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『スプートニク Sputnik』感想(ネタバレ)…ロシア版「エイリアン」は恐ろしや

スプートニク

ロシア版「エイリアン」は恐ろしいと思ってはいけない…映画『スプートニク』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Sputnik
製作国:ロシア(2020年)
日本公開日:2021年3月26日
監督:エゴール・アブラメンコ

スプートニク

スプートニク

『スプートニク』あらすじ

1980年代のソビエト。順調に任務をこなし、地球への帰還間近だった宇宙船スプートニク号で謎の事故が発生し、ほぼ全ての乗組員が死亡した。唯一生還したのはひとりの男。しかし、その存在は隠蔽され、カザフスタンのソビエト秘密軍事施設に監禁される。政府や学会から疎まれる医師のタチアナは、軍の命令によって理由もよくわからないままにこの施設へ送り込まれる。そこで彼女が目にしたのはあり得ないものだった…。

『スプートニク』感想(ネタバレなし)

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神はいなかった。でも別の“何か”はいた

2021年はちょうどソ連の宇宙飛行士であるユーリィ・ガガーリンが世界初の有人宇宙飛行を達成してから60周年を迎えるそうです。

1961年4月12日、ボストーク1号に単身搭乗したユーリィ・ガガーリン。誰もが生還は厳しいと思っていた中、ガガーリンを乗せた宇宙船は、上手く地球周回軌道に入り、大気圏外を1周して地球に帰還しました。まさに人類が宇宙への一歩を踏み出したスタートラインです。

このとき、ガガーリンが言ったとされる言葉…「地球は青かった」…は非常に有名です。

しかし、もうひとつ有名な言葉があります。それが「ここに神は見当たらない」というセリフ。実際のところそんな発言をした記録はなく、あれこれと噂と妄想がひとり歩きして生まれた架空の名言らしいですが、なんにせよガガーリンが言いそうな言葉として広く受け止められています。

宇宙船の窓から見える青い地球。それだけの絶景を見渡せば神にだって邂逅できそうですが、そうもいかなかった…。

けれども。神は見かけなくても、もっと別の“何か”を見かけていたら? そう、もっと信じられない存在を…。

そんな刺激的な創造を膨らませてくれる映画がロシアから送られてきました。それが本作『スプートニク』です。

まずポスターの話から。日本の本作の宣伝ポスターは忘れてください(直球)。

中央にいかにもワイルドなガン・アクションをこなしてきそうな女性が陣取っていますが、そういう映画ではありません。戦闘ヘリがやたらと映っていますが、ド派手な大規模戦闘は起きません。「SFサバイバル・アクション大作」という売り文句もハズレています。スケールはそこまで大きいものじゃないです。

また「全米大ヒット」と書かれていますが、真っ赤な嘘です。コロナ禍での本作の初期興収は約1万1000ドル。同時期公開の『スポンジ・ボブ』最新作の興収約91万ドルと比べると言うまでもありません。

そもそも『スプートニク』はロシア映画なのになぜ全米のヒット状況の話を持ち出すのか。アメリカ映画だとミスリードさせたいとしか思えない…。

こんなことを書くと、「じゃあ、つまらないのか…」とガッカリして後ろを振り向かれるかもしれませんが、ちょっと待ってください。ちゃんと偽りゼロで正しく映画の魅力を紹介しますから。

『スプートニク』は端的に言ってしまえば、人間と地球外生命体が邂逅するというファースト・コンタクトを描いており、ドラマの主軸はその交流にあります。最近で言えば『メッセージ』に近いものであり、明らかにその影響を感じさせる点が随所にあります(スケールは少し小さいですけどね)。

ロシア版『エイリアン』と表現できるかはわかりませんが(モンスターパニック要素は薄い)、『エイリアン』的な得体の知れない地球外生命体の描写は堪能できます。とくにそのデザインは『スプライス』(2009年)を彷彿とさせるような、絶妙に生理的嫌悪感と好奇心を併発させるバランスになっており、ここも注目です。

あと史実のロシア宇宙開発史もクロスオーバーするような…。このへんは後半の感想で詳しく。

つまりどういうことか。『スプートニク』はSFマニア向けのうってつけな映画だということです。B級的な安っぽさはなく、むしろコンパクトにアプローチが研ぎ澄まされたSFですので、好きな人はたっぷり味わえるでしょう。

『スプートニク』の脚本を手がけるのは、“オレグ・マロビチュコ”“アンドレイ・ゾロタレフ”の2人で、『アトラクション 制圧』『アトラクション 侵略』というロシアSF侵略モノのシナリオで界隈では知られています。今回もまたも同系統ですが、やや変化を加えてきており、前作よりも散らかっていない脚本だと思います。監督の“エゴール・アブラメンコ”は『アトラクション 制圧』で第2監督を任せられていた人物です。

俳優陣は、『リリア 4-ever』の“オクサナ・アキンシナ”、『ワールドエンド』の“ピョートル・フョードロフ”など。さらに『アトラクション』2作を監督した“フョードル・ボンダルチュク”も重要な役で登場。主要なキャラクターの数は少なめ。

『スプートニク』は本国ロシアでもパンデミックのせいでネット配信になってしまったそうですが、それでも最大級の再生回数を記録したとのことで、製作陣の信頼の高さが窺えます。

日本では「未体験ゾーンの映画たち2021」上映作品という位置づけになりましたが、2021年は動画配信サービス「U-NEXT」にてオンライン上映も同時に行われているので比較的見やすいのではないでしょうか。一部の局所的なイベントがこうやって動画配信サービスと連携してくれるのは嬉しいですよね。地方住まいの人や育児・介護で動きづらい人は大助かりだと思いますし。毎年そうして欲しい…。

こういうジャンルが好物の人は、ぜひとも鑑賞リストに加えておいてください。

オススメ度のチェック

ひとり3.5:ジャンル好きは要注目
友人3.5:SF好き同士で
恋人3.5:趣味が合うなら
キッズ3.5:多少の暴力描写あり
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『スプートニク』予告動画

スプートニク
↓ここからネタバレが含まれます↓

『スプートニク』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):生命体の寄生

ソ連がまだ最後の全盛期を味わっていた頃。多数の国のボイコットもなんのその、1980年にはモスクワオリンピックを開催。ソ連にしてみれば自分たちを打ち負かす存在など現れるはずがない、そう思っていました。

しかし、それは唐突にやってきます。

1983年。軌道研究ミッションに従事するソ連の宇宙飛行士たちは狭い船内空間で談笑。任務を終えて何をするかと互いの希望を語っていました。すでにもう地球が懐かしいです。いよいよ帰還に向けて宇宙船を動かします。

一瞬の衝撃。でも回復。安心する一同。

しかし、ひとりが何かを窓の外に見ました。今のは? 一同は固まります。

それから…。カザフスタンでパラシュートが落下してきます。大地には宇宙飛行士の無残な遺体。血まみれです。生存者はひとりだけ…その目は虚ろで、どこか異様…。

モスクワの研究機関。解雇の危機にあった医療の専門家のタチアナに、ある男が話しかけてきます。それはセミラドフ大佐であり、ひとりの患者について診てほしいとのこと。その患者を連れては来れないらしいです。軍の命令で動いているようで、とりあえずタチアナは向かってみることにします。

ヘリに乗っている間、宇宙船の話を持ち出されます。確かに先日、宇宙船の墜落のニュースを聞きました。しかし、それは報道規制がかかっており、実際は着陸の1日前に異常があって、コンスタンチンという宇宙飛行士ひとりが回収されていると言うのです。なんでも記憶障害のようなものが見られるとか…。

車に乗り換え、何もない荒野に厳重な警備のもと建つカザフスタンのソビエト秘密軍事施設に到着。

さっそくタチアナはその例の宇宙飛行士の男・コンスタンチンのもとへ。彼は自分の名前すらもあやふやのように回答しており、担当医師・リゲルもお手上げの様子。

今度はタチアナが直接会話してみます。自分は元気で健康だと淡々と答えるコンスタンチン。すぐに出てきたタチアナはPTSDだときっぱり分析。「明日には帰らせて」と仕事を終えた気分です。とりあえず今日は部屋に一泊することになります。

基本は自由に敷地内を移動していいというので、夜にランニングしていると、この施設にはなぜか受刑者が複数いることがわかります。

その後、急に呼び出されるタチアナ。コンスタンチンの監視モニターを見るように言われ、じっと視聴すると、彼はいきなりベッドから不自然に飛び上がります。そして、彼の口から“何か”が出てくる…。

それは腕のようなものを生えさせ、のそっと動きます。生き物なのか。近くで見てみるかと言われ、ガラス越しに接近。それはこっちをじっと見つめるように振舞い、かと思えば飛びかかってきて驚くタチアナ。

信じられないものを見てうずくまるしかないタチアナです。「何なの?」「わからない、明らかの地球の生物ではない」

コンスタンチンに寄生しているようで、寄生体を宿主から分離する方法を見つけ出してほしいと言われます。それが本当の目的でした。

寄生体がなければ彼のバイタルサインは低下するも、一緒にいることで驚くべき回復能力を持ちます。普段は30㎝ほどで体内に、体外に出ると1mを超えるという驚異の生命。

タチアナはまた面談し、「俺はスパイじゃない」と語るコンスタンチンに挑発的なことを言って心理的ストレスを検査します。

夜にまたあの生き物と対面。今度は座り込み、向き合います。同じ目線で。体を横たえると、その生き物もマネをします。

この生物の狙いは何なのか。そもそも狙いはあるのか…。

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ガガーリン陰謀論を刺激する

『スプートニク』は割とシンプルなファースト・コンタクトものですが、随所にロシアらしさがあります。

まずはあの寄生されることになるコンスタンチンという男です。

彼は架空の人物ですが、その存在は前述したユーリィ・ガガーリンに重なるものがあります。ガガーリンは間違いなく当時のソ連にとって英雄です。しかし、その人生は実績をあげてからの後でもバラ色ではありませんでした。

ガガーリンは精神的に弱っていき、自傷行為を含む不安定な状況に追い詰められます。そして、1968年3月27日、戦闘機で飛行中に墜落事故を起こし、死亡。34歳というあまりにも若すぎる死でした。

このガガーリンの死はいろいろな陰謀論の格好の素材になります。ソ連の政府による証拠隠滅があったのではないかとか。

『スプートニク』のコンスタンチンの帰還後に辿る人生もそのガガーリン陰謀論を刺激するような構成です。コンスタンチンは神は見ませんでしたが、地球外生命体を目撃、しかも自分と一体化してしまいます。そして己の英雄性を表面上は纏いつつも、内心ではどうすればいいのかわからない。そうやって心理的にも孤独を抱えていくことに。

そんなコンスタンチンですが最後は英雄的犠牲によって終止符をうつ。真の英雄は人知れずにその大役を果たすという、ロシア好みなヒーロー・ストーリーではないでしょうか。

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私利私欲に走る権力男、未来を担う女

一方で『スプートニク』の悪役と言える、あの大佐はロシア的ないかにもな悪い奴です。つまり、私利私欲で権力で得ようとする人間ということ。

冒頭でタチアナにわざわざ自分から接触してくるあたり、今回の一件はかなりあの大佐の独断専行なのが推察できます。KGBとか、そういう政府主導の感じはありません(だとしたらもっと大掛かりになる)。おそらくここでエイリアンを使った兵器化の足掛かりを自分で構築しておけば、その後のキャリアでも優位に立てると思ったのでしょう。そういう政府には明かせない目論見があるからこそ、業界から爪弾きにされているタチアナに目をつけたわけです。

要するにあの大佐はソ連にとっても裏切り者であり、私的な利益で社会を乱す国家反逆者です。ロシアとしてはああいう存在は今でも徹底的に敵認定しますからね。

対するタチアナはなかなかにアグレッシブな女性像になっているのですが、基本はエイリアンに対して理解を示します。ああやって女性研究者が意思疎通を図ろうとガラス越しにコミュニケーションを探る感じは、『メッセージ』とそっくりであり、製作陣も意識したのかなと。

神経生理学のはずなので、検疫とか寄生なんてものは専門外だと思いますし、いくら何でも分析しきれないだろうとはツッコめるのですけど…(でも神経生理学ってどこまでを対象にしているのか私にもわからないな…)。

タチアナに期待されている役割は、献身的家族愛という割とステレオタイプな女性像に最後は着地するので、そこはもっと飛躍してほしかったですかね。

あとこれはふと思ったことなのですが、本作でも「歌」が大きな要素になったりしています。ロシア人は割と「歌」が日常的に自分を構成するエッセンシャルなものになりがちなんですかね。本作以外でもいくつかのロシア映画で「歌」が活躍しているのを見かける気がする…。

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ソ連の末路も感じさせる

『スプートニク』が1980年代前半を舞台にしていることも重要だと思います。

この時期のソビエト連邦は好調でした。レオニード・ブレジネフの長期政権は安定的。しかし、長老支配のひずみはこの1980年代前半にも現れだします。

そして1980年代後半になると、ミハイル・ゴルバチョフ政権によって腐敗した政治体制の改革が断行され、社会は揺らぎます。1986年4月のチェルノブイリ原子力発電所事故はそのソ連の古い腐敗が生んだ最悪の出来事でした(ドラマ『チェルノブイリ』を参照)。

こうして冷戦終結、ソ連崩壊へと突き進んでいくことに…。

『スプートニク』におけるあの正体不明なまま終わる寄生生命体もいろいろ示唆的です。あれはソ連社会に潜む腐敗の象徴と言えるかもしれません。いや、逆に古きソ連に激震を起こす新たな変革の兆しと捉えることもできるでしょう。

あの寄生生命体は対象者の恐怖に反応します。恐怖という感情を抱くとそれを嗅ぎ分けて攻撃し、捕食する。こういう設定は『DAU. ナターシャ』でも描かれたようなソ連全体主義の支配性そのものだとも思います。怖がるような奴は社会の裏切り者であり、抹消すべき。全体主義はそうやって人民をコントロールしていきます。

けれどもその恐怖をなぜ感じるのかが大事。権力者が恐怖を感じるのは自分の権力基盤が失われるときです。作中での描かれ方を見ると、あの大佐と寄生生命体は相性がいいように見えます。大佐もそんなに怖がらずにあの生き物と向き合っていましたし。もしかしたら本当に手を取りあう未来がありえたのかもしれない。するときっと恐怖を感じることになるのは当時のソ連の権力者でしょう。大佐と寄生生命体のタッグがソ連社会を上書きしていくことになるのですから。

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エイリアンのデザインも良し

また、あのエイリアンのデザインも個人的には良かったです。

ああいう生物学的に説得力のあるコンセプトになっているのは大満足です。『ライフ』という映画が最近もありましたが、それよりもさらに進んだ生命体としてのリアル寄りの躍動感。腕が生え、やがては仁王立ちできるまでに身体変化する感じも。

真正面て対峙したときの、怖そうに見えるけど、「あれ?でも少し愛嬌もあるかな?」というさじ加減の顔つきもいいと思います。

まあ、あくまでリドリー・スコット監督の『エイリアン』(1979年)の延長線にあるデザインですけどね。ほんと、『エイリアン』のデザインはいまだに通用するなぁ…。

ということで、『スプートニク』は好事家向けではありますが、味わいもじゅうぶんな一本でした。

『スプートニク』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 89% Audience 71%
IMDb
6.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0

作品ポスター・画像 (C)Vodorod Pictures LLC, (C)Art Pictures Studio LLC, (C)Hype Film LLC, (C)NMG Studio LLC, 2020

以上、『スプートニク』の感想でした。

Sputnik (2020) [Japanese Review]

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