ロボットだって退屈している…Netflix映画『エレクトリック・ステイト』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2025年)
日本では劇場未公開:2025年にNetflixで配信
監督:アンソニー・ルッソ、ジョー・ルッソ
交通事故描写(車)
えれくとりっくすていと
『エレクトリック・ステイト』物語 簡単紹介
『エレクトリック・ステイト』感想(ネタバレなし)
Netflixの大量生産に付き合いつつ…
最近、家電量販店に行く機会があったのですが、いろいろな製品を眺めていると、ひと昔前と比べて日本メーカーの割合がグっと減って、海外メーカー(とくに中国メーカー)の進出がとても目立っているのを感じました。表面上は日本メーカーだったとしても、あくまで日本社のブランドで売り出している(OEM製品)だけだったりもあって、実質、日本メーカーの存在感は相当に減っているのでしょう。
モノづくり大国とか胸を張っていた時代はどこへやら、日本メーカーの没落が如実に表れていますが、でもテクノロジーというのは移ろうものです。変わっていくのが自然の流れなのかもしれません。
映画界も同じです。今は激変期であり、ハリウッドでは大手スタジオはメディアコングロマリットに支配され、スタジオはいち部門としてしか扱われず、切り捨てられる瀬戸際にいます。
ちょっと前まで映画界の次なる寵児ともてはやされた「Netflix(ネットフリックス)」も、なんかすっかり既存の大手スタジオとたいして変わらない体質に落ち着き始め、結局はみんな同じ穴の狢なのかと思う日々。
今回紹介する「Netflix」独占配信の映画も、ビッグネームのスター俳優を詰め込みまくり、3億ドルもの製作費をぶち込むという、ハリウッドの雛形どおりに生産された一作となっています。
それが本作『エレクトリック・ステイト』。
本作はスウェーデンのアーティストである“シモン・ストーレンハーグ”の2018年のグラフィックノベルを原作としています。この作家はレトロフューチャリスティックなデジタルアートを得意とし、すでに多くのファンを獲得。2020年には『ザ・ループ TALES FROM THE LOOP』というドラマシリーズとして別の作品も映像化しています。
『エレクトリック・ステイト』は10代の少女とロボットが主役で、あるテクノロジーが絡んだ戦争によって社会が劇的に変わったアメリカ大陸で、ある目的を果たそうとする姿を描いています。
この原作は早々に映画化が立ち上がり、その権利を獲得したのは後に『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』&『アベンジャーズ エンドゲーム』でどでかい花火を打ち上げる“アンソニー・ルッソ”と“ジョー・ルッソ”の兄弟でした。
当初は、“ルッソ兄弟”はプロデューサーとして携わり、『IT/イット』二部作の“アンディ・ムスキエティ”が監督する予定で企画されます。しかし、配給を予定していた「ユニバーサル」が企画を捨て、それを「Netflix」が拾います。もたもたしているうちに“アンディ・ムスキエティ”は『ザ・フラッシュ』の監督業で忙しくなり、“ルッソ兄弟”が直々に監督することになります。
映画『エレクトリック・ステイト』で主役を務めるのは、ドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』の大ヒットで一躍話題の人となり、『エノーラ・ホームズの事件簿』や『ダムゼル 運命を拓きし者』など、「Netflix」作品で看板俳優になり続けている“ミリー・ボビー・ブラウン”。


共演は、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の“クリス・プラット”、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の“キー・ホイ・クァン”、『教皇選挙』の“スタンリー・トゥッチ”、『キャプテン・アメリカ ブレイブ・ニュー・ワールド』の“ジャンカルロ・エスポジート”、そして『カモン カモン』で最高に魅了してくれた“ウッディ・ノーマン”も成長した姿をみせてくれます。
さらに多数のロボットが登場し、それらの声を担当するのは、“ウディ・ハレルソン”、“アンソニー・マッキー”、“ジェニー・スレイト”、“ブライアン・コックス”、“コールマン・ドミンゴ”など、こちらも豪華な顔ぶれ。
“ルッソ兄弟”のスタジオ作品は必ずスターを揃えたがるんだな…。
ながら作業で流し見するくらいでもだいたい内容の把握に困らないほどにシンプルなエンターテインメント映画になっている『エレクトリック・ステイト』です。「Netflix」は絶対にそういう視聴形態を狙っていると思う…。
『エレクトリック・ステイト』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2025年3月14日から配信中です。
鑑賞の案内チェック
基本 | — |
キッズ | 子どもでも観られます。 |
『エレクトリック・ステイト』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
1990年、クリストファー(クリス)・グリーンという天才的な頭脳を持つ少年がアインシュタインも手こずる難問を一瞬で解いてみせ、大人たちを感服させました。姉のミシェルも大喜びで「私より先に大学に行くのね」と自慢げ。
しかし、クリスは大学に興味なく、現実に悲観的でした。クリスの好きなキッド・コスモというロボットのカートゥーンをマネて、ミシェルは励まします。
そんな若者たちはさておき、時代は変わりつつありました。1950年代からロボットは普及し、家庭から企業まであらゆる労働力になっていましたが、あるとき、そのロボットは権利を求めて社会運動を展開したのです。これによって一部の人間たちの間で反ロボット感情が高まりました。
そしてついに戦争が起きてしまいます。反乱を起こしたロボットを率いるのはミスター・ピーナッツ。人類は多国軍で対峙します。
眠ることも食べることもいらないロボットのほうが優勢であり、人類は窮地に陥ります。その戦況を逆転させたのが、センター社のイーサン・スケイトでした。彼の開発した脳でロボットを遠隔操作する技術「ニューロキャスター」が、戦場に人間が完全にコントロールできるロボット兵士を投入させることを実現しました。
こうして既存のロボットたちは降参し、人類と和平を結びます。危険視されたロボットは制限区域「EX」に隔離されてしまいました。
戦後となった1994年。ミシェルは家族が弟も含めて交通事故で亡くなったので孤児になっており、ぐうたらな里親テッドのもとで育っていました。ミシェル生活に溶け込んでいるニューロキャスターが嫌いで、学校でも問題児扱いでした。
夜中、家で気配を感じます。1体のロボットが家に侵入してきました。普通はロボットがうろつくなどもうあり得ません。それはキッド・コスモのデザインです。
そのロボットは何かを訴えてくるも話せない様子。回路を直すと、クリスの写真を指差して「月で問題発生だ。チームを組もう」とアニメのセリフを繰り返してきます。
騒ぎを聞きつけてテッドが起きてきて通報しようとするも、ミシェルはスタンガンで気絶させ、そのロボットに言われるがままに車で出発することにしました。
クリスは生きているのか…。眼鏡の医者が知っているらしく、そういえば事故のとき、おぼろげに眼鏡の医者がベッドに横たわる自分の前で家族の死を告げていたのを思い出します。
配送業者に紛れれば、あのロボットの隔離区域に入れると考え、道中で出会った密輸業者キーツとその相棒でロボットのハーマンについていきますが…。
ロボットをキャラクターにするには

ここから『エレクトリック・ステイト』のネタバレありの感想本文です。
映画『エレクトリック・ステイト』は原作からかなり変わっており、公開前にビジュアルが公表されたときからネガティブな反応も少なくありませんでした。
原作では、無人機ドローンによる戦争で世界が荒廃したことになっており、10代の少女「ミシェル」とロボット「スキップ」がサンフランシスコを目指して西へとアメリカ横断の旅にでるというロードムービーなスタイルです。
映画では序盤のミシェルとコスモが旅をしだした直後くらいはいくつかのカットを挟みつつ、旅っぽい感じがシーンで流れていき、そこだけ原作を強く感じさせます。
一方で、映画は勧善懲悪がハッキリしており、派手なアクションなども合わせて、エンターテインメントに特化していますので、あまり変わり果てた世界に哀愁を感じている暇はありません。
また、映像化されたことでより印象が深まっていますが、本作のロボットは作中でディズニーがテーマパークに導入しだしたのが始まりと語られるように、キャラクタービジネスの市場で普及した歴史があります。なのでどのロボットもだいたいはキャラクター化しています。ミスター・ピーナッツは実在するアメリカの大手スナック食品会社の「Planters」のマスコットキャラクターです(映画ではすごくリアルな造形になってるけど)。
ともあれどのロボットたちもレトロフューチャリズムがそのまま実現したかのような、どこか愛嬌があり、どこか不気味さもある、そんな見た目の存在感になっています。
ブルースカイというショッピングモールでコミュニティを築き上げて、密かに生きながらえているロボットたちの世界に足を踏み入れた瞬間が、この映画の最もワクワクするポイントかもしれません。
ロボット好きな私ですが、本作はロボットがたくさんでてくるとはいえ、あまり1体1体にクローズアップしてくれるわけでもないので、そんなに愛着を深める時間が薄いのがやや難点です。全体的にロボットたちが一発ネタのように登場するだけ。もうちょっと「このロボットにはこんな人生があって、こういう経緯で人類に反抗することになった」とドラマを語ってくれるとまた印象も変わるのですけども…。
『フィンチ』や『野生の島のロズ』のような映画は上手く成功させていますが、ロボットは本来それこそ労働力にすぎないので量産品です。それをキャラクターとして確固たるアイデンティティにまで高めるのはそう簡単ではなく、映画がそこに全力を注がないと難しいですよね。


テーマに向き合っているのか
映画『エレクトリック・ステイト』は類型的なストーリーなのもかなり世界観をもったいなくしていました。
「ロボットvs人類」という超ありきたりな構図の中で、敵はものすごく非倫理的な企業のトップで…その設定でも別にいいです。問題はそこからどうやってオリジナリティある肉付けをしていくかで…。
私は本作を観ていて、一番に潜在的に複雑さを描けそうなキャラクターはミスター・ピーナッツだと思いました。非常に政治的に葛藤のある立場にいるので、ロボットの権利を獲得してどう人間と折り合いをつけるのかという、あのロボットなりの生きざまをもっと見たかったです。
ミシェルについてはクリスを救うというプロット上の明確な目的があるにせよ、そんなにロボットとかどうでもいい立場なので、世界観のバックグラウンドのロボット問題とリンクしてこないんですよね。
それでいてクリスという天才児を過剰に重視しすぎる能力主義なプロットも正直どうかとは思います。
キーツにいたっては、コイツは物語に必要なのか?という程度の蛇足な感じしかなかったかな…。“クリス・プラット”のいちいち小学生並みのギャグ&ツッコミが不定期に挟まれるのは、メインの物語の邪魔にしかなっていなかったような…。
終盤は『アベンジャーズ エンドゲーム』をさらに子ども向けにアレンジしたような集団での決戦シーンに突入します。ここも先ほども書いたように各ロボットへの愛着が乏しいので、そんなに心は沸き上がりませんでした。
あと、何かの大本に対処したら敵全体が機能しなくなって戦いは終わる…というオチはやっぱりパっとしないですね…。
そして本作最大の私の言いたいことは、あのラストにミシェルが「現実の価値に目を向けて」みたいないかにも教養のあるメッセージを世界に言い放って終わっていましたけども、いや、そういう論点ではなかっただろう、と。
そもそもこの映画の世界観の争点は「ロボットに人権はあるか?」であり、『PLUTO』のように戦争の最中にそれは強く問われるテーマのはず。
だからせめてあのラストのミシェルはもっとハッキリと「ロボットに人権を与えても私たち人間の社会の脅威にはなりません。仲間ですから」ぐらいは説得力を持って言わないといけないです。そうじゃないと映画が冒頭で提示した問いに答えていません。
本作は物語の着地のさせかたがあまりに政治的に日和っているので、ものすごく薄っぺらい話になってしまっているのが残念でした。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
関連作品紹介
ルッソ兄弟の監督作の感想記事です。
・『グレイマン』
・『チェリー』
作品ポスター・画像 (C)Netflix エレクトリックステイト
以上、『エレクトリック・ステイト』の感想でした。
The Electric State (2025) [Japanese Review] 『エレクトリック・ステイト』考察・評価レビュー
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