はじまりのはじまりの続き…映画『西遊記2 妖怪の逆襲』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:中国(2017年)
日本公開日:2017年9月8日
監督:ツイ・ハーク
さいゆうきつー ようかいのぎゃくしゅう
『西遊記2 妖怪の逆襲』物語 簡単紹介
『西遊記2 妖怪の逆襲』感想(ネタバレなし)
続きと言いたいところだけど
新作『人魚姫』でも持ち味のぶっとんだ映画センスを魅せつけてくれた“チャウ・シンチー”監督。
毎回「独創的」という言葉では言い表せない中国(香港)の奇才である彼の、やりすぎなストーリー、やりすぎなキャラクター、やりすぎな映像…それでいてそれらをしっかりひとつにまとめて遜色なくエンタメに転化させる手腕は見事です。しかも、そこに薄っすらと社会批評を匂わすのが凄くて。国家統制が依然厳しい中国でこんな芸当ができるのですから、単なるぶっとんだ映画を作る人というわけではないんですね。
そんな“チャウ・シンチー”監督が2013年に手がけた『西遊記 はじまりのはじまり』は、“チャウ・シンチー”史上最もぶっとんでいるかもしれない珍作でした。ただ、どこがぶっとんでいるかはネタバレになるので言えないんですが…。とりあえず観てない人は観てくださいとしか言えない…。
『西遊記 はじまりのはじまり』は、あの「西遊記」の前日譚を描いた作品で、観た人は間違いなく「えっ、これが西遊記につながるの!?」と言いたくなるものでしたが…なんと続編が公開されました。
それが本作『西遊記2 妖怪の逆襲』です。
あの作品の続編ですから「どんな風になるんだ」とワクワク一杯になりますが、「残念なお知らせ」がひとつ。まず、“チャウ・シンチー”は監督しておらず、製作と脚本のメンバーのひとりという扱いです。さらに、ここが重要ですが…続編という感じはしません。いや、ストーリーというかあの世界観は引き継いでいるのですが、それ以上に引き継いでいないものが多すぎて…。メインキャストが違いますからね。あの前作で驚かせてくれた孫悟空も、全然変わってます。これは私の憶測ですけど、“チャウ・シンチー”、ほとんど名前貸しただけなんじゃ…そんな勘ぐりもしたくなります。
それを踏まえたうえで観ることをオススメします。
あと、『人魚姫』で魅力を振りまいてくれた“リン・ユン”が、本作でもヒロインとして登場しますので、『人魚姫』で彼女の虜になった人は注目です。
『西遊記2 妖怪の逆襲』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):ハゲの暴力に仏なし
三蔵法師は目を覚ますと、大勢の小さな人間の群衆に取り囲まれていることに気づきます。
「あなたにいい知らせを届けに来た」「おめでとう。夢に見た目的の地に着いたぞ」
それを聞いて「天竺?」と大喜びする三蔵法師。
そこに小さな師匠が出現します。
「今日はお前に賞を授けるために来た」「生涯功労賞だ」
上機嫌な三蔵法師。しかし、その褒美の品は煙をあげ…。
今度こそ本当に目を覚ますと、そこは悪天候の中で汚い毛布にくるまる自分がいるだけ。今はサーカスで見世物まがいのことをして小銭を稼ぐ、なんともひもじい生活でした。
客が来たのでさっそく「猪八戒」をお披露目。猪八戒は女を目の前にしてやたらと興奮気味。
続いて「沙悟浄」。怖すぎて赤ん坊が泣きます。
「嘘つき」と言われてしまい、とっておきを見せることに。「孫悟空」です。でも何も動きません。それどころか木から落下。
「恥をかかせやがって、それでも芸人か」と怒られますが、孫悟空は急にむくりと起き上がり、沙悟浄に「俺を殴れ」と言います。その瞬間、沙悟浄は孫悟空の頭に拳を一発くわえ、頭が木端微塵に吹き飛びました。しかし、孫悟空の頭はまたすぐに生えてきます。驚愕する一同。
女を見て暴走する猪八戒をド派手に飛んで押さえ込む孫悟空。妖怪ハンターであることは証明できたものの、全然3人をコントロールできていない無様さも露呈。三蔵法師は孫悟空を「クソ猿」と呼び、みんなで罵ってくださいと煽ると、ブチ切れる孫悟空は飛びかかってきます。
それを謎の歌で鎮めます。すっかり恐れおののいた大衆(と滅茶苦茶になったサーカス会場)を後にして逃げるように立ち去るのでした。
別の場所、様子が豹変した母を心配する若く美しい女性。発作のように暴れる母。妖怪ハンターが「正体を現せ」と魔鏡で光を放ちますが、変化なし。死臭がするのになぜ…。
もしかして…と振り返ると、後ろにいた美人女性が変貌。「上海ガニ!」
その頃、三蔵法師は孫悟空にお仕置きをしていました。孫悟空は強力なパワーがありますが、三蔵法師には逆らえません。
しかし、三蔵法師は相手にするのも疲れ切り、解散しようと考えます。
「お前らは足手まといだ。徳を積ませてやってるんだぞ」
翌朝、水を求めて4人はある屋敷にたどり着きます。そこではやたらと美女たちが揃っており、優しく誘ってくれます。たっぷりと食事を用意してくれて、最高のおもてなしを堪能する三蔵法師。けれども、孫悟空は美女たちの放つおぞましい妖気を察知していました。それを知らない三蔵法師は「私たちは妖怪ハンターなので、タダで妖怪退治します」と持ちかけます。
その時、美女たちが面妖な化け物に変身。襲ってきます。一瞬で臨戦態勢に入る3人。蜘蛛の糸で束縛された三蔵法師をよそに意気揚々と倒していきます。美女に目がない猪八戒は相手が蜘蛛女でも気にせず欲情。沙悟浄は毒もなんのそのでパワープレイで相手を圧倒。
孫悟空は地下へ移動し、巨大な空間に到着。そこにいたのは蜘蛛の親玉。三蔵法師は悟浄を注ごうと準備しますが、孫悟空は荒っぽく殲滅してしまい、敵は雲散霧消しました。
「殺さずに妖怪の心を救うんだ」と怒る三蔵法師。やっぱり上手くいきません。
三蔵法師の胸の奥には、以前に出会った妖怪ハンターの女性・段との思い出があり、それを忘れてはいません。仏さまに願っても愚かな弟子たちを仏の道に導く手立ては見つかりません。
こんな状況で大丈夫なのか…。
香港映画界の大物にバトンタッチ
“チャウ・シンチー”が続編を監督しなかったのは本当に残念ですが、そこで本作の監督をつとめたのはこれまた大物の“ツイ・ハーク”です。
「香港映画界のスピルバーグ」とも称される彼は、中国では有名でしょうけど、日本では知る人ぞ知るという感じでしょうか。そういう私も“ツイ・ハーク”監督作品はあまり観てないのですが…。
香港映画界では賞を受賞するほど評価も高く、1997年にはジャン=クロード・ヴァン・ダム主演の『ダブルチーム』でハリウッドデビュー。まあ、『ダブルチーム』は最低な映画に贈られるゴールデンラズベリー賞をもらっちゃったみたいですけど。
“ツイ・ハーク”監督といえば、SFXを贅沢に駆使した作品が最近は主流であり、そういう映像センス的にはハリウッド的ともいえ、ゆえに『西遊記 はじまりのはじまり』の続編である本作にも起用されたのでしょう。
その狙いがあったとしたら確かに本作の映像は前作以上に凄かったです。クモ美女怪物とのバトルはその造形も含めて新鮮でしたし、火を噴く偽国王との荒業連発のバトルも大迫力でした。そして何よりもラストの暴走する孫悟空がキングコング的巨大化してからの展開は意味不明です(良い意味で。いや、良いと言っていいのか…)。相変わらずの仏陀無双で、仏陀に怒られないのかな…。全体的に舞台セットや衣装など美術にやたら金を投じていることがわかります。なんとなく観てるぶんには楽しい映像でした。
これは超大作ではありません
ただ、それ以外は…う~ん、どうだろう。自分の好きな前作成分が消えているのが残念でした。『西遊記2 妖怪の逆襲』は「2」と堂々と名乗っているのですけどね。
ストーリーが単調で、仲間割れしては妖怪と戦って、また仲間割れして戦っての繰り返し。意外性も起承転結のフラグ的演出もなく、面白みに欠けます。ドラマも薄いですし。
個人的には“チャウ・シンチー”監督作品の特徴である「小汚さ」がないのが…。前作もそうでしたが、登場人物全員がどこか小汚いのが印象的でした。見た目もそうですし、中身も…どこか欠落を抱えていて、そこが愉快で楽しい。その最たる存在が孫悟空だったわけで…それが本作だと普通にカッコいいです。絶対に前作の見た目のままのほうが、面白いと思うのだけどなぁ。
また、本作には前作にあった「残酷さ」もありません。前作は、孫悟空、沙悟浄、猪八戒といい、あどけない子どもまで含む民間人を容赦く殺す、それこそドン引きするほど、極悪非道の限りを尽くすサイテーな奴らでしたが、本作はずいぶん普通に。単なるギャグキャラに成り下がってました。とってつけたように前作と同様にまたGメンの曲とともに映画が終わってましたが、それさえあればいいのか…。
こう、映画全編にわたって新しく挑戦しようという感じがしないというか、例えるなら、前作の素材を使った同人作品みたいに見えたんですよね。
本作の映像面のパワーアップも、この作品との相性とは違う気がして。“チャウ・シンチー”は前作の映像の派手さも茶化すことで活かしていたように思います。効果音もピコピコ可愛くしてましたし。つまり、ハリウッド的な映像進化は求めていなかったのではないでしょうか。単に映像を派手にすればいいものでもなかったわけです。
あの大ヒット作の続編!という大作っぽい外面に惑わされず、同人感覚で観るのが適切なのかもしれません。そういうことにしておきましょう。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
?.? / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 2/10 ★★
以上、『西遊記2 妖怪の逆襲』の感想でした。
『西遊記2 妖怪の逆襲』考察・評価レビュー