッドってこういうバカ全開の映像をたまに具現化してくれるからいいよね…。
映画『アンチャーテッド』は全体的にはまるで“ジェリー・ブラッカイマー”みたいな大味の00年代ハリウッド大作のリバイバル…という感じ。
根本的欠点もあります。そもそも世界各地の財宝を探すこと自体が植民地主義的な根底があるので、そことどう向き合うのかどうしても避けにくい部分です。現実のフランシス・ドレイクも奴隷貿易&海賊(私掠船船長)だったわけで、今で言えば立派な犯罪ですからね。あんまり尊敬できる人物ではない…。
とはいえ映画『アンチャーテッド』はきっと続編もあるでしょうし、今後の展開も気になります。
展開と言えば「PlayStation Productions」の次のゲーム映画化は「Ghost of Tsushima」だそうで、こっちの方は難易度高そうです。それにドラマ化として「The Last of Us」も2023年に控えています。そちらも楽しみです。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 40% Audience 89%
IMDb
6.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)2022 Sony Pictures
以上、『アンチャーテッド』の感想でした。
Uncharted (2022) [Japanese Review] 『アンチャーテッド』考察・評価レビュー