Netflixでついに夢の王がお目覚めです…ドラマシリーズ『サンドマン』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年)
シーズン1:2022年にNetflixで配信
製作総指揮:ニール・ゲイマン、アラン・ハインバーグ ほか
ゴア描写 性描写 恋愛描写
サンドマン
さんどまん
『サンドマン』あらすじ
『サンドマン』感想(ネタバレなし)
映像化は夢で終わるのかと思ってた…
アメコミの歴史は長いですが、その中でもアメコミのジャンルに新機軸を生み出すような劇的な影響力を与えた作品というのもたびたび出現します。
その代表的なものでファンにカルト的に支持されているコミック、そのひとつが1989年からDCコミックスから刊行された“ニール・ゲイマン”原作の「サンドマン」です。
それまでのDC含むアメコミの主流はポップで子ども向けな親しみやすさが全面にでていたのですが、80年代後半は現代風に一新しようと試行している真最中でした。そこでDCを大きく転身させる先導者となったのが名編集者の“カレン・バーガー”。その“カレン・バーガー”が“ニール・ゲイマン”に「新しいシリーズを作って」と頼んで生まれたのがこの「サンドマン」です。
「サンドマン」はダークファンタジー&ホラーとも言えるようなシリアスさと禍々しさを兼ね備えた世界観で、登場するキャラクターも含めて従来のDC作品とはまるで違いました。
アメコミでは神話や宗教をモチーフにしたキャラクターがいるのはすでに色々な作品で観たことがあると思いますが、この「サンドマン」では形而上的概念を擬人化してキャラクターにしています。主人公は「ドリーム」という夢を司る存在で、「モルフェウス」とか「カイックル」と呼ばれます(「サンドマン」の名もあるけどあまりそう呼ばれない。タイトルなのに)。このドリームは「ドリーミング」という夢の国を統治しています。夢の国って言ってもディズニーランドみたいなファンシーなやつじゃないですよ。
このドリームは「エンドレス」と呼ばれる7体の“きょうだい”のひとりで、他にも「デス」(死)、「ディザイア」(欲望)、「ディスペア」(絶望)、「ディリリウム」(錯乱)、「ディストラクション」(破壊)、「デスティニー」(運命)がいて、全員が神すら超越する力があります。
善悪や概念さも揺るがす独特な世界観は大好評となり、暗黒童話のような哲学的物語、ゴス・カルチャーのファッション、多様性を先取りした先進性…そうした要素からカルト的な人気が過熱。当時としては珍しく女性のファンも目立ちました。
DCは「ヴァーティゴ」というアダルト向けのブランドを立ち上げ(『Y:ザ・ラストマン』もこの仲間)、「サンドマン」はその象徴的存在となって支持され続けたという、知る人ぞ知る伝説的な名作。
そんな作品ですから当然映像化の話も持ち上がります。ところがこれが苦難の道のりで…。1990年代から映画化やテレビドラマ化の企画が浮上するもいずれも頓挫。原作者の“ニール・ゲイマン”がなかなか納得しなかったそうですが、やはりそれだけ映像化が難しい作品なんですよね。「サンドマン」の映像化は長い眠りにつき、その間になぜかサブキャラクターだったルシファーを主題にした『LUCIFER/ルシファー』というドラマが2016年に始まり…。“ニール・ゲイマン”もドラマ『グッド・オーメンズ』を2019年から手掛け始め、もう「サンドマン」は諦めたのかなと思っていたら…。
2019年、Netflixが映像化権を買い取り、ドラマシリーズ企画が始動。コロナ禍を挟みましたが、2022年にシーズン1がついに開始となりました。
それが本作『サンドマン』です。
いや、とにかく映像化できて良かった…。私もかなり大好きな作品なので待ちわびていたのですけど、映像化は夢だと思っていた…(サンドマンだけに)。
今回は原作者の“ニール・ゲイマン”自身も製作総指揮でガッツリ関与し、「サンドマン」を今の時代に映像化するのであれば何が最適解なのか、議論を重ねて創作し直したそうで、その覚悟が伝わる中身になっています。
映像クオリティも素晴らしいですし、何よりもキャラクターたちも魅力アップしています。私も満足な出来栄えでした。
それにやはりこれだけアメコミの映像化が溢れている今の時代にあってもなお、この『サンドマン』の特異性は際立つなと再確認できたし…。『サンドマン』を知らなかった人もぜひこのドラマをきっかけに「こんなヘンテコな作品があるのか!」と触れてみてほしいです。「アメコミは勧善懲悪だから…」なんて雑語り、この『サンドマン』観たら言えなくなりますよ。
主人公のドリームに抜擢されたのは『ホロウ・クラウン/嘆きの王冠』の“トム・スターリッジ”。見事になりきっています。
その主人公に立ちはだかる悪夢を演じるのは『ザ・プレデター』の“ボイド・ホルブルック”。ドリームに付き従うカラスの声をコメディアンの“パットン・オズワルト”が担当してもいます。
他にも魅力満載のキャラクターがいっぱいなのですが、私のイチオシは原作からお気に入りの「マーヴ・パンプキンヘッド」ですね。よくあのまま映像化してくれましたよ。声はなんと“マーク・ハミル”。こういうクセのあるキャラには定番だな…。
オカルトなダークファンタジーが好きなら『サンドマン』はハマるはず。シーズン1は全10話(1話あたり約45~50分)。Netflixで一気見しましょう。
オススメ度のチェック
ひとり | :好きな人はクセになる |
友人 | :好きそうな人を誘って |
恋人 | :雰囲気が好みに合うなら |
キッズ | :ダークな作風だけど |
『サンドマン』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):夢の王、うっかり監禁される
1916年、イングランドのウィッチクロス。ジョン・ハサウェイ博士がとある屋敷を訪れます。目的はメイガスと呼ばれているロデリック・バージェスという魔術師を訪ねるためです。お互いに息子を亡くした同士だとロデリックは語り、「それでモーデリンの魔術書は?」と聞いてきます。ハサウェイ博士は鞄から書物を取り出し、ロデリックは「この書物でデスを呼び出し、息子たちを生き返らせよう」と意気込みます。
夜、ローブ姿の者たちが集い、儀式が開始。デスの召喚を始めるも、魔法陣に現れたのは別の“誰か”でした。すっかり弱っており、ロデリックは幼い別の息子アレックスに指示し、魔法陣の中にあるその“誰か”のアイテムである小袋とルビーをとらせます。マスクも取り上げ、「この者が回復したら我々の願いを叶えさせよう」と宣言。
この出来事以降、世界のあちこちで眠りから目覚めない者が観察され、眠り病として世界中に拡大しました。
翌日、サングラスの男がロデリックの屋敷を訪ねてきます。「助けてやろう」と言い放ち、あの出現した謎の存在は「終わりなき者(エンドレス)」と呼ぶそうで、その力は利用できるとのこと。「下にいるのはそのうちのひとりであるドリーム、夢の王だ」「彼を閉じ込めておく必要がある」…そう説明して専用の球体を作らせ、監視する者には目覚めの薬を服用させることなどをアドバイスして立ち去っていきます。
デスを召喚するつもりだったのですが、ロデリックはこのドリームにも能力があるだろうと見込み、それを引き出そうとします。
1926年、特殊な力を秘めたルビーと小袋は教団に繁栄をもたらしました。ロデリックの息子のアレックスは召使のように惨めな目立たない生活を屋敷内でしており、球体に幽閉されたドリームに話しかけて不満をこぼします。
ある日、屋敷にドリームの国からの使者である鳥・ジェサミーが侵入し、屋敷に火を放ってその騒ぎのうちにドリームを助け出そうとします。しかし、父に命じられたアレックスに撃たれて失敗します。
ロデリックの愛人だったエセル・クリップスは妊娠しますが、中絶を迫られ、ヘルムと小袋とルビーを持って屋敷から逃走し、行方をくらましました。さらに激昂したロデリックが亡くなり、屋敷はアレックスのものに…。アレックスは親密になったポールをドリームに会わせ、2人は年老いて仲睦まじく暮らしました。
その100年以上の年月で魔法陣が崩れ、監視者を眠らせることに成功したドリーム。球体が割れてやっと解放されます。
ドリームは自分の国「ドリーミング(夢界)」へと帰還。司書のルシエンヌが迎えるも、そこは昔の姿とは違って変わり果てていました。
再びドリームは力を取り戻せるのか。その裏には暗躍する者もいて…。
シーズン1:レプリゼンテーションは多彩に
ドラマ『サンドマン』の初見時の感想としては、レプリゼンテーションをかなり意図して頑張っているなと感じました。
もともと原作から「サンドマン」は表象が多様性に富んでいて、トランスジェンダーのキャラクターも登場するなどしていました。ただ、それはあくまで当時としてはという評価であり、その時点でも「マイノリティの描写としてここはどうなの?」という批判もありました。
おそらくドラマの製作に中心で関与した原作者の“ニール・ゲイマン”もそのことを重々承知のうえで、反省もしながら、今回のドラマ化ではベストなレプリゼンテーションを見せてやろうという狙いが明確にあったのだと思います。
例えば、今回のドリームの司書であるルシエンヌは黒人女性へとアレンジされているのですが、普通にやれば召使みたいな感じでむしろ人種差別的な構図が強まりかねないところを、ルシエンヌ演じる“ヴィヴィアン・アチャンポン”の堂々たる佇まいもあって、とても対等に描かれており、好印象です。
また、今回のオカルト探偵のコンスタンティンはジョアナという女性になっており、こちらもめちゃくちゃカッコいいですね。演じた“ジェナ・ルイーズ・コールマン”、『ドクター・フー』に続いて良い役を手に入れたな…。このジョアナ・コンスタンティン版でスピンオフ展開してほしい…。
そしてクィア描写も豊富で、ジョアナも女性の元カノがいますし、序盤の重要人物であるアレックスも男性とカップルになって老いていく(彼が家系で無視されるのはクィアゆえという背景があるのでしょう)。本作のヴィランであるコリント人もゲイですしね。
さらにドリームの“きょうだい”であるディザイアはノンバイナリーであり、演じるのも当事者である“メイソン・アレクサンダー・パーク”です。
こうした多彩さはこの世界観にマッチしています。そもそも登場人物の半分以上が非人間であり、人間社会の規範など通じない世界で生きている存在ですからね。そんなキャラが異性愛規範とかバイナリー規範に従ってたら変でしょうし…。
ドラマ『サンドマン』は誠実に現代のニーズにも答えつつ、より世界観のリアリティを深めてきたと思います。それこそ『サンドマン』の本質的な面白さでもありますから。
シーズン1:世界観の個性は詰まっている
2019年のドラマ『ウォッチメン』はアメコミ映像化作品のステージを格上げするような深みを見せた意欲作でした。
このドラマ『サンドマン』もそれに匹敵するような存在感を発揮しようとしたのかな。少なくともそういうアメコミ映像化業界の潮流の中で、平凡な作品なんて作ってなるものか!という覚悟は伝わります。
やっぱり『サンドマン』は原作からして異様さがありましたから映像化すればそれはもう個性的になって当然です。
物語としてはシーズン1は世界観紹介から開始。といっても肝心のドリームが全裸で球体に閉じ込められているので(布くらいかけてやればいいのに…)、おなじみのゴス・ファッションも乏しい、ただの可哀想な兄ちゃん感が第1話は全開(しかも今回のドラマは時代に合わせて100年以上も幽閉されたことになったので余計に哀れ…)。
そして能力を取り戻すためのアイテム探しに奔走です。能力が無いとただのレコード会社から契約打ち切りになって路頭に迷ったバンドマンみたいに見えなくもないな…。傍から見ればカラスと喋ってるし、へっぽこそうだ…。
この作品はヴィランがいても激しいアクションバトルはほぼ展開せず、なんだか奇妙な駆け引きが始まるのが恒例。冥界を統べるルシファー・モーニングスターとの「言ったもん勝ち」に見える決闘もそうですし、極めつけは第5話。あのエセルの息子ジョン(ドクター・デスティニー)がダイナーでルビーの能力を使って人間模様に介入していくシーンが淡々と続く。あの不気味さはすごく『サンドマン』らしいです。
そんな超越しすぎて私たちには理解不能な領域に達しているドリーム含むエンドレスですが、それでも自分の意義を模索するアイデンティティ探しの話ということで、そこはスタンダードです。ドリームとホブの数百年の友情も良いエピソードでしたし、個人的には“カービー・ハウエル=バプティスト”演じるデスとの会話が好きですね。人に仕えるのもいいよねという親しさの獲得。エンドレスには難しい行為なんだろうけど。
一方でローズ・ウォーカーの弟を誘拐してカルトを率いているコリント人とその仲間には「自分たちがいかに醜悪か思い知れ」という自覚を促す。このへんは現在蔓延する差別主義的な思想や陰謀論への真正面からの警鐘でもあるだろうし…。
今回のシーズン1はやはり物語としては詰め込んでいるのでちょっと飛ばし飛ばしではありましたが、『サンドマン』の個性はじゅうぶん詰まっていたと思います。
「今度私を甘く見たら容赦しない」と激おこ(クールな表情)のドリーム相手にしても、まだ何か不敵に企むディザイア。アザゼルと組んでドリームの屈服を画策するルシファー。シーズン2からさらに本格的に『サンドマン』の世界観が本領発揮するでしょうし、ワクワクです。
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 86% Audience 85%
IMDb
7.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)DC Entertainment
以上、『サンドマン』の感想でした。
The Sandman (2022) [Japanese Review] 『サンドマン』考察・評価レビュー