シン・シア覚醒の巻…映画『THE WITCH/魔女2 -増殖-』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:韓国(2022年)
日本公開日:2023年5月26日
監督:パク・フンジョン
The Witch 魔女 増殖
ざうぃっち まじょ ぞうしょく
『The Witch 魔女 増殖』あらすじ
『The Witch 魔女 増殖』感想(ネタバレなし)
やっと目覚めた、パート2
「Part1」があるなら「Part2」もある。そうあるべきです。じゃないと「Part1」と銘打つ意味もありません。
「Part1」と同時に「Part2」の製作&公開も決まっている作品もありますし、勢いを維持したまま突っ切るほうがいいに決まっています。日本の映画界では、最近も『鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー / 最後の錬成』や『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 運命 / 決戦』など、「前編・後編」のスタイルがいくつかの大作で普通に観察でき、コストを抑えてボリュームの多い原作をできるだけ映像化するのに都合がいいのでしょう。「ワーナー ブラザース ジャパン」はこのアプローチをよくとります。
ただ、映画の中には「Part1」とタイトルに入れながらも、その後の「Part2」が作られる兆しが一切見られない作品もあります。製作者は「Part2」も作りたい!という気持ちでいっぱいなのでしょうが、やっぱり映画企画はなかなか思うようにいかないもので…。
日本のお隣、韓国では「ワーナー ブラザース コリア」が同じく二部構成を狙ったのかなと思われる映画を公開したのですが、「Part1」に続いて「Part2」ができるまでちょっと時間があいてしまいました。
これはファンにはモヤモヤするお預けだったと思います。その作品は原作モノではないので、展開については誰も知らず、「これは次にどんな物語が待っているんだ」とハラハラさせるオチなのに、その答えをなかなか見せてくれないのですから。
そんな状況になった映画が2018年の『The Witch 魔女』です。本作は英題が「The Witch: Part 1 – The Subversion」と名付けられ、物語もいかにもプロローグというか、ここから本格的だな!というラストのクリフハンガーがあったりしたのですけど、肝心の「Part2」は2022年に公開となりました。短いようで長い4年間…。
その「Part2」となるのが本作『The Witch 魔女 増殖』です。
邦題はなんだかさっぱり続編だとわからないタイトルになってしまっていますが、英題は「The Witch: Part 2 – The Other One」。紛れもなく続編のパート2です。
そもそも前作は日本では限定的な劇場公開だったのであまり目立っていなかったんですよね。今作のパート2はもっと広く劇場公開されたのですけど、少しもったいない扱いです。
ジャンルはバイオレンス・アクションで、アメコミ映画みたいなとんでもない人外アクションが炸裂します。韓国映画界のアクションの新しい起点になった1作目よりも2作目は映像面でパワーアップ。「X-Men」っぽさが増量しました。韓国映画界のアクションは近年はすっかりハリウッド並みにド派手になりましたが、本作を見ると手慣れたなという感じです。
『The Witch 魔女 増殖』は、前作と同じく、『新しき世界』(2013年)、『隻眼の虎』(2015年)、『V.I.P. 修羅の獣たち』(2017年)、『楽園の夜』(2020年)の“パク・フンジョン”が監督しています。
とにかく何でもいいからバイオレンス・アクションが見たい!という人にはちょうどいい映画です。そんなに映像酔いを激しく助長するものはないのでご安心を。
『The Witch 魔女 増殖』を観る前のQ&A
A:1作目の『The Witch 魔女』は鑑賞を強くオススメします。『The Witch 魔女 増殖』は物語の展開として1作目を前提にしている部分がかなり大きく、1作目を観ないとわからないキャラクターも登場します。また、先に2作目のほうを観ると、1作目の驚きも半減してしまうのであまり推奨できません。
オススメ度のチェック
ひとり | :アクション映画好きも注目 |
友人 | :ダークなエンタメとして |
恋人 | :雰囲気が好きなら |
キッズ | :暴力描写多め |
『The Witch 魔女 増殖』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):少女、またも脱走
荒い息で血塗れで放心しているひとりの少女。牛舎の牛が続々と倒れて息絶えていく光景を目にして後ずさります。何か声が聞こえ、「早く来て」と語りかけているような…。
ところかわって1台のバス。ヘッドホンをした女子高校生が席に座っています。生徒たちは賑やかに先生と歌を歌って楽しそうです。隣の席には友達もいて雰囲気は良好です。
みんな疲れて眠ってしまう中、そのヘッドホン女子高校生は自分のお腹にそっと触れます。
バスはなぜか大きな道を外れて、厳重そうな門を通ります。採掘場のようです。前に座っていた教師たちが目配せしてガスマスクをつけ、催涙ガスを投げ入れてきます。パニックになる生徒たち。
そしてヘッドホン女子高校生だけが連れ去られ、目を覚ますと、手術台のようなものに寝かされていました。横には謎の女性が見下ろしており、近くにあるモニターではニュースが流れており、バスが斜面に落下したという報道が…。
「恐れないで」と女。その女の横にさらに別の女も…。
「妊娠してるわね。心配しないで」…女は二卵性双生児を妊娠していることが重要だと語ります。
年月が経過。風が吹きすさぶ地。サングラスをした女が煙草を吸っており、そこに1台の車。数人が降りてくるのをチラっと見ます。
そしてある施設。ガスマスクで武装した一同が、科学者を躊躇なく皆殺しにしながら制圧していきます。
さらに目覚めるひとりの少女。血だらけでぼんやりとしています。周囲は暗い廊下のようで死体と残骸が散乱。自分に繋がったチューブを取り払い、立ち上がって周囲を見渡します。
少女は凄惨な現場となった施設をとぼとぼと歩き、雪の外へと素足で出ます。階段を降り始めると急に耳鳴りに襲われ、周囲の雪が浮かび上がり、それは唐突に収まります。
一方、車列がとある建物に到着。チャンという男がペク総括に会いに来て、「子どもが消えました」と報告します。
その最中、施設を脱した少女は森を歩いていました。アスファルト舗装の道路にでると、1台の車が高速で通り抜け、すぐにバックして傍に止まります。車の中に引きずり込まれ、その相手はヨンドゥというヤクザたちの部下たちのようです。車内にはギョンヒという女性もいて、家の所有権を譲らないので連れて行かれたようです。
少女は男に触れられると、いきなり抵抗。男たちの手足は折られ、吹き飛び、車は事故を起こし…。
目覚めるギョンヒ 少女にゆっくり近づきます。スマホで救急を呼んでその場を自分は離れようとしますが、見捨てられず、ギョンヒはついてきてと手をとります。
とりあえず叔父を呼び、少女は倒れてしまったので、診療所をしている叔父は、少女の体から銃弾や破片、そして謎の機械を取り除き手当てします。あの子の傷は普通じゃないとギョンヒに伝えるしかできません。
ギョンヒは回復した少女を弟デギルと暮らす自宅に連れて行くことにしました。道中で表情豊かになった少女は風を感じ、犬や家畜に楽しそうに手を振ります。
自分を狙っている者たちが大勢いるとも知らずに…。
戦う前に誰か説明してくれませんか?
ここから『The Witch 魔女 増殖』のネタバレありの感想本文です。
『The Witch 魔女 増殖』、一応は2作目なのに相変わらずの謎だらけのスタートで、冒頭からこっちの頭には「?」がいっぱい浮かびます。どんどんキャラがでてくるわりには、説明しないと(そして説明してくれない)正体不明なやつばかりですからね。意図的にわかりづらくしているような感じさえある…。
まず冒頭で登場するバスに乗っていて誘拐される女子高校生。牛舎にいた少女の成長した姿なのだと思いますが、この子は妊娠していることからも、後に登場する本作の主人公の「少女」と、そして1作目の主人公で、本作に終盤に謎のサングラス女からやっと本格的に顔出しする女性「ジャユン」、この2人の母なのだろうと推察できます(それがわかるのも映画の最後なのですが)。
そして意味深な物語の根幹の謎を知ってそうな中心的女性。前作同様に『ヴィーナス・トーク 官能の法則』の“チョ・ミンス”が演じているのですが、前作ではペク博士で、今作ではペク統括となっており、双子らしいことがわかります。どういう立ち位置なのか全く不明です。
このペク統括と通じているのが施設管理責任者のチャン(演じるのは“イ・ジョンソク”)。彼も能力者のようですが、こちらも真意は不明。
さらに元軍人の秘密工作員だというチョ・ヒョン(演じるのは”ソ・ウンス”)が、外国人相棒とバディを組んでいて、2人ともこちらもなぜか能力者。背景はわからないけど、なんか楽しそうなコンビでしたね。最後も生きているようだし、これはまだ期待できるかも。
ジャユンは上海のチームに紛れていますが、完全に独自の思惑があり、終盤でいよいよ顔出しして登場する瞬間は、1作目を観た人にとっては「待ってました」という接続点です。
この一体どういう動機で動き回っているのか全容が掴めないものの、それぞれがバラバラなんだろうなと察せられる一同が、後半は一堂に会して、超人アクションで乱戦を繰り広げます。私としては「待って、戦う前にいろいろ説明してくれない?」って思いましたよ。この映画、説明役が全然いないんだもんなぁ…。
みんなもそうだと思うのですけど、本作を観る前は1作目で明かされなかった謎が2作目で明かされるに違いないと考えたじゃないですか。ところがどっこい、2作目も謎は謎のままで、次にあるかもわからない続編にまたも持ち越し。ドラマシリーズのエピソード1が前作だとしたら、今作はまたもドラマシリーズの別のエピソード1が始まった感じです。あれ、エピソード2は?…という放置状態。「Part2」さんが「いや、うちでは説明しきれん。Part3さんに任せるわ」と投げているようなもんです。「Part2」さん、もう少し頑張ってください。
あらためて考えるとすごい構成のシリーズ展開だな…。
後編ならぬ「妹編」
『The Witch 魔女 増殖』は1作目と同じ構成、「少女が施設を脱する」→「一般庶民に拾われる」→「追っ手に補足される」→「能力開花」…のパターンなので、余計に既視感があります。
言ってしまえば、本作は後編ならぬ「妹編」なのです。
「妹」を紹介する。この1点だけに専念しています。英語のサブタイトルも「The Other One」だし…。
前作は“キム・ダミ”という新人俳優をブレイクさせるための起点になったのですが、今作も1408人の中から抜擢された“シン・シア”をお披露目する魔女の会となりました。もうこのシリーズ、新人の子を発掘することに特化するのかな…。
今回も、無表情で佇みながらも魅せることができるという特技を求められ、そしてやたらとよく食べる演技も盛沢山。韓国ではこの2つの魅力が若手俳優にないとダメなのか…。
終盤はほぼ「少女(妹)」が棒立ちになりながら、周囲の人たちがバンバン吹き飛んで消し飛ぶだけですが…。テレキネシスありきで微動だにしないので、映像酔いしなくていいのだけど、もう完全に『ドラゴンボール』みたいな戦闘力だよね。これ、絶対に「少女(妹)」が本気出したら地球が割れたりとかするでしょ…。
前作の卵食いに対抗するような、今作のスーパーマーケットでのもぐもぐパラダイスなシーンはユーモアあって良かったです。生まれて初めて食べるキャットフードに大興奮の子猫みたいで…。遺伝子組み換え魔女はよく食うんだな、きっと。
“シン・シア”をお披露目するという意味では確かにこの『The Witch 魔女 増殖』だけでじゅうぶん魅力は伝わってきます。“シン・シア”をお披露目するだけでいいのかという疑問は拭えないけど…。
あと、ドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』の“パク・ウンビン”演じるギョンヒや、『隻眼の虎』の“ソン・ユビン”演じるデギルは、基本はやられる犠牲者の役なので、ちょっともったいないですね。この映画の世界観、平凡な庶民には大変厳しい…。
でもヤクザのボスであるヨンドゥを演じた“チン・グ”の小物臭はさすがに笑ってしまいました。てっきりコイツも能力覚醒して暴れまくるのかと思ったら、「これで終わりかよ!」っていう退場。これはいい“やられ役”です。美味しいです。
今作の“シン・シア”は、前作の“キム・ダミ”の「無垢に隠れた狡猾な知略」という要素と比べると、より「純粋な無垢」という雰囲気であり、あの姉妹が揃うとどんな化学反応になるのか。それが観客が最も見たい部分なのですが、またこの気持ちになりました、ええ、「Part3」はいつですか、と。
「Part3」があるなら「説明役ができて、もう少し頑丈な人」を用意してきてください。
そしてあの妹には暗黒面に染まらず、ひたすらに美味しいものを食べ歩いて制覇する旅とかに出発していってほしいです。「Part3」は姉妹グルメ旅行編だな。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 78% Audience 67%
IMDb
6.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
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韓国のアクション映画の感想記事です。
・『キル・ボクスン』
・『JUNG_E ジョンイ』
・『カーター』
作品ポスター・画像 (C)2022 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & GOLDMOON FILM.All Rights Reserved.
以上、『The Witch 魔女 増殖』の感想でした。
The Witch: Part 2 – The Other One (2022) [Japanese Review] 『The Witch 魔女 増殖』考察・評価レビュー