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『ニモーナ(Nimona)』感想(ネタバレ)…Netflix:モンスターではなく愛されたい

ニモーナ

モンスターではなく愛されたい…Netflix映画『ニモーナ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Nimona
製作国:アメリカ・イギリス(2023年)
日本では劇場未公開:2023年にNetflixで配信
監督:ニック・ブルーノ、トロイ・クエイン
恋愛描写

ニモーナ

にもーな
ニモーナ

『ニモーナ』あらすじ

王国を邪悪な闇から追い払ったかつての偉大な英雄の意思を継いで、新たな騎士たちが伝統と歴史を胸に忠誠を誓う。ところが、ひとりの騎士の目の前で予想外の波乱が起きてしまい、その騎士は人生のどん底に落ちる。黒幕を追いかける最中、不思議な能力を持ったニモーナが協力を申し出る。豪快で恐れ知らずの行動に肝を冷やしつつ、この烙印を押された騎士は名誉と愛を取り戻すために奮闘するが…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ニモーナ』の感想です。

『ニモーナ』感想(ネタバレなし)

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プライドが詰まったクィア・アニメーション映画

2023年も毎年6月の「プライド月間(Pride Month)」が終わりました。セクシュアル・マイノリティの人たちが自分自身のプライドを讃えて世間に誇るための強化月間です。

今年は日本では「LGBT理解増進法」があったせいか、ここ数年で最悪レベルでバックラッシュが酷く、ネット上ではセクシュアル・マイノリティに対する酷い言葉が吹き荒れていました。偏見、冷笑、憎悪、デマ、陰謀論…何でもありで、当事者を非人間化する光景。ただでさえ日常だけでも辛いのに、余計に傷ついた人もたくさんいたでしょう。

当事者が自分に肯定感を得るのになぜこんなにも苦労しなければならないのか。ただ普通に生きたいだけなのに、どうして「安全であること」を誰よりも証明することを要求されなければいけないのか。苦しんでいる当事者が今この瞬間にもそこにいるのに…。

そんなプライドどころか気分が落ち込む1カ月だった気もするのですけど、その最終日にこの映画に出会えたので、良しとしましょうか

それが本作『ニモーナ』です。

この映画を語るならまずは原作者からです。原作は2012年からウェブコミックとして個人的に公表され、2015年に出版社からリリースもされた「Nimona」というグラフィックノベル。これを生み出したのが“ND・スティーヴンソン”でした。

“ND・スティーヴンソン”の名は海外アニメ、とくにクィアなアニメ好き界隈には知られています。“ND・スティーヴンソン”と言えば、やはり2018年の『シーラとプリンセス戦士』というアニメシリーズです。このアニメは非常にクィアなダイバーシティを体現するような作品であり、私も度肝を抜かれました。こういう作品が普通に生まれる世界ってステキだな、と。

クリエイターとして見事な才能を発揮した“ND・スティーヴンソン”ですが、本人はトランスマスキュリンバイジェンダーであり、セクシュアル・マイノリティ当事者です。2020年から2021年に自身のジェンダー・アイデンティティを世間にオープンにしていますが、それは作家性としてもよく表れています。

この『ニモーナ』は“ND・スティーヴンソン”が高校時代から描いていたキャラクターが原点にあるそうで、“ND・スティーヴンソン”にとっては大切な作品なのは間違いありません。

そのアニメーション映画化の企画は、当初は20世紀フォックスによって進められ、子会社であるブルースカイ・スタジオが制作する予定でした。ところがディズニーが20世紀フォックスを買収し、ブルースカイ・スタジオを閉鎖してしまったことで、この『ニモーナ』は暗礁に乗り上げます。

しかし、Netflixアンナプルナ・ピクチャーズに拾われて、企画が復活。『スパイ in デンジャー』“ニック・ブルーノ”&“トロイ・クエイン”が監督を担い、無事に完成しました。良かった…。

『ニモーナ』はどんな物語なのかと言うと、社会から反逆者扱いとなってしまったひとりの騎士が、不思議な能力を持つ好戦的な子どものようなニモーナと知り合い、なんやかんやとやらかしていく…コミカルなファンタジーです。

ニモーナの造形が特徴的で、『アーケイン』に通じる感じもありますが、それよりもポップでカートゥーンっぽく、子どもでも楽しめるノリになっています。

それでいながら濃厚にクィアネスが充満している作品です。あの『シーラとプリンセス戦士』を作った“ND・スティーヴンソン”ですからね、同性愛もごく自然に主軸として描かれていますし、今作『ニモーナ』はトランス・ストーリーとしてもじゅうぶんに心打つはずです。

ニモーナの声を演じるのは、LGBTQアライとして以前から献身的に活動してもいる“クロエ・グレース・モレッツ”。バッドアスに暴れまくるキャラなので、ちょっと『キック・アス』の時代に戻った感じもする…。

他にも、『サウンド・オブ・メタル 〜聞こえるということ〜』“リズ・アーメッド”や、ゲイ当事者として精力的に発信していることでも知られる“ユージン・リー・ヤン”が声で参加しています。また、“ル・ポール・チャールズ”“インディア・ムーア”もちょっとした役ででています。

『ニモーナ』のような派手に炸裂するクィアなストーリーは今こそ必要、これぞプライドです。

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『ニモーナ』を観る前のQ&A

Q:『ニモーナ』はいつどこで配信されていますか?
A:Netflixでオリジナル映画として2023年6月30日から配信中です。
✔『ニモーナ』の見どころ
★個性豊かで魅力的なキャラクター。
★エンパワーメント溢れるクィアなストーリー。
✔『ニモーナ』の欠点
☆もっと物語が見たくなる。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:クィアな物語を観るなら
友人 4.0:気軽なエンタメ
恋人 4.0:同性ロマンスあり
キッズ 4.0:子どもでも楽しい
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『ニモーナ』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ニモーナ』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):嫌われ者同士の2人

昔々、その王国は平和でした。しかし、恐怖と邪悪の存在が蠢いていました。闇に染まったモンスターが当然襲いかかってきて、全てを破壊します。人々が絶望したとき、ひとりの英雄が立ち上がります。その名はグロレス。悪しき存在を退治したグロレスは民を守ることを誓い、騎士の精鋭部隊を訓練し、王家を守る役割を代々受け継ぐことを命じました。でもモンスターはどこかにまだ潜んでいる…。

1000年後。王国は繁栄し、騎士の伝統は継承されていました。この日も新たな騎士が女王によって任命されます。

その中に物議を醸している騎士候補がいました。孤児から騎士となったバリスター・ボールドハートです。出自を重んじる慣習から、このバリスターを王国は受け入れるのかとメディアでも盛んに取り上げられ、一部の民衆はブーイングをぶつけてきていました。

当人のバリスターは複雑な表情で佇んでいました。グロレスの血を引き継ぐ同期のアンブローシャス・ゴールデンロインだけが親身に接してくれます。「民が拒んだらどうする?」という不安に「英雄は拒まないよ」と優しく寄り添って…。

見習いから剣を受け取り、スタジアムに他の騎士と一緒に馬にまたがって入場。女王に任命され、歓声を受けながら「新たな騎士の時代を切り開いて」との言葉にひざまずき…。

しかし、剣を手にした瞬間にその先から攻撃が飛び出し、女王を撃ち抜いてしまいました。わけもわからずバリスターは女王殺しとして逃走するハメになります。

こうして隠れ潜むことになってしまったバリスター。そこへニモーナという謎の子どもみたいな奴がやってきます。「相棒になりたい、復讐を手伝ってあげよう」と言い放つニモーナ。

バリスターは自分は殺していないと説明すると「悪者じゃないの?」と露骨にガッカリした表情をしてきます。バリスターは真犯人探しをするつもりでした。

けれどもあっけなく捕まり、騎士の校長に「無実です」と訴えても信じてくれません。ところが牢屋の中にニモーナがどこからともなく出現し、脱獄させてくれます。

こっそり抜け出そうとするバリスターですが、衛兵の多くはすでにやられており、ニモーナは楽しそうです。そこにアンブローシャスとばったり遭遇。バリスターは固まりますが、そのアンブローシャスの目から犯人だと思われていることを自覚し、失望します。

追い詰められた2人。ニモーナはパニックになるなと忠告し、なんと巨大なサイに変身。いろいろな動物に変身できるようで、豪快に脱出してみせました。

バリスターが目覚めると自室でした。「君はモンスター?」と思わず聞くと「その呼び方はやめて!」と珍しくニモーナは声を荒げます。「なぜ俺を助ける?」と質問すると「暇だから、嫌われ者同士だし」と。

無実の罪を晴らせたら正式な相棒にしてと言われ、しょうがないので承諾するのでした。

こうして凸凹コンビとなった2人は真犯人の手がかりを見つけようとしますが…。

この『ニモーナ』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/01/24に更新されています。
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必然性とか聞いてくる人はクジラに潰されてね

ここから『ニモーナ』のネタバレありの感想本文です。

『デッド・エンド:ようこそ!オカルト遊園地へ』の感想でも書きましたが、今の時代、とくに子ども向けのアニメーション作品にLGBTQの要素を取り入れるのは、一部の保守派や右派から猛バッシングを受けます。子どもへの洗脳だとかなんとかで…。

『ニモーナ』はそんなクレームは知ったことじゃないと言わんばかりに、軽快にクィアを正面突破で描き切っていて、気持ちがいいです。

まず騎士であるバリスターアンブローシャスは、序盤で肩に頭をもたれて愛情たっぷりな振る舞いを見せていたとおり、恋愛関係にあります(アンブローシャスはバリスターのことを「バル」と呼ぶ)。

恋仲にあった2人が事件にとって引き裂かれ、対立し合って、それでもなお愛の関係を取り戻すというプロットは、“ND・スティーヴンソン”の『シーラとプリンセス戦士』を彷彿とさせますが、今回の『ニモーナ』では男性同性愛としてしっかり描写。ホモフォビアなんて吹き飛ばします。

「愛している」というセリフから、最後のキス・シーンまで、なんてことはなく普通に描ける同性愛。いちいち「それを入れる意味がありますか?」なんてクィアにだけ「必然性」注文をつけてくるような意見は論外なのは当然として、本作は異性愛と何ら変わらない同性愛があること、それが何よりも嬉しいです。

このバリスターとアンブローシャスの描き方は、実は原作とは少し違っていて、原作はもっと深刻な対立を生じさせ、バリスターも復讐に染まってしまうような立ち位置になります。腕の義手をもたらす事件が衝撃性を強調させる感じになっているのですが、映画のほうではややマイルドになりつつも(たぶんレーティングが上がるのを避けたのかな)、2人の関係性がじわじわと離れていく姿を繊細に捉えています。映画版はタイムラインが原作より短いので、そこにスケールを合わせたのでしょうね。

『アドベンチャー・タイム』『アウルハウス』などに続いて、クィアなアニメーション史にキュートなベストカップルが追加されましたよ。別にオッサンってほどの年齢じゃないでしょうけど、こうやって主役級の成人男性カップルが増えたのは良いですよね。

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これぞ求めていた怪物の描き方

『ニモーナ』のもうひとつのクィアなメインが、シェイプシフターであるニモーナです。ニモーナのエピソードはとても現代のトランスジェンダーを取り巻くリアルと重なるようになっています

ニモーナはその出自は不明ですが、子どもの頃から森に棲んでいたようで、その変身能力でいろんな動物の輪に入ろうとするも、嫌われて孤立していました。そんなときに出会ったのがグロレスという子ども。その子は変身した姿を受け入れてくれて一緒に遊んでいましたが、大人たちはニモーナを「モンスター」として敵視し、ついにはあのグロレスにまで木剣を向けられてしまう…。

まさに「クィアな(気持ち悪い)モンスター」としてレッテルを貼られ、スティグマを背負った人生です。

つまりあの冒頭の御伽噺のような歴史の語りは、非常に偏見に満ちた一方的な語りなのであって、歴史自体がマイノリティを蹂躙するという構図が突きつけられます。

終盤は、暗闇の巨大モンスター化して街を襲来するという、怪獣映画そのものな展開に発展。そこでニモーナ(怪獣)は自分でグロレス銅像の剣に腹を差し出し、殺したいと思っていることも辛いし、自分でそうされたいと願ってしまうことも辛いと、その心情を打ち明けます。

このシーンは完全に希死念慮を想像させるものですが、そこへバリスターがやってきて謝りながら「君はニモーナだ」とアイデンティティを認める。

一方で本作のヴィランである校長は「あれはモンスターだ」と頑なに憎悪をぶつけ、ニモーナは不死鳥のようにその暴力から生還する。

終始クィアの苦悩や葛藤が詰まりまくった寓話です。

2023年は“是枝裕和”監督の『怪物』という映画が話題になり、ただあの『怪物』は「性的少数者と世間の怪物視」という『ニモーナ』と同様のコンセプトを設定しながらも、当事者の反感を招いてしまった諸々の問題を抱えていました。『怪物』という映画の構造的問題点は結構重要で、それでいてマジョリティ観客には全然理解してもらえない部分であるのが厄介なのですが、この『ニモーナ』はそのマジョリティ型の語り口である既存の映画に対して、真っ向からマイノリティに寄り添った作品であったと思います。

悲劇としてのマイノリティの物語はもうたくさんだし、意表を突く仕掛けとして利用されるのもうんざりで、マジョリティな観客の思考を満足させるグルメ食材として選ばれるのも嫌です。

『ニモーナ』は原作者“ND・スティーヴンソン”の確固たるクィア・ファースト(当事者を第一に考える)の精神があるので、そんなヘマはしません。

『ニモーナ』を観た後、つくづく実感しましたが、セクシュアル・マイノリティを描きさえすれば何でもいいわけではなく、また当事者の監修や取材があればいいというものでもない。圧倒的に大事なのは、この「クィアのクィアによるクィアのための作品」をいかにして形作るか…それなんだな、と。

LGBTQを題材にした作品を作ろうと考えている人は常にこの問いを自分にぶつけ続けてほしいですね。

「この作品はプライドになるか?」

プライドの意味さえわからないなら、わかるまで『ニモーナ』を何十回も観ておいてください。

その間に私たち当事者はニモーナと一緒にサメ・ダンスでも踊ってますから。

『ニモーナ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 93% Audience 93%
IMDb
7.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0

作品ポスター・画像 (C)Netflix

以上、『ニモーナ』の感想でした。

Nimona (2023) [Japanese Review] 『ニモーナ』考察・評価レビュー