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アニメ『オッドタクシー』感想(ネタバレ)…ジェンダーバイアスの観点から何に見えるか?

オッドタクシー

ジェンダーバイアスの観点からちょっと考察…アニメシリーズ『オッドタクシー』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:ODDTAXI
製作国:日本(2021年)
シーズン1:2021年に各サービスで配信
監督:木下麦
児童虐待描写

オッドタクシー

おっどたくしー
オッドタクシー

『オッドタクシー』あらすじ

平凡な毎日を送るタクシー運転手・小戸川。身寄りはなく、中年ながら独り暮らしで他人とあまり関わらない、少し偏屈で無口な変わり者。趣味は寝る前に聞く落語と仕事中に聞くラジオ。一応、友人と呼べるのはかかりつけでもある医者の剛力と、高校からの同級生の柿花ぐらいであった。彼がこの街で運ぶのは、どこかクセのある個性豊かな客ばかり。そして、いつの間にか事件に巻き込まれていく。

『オッドタクシー』感想(ネタバレなし)

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動物たちが東京の喧騒に生きる

動物を擬人化する、人間を動物化する…この違いは表面上は区別しづらいですが、とにかく「人間っぽい動物」のキャラクター化は古今東西あちこちにあります。

以前、アニメ『ウマ娘 プリティーダービー』の感想で「特定の“ケモノ萌え擬人化”というのは、動物が受けていた残忍な被虐性を緩和して視聴者に居心地の良さを与えている」という論点で語りました。

ただ、全ての「人間っぽい動物」のキャラクター化にそういう効果の狙いがあるわけではありません。というかむしろそれよりも別の目的の方がよく見受けられます。それが「風刺」。人間社会を動物化することによる風刺です。

その意図はさまざま。例えば、そのまま人間で描くと生々しくなりすぎるので動物化してマイルドにするとか、はたまた動物化することで逆に人間社会の内包する野蛮性をあえて強調させるだとか。さらには政治の検閲を逃れるために動物化しているケースもあるでしょう。

ともかく人間社会を動物化したキャラクターで描くのは昔から定番です。日本であれば平安時代末期に作られたと言われている「鳥獣人物戯画」が有名だったり…。

そして現代において人間社会を動物化したキャラクターで描くことを最も盛んにやっているのがアニメーション業界。ハリウッドならば、最近は『ズートピア』『SING シング』『ボージャック・ホースマン』など作品はいくらでも挙げられます。

そんな中、2021年の日本で話題になった“人間社会を動物化したキャラクターで描いたアニメ”がありました。それが本作『オッドタクシー』です。

本作はもろに東京を舞台にした都会群像劇なのですが、主人公のタクシードライバーの41歳の男を軸に物語が進みます。そしてこの主人公は見た目がセイウチです。他にも多くのキャラが雑多にでてくるのですが、全員が何かしらの動物としてデフォルメされて描かれています。

かといって子ども向けというわけではなく、どちらかというと社会の喧騒に翻弄されて健気に生きている大人たちの切実さと愚痴がこぼれる、そんな会話劇中心の作風です。まあ、『ボージャック・ホースマン』に近いですね。

ただ、この『オッドタクシー』は実はミステリーサスペンスが物語の主軸にあって、作中である事件が発生し、その真相がいろいろな人間模様と共に少しずつ解き明かされていくという、その謎解きが楽しめるようになっています。なので地味なルックのわりには「次は何が明らかになるんだ?」という観客の好奇心を刺激するので物語の牽引力が意外に強くて、どんどんハマってしまいます。

キャラクターの数は25人以上いるので多い部類ですが、動物になっているので覚えやすいですし、それでいてプレスコで録られた会話のテンポ感も耳に馴染みやすく、完全に作品デザインで勝った感じじゃないでしょうか。何かと人気重視のブランディングで儲けないとやっていけない日本アニメ業界ですけど、この『オッドタクシー』の成功は異色かも。

この『オッドタクシー』、オリジナル作品というのも珍しいところなのですが、ユニークな脚本を手がけたのはドラマや映画化もされた『セトウツミ』の原作者である“此元和津也”。その作家性はダウナーにぐだぐだと続くノンストップの会話劇にあり、この『オッドタクシー』でもその才能はいかんなく投入されています。「P.I.C.S.」というクリエイターチームで活動しているみたいなので今後もこの作風で作品をドシドシ生み出していくのかな。

主人公の声を担当するのは、『鬼滅の刃』の竈門炭治郎役でおなじみの“花江夏樹”。『アーケイン』でも雰囲気のまるで違う個性の強いキャラクターを吹き替えていましたが、多才な声優ですね。

『オッドタクシー』のアニメは全13話(1話あたり約25分)。2022年にはアニメシリーズを再構成して後日談を付け加えた『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』も劇場公開される予定です。

暇つぶし感覚で気楽に観るのでも良いのではないでしょうか。

日本語声優
花江夏樹(小戸川宏)/ 飯田里穂(白川美保)/ 木村良平(剛力歩)/ 山口勝平(柿花英二)/ 浜田賢二(ドブ)/ 三森すずこ(二階堂ルイ)/ 小泉萌香(市村しほ)/ 村上まなつ(三矢ユキ)/ 鬼頭明里(行方不明の女子高生) ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:会話劇が好きな人に
友人 3.5:物語に引き込まれる話題性はあり
恋人 3.5:アニメが好きな同士で
キッズ 3.5:やや大人向けのトーン
↓ここからネタバレが含まれます↓

『オッドタクシー』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):どちらまで?

都会。多くの人々が行きかうこの街。情報過多のこの世界で最近はこのニュースで持ち切りです。それは東京都練馬区で女子高生の行方がわからなくなっている一件。今月4日深夜自宅から外出した後に連絡が途絶え、警察は事件に巻き込まれた可能性もあるとして捜査を進めており、家出か?誘拐か?とメディアも連日大騒ぎです。

そんな日常。小戸川宏が車内でガバっと起き上がり、水をぐびぐび飲んでラジオを変えます。柴垣健介馬場敦也の漫才コンビ「ホモサピエンス」が出演しており、柴垣健介がいつもの毒舌で愚痴るトークが耳に聞こえます。「ネタが面白くなかったです」と長嶋聡というリスナーからシビアな意見が寄せられたり…。番組は今話題のアイドルで、二階堂ルイ・市村しほ・三矢ユキの3人からなる「ミステリーキッス」の曲を流し始め…。

小戸川は個人タクシーをやっていました。客がひとり乗ってきます。その大学生くらいの客、樺沢太一はスマホを見つめつつ、「運転手さん、最近何か面白いことありましたか?」と訊ねてきます。小戸川は無言。会話はそんなに得意ではありません。樺沢はSNSでバズりたいらしく、いいねやフォロワーが自分の値段になると豪語。「どういうのがバズるんだ?」と小戸川の方から質問すると、「単純に笑えるのもそうだし、感動系か、スカっとするような勧善懲悪系とか、日本のジェンダー論とかかな」と樺沢は述べます。

そんなバズることに必死になる世間を「気持ち悪い」と一蹴する小戸川。樺沢は「捏造でいいんですよ」と全然気にもしません。そして思いついたように「運転手さんが自撮りで僕とツーショットとってください」と写真を撮ってきます。

そうこうしていると警官2人に止められます。その2人、大門兄弟とは小戸川は知り合いです。「こいつ見なかったか?」と写真を見せられ、そこには人相の悪そうなドブという男が写っています。大門兄弟はなぜかタクシーを憎んでおり、鬱陶しいのでテキトーに相手して離れます。

樺沢を降ろした後、車内にスマホを忘れていることに気づき、樺沢からも公衆電話からかかってきました。そのスマホは通知がなりやまない様子。先ほどのツーショット写真の背景にあの警察の探すドブが写っているのでした。

小戸川は帰宅。独り暮らし。おもむろに押し入れに話しかけます。「お前幸せなのか、別にいつ逃げてもいいんだぜ、閉じ込めているわけでも縛っているわけでもない、お前が勝手にここに居ついたんだ」

小戸川はかかりつけの病院へ行きます。院長の剛力歩と看護師の白川美保と落語についてトーク。白川はなぜか小戸川に笑風亭呑楽の消しゴムをくれます。

駐車場に戻ると、警官の大門兄が車内を捜査したいと言ってきます。そしてドライブレコーダーを押収し、なんでも練馬の行方不明の女子高生を乗せたとか。しかし「警察には行くな」と口止めしてきます。

一方、「やまびこ」という居酒屋では、剛力と柿花英二が喋っていました。柿花は小戸川と学生時代からの友人です。2人は小戸川が家で誰かと話しているという噂をし、あの行方不明の女子高生事件に関係があるのでは?という疑問を議論。よくよく考えると小戸川の過去は知りません。小戸川の両親は子どものときから行方不明らしく、ずっと独りで生きてきたのか。

ところかわって小戸川は何かを話したそうな白川をタクシーに乗せていました。白川は小戸川に好意があるかのような素振りを見せますが…。

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ミステリーサスペンスとして良質

なんだか全ての運命線の中心で鍵を握る存在になってしまったかのように、小戸川宏(セイウチ)というひとりに何もかもが繋がっていくこの物語。個人タクシーのおっちゃんが背負うには少々重い…。

でも『オッドタクシー』の面白さはここにあり、あれとこれが繋がっていくという「点と点が線になる快感」、もしくはボタンの掛け違いで悲劇や奇跡も起きていくという「偶然の快感」、それらの連鎖反応だけでずっと見ていられます。序盤からの伏線の張り巡らしも丁寧で(オープニング曲の映像さえも伏線と言える)、ミステリーサスペンスとして良質です。

登場する人物たちも誇張されているとは言え、その痛々しさも含めてどこか共感性羞恥を含む実感のある身近さなのではないでしょうか。

柿花英二(シロテナガザル)は劣等感の塊であり、年収を偽ってマッチングアプリで出会った市村しほにゾッコンとなり、借金までしてそこに執着するも、最後は身の丈に合った幸せを見つけます。

樺沢太一(コビトカバ)は承認欲求の塊であり、ドブを捕まえるという意気込みだけで動画配信で信仰され、どんどんと図に乗っていくも、ドブ本人を前にすれば自分の弱さを認めざるを得ず…。

田中一(ピューマ)は過去の失敗に囚われ、消しゴム集めの次はスマホゲーム「ズーロジカルガーデン」でのドードーのゲットに執念を燃やし、やがてその勝ちへのこだわりは小戸川への憎しみに変貌し…。

大門弟こと大門幸志郎(ミーアキャット)は兄依存を捨てきれず、世間からは馬鹿にされ続けているのですが、終盤では自分の正義を見い出し、キャラクターの中では一番カッコよく成長しているかも。

柴垣健介(イノシシ)はお笑いのキャリアに対する危機を見てみぬふりをしてきましたが、相方の馬場敦也(ウマ)の単独成功を目にしてついに自分の本心を曝け出し、もはやラストはプロポーズ。

今井旬(スカンク)は10億円を当選したキャバクラボーイ。普通に考えると圧倒的な勝ち組であり、シンデレラ・ボーイなのですけど、妙に人柄が良いせいか、本作の中でも信頼感がありましたね。

そして『オッドタクシー』の悪役とも言えるヤノ(ヤマアラシ)。このキャラクターの造形が面白く、ラップの完成度がやけに高いので、もうこのキャラだけでスピンオフが見たいくらいです。

ラストのオッドタクシー作戦のフィナーレらしいスリルもあり、起承転結のメリハリ良しで、『オッドタクシー』は物語に乗りさえすれば実に楽しい体験になります。

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一見多様に見えるけど偏りのあるキャラクター

『オッドタクシー』は群像劇なのですけど、最終的に仕掛けがバラされるとおり、実のところかなり主観的な世界観です。小戸川は両親の無理心中に巻き込まれて子ども時代に記憶を失い、さらに認知機能に異常が起きて周囲の人間が動物のように見えてしまっていました。まあ、それにしたって小戸川の視点ではないシーンでも動物化しているのは変なのですけど、そこは不問にしておこう…。

そんなSF的などんでん返しもある『オッドタクシー』。多彩なキャラクターがその魅力を盛り上げているのは言うまでもないですが、しかし、一見多様に見えるけど実は偏りのあるキャラクターでは?と思う部分もあります。

とくに性差がハッキリでています。本作の男性キャラクターはものすごく内面まで深く掘り下げられているのですが、対する女性キャラクターはものすごく薄い、というか画一的です。

例えば、多くの女性キャラが美人局的な“男性を騙す”役割だけで主に物語に関与しています。白川美保(アルパカ)はドブの指示に従って小戸川の心の懐に入ってきますし、市村しほ(三毛猫)もヤノの指示で柿花を誘い込みますし、最後は三矢ユキのなりすまし(黒猫)の殺人犯行が暴露されるし…。

それでいて、白川は小戸川を、二階堂ルイは馬場を…と“男性をケアする”方向にシフトする女性キャラという凡庸な役回りもあり…。

要するに女性キャラだけ主体性が全くなく、視野狭窄的な女性観(インセル的な側面も滲む)だけで構築されているのが丸わかりです。これはおそらく作り手がそもそもそんな自覚もなく、こういうワンパターンでしか女性をキャラクターとして扱えないからなのだと思います。

それはキャラクターデザインにも顕著で、多様なシルエットを持つ男性キャラと比べて、女性キャラは単調な丸みのデザインばかり。こういうキャラクターデザインのジェンダーバイアスは海外のアニメでも指摘されているのでよく論題に挙がるのですが…(下記サイトを参照)。

『オッドタクシー』のように人間社会を動物化によって風刺すると、作り手側の「社会や人間をどう見ているのか」という意識も意図せず具現化してしまうものです。まさに認知を試されます。

これらも含めて人間社会の動物風刺の興味深さかもしれませんけどね。

『オッドタクシー』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
?.? / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0

作品ポスター・画像 (C)P.I.C.S

以上、『オッドタクシー』の感想でした。

ODDTAXI (2021) [Japanese Review] 『オッドタクシー』考察・評価レビュー