ここまで異色すぎるディズニープリンセスは他にない?…アニメシリーズ『悪魔バスター★スター・バタフライ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2015~2019年)
シーズン1:2015年にディズニー・チャンネルで配信
シーズン2:2016年にディズニー・チャンネルで配信
シーズン3:2017年にディズニー・チャンネルで配信
シーズン4:2019年にディズニー・チャンネルで配信
原案:ダロン・ネフシー
恋愛描写
悪魔バスター★スター・バタフライ
あくまばすたー すたーばたふらい
『悪魔バスター★スター・バタフライ』あらすじ
異次元の魔法の国ミューニのプリンセスであるスター・バタフライは、14歳の誕生日に王家に伝わる魔法のステッキを受け継いだ。しかし、魔法をうまく使えずに問題を起こしてしまい、宇宙でも安全な星である地球で修行するように母親に命じられる。その地球、アメリカの学校に交換留学生として編入したスターは、マルコ・ディアスという少年の家にホームステイすることになるが…。
『悪魔バスター★スター・バタフライ』感想(ネタバレなし)
ディズニープリンセスを語るならこれは外せない
ディズニープリンセス…それは進歩的な女性像か、それとも保守的な女性の残像か。それらを論じ始めれば話は尽きないほどに語りがいのあることです。すでに多くの論考も出揃っています。
この私のブログでも『プリンセスと魔法のキス』や『塔の上のラプンツェル / ラプンツェル ザ・シリーズ』の感想記事にて、ディズニープリンセスについてクリエイターはどう描こうとしているのか、稚拙な文章ではありますがあれこれ書きました。
しかし、それら世間に転がっているディズニープリンセス論においても、あまりこの作品を考察に加えるものは見かけないように思います。それが本作『悪魔バスター★スター・バタフライ』です。
何それ?と思うかもしれません。ディズニー好きじゃないと知らない…というか、カートゥーン・マニアでないと知らない作品でしょう。
本作は映画ではなく「ディズニー・チャンネル」で2015年から放送されているアニメシリーズ作品です。制作は「Disney Television Animation」ですから、れっきとしたディズニー作品なのは間違いありません。
ディズニー・チャンネルでは以前からオリジナルのアニメシリーズがいくつも展開されていました。例えば、『フィニアスとファーブ』(2007年~)、『怪奇ゾーン グラビティフォールズ』(2012年~)、『ふしぎの国 アンフィビア』(2019年~)などなど。どれもディズニーの長編映画とは違う個性を放つものばかり。それでもアニメーションのクオリティはさすがのディズニー品質であり、やはりアニメーター育成に昔から投資してきているディズニーは別格だなと思わせますね。
で、この『悪魔バスター★スター・バタフライ』なのですが、作品をゼロから生み出したのは“ダロン・ネフシー”というクリエイターです。彼女はウォルト・ディズニーがアニメーター育成の場として率先して尽力したことでも知られるカリフォルニア芸術大学の卒業生。在学中にアイディアを思いつき、ディズニーに企画が認められ、GOサインが出たのだとか。
本作の主人公の女の子はプリンセスという設定です。これだけ見るといかにもディズニーっぽい。ところが内容は定番のディズニープリンセスとは規格外。
まず「魔法少女モノ」でもあるんですね。なんでも原案の“ダロン・ネフシー”いわく『セーラームーン』『カードキャプターさくら』などの日本アニメを大いに参考にしているそうで、確かに日本アニメとカートゥーンの合わせ技のようなインパクトがありますし、作中でもパロディやオマージュがいくつも見られます。当初は魔法少女に憧れる子どもという設定があったようです。
そんな魔法のある世界からやってきた破天荒なプリンセス少女が地球の少年と出会い、ハチャメチャな騒動を起こしていくのが基本のストーリー。この構図はなんだか『うる星やつら』風ですし、ちゃんとロマンス要素もあります。
とにかくディズニーにしては尖りすぎているクセのある世界観とキャラクターが話題を呼び、放送時からファンを獲得。局所的に人気となりました。
また、これは日本限定の話題ですけど、なぜか日本語吹き替え版では主人公のプリンセス含め、魔法の世界の住人がみんな「関西弁」を喋る翻訳になっており(しかも妖精は「京言葉」を話す)、そのせいでますます個性がトッピングされてカオスな感じに。これはこれで最初は「なんだこれ!」って思うのですが、観ているうちにそれが普通になって溶け込んでいくので大丈夫です(主人公のプリンセスの日本語吹き替えを担当するのは関西出身の“植田佳奈”)。むしろこの特徴もあって日本のカートゥーン・マニアの間でも注目を増しましたし…。
そんな『悪魔バスター★スター・バタフライ』ですが、単に色物として片づけられる作品ではなく、ディズニープリンセスの進むべき未来の突破口を開いている存在だったとも思います。ジェンダーやセクシュアリティの観点からも語れる部分があるのです。その話は後半の感想で。
『悪魔バスター★スター・バタフライ』は現時点(2021年2月)では「Disney+」で配信されているので、そちらで気軽に観れます。
オススメ度のチェック
ひとり | ◯(プリンセス論は語るなら) |
友人 | ◯(カートゥーン好きと) |
恋人 | ◯(暇つぶしに流すのも) |
キッズ | ◎(小さい子は楽しい) |
『悪魔バスター★スター・バタフライ』予告動画
『悪魔バスター★スター・バタフライ』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):魔法で楽しく
とある次元に存在する魔法の国「ミューニ」。そこは王族が統治しており、そのプリンセスであるスター・バタフライは14歳の誕生日を迎えました。しかし、おてんばで元気爆発なスターはプレゼントとして両親から貰った「魔法のステッキ」を乱用してしまい、きつく怒られます。母であるクイーン・ムーン・バタフライはいつも娘に対して口を酸っぱくしており、スターにしてみればうんざり。父であるキング・リバー・バタフライは野外に遊びに出かけるような自由奔放さで、スターはどっちかと言えば父のような生き方が好きです。
とにかく母に叱られただけでなく、立派な女王になるべく存在として教育すべく、地球という別の次元の世界に送り飛ばされることになってしまいます。そこは怪物もいない安全な場所らしいです。
こうして地球の「エコー・クリーク」という町にやってきたスター。さっそく子どもたちが通う学校に行くも常識が違うせいもあって浮いてしまいます。
そこで出会ったのがマルコ・ディアスという同年代の少年でした。彼は口では勇ましいことを言っており、空手を習っているようですが、実際は臆病で慎重で安全第一の性格。
しかし、なんとなく馬が合ったのでこのマルコの家族のもとにホームステイすることになります。マルコの父と母は温かく迎えてくれました。学校にもすぐに慣れ、オカルト好きのジャンナなどクラスメイトとも友人になり、地球生活を満喫。
でもそこに邪魔者が。それはルードという小生意気な小さい怪物が率いる悪党軍団。スターの持つ魔法のステッキを狙っており、地球でも遠慮なしに襲い掛かってきます。けれどもスターは持ち前の想像力を武器にした魔法の技でルードたちを撃退。マルコのサポートもあるのでへっちゃらです。
ただ、母に命じられた良い子になるという約束はあまり守れておらず…。次元切りハサミを使って別の次元に出かけたり、しょっちゅうここでも親の目を盗んでハメを外しています。スターの親友のユニコーン(生首)のポニー・ヘッドが遊びに来たりするととくにトラブルも増大です。クエスト・バイという異次元のデパートではヘンテコな商品がいっぱい売っており、マルコはおっかなびっくり。
さらにスターの元カレで三つ目の悪魔の青年にして黄泉の国のプリンスであるトム・ルシトールがマルコに対して嫉妬全開で勝負をしかけてきたり、一難去ってまた一難、騒動は絶えません。
スターには「ミュニ春期」(ミューニでの思春期に該当するものらしい)が到来し、やや魔法の力が暴走したあげくに、背中に小さな羽が生えるようになったりと、成長の真っ最中でもあります(蝶のような姿ですが、この「蝶」というキーワードは作中でいろいろ登場しています)。カッコ良さそうな男の子に恋をしたりもします。
一方で、故郷のミューニにはスターが知らない秘密がありました。かつてミューニを支配していた暗黒の女王であるイクリプサ、そしてミューニを支える実力者が集う「魔法委員会」。
そこには普段は子どもには正しい振る舞いを要求している大人たちの、子どもには見せられない正しくない歴史があり…。
プリンセスは人生を謳歌したい
『悪魔バスター★スター・バタフライ』の前半シーズンは「プリンセスらしさ」に抗う物語だと言えます。スターは言ってしまえば「プリンセスらしくなりなさい」という教育のために地球に送られてくるのであり、そして学校の通うことになるというのはなんとも皮肉。確かに私たちの社会はそういう押し付けに溢れていますからね。
しかし、スターはそんな圧力を跳ね飛ばしてしまいます。やりたいように遊ぶ、行ってみたいところに行く、好きな人に恋をする…自由一直線です。
魔法少女的でありながらも魔法の使い道も自由気まま。とくに世界を救わないといけないとか、オシャレに変身するとか、そういう気負いは一切ありません。
スターのデザインもいいなと思います。典型的な女の子らしさの枠にハマらず、それでいて子どもの無邪気さそのまま。黄色い髪は『セーラームーン』を連想しますし、魔法のステッキは『カードキャプターさくら』の雰囲気がありますし、ほんと、日本の魔法少女系統なんですけどね。使う魔法も「イッカクブラスト」など、子どもが絵に描いたようなものがそのまま飛び出す感じで楽しいです。
ちなみにユニコーンが暮らす「魔法の領域」(その場でじっとしていると正気を失う)の世界は、なんとなく手塚治虫っぽさがあったようにも…。
プリンセス更生施設「セイント・オルガ」を抜け出し、いろいろなプリンセスたちに前向きな未来を提示して、スターは輝いていました。
王族特権は捨ててもいい
一方、後半シーズンになるとストーリーのトーンが少し変わって、今度は王国の存亡を賭けた戦いの話になっていきます。
このあたりはプリンセスとしての「統治者」の真価が問われる物語です。『ラプンツェル ザ・シリーズ』でも『アナと雪の女王2』でも、この「どうやって国を統治する責任を担うか」というのはテーマになっていました。
しかし、この『悪魔バスター★スター・バタフライ』はそれらよりももっとあっけらかんとした踏み込みをしていると思います。
物語が進んでいくと、実はスターの両親といった過去の世代には封印した歴史があることが浮き彫りになります。それは本来の王位継承者を踏みにじり、蚊帳の外に追いやってしまったという暗い過去。イクリプサと怪物たちへの偏見と憎悪を国民に植え付けてきた事実。
これらは現実的に例えるなら歴史問題ですね。その親すら目を背けてきた自国の歴史問題にスターは向き合うことになります。
で、どうするのかというと割とあっさり王族としての立場を捨ててしまいます。正しい人に王位を渡し、自分たちはそれを支え、過去の清算のために真摯に行動をしようと。
こういうプリンセスの務め方というのはあまりなかったかな、と。まあ、実際の王族はこんな決断は早々できませんからね。
また、ロマンス方面ではスターは自由恋愛を楽しんでいたように思います。そもそもあの両親もそこまで恋愛を押し付ける感じでもないんですよね。なのでスターはプリンセスの中では特異に思えるくらい、あれこれと恋を試すことに積極的。これまでの「1対1」で添い遂げるディズニープリンセスとは全く違いましたね。
ポニー・ヘッドの友人のケリー(髪に覆われ、頭にタッドというボーイフレンドが乗っている)の件といい、本作の恋愛の描き方が子ども向けとは思えない大人の落ち着きがあるような気がする…。
結果、スターは分断した世界を繋げることに成功します。それこそ魔法のように。
ディズニー初の同性愛キス?
『悪魔バスター★スター・バタフライ』はジェンダーやセクシュアリティの観点からもこれまでのディズニー作品にはない前進を少し見せてくれました。
女の子らしさという点では主人公のスターについてすでに語ったとおり。
それに加えてもうひとりの主人公のマルコも例外ではありません。マルコは「男らしさ」にこだわっており、そうあろうと自分で努力しているようですが上手くいきません。明らかにマルコにはそれは向いていません。
そのマルコですが、どうやら女装に対してそこまでまんざらでもない反応を見せます。セイント・オルガへポニーヘッドを助けに行った際、プリンセスに変装して以降、この女装姿がさまになってきます。
一方でヘカプーの次元・ネバーゾーン(時間の進みが違う)では筋骨隆々のマッチョな男になり、「エル・チャポ」という剣や「ナチョス」と名付けたドラゴンバイクを携えて勇ましく戦います。
こうした二面性からマルコという少年がジェンダーの在り方にすごく揺らいでいる感じが伝わってきます。
最終的にはマルコはスターの魔法のステッキを駆使して戦っており、男の子でも魔法のステッキを手にしてもいいという肯定感を示す着地は爽やかでした。
そのマルコの当初の片思いの相手にして実際に交際するも結局は別れることになるジャッキー・リン・トーマス。彼女とはシーズン4で久しぶりに再会するのですが、そのときにジャッキーはフランスで出会った女の子の恋人と新しく付き合っていました。つまり、ジャッキーはバイセクシュアルとして描かれています。
実はこの『悪魔バスター★スター・バタフライ』はディズニーアニメ作品では初めて同性愛を明示的に描いた一作だと言われています(これに関しては何をもって同性愛を明示したとみなすかでいろいろ意見もあるのですが)。具体的にはシーズン2の「Just Friends」というエピソードで観客の中に同性同士でキスをしているカップルが描かれています。ただの背景に過ぎないのですが、それでも同性のキスであることには変わりないです。
2016年時点でいまだにこの程度の描写しかできないのか…と思うかもですが、この本作の後に2020年の『アウルハウス』というディズニー・チャンネルで放送されているアニメシリーズで、バイセクシュアルのメインキャラクターが堂々とロマンスを展開した快挙を成し遂げたわけで、その布石はこの『悪魔バスター★スター・バタフライ』にあったんですね。
それらを考えると、この『悪魔バスター★スター・バタフライ』は保守的と言われがちなディズニーの空気に新しい魔法をかけた最初の功労者だったんだと思います。
海外の子ども向けアニメの業界はことさらLGBTQ表象に消極的だった歴史は『アドベンチャー・タイム』の感想記事でも書きましたが、それも過去のものにしようと動き出しています。
新しい魔法はもっとたくさんの子どもたちに届くといいですね。
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 100% Audience 92%
S2: Tomatometer –% Audience 92%
S3: Tomatometer –% Audience 78%
S4: Tomatometer –% Audience 62%
IMDb
8.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★
作品ポスター・画像 (C)Disney 悪魔バスタースターバタフライ
以上、『悪魔バスター★スター・バタフライ』の感想でした。
Star vs. the Forces of Evil (2015) [Japanese Review] 『悪魔バスター★スター・バタフライ』考察・評価レビュー