実写ワンピはVOD王になれるか…ドラマシリーズ『ONE PIECE(ワンピース)』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ・日本(2023年)
シーズン1:2023年にNetflixで配信
原案:マット・オーウェンズ、スティーヴン・マエダ
恋愛描写
ONE PIECE
わんぴーす
『ONE PIECE』あらすじ
『ONE PIECE』感想(ネタバレなし)
次の海賊ジャンルはこの作品が乗っとる
日本の人気フランチャイズ(漫画・アニメ・ゲームなど)が映画やドラマなどで映像化されることは、日本国内ではもはや見慣れた光景で、年に数十という映像作品が新たに世に送り出されています。
最近はハリウッドでも日本の人気フランチャイズに手を付ける事例が目立ってきています。
2023年の最大の出来事はやはり『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の特大ヒットでしょうが、あちらはアニメーション映画。
2023年はまだ続きます。今回はドラマシリーズとして大きなインパクトを残すポテンシャルを持った作品の船出です。
それが本作『ONE PIECE』。
もはや説明不要、国民的大人気漫画の初のハリウッド実写化です。日本でさえも映画やドラマで映像化していないので(CMや歌舞伎ならある)、ハリウッドが先手で挑戦にでたかたちに。
でも誰しもが思うところです。あの「ワンピース」を実写化なんてできるのか!?…と。
“尾田栄一郎”による1997年から『週刊少年ジャンプ』にて長期連載している「ONE PIECE」。個性豊かな海賊たちが暴れまわる世界を舞台に、ひとりの主人公が仲間と共に海賊として夢を目指すという、ファンタジーアドベンチャーです。魅力的な世界観とキャラクターがこれでもかとぎっしり詰まっており、この世界であればきっと自分の好きなキャラを見つけられる…その包容力が人気の秘訣でしょうか。
絵柄としてもデザインとしてもかなり誇張された漫画らしいスタイルなので、どう考えてもリアルな実写とは相いれないタイプの作品です。原作者の“尾田栄一郎”自身もそう思いながら創作していたようですが、2017年に突然の実写ドラマの製作が発表され、“尾田栄一郎”自らが製作総指揮を執ることになりました。
ちなみに英語圏ではこの実写ドラマ『ONE PIECE』は「One Piece Live Action」の頭文字をとって「OPLA」と呼ばれているそうです(The Mary Sue)。
ショーランナーとして企画開発するのは、ドラマ『エージェント・オブ・シールド』の“マット・オーウェンズ”、ドラマ『HELIX -黒い遺伝子-』の“スティーヴン・マエダ”。
動画配信サービス(VOD)の先駆者であるNetflixでの配信が決定し、配信直前は「いかに“尾田栄一郎”のお墨付き&太鼓判があるのか」ということをめちゃくちゃ宣伝していました。まあ、それだけこの手の実写化には警戒感を持たれやすいという事情があるわけで、お膳立ては欠かせないのかもしれません。
そんな創造主“尾田栄一郎”も大満足のキャスティングも見どころのひとつ。
主人公ルフィを熱演するのは、ドラマ『インパーフェクト』でも魅了してくれたメキシコ系の新星“イニャキ・ゴドイ”。今作実写ドラマ『ONE PIECE』でも見事にハマっており、「この人しかいないな」という納得感があります。なんだろう、“トム・ホランド”に通じる無邪気な愛嬌がありますよね。
剣士のゾロを演じるのは、『聖闘士星矢 The Beginning』でハリウッド主演デビューを飾ったばかりの“新田真剣佑”。航海士のナミを演じるのは、『フィアー・ストリート』シリーズのアメリカ人の“エミリー・ラッド”。射撃手のウソップを演じるのは、ドラマ『グリーンリーフ』のジャマイカ系の“ジェイコブ・ロメロ・ギブソン”。料理人のサンジを演じるのは、『ボイリング・ポイント/沸騰』のスペイン・カナリア諸島出身でアラブ人とイギリス人の親を持つ“タズ・スカイラー”。
こんな感じで結構、人種構成が多彩な起用となっています。以前、“尾田栄一郎”も漫画のミニコーナー内で「キャラを人種で当てはめるとどうなる?」という読者の質問に答えているのですが(The Mary Sue)、今作はドラマなりのひとつの解釈として綺麗にフィットしているのではないでしょうか。
実写ドラマ『ONE PIECE』、船出は心配されましたが、いざ始まると好調のようでひと安心。これは「Next『パイレーツ・オブ・カリビアン』」の座をゲットできるかな。
実写ドラマ『ONE PIECE』はNetflixにてシーズン1は全8話で独占配信(1話あたり約50~60分)。
基本的に子どもでも見られる内容です。実写になったので暴力表現は多少生々しくなりましたが、殺人・児童虐待・食人とわりと殺伐とした表現も少なくない中で、描写は抑えているほうだと思います(レーティングはPG13+)。
なお、私は『ONE PIECE STAMPEDE』の感想でも書いたのですが、漫画を全然読んだことが無くて、ただ、あれ以降、漫画にも触れて作品をざっくり知っています。でも後半の感想ではそんなマニアックなファン目線で書いてはいないので、そこは期待しないでください。
『ONE PIECE』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :初心者でも |
友人 | :ファン同士で盛り上がって |
恋人 | :作品好きであれば |
キッズ | :やや暴力表現あり |
『ONE PIECE』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):ワンピースの始まり
自由と冒険を渇望する者たち、海賊の世界。22年前、この世界を揺るがす大きな事件がありました。場所はローグタウン。ゴールド・ロジャー、通称「海賊王」と呼ばれる有名な海賊がついに捕まり、処刑台へとあがっていました。
「最期に残す言葉は?」と問われるも、ロジャーは余裕の表情。不敵な笑みを浮かべ「おれの財宝がほしけりゃくれてやる、この世の全てをそこに置いてきた」と言い放ち、命を終えます。しかし、これは新たな始まりでした。民衆は奮起し、我先にと海賊として海に繰り出したのです。
こうして大海賊時代は開幕。ロジャーの残したとされるひとつなぎの秘宝「ワンピース」を夢みて…。
現在、イーストブルー。海にぽつんと浮かぶあまりに小さい粗末な船。それにひとり乗っていたのは「俺は海賊王になる」と叫んでいる麦わら帽子の少年、ルフィです。「10人は仲間が欲しいな」と呑気に言っていますが、船はさっそく浸水。しょうがないので樽に隠れて漂流するハメに…。
その樽は砲撃しているとある海賊船のもとに流れ着きます。そこに乗っているのは金棒のアルビダ、懸賞金500万ベリー。海賊狩りのロロノア・ゾロを探しているらしく、気に入らない捕虜を殺し、丸眼鏡でビクビクしているコビーに後始末を命じます。
真夜中、コビーは回収された樽からルフィがでてきて驚きます。ここはアルビダ海賊団だと言われ、「俺も海賊なんだ」とルフィは陽気です。「海賊は卑劣な人殺しでは?」とコビーは認識の違いに驚きますが、「そうとも限らない」と気楽なルフィ。
そうこうしているうちに、甲板でみんなを起こしてしまい、「モンキー・D・ルフィだ」と名乗って挑発するルフィ。アルビダは当然これを気に入らず、銃で撃ってきますが、なぜかルフィの身体は銃弾をはじき返します。金棒もまるで効きません。変幻自在の身体。ルフィは「ゴム人間だ」と説明し、「ゴムゴムの銃(ピストル)」と叫んでアルビダを簡単にぶっとばすのでした。
そして一緒に来ようとコビーを誘います。
10年前、フーシャ村。幼い孤児のルフィは、憧れの海賊、シャンクスの仲間になりたくてウズウズしていました。でも仲間にはしてくれません。しかし、偶然にも「悪魔の実」を食べたことで、ゴムの能力を手にしてしまったのです。
今、ルフィは海賊王になるという夢を抱えて、海にいます。いつか必ずワンピースを手に入れると信じて…。
シーズン1:良き改変と気持ちのいい出発
ここから実写ドラマ『ONE PIECE』のネタバレありの感想本文です。
原作はひとコマの情報量が多いボリューミーな漫画であり、それを消化するべく、実写ドラマ『ONE PIECE』はかなり早いペースで進みつつ、きっちり脚色して上手くまとめていました。
第1話からルフィとゾロとナミが揃い、シェルズタウンのモーガンをぶっ飛ばして、次の敵であるバギーまで顔見せする。「これがワンピースの世界だ!どうだ!」と言わんばかりの盛大さです。
個人的に良いなと思った改変をいくつか整理すると…。
まずルフィのキャラクター造形。基本的に漫画のルフィはいわゆる「純粋無垢なおバカ」キャラであり、そのあまりにも真っ直ぐな心で突き進むことが、全ての推進力と突破力になります。正直、かなり誇張された現実味のないキャラ作りです。
それに対して“イニャキ・ゴドイ”演じる実写ルフィはもう少し知的で、現実感のある性格に調整されています。
この調整は全てのキャラクターにも適用されていて、原作のキャラを棄損しない程度に微調整してあるので、より受け入れやすいバランスになったのではないでしょうか。だからこそ今作ならではの「技名を叫ぶ理由付け」のギャグも成立できるようになっていました。
また、原作はやや女性キャラが男性目線で性的対象化されすぎている面が強かったのですけど、実写はそうした要素がノイズキャンセリングされているので、居心地悪くならないのも嬉しいです。バラティエにおけるサンジのナミへの絡み方も随分と大人っぽいマナーある態度でしたね。
シーズン1:まだまだ大変なのはこれから
逆に実写ドラマ『ONE PIECE』で、まだまだここが不十分かなと思う個所もあります。
ひとつに、ユーモアの難しさ。本作は全体的にシリアス面が濃くなっているのですが、原作は誇張されたキャラを前提としたドタバタギャグがたっぷりで、これを調整された本作のキャラでそのまま再現はできません。コミカルなシーンを新たにゼロ構築しないといけないのは大変でしょうけど…。
また、今作ではコビーのパートが並行的に描かれていて、これは原作の表紙連載から膨らませた内容なんだと思いますが、海賊の外から見た俯瞰的批評を与えてくれるので、これはこれで良い演出でした。コビーを演じた『死霊のはらわた ライジング』の“モーガン・デイビス”(モーガン・デイヴィス)はトランスジェンダー男性で、そこも個人的に推せるところですけど。
ただ、今作のガープの描かれ方はやや平凡化したかなと。原作のガープはいわゆる「頑固なおじいちゃん」であり、すごく日本的な人物像なんですよね。今作のガープはその要素が薄れすぎている気も…。
さらに個人的に強く引っかかるのは、コノミ諸島でのナミの物語。要するにあのナミはアーロンという暴力支配構造の中でガスライティング状態にあり、本人は多少の打算的な駆け引きをしているつもりでも、結局は抜け出せません。
それに対して、本作は「麦わらの一味」という言わばホモ・ソーシャルな集団が“助けて”くれます。でもこれを救いと言っていいのか、ちょっとモヤモヤが…。
これは原作からの問題で、この作品って、苦しむ女性が救われるうえでのレパートリーが少なすぎると私はずっと思いながら読んでましたが、やはり実写化においてもそれは難点ですね。カヤやくいななどの他の苦境にある女性の扱いも似ているのですが…。もうちょっとシスターフッドがあっていいですよね。ナミの場合は、ノジコをもっと上手く活かせていると良かったのだけど…。
なお、このナミのストーリー・アークにおける魚人との関係は、典型的な先住民の差別的な表象に乗っかっていて、これはこれで問題(ホワイト・セイバーならぬルフィ・セイバー)なんですが、魚人は原作では後に掘り下げられるので、それを待つしかないかな、と。
そうです、原作はまだまだまだまだあります。シーズン10でも収まらないですよ。
実写ドラマ『ONE PIECE』はひとまずシーズン1を成功させましたが、大変なのはむしろこれからです。
映像化が難しい仲間もわんさかいます。チョッパーとかどうするんだ?とか、アレは?これは?と考えていくとキリがないです。戦い方だってとんでもなく派手になっていきます。
問題はドラマの製作費です。一般的にシーズン2以降のドラマの製作は、①シーズン1よりも予算が減る、②シーズン1と同額の予算、③シーズン1よりも予算増…この3パターンです。実写ドラマ『ONE PIECE』はシーズン1は全8話で1話1時間なのでかなり予算をもらっているはず。しかし、今後のエピソードをクオリティ高く描くには、③の方向性で企画しないと難しいです。今の動画配信サービスの厳しい製作削減時代においては、海軍よりも困難な敵がこのドラマには待っています。
「ONE PIECE」自体、海外では「ピカチュウ」「マリオ」「ゴジラ」と比べると知名度は少し低いです。このドラマを機に知ってくれる人が増えて、さらに海外で人気に火がつけば、大きなチャンスが巡ってくるかもしれません。
実写のメリー号はどこまで旅できるのかな…。
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 83% Audience 95%
IMDb
8.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
日本のフランチャイズのハリウッド実写ドラマシリーズの感想記事です。
・『カウボーイビバップ』
作品ポスター・画像 (C)Netflix 実写ワンピース
以上、『ONE PIECE』の感想でした。
One Piece (2023) [Japanese Review] 『ONE PIECE』考察・評価レビュー