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『スケーターガール』感想(ネタバレ)…Netflix;スポーツで感動を届けたいなら

スケーターガール

スポーツで感動を本当に届けたいなら誰に寄り添うべきか…Netflix映画『スケーターガール』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Skater Girl
製作国:インド・アメリカ(2021年)
日本では劇場未公開:2021年にNetflixで配信
監督:マンジャリ・マキジャーニ

スケーターガール

スケーターガール

『スケーターガール』あらすじ

インドの片田舎で育った少女がある日、スケートボードと出会う。経済的に苦しい家ではいつも家事をすることになり、学校に行く時間もなかった。両親の厳しい態度に黙って耐えるだけの日々。そんな境遇にいた少女にとって、このスケートボードの世界はとても解放的で、すぐに魅せられる。しかし、せっかく手に入れることができた夢中になれるものを前にして、大きな逆境に立ち向かっていかなくてはならず…。

『スケーターガール』感想(ネタバレなし)

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インド映画がスポーツの価値を問う

東京オリンピックを意地でも開催したい人たちの主張はすっかり聞き飽きましたが、そんな人たちがよく口にするのは「スポーツで感動を届ける」という論調。

確かにスポーツは人に感動を与えることができるでしょう。もちろん全員とは限りません。読書や映画、音楽、演説…それらと同じように趣味好みはありますが、一般論として「人がスポーツに人生を捧げ、高みを目指すべく奮闘する姿」というのはエンパワーメントのポテンシャルを持っています。

ただし、やっぱりそこには注意事項もあると思っていて…。まずスポーツをやってさえいれば勝手に無条件で人が感動するわけじゃないですよね。ルール無視でやりたい放題の試合を見せられても「なんだこれは」と憤りしか感じませんし、勝負がただの八百長とかだったら失望です。

それに一番大事だと思うのはそのスポーツが純粋にアスリートのためにあるものであり、他の既得権益とは原則的に無縁であるという前提が必要だということ。そうじゃないと何のためのスポーツなんだという話になります。儲けが欲しいスポンサーや支持を得たい政治家のためにスポーツを行うならば、それはもうスポーツではなくコマーシャルやプロパガンダのためのパフォーマンス・ショーです。

スポーツは「感動ポルノ」ではありません。そうならないために、誰に寄り添い、誰に尽くすのか。スポーツを取り巻く人間なら常に考えたいことです。

そんな中、東京オリンピックに息巻く関係者にも観てほしい映画がひとつ。それが本作『スケーターガール』です。

本作はタイトルを見れば一発でわかると思いますが、スケートボードを題材にした映画です。インドの小さな田舎村を舞台に、ひとりの少女を中心にして子どもたちがスケートボードに夢中になっていく姿を描いています。スケールは小さい物語です。

それだけ聞くと平凡な作品に思えますが、この『スケーターガール』は単なるフィクションというわけではなく、撮影で建設されたスケートパークが本当に地元の子どもたちのスケートボードの場として活用されているということ。ある種のドキュメンタリー性も兼ね備えたスポーツ映画なのです。

ただのスケートパークでしょ?と感じるかもしれませんが、それはこのインドの村にとっては大きな意味があります。というのもインドのこうした村は基本的にとても貧しく、多くの子どもたちは児童労働や、女の子であれば強制的な結婚、場合によっては人身売買など、非常に倫理的に問題のある境遇に置かれてしまうリスクを抱えています。そんな子どもたちに健全でフェアな遊びの場を提供し、それが体力づくりや夢への一歩に繋がっていく…これは些細なことに見えてその子の人生に多大な影響を与えること。

本作『スケーターガール』はそうした活動の価値を訴える内容であり、それは徹底して子どもに寄り添い、尽くすものになっています。権力者が儲けるためのものではありません。無償の献身さがこの企画を支えており、あらためてスポーツにはそういうものが必要だということを痛感させられます。

インド映画界隈では『シークレット・スーパースター』『ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画』『グンジャン・サクセナ 夢にはばたいて』『おかしな子』などフェミニズム色の濃い作品が続々疾走していますし、本作もそのノリで楽しめるものです。

『スケーターガール』の監督は“マンジャリ・マキジャーニ”という人で、長編映画はこれが初監督みたいですが、過去には『ダンケルク』や『ワンダーウーマン』で第2撮影班の監督アシスタントやプロダクションのアシスタントを担当していたようです。今回の初長編監督作である『スケーターガール』はとても評価が高いので、今後一気にキャリアが花開くかもしれませんね。楽しみです。

『スケーターガール』はNetflixで気軽に観れるので、スポーツの品位や存在意義がグラついている今の日本では理想的で眩しすぎるくらいの映画ですが、その本来の輝きを忘れないためにもぜひどうですか。

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『スケーターガール』を観る前のQ&A

Q:『スケーターガール』はいつどこで配信されていますか?
A:Netflixでオリジナル映画として2021年6月11日から配信中です。

オススメ度のチェック

ひとり4.5:スポーツの価値を見つめて
友人4.0:気持ちのいい感動を一緒に
恋人4.0:感動を与えてくれる
キッズ4.0:夢を信じるために
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『スケーターガール』予告動画

『スケーターガール』予告編 – Netflix
↓ここからネタバレが含まれます↓

『スケーターガール』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):ファーストボードは夢に滑り出す

弟を車輪のついた板に乗せて引っ張る姉。学校の門に着くと、弟は学校に元気に走っていき、姉の方は来た道を帰っていきます

家に帰ると母と衣類などを手洗いで洗濯し、次に店番。プレルナは父のバイクの後ろに乗って弟を一緒に迎えに行くと、先生に「また休んだのか」と言われます。父は「明日は行かせます」と言いますが、そう単純にはいきません。プレルナの持っている制服は昔のもので成長した今はサイズが合いません。弟のアンクシュが健気にもどこからか白い制服を盗んできますが、指定は青い服なので使えません。

次の日。学校へ。教科書はありません。先生には「ようやく来たと思ったら忘れ物か? その制服は何だ」と怒られます。無理に青く染めてまだらになった服で悲しみにくれるプレルナ。

家は貧しい状態でした。母は自分も働くべきではと提案しますが、父は「俺が無能だと?」と突っぱねます。「生活費のために女房を働かせるなんて」と父はキレるばかり。子どもたちは俯いて耐えるのみです。

ある日、プレルナが雑貨屋で20ルピーの本を羨ましそうに見ていると、とある大人の女性が水を買いに来ます。地元の人ではありません。香水を手につける仕草が新鮮で、目があうプレルナ。

アンクシュは泥場で取っ組み合いをしていました。どうやら他の子どもに便所掃除屋と言われて怒ったらしいです。プレルナは弟を叱りますが、弟は相手に泥を投げます。それはたまたまあの店で見かけた女性に直撃。

すぐに追いかけるプレルナ。水くみ場を使おうとする女性に「それは上位カーストのものだから使えない」と案内し、古びた水くみ場へ。「お名前は?」と聞くと「ジェシカ」とその女性は答えます。なんでもロンドンから来たそうで、でも父はインド出身だからなのかヒンディー語を話せるようです。彼女は今は2週間の滞在でヴィクラムの経営するゲストハウスに宿泊しているとか。

「結婚は?」「してない」「年齢は?」「34歳」…その年で独身であることに驚くプレルナ。

プレルナも逆にいろいろ聞かれますが、学校には制服がないから行けないと答え、夢も考えたこともありませんでした。

そのとき、弟が無邪気にベアリングカーを見せます。それはこの村の子どもたちの間で流行っている、紐にお手製の車のようなものをくっつけた代物です。ジェシカは思わず「スケートボードみたい」と感想を言いますが、プレルナもアンクシュも「何それ」と不思議な顔。

ジェシカはお礼にプレルナに制服を買ってあげました。

別の日、友人のエリックがスケートボードに乗ってジェシカのもとにやってきました。見たことのないスケートボードに子どもたちは大興奮。滑りをみせると子どもたちは感動し、タブレットで動画も視聴して夢中に。

プレルナに「やってみない?」と持ちかけますが、「無理」と即答します。それでもスケートボードの上に立たせ、エリックに手で支えられながら恐る恐る滑ります。最初は失敗。「やっぱりできない」と弱気のプレルナに「できる」とジェシカは励まします。

もう一度、挑戦。手を放し、滑りだすプレルナ。初めてのスケートボードを達成して、プレルナは笑顔になります。

プレルナ含めて子どもたちはみんな乗りたがり、エリックも村に残ることに。エリックはスケボーをプレルナに貸してくれました。

こうしてプレルナはスケートボードに夢中になっていきます。しかし、父は「男の遊びをしてないで料理をしろ」と厳しい言葉を浴びせ、母も「他人からモノをもらうな」と忠告。

それでも子どもたちのスケートボード熱は勢いを増していき、しだいに村全体の大問題に発展し…。

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大きくなったら何になりたい?に答えられない

『スケーターガール』は子どもたちにスケートボードで夢を与える物語ですが、主人公として設定されているのはプレルナという少女です。

冒頭、プレルナの描写は非説明的ながらもその貧しさがじわじわ伝わり痛々しいです。あのヘソまわりがでるくらいの妙にピチピチとした服、学校に長らく通っていないと思われる周囲の反応…。貧困が生々しく描かれています。

それに加えてプレルナは女性であるゆえに他の男の子以上に過酷な立場に追いやられています。家父長的な家族観の中で女性の立ち位置はとにかく低く、家長の所有物扱いです。そして結婚は強制させられます。この結婚の強要はいろいろな映画で女性の苦難として描かれていますし、最近だと『漁村の片隅で』というカメルーン映画でもかなり陰惨で暴力的な描写を見たばかりなのですが、本当にキツイものです。

終盤のスケートボード大会でプレルナがシニア女性部門の唯一の出場者として紹介されているのも、おそらくは同年代の女子はたいていは嫁に出されてしまっているのでしょうね。

そのプレルナが初めてスケートボードに乗って滑れた瞬間の表情が印象的。それまで彼女はとにかく暗い顔をしており、その境遇が感情を抑圧していたことがよくわかるのですが、このシーンでぱぁぁっと笑顔になる。あそこで初めて“子どもらしい”無邪気さを見せる。プレルナも子どもだったんだと思い出せる瞬間です。

それからはプレルナにとっての唯一の希望になっていくスケートボード。「大きくなったら何になりたい?」という問いに「そんな質問を受けたことがない」と答えてしまう、そういう当たり前が変わっていくかもしれないわずかな未来。

そこに向かって滑っていこうとするプレルナの一挙手一投足は思わずこれが物語であることを忘れて応援したくなってしまいます。

あのプレルナを演じた“レイチェル・サンチタ・グプタ”。俳優活動は以前からしていたみたいですが、すごく素朴で垢抜けていない佇まいといい、完璧にあのキャラクターにフィットしていました。この俳優のパワーもかなり魅力を増量させていたと思います。

もちろん主役の子だけでなく、他の子どもたちも良かったですけどね。とくに弟。インド映画にありがちな天真爛漫な少年っぷりで、本作のシリアスなストーリーにおけるひとときの癒しアイテムと化していました。

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大人は子どもに何をするべきか

『スケーターガール』はそんな子どもたちの周囲にいる大人が何をするべきかという物語でもあります。

プレルナの両親や地元の他の大人は、子どもたちを何かと規律で縛ろうとします。典型的な閉塞感のある村社会です。

対してそこに風穴を開けることになるのがロンドンから来たジェシカ。彼女が白人ではなくインド系として設定されているのも良かったですね。白人だとベタなホワイトセイバーになってしまいますから。

またジェシカが独身であるという設定も大きな意味があって、「女=嫁ぐもの」という固定観念を吹き飛ばす存在感を提示し、プレルナの常識を揺さぶります。もちろん女性ゆえのバッシングも受けたりと、状況は大変です。ジェシカが男性だったらもっとスケートパークの企画は通りやすかったかもしれません。それでも仕事の昇進を断ってまでスケートパークに情熱を注ぐのは、父の地元への接点を持ちたかったから。「子ども=女性が可愛いと思うもの」という理由で安易に動機付けしていないのも本作のわかっている部分。

そしてそれは身分を越えて上位カーストの女性に共感を与えることもできました。立場は違えど、女性としての苦しみはわかっている。であれば自分にそれを変える力があるならその能力を行使したい。こうして自然に生まれた連帯が村を変えていくあたりも上手い展開です。

何よりも実際にスケートパークを作っているという点で本作は説得力があります。詳細は公式サイトがあるので、そちらを参考にしてください。

45日間で建設されたこのスケートパークは無料で子どもたちに開放されており、映画の物語が本当に意味あることの証左になっています。

そんなスケートパークの企画の流れで生じるであろう、学校教育との両立をどうすればいいのか、子どもたちの安全性を守ることの重要性などもしっかり網羅しているあたりも隙がありません。

スポーツ業界が利権にまみれてしまう問題は『ダンガル きっと、つよくなる』でも描かれていましたし、そちらでも結婚強要から女性が脱して夢を見い出すストーリーでした。“マンジャリ・マキジャーニ”はそのストーリーをより一層純化させて女性主体性を高めており、これはアーミル・カーン後継の逸材になるんじゃないかと期待したくなりますね。

日本も組織委員会やスポンサーありきのオリンピックばかりで、子どもたちのスポーツや運動の場は予算削減で潰されている現実と向き合ってほしいものです。大人が何に尽くすのか、考えましょう。子どもは見ていますよ。

『スケーターガール』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 93% Audience 86%
IMDb
6.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0

作品ポスター・画像 (C)Skatepark Films スケーター・ガール

以上、『スケーターガール』の感想でした。

Skater Girl (2021) [Japanese Review]