スナイダー脳内世界第1弾…Netflix映画『REBEL MOON: パート1 炎の子』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2023年)
日本では劇場未公開:2023年にNetflixで配信
監督:ザック・スナイダー
セクハラ描写
REBEL MOON パート1 炎の子
れべるむーん ぱーとわん ほのおのこ
『REBEL MOON パート1 炎の子』物語 簡単紹介
『REBEL MOON パート1 炎の子』感想(ネタバレなし)
ザック・スナイダーの脳内宇宙ワールド
映画監督にとって「自分の作りたいものを全て作れる」というのが何よりも本望なのかもしれません。でも製作費などいろいろな都合や制約が立ちはだかるのでそう理想どおりにはいきません。大作だとなおさらです。
しかし、“ザック・スナイダー”はそのチャンスを掴めたようです。
2010年代から『マン・オブ・スティール』『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』と「DCエクステンデッド・ユニバース(DCEU)」を始動させた“ザック・スナイダー”でしたが、ワーナー・ブラザースの方針転換で見切りをつけられ、『ジャスティス・リーグ ザック・スナイダーカット』という思い出を残して去ることになりました。
その宙ぶらりんで捨て犬状態になった“ザック・スナイダー”を拾ったのが「Netflix」。
そしてこの動画配信サービスの巨人の力を借りて“ザック・スナイダー”は自分がやりたかった企画を実現するべく一歩を踏み出しました。
それが本作『REBEL MOON パート1 炎の子』です。
もともと『スター・ウォーズ』の新企画としてルーカスフィルムとディズニーに売り込んだものだそうで、それが断られると、オリジナル作品としてワーナー・ブラザースに提案しますが、自分ごと売り払われてしまい…。
そんな経緯があるので、本作はもろに『スター・ウォーズ』です。壮大なスペースオペラの世界観で、銀河を支配する強力な権力者がいて、それに反乱を起こす抵抗者が主人公で…。既視感が凄いです。
設定のあれこれが、「これは『スター・ウォーズ』のアレ…あれは『スター・ウォーズ』のコレ」と説明できるくらいの一致率ですが、違うところもあるのでね…。どこが違うのか、見てのお楽しみ。
とにかく言えるのは全編にわたって“ザック・スナイダー”の趣味全開ということです。そもそもビジュアルへのこだわりが異様に徹底しているクリエイターでしたが、今作は“ザック・スナイダー”の好物の映像だけで結集しました!というノリなので、私は「おお…やってるな…」ってなりましたよ。
また『REBEL MOON パート1 炎の子』というタイトルのとおり、本作は1作目で、すでに「パート2」の公開を2024年4月に控えています。そして3作目も作る気満々で、さらにゲーム、コミック、アニメと、フランチャイズをドドーンと展開予定。大丈夫か、そんな風呂敷広げて…。Netflixもたぶん捨てるときは平然と捨ててくるぞ…。
俳優陣は、“ザック・スナイダー”らしいチョイスです。
主人公は『CLIMAX クライマックス』の“ソフィア・ブテラ”。そこに並ぶのは、『ケイト』の“ミキール・ハースマン”、『ジェントルメン』の“チャーリー・ハナム”、『シャザム!〜神々の怒り〜』の“ジャイモン・フンスー”、ドラマ『SUPERGIRL/スーパーガール』の“スタズ・ネアー”、『あしたの少女』の“ペ・ドゥナ”、『ジャスティス・リーグ』のサイボーグ役の“レイ・フィッシャー”、『アリータ: バトル・エンジェル』の“エド・スクライン”など。
“レイ・フィッシャー”を起用してくれるのは、“ザック・スナイダー”の優しさを感じる…。いろいろありすぎたからね…。
ただ、ビジュアルは間違いなく超大作という堂々の面構えの『REBEL MOON パート1 炎の子』なのですが、劇場公開はしてくれていないんですよね。Netflixの劇場公開判断基準がさっぱりわかりにくいけど、賞レース作品を優先する方向性なのかな。
そんなこんなで、この映画で”ザック・スナイダー”の脳内宇宙ワールドを冒険すると、”ザック・スナイダー”のプロテインが大量注入されますよ。
『REBEL MOON パート1 炎の子』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2023年12月22日から配信中です。
オススメ度のチェック
ひとり | :監督のファンなら |
友人 | :気軽なエンタメ |
恋人 | :趣味に合うなら |
キッズ | :やや暴力描写あり |
『REBEL MOON パート1 炎の子』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):辺境から反逆は始まる
宇宙に広がるマザーワールドは王による強大な統治が千代にわたって続いていました。しかし、代々の王の権力欲は星々を食らい尽くしました。王国(レルム)は軍を広大な宇宙へと進め征服を繰り返します。その栄光は永遠かと思えましたが、ある暗殺者の手によって王家の血統は途絶え、時代は変わります。王の死は混乱を生み、辺境の星では革命が囁かれ始めました。元老院議員バリサリウスはこの機に乗じ、権力を奪取して自らを摂政と称しました。そして最も残忍な司令官を辺境の地に派遣します。反乱軍を名乗る者を殲滅するために…。
辺境の衛星ヴェルト。農畜で生計を立てている小さな村にて、荒地でひとりの人物が耕す作業に汗を流します。名前はコラ。そこへひとりの男がやってきて、「デンが捜してた」と言ってきます。
デンたちが狩ったユキジカの肉を食べながら、住人とまったりした時間を過ごすコラ。将来のことを示唆されますがコラは身を固めることに興味ないと冷たく答えます。「私は戦争の子。愛されるなんて考えていない。愛は弱さになる」
翌日、友人のサムと農作業をしていると上空に巨大な宇宙船の軍艦が出現。マザーワールドの軍です。顔色を変えて走り出すコラ。鐘を鳴らして危険を知らせます。
長老であるシンドリを前に議論します。ガンナーは「恐れすぎだ」と語り、革命になんて興味ないようで、好意的に接しようと提案。それをコラは甘いと警告しますが、とりあえずシンドリは穏便に対応するべく、迎えます。
小型の宇宙船から降りてきたのは、アティカス・ノーブル提督です。気さくにシンドリにハグしてきて、デヴラ・ブラッドアックスと弟ダリアンの一味を探していると言ってきます。さらに食料を供給してほしいとお願いもしてきます。
シンドリはできる限り資源を隠そうとしますが、ガンナーは少し余裕があると喋ってしまいます。するとノーブルはシンドリを躊躇なく殺害。豹変して収穫時期を聞き出し、10週間後に戻ると告げ、すべて頂くと宣言します。何人かの兵を残し、ノーブルは去っていきました。
残された村人は追い詰められました。まだ希望的観測を口にする村人に呆れたコラは逃げる準備をします。
しかし、夜、サムが兵の男たちに襲われそうになり、若い二等兵のアリスだけが指示に従わずに険悪になっていたとき、居ても立っても居られずコラは割って入ります。そして斧を片手に兵をなぎ倒していき、その隠していた戦闘力を見せつけました。
実はコラは9歳の頃に故郷と家族を失い、バリサリウスに拾われ、アースレイアスと名付けられ、インペリウム(帝国軍)で戦闘訓練を受けてきた過去がありました。今はこのヴェルトの小さな村に流れ着き、過去を捨てて身を潜めていたのです。
歯向かってしまった以上、もはや戦うしかありません。でも独りでは強大なマザーワールドに対抗は不可能です。仲間探しをするべく、ガンナーと共に出発し、ひとまず宇宙港都市プロヴィデンスに向かいます。
その頃、ノーブル提督は反逆の兆しを掴み、策を進めていました。裏にもっと巨悪な闇を秘めて…。
ザック・スナイダーにとっての目の保養
ここから『REBEL MOON パート1 炎の子』のネタバレありの感想本文です。
『REBEL MOON パート1 炎の子』、というかこの『REBEL MOON』シリーズ。あらためるまでもないと思いますけど、“ザック・スナイダー”のセンスはこれです!とわからせる効果が絶大でした。
これは別に貶しているんではなく、“ザック・スナイダー”って素直に「中二病」を体現する映像を作りますよね。人によっては青二才だった頃に脳内で思い描いていた「かっこいい世界」のイメージを、この監督は今やそのまま映画にしちゃってくれています。
本作は世界観は確かに『スター・ウォーズ』なのですが、完全に全てが“ザック・スナイダー”好みにフルカスタマイズされているんですよ。
キャラクターなんか、海外のレビューでは「アバクロンビー&フィッチ」みたいだと言われていましたけど、ちょっとオタク向けにチューニングしたアバクロって感じです。
主要キャラクターの多くは、男女の性別限らずに「肉感的」か、もしくは「サイボーグ的」です。だいたいこの2パターンです。でも直接的に性的なシーンは描かないんですよね。こういうマッチョとサイボーグのボディを眺めることに性的興奮を感じたい人向けのフェティシズムな構図が盛沢山だと言えるかな。
ちょっと笑ったのが、コラの過去で、今作のコラは以前にマザーワールドに拾われて軍事訓練を受けたエリートだと判明します。このマザーワールドのインペリウムはもろにナチスのビジュアルなのですが、“ソフィア・ブテラ”の佇まいのカッコよさも相まって、このナチス風のファッションを着こなしてしまっているんですよ。これはこれでナチスをファッショナブルに消費している感じがでちゃって「良いのか?」とも思うんだけども…。
あと“ザック・スナイダー”と言えば、これ。スローモーションの多用です。戦闘など見せ場になると絶対にスローモーション効果が発動するんですが(そのせいか毎回戦闘で目が疲れることもない)、犬が走っているシーンにまでスローモーションを使う意味はあったかなとも思ったり…。
『アーミー・オブ・ザ・デッド』で自分なりの『スーサイド・スクワッド』を描いてみせた“ザック・スナイダー”ですが、この『REBEL MOON パート1 炎の子』は『ジャスティス・リーグ2』に相当する大ボリュームな世界観ミックスです。これだけやったらもう満足なんじゃないかと思うけど、どうなんだろう…。
チームになれているのか?
『REBEL MOON パート1 炎の子』はこれだけやりたいことをやりまくっているのですが、それはだいたいがビジュアルに全振りしているので、それ以外はいつもの“ザック・スナイダー”らしい大雑把さではあります。
『七人の侍』風に仲間集めを始動するのですが、わりとホイホイ集まります。リクルートするのにドラマは起きません。道すがらの仲間遭遇イベントで、“ザック・スナイダー”流のかっこいいムービーシーンが流れるだけです。
借金にまみれるも動物と絆を作れるタラク、サイボーグ・ブレード使いのネメシス、伝説の将軍だった行き倒れのタイタス、メンバーみんなロックバンドなの?っていう見た目のブラッドアックス姉弟のその仲間たち、その一番弟子のミリアス。カイは裏切り、ガンナーは名誉挽回。最後にフレームインしただけの鹿角ジミーは仲間になるのかな…(声が“アンソニー・ホプキンス”なのが面白い)。
ちなみにこのミリアスというキャラクターはノンバイナリーらしく、演じているのもノンバイナリー俳優の”E・ダフィー”です。出番は今回は少ないけど…。
これだけ個性豊かな顔触れなのですが、あまりチームワークを深める描かれ方はされないのがもったいないです。仲良いのか、悪いのか、どれほどの間柄なのかもさっぱり。観ているこっちとしてもキャラクターに愛着を持つ余裕がないままです。
パート1はプロローグだからこんなもので良いのかもですけど、すでにこのパート1でも仲間の死や裏切りが生じるのですし、もう少し感情移入させてほしかったな…。
あと今作のヴィランのノーブル提督。悪役としてのカリスマ性はやや乏しいのは先行き不安です。小物臭が序盤からずっとありましたからね。あのステッキみたいなのでどこまで戦う気なんだと逆にハラハラしたけど…。フルスイング殺法だったよ…。バッティングセンター通いの上司みたいだ…。
ラストに蘇ってたし、次はビジュアルも大幅に変わっているかもだけどね…。
気になるのは、『スター・ウォーズ』で言うところの「フォース」に該当するものが、この『REBEL MOON』の世界にはまだ本格的にお目見えしてません。たぶんイサ姫の命を与える力うんぬんがそれっぽくて、コラも何かしらの特殊な性質がある雰囲気を匂わせていましたが…。ノーブルがバリサリウスとの霊的会話で「スカーギヴァー」と言及したとおり、2作目のタイトルも『REBEL MOON: パート2 傷跡を刻む者』だし、その点は続編で本格開示ってところですかね。
この世界をどこに着地させるのか、全然わかりませんが、ユニバースとして巨大なIPになることは確定済みである以上、おそらくこの広げた風呂敷を閉じる予定はしばらくないのではないかとも思います。私にはぼけーっと鑑賞するしかできないけど…。
何かと癖が強すぎて二極化した反応を呼びやすい“ザック・スナイダー”ですが、これからも熱心な支持者を引き連れることは容易いでしょう。『REBEL MOON』シリーズだけでなく、『アーミー・オブ・ザ・デッド』シリーズも拡張し、もしかしたら新生DCU(DCユニバース)にも戻ってくる可能性すらもちらつかせてはいますからね。今後もエンターテインメントの話題の種になる人物なのは間違いありません。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 22% Audience 70%
IMDb
5.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Netflix レベルムーン レベル・ムーン
以上、『REBEL MOON パート1 炎の子』の感想でした。
Rebel Moon: Part One – A Child of Fire (2023) [Japanese Review] 『REBEL MOON パート1 炎の子』考察・評価レビュー