傑作の評価を超えた先へ…ドラマシリーズ『THE LAST OF US』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2023年)
シーズン1:2023年にU-NEXTで配信(日本)
原案:クレイグ・メイジン、ニール・ドラックマン
自死・自傷描写 児童虐待描写 恋愛描写
THE LAST OF US
ざらすとおぶあす
『THE LAST OF US』あらすじ
『THE LAST OF US』感想(ネタバレなし)
傑作ゲームをドラマ化できるのか?
2023年1月、いきなりこの年を象徴する一級のドラマが到来してしまったかもしれない…。これが2023年の私のドラマシリーズBEST10の堂々1位にランクインする未来が見える…。というか、今後今年に観ていくドラマはみんなこの本作を基準に、これを超えられるかという視点で視聴してしまうことになると思います。なんてことしてくれたんだ…こいつ…。
そのやってくれたドラマが本作『THE LAST OF US』です。
素直に告白すると、私はこのドラマを待ち遠しく思ってました。
まずこのドラマの原作の話をしましょう。本作は原作がゲームです。「Naughty Dog」というゲームスタジオが2013年に「PlayStation 3」ソフトとしてリリースしたゲームであり、日本語では「ラスアス」の略称で親しまれています。たぶんゲームやっている人じゃないと知らないタイトルだとは思いますが、この「The Last of Us」というゲームは発売されるや、「史上最も高く評価され、成功を収めたゲームのひとつ」と語られるほどの大絶賛を受けました。
私もプレイしたことがあるのですが、エンディング後は放心状態になりましたね…。この「The Last of Us」というゲームはみんなでワイワイ楽しむタイプのものじゃなく、ストーリー重視のシリアスなアクションゲームなのですけど、とにかくこの「物語×キャラクター×世界観」を土台にしたゲーム体験が素晴らしいのなんのって…。「The Last of Us」プレイ後は、映画というものはとうていこれに敵わないなと思いましたよ。
その「The Last of Us」が実写化するという話は以前からあって、映画企画もあったそうですが、最終的にはドラマシリーズとして動き出しました。
でも思うわけです。この傑作ゲームを実写ドラマにできるのか?…と。ゲーム時点で傑作なんですよ?…これ以上いじったら絶対にゲームと比較されて「ここがダメだ」と減点評価になるだろうし、いくらなんでも分が悪い…。ただでさえゲームの映像化はずっと前からリスキーだと言われてきたのに…。心配半分期待半分でドラマを待つ日々…。
しかし杞憂でした。もうまたも私の謝罪のターン。私が愚かだった…このドラマ『THE LAST OF US』、傑作ゲームを傑作ドラマへと見事に転換させてきました。なんだよ、化け物かよ…。
すでに現状、多くのゲーム実写化映画などが公開されてヒットしており、ドラマでも『HALO』など企画が続々展開していますが、このドラマ『THE LAST OF US』は「ゲームの実写化は失敗する」という業界ジンクスを完全に粉砕したと思います。これは文字どおりのゲーム・チェンジャーですよ。
ドラマの製作にはゲームのクリエイターである“ニール・ドラックマン”が主導しているのですが、もうひとりとしてこちらも傑作と絶賛を集めたドラマ『チェルノブイリ』の“クレイグ・メイジン”も参加。この布陣が完璧な仕事を遂行してみせました。
あのゲームの素晴らしさをここまでさらに深化させてくれるなんて…。
俳優陣も最高です。主役の“ペドロ・パスカル”は『マンダロリアン』に続いて絶好調。みんなのパパです。
そして今作で心震わす名演を見せてくれるのが“ベラ・ラムジー”。『少女バーディ 大人への階段』での演技も良かったですが、この若手俳優の底力を『THE LAST OF US』では余すところなく体感できます。ちなみに“ベラ・ラムジー”はノンバイナリーです。
なお、原作ゲームでジョエル役の声を務めた“トロイ・ベイカー”と、エリー役の声を務めた“アシュレー・ジョンソン”もこのドラマ版でかなり粋な演出で登場するのでお楽しみに。
ドラマ『THE LAST OF US』はジャンルとしてはディストピアなポストアポカリプスもので、謎の寄生菌による感染症で崩壊した世界で生存する人々を描きます。かなり残酷で痛々しい展開も多く、私はゲームプレイ済みなので「またあの悲惨な場面を体験しないといけないのか…」と憂鬱になったりもしたのですが、でも面白いから見てしまうんですよね。
ドラマ『THE LAST OF US』はアメリカでは「HBO Max」、日本では「U-NEXT」の独占配信となっています。シーズン1は全9話で1話あたり約40分~約80分とボリューム大ですが、損はさせません。
『THE LAST OF US』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :必見のドラマ |
友人 | :ゲーム未経験者も誘って |
恋人 | :同性ロマンスあり |
キッズ | :残酷描写が多め |
『THE LAST OF US』予告動画
『THE LAST OF US』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):菌に負けた人類
1968年。とある番組収録撮影にて、感染症専門のニューマン博士は「人類との歴史はウイルスとの戦いで、ときには大勢の死者をだしますが、最終的には人類が勝つのです」と冷静に語ります。「では別の微生物が脅威になると考えますか?」と司会者に聞かれると「菌類です」と淡々と答え、言葉を続けます。
「たいてい皆さんは笑うんです。でもその菌は他の生物を殺すのではなく、操るのです。ウイルスは体を蝕むが、菌類は心に作用する。アリの意識をコントロールする菌もあります。さらに菌は養分が必要なので宿主を体の内側から食い荒らしていく。そうやってじわじわと増殖するのです。しかし決して宿主を死なせない」
隣の別の科学者は「今の理論は人間には当てはまらない」と反論しますが、ニューマンは「確かに菌類の生存できる体温は概ね34度まで。でももし状況が変わったら? 地球の気温が上がったりしたら?これに関しての予防策も治療法もない」と自説を述べ、「人類は負ける」と言い切りました。
2003年、テキサス州オースティン。サラは父ジョエルを起こし、いつもの朝を迎えます。今日は父の誕生日、36歳です。ジョエルの弟のトミーが来て、仕事に出かけます。サラは学校へ行く準備をする中、こっそりジョエルの大事な時計とカネをくすね、トミーの運転する車に乗ります。
学校からの帰宅の途中、サラは時計宝飾店で時計を直します。父にプレゼントするのです。背後で緊急車両が通り過ぎ、急に「店を閉める」と女性が奥からでてきて、「早く帰りなさい」と促します。
お隣の家に寄ってそこに勉強しながら時間を過ごすサラ。その家を出ると上空を戦闘機がものものしく飛んでいきました。
自宅でのんびりしていると、父が遅くに帰宅。時計を渡し、映画を観ているとサラは寝ました。そのとき、ジョエルのもとにトミーから電話。留置所らしいです。サラをベッドに運んで寝かせ、出ていくジョエル。
物々しい騒音と光で目を覚ますサラ。真夜中ですが、家には父はおらず、テレビが緊急警報の画面になっていました。そこにお隣の犬のマーシーが玄関にやってきます。
サラは真っ暗な街を見渡し、犬を隣に連れて行こうとしますが逃げてしまいます。お隣の家に足を踏み入れると床に重傷で血を流すアドラーがおり、その隣には豹変した“人”…。その隣人は異様な雰囲気で急に迫ってきて、サラは外へ逃げます。
そこに父ジョエルが車に乗れと登場。「お隣だけじゃないんだ、ここから逃げないと」
車で出発。道中、乗せてくれと訴える人もいましたが、父は「無視しろ。誰かが助ける」と放置。
道路が渋滞なので街を突っ切ろうとしますが、群衆がパニックになっており、さらに近くで飛行機が墜落し…。
ひっくり返った車両で目覚めるジョエルとサラ。這い出るとトミーと分断され、ジョエルは足を怪我したサラを抱えて街を脱出しようとします。
しかし、軍隊に「そこを動くな」と言われ、軍人は無線で何かやりとりした後、こちらを射撃。倒れるジョエル。駆け付けたトミーが撃って倒すも、サラは腹部に被弾し、瀕死でした。
必死に抱き上げるジョエル。でもサラはもう息をしておらず…。
20年後の2023年、世界はまだそこにあるもかつての姿は消えていました。
シーズン1:クィアな要素の深み
ドラマ『THE LAST OF US』、こういう傑作に出会ってしまうと何から語ればいいかわからなくなるので困りますね。とりあえずクィアな要素についてまず考察ってほどではないですけど、言及しましょうか。
もともとのゲームでもクィアな側面で話題だったのですが、ドラマはクィアネスをより濃くする脚色を加えています。しかも単純に「LGBTQキャラをだしました」というだけでない、その表象としても他にない突出した存在感があったと思います。
まず第3話でビルとフランクの物語。この2人はゲイですが、原作ゲームではゲイだと匂わせる程度のささやかな示唆しかなく、かなりクィア・リーディングできないとプレイヤーは気づかなかったレベルでした。ドラマでは明確に2人の過去をたっぷり描いています。
この2人の関係性が非常に良いです。とくに2人は政治的立場が違うというところがミソ。ビルは典型的なサバイバリストで、この世紀末世界の到来は「ほら見たことか!」な展開で、ビルも当初は楽しそうです。しかし、フランクに出会い、孤独を埋め合わせる愛の温かさを知ってしまいます。最終的には死にゆくフランクに寄り添うようにビルも死を選ぶほどです。
こんなふうに政治や思想の立場が全く違っても、何かの共通点が両者を微かに繋げていく…そんな関係性を本作はよく提示します。ビルとフランクの場合はその共通点がクィアでした。
同じく第7話で描かれるエリーとライリーの過去もクィアな繋がりです。エリーは連邦災害対策管理庁(FEDRA)、ライリーはファイアフライの側についており、両者の隔たりは大きいです。でも惹かれ合ってしまう。あのデート・シーンは本当に無邪気で可愛いです。
この世界におけるクィアは迫害や差別の象徴(被害者)ではなく、世界が崩壊しても人は繋がり直せるという希望の欠片みたいなもので、だからなのか見ていて不思議な充実感がありました。
シーズン1:大人の男と少女の関係性
『THE LAST OF US』の世界は、血縁や政治など既存の社会規範が瓦解してしまった後に、人類がどんな規範を作り直せるか…そんなことを描いているような作品に思えます。
本作のメインキャラクターのジョエル&エリーは血縁関係にありません。第5話のヘンリー&サムのような兄弟関係とも違うし、親子でもない。初期の頃は運び屋と運ぶ対象でしかないです。
このジョエル&エリーは「大人の男と少女」というジャンル的にいかにもよく好まれる設定なのですが、「大人の男と少女」というのは非常に男性的な都合よさがあり、そこにジェンダー的な支配構造が意図せずとも内蔵されてしまいます。本作はこの構図に対してかなり自己批判的な立場が強く、ドラマ版で一層増したのではないでしょうか。
テスを失ってから、ジョエル&エリーの関係は不動となりますが、ジョエルはエリーのケアなんてできません。今作ではエリーがひとりでこそこそとタンポンや月経カップなど生理用品の現地調達をしている姿も描かれ、いかにジョエルがそのへんに無頓着か強調された感じもします。
そして2人の仲が深まってくる中で、ある種の最悪の「大人の男と少女」事例として突きつけられるのが第8話。このエピソードはゲームでも陰惨で壮絶ですが、ドラマ版ではさらに強烈になっていました。デビッドはグロテスクな支配構造を駆使し、コミュニティをカルト的にまとめています。人肉食以上にエリーへの少女搾取的な態度が今回のドラマ版では目立っていたような…。
ではジョエル&エリーは「大人の男と少女」の関係として理想的なのか。そうは問屋が卸さないのがこの作品の原作からの凄さです。最終話はほぼゲームと同じ展開。やはりここはゲーム時点でもう完成されきった演出ですよね。
キリンの癒し…からの病院殺戮と奪還。ジョエルの独断行動とエリーの心情。「I swear」「okay」のやり取り含め、ゲームどおりのラストです。
ここでジョエルはエリーの意思を尊重するわけでもなく、半ば強引に共犯関係を結ばせてしまうわけで、これは一種のグルーミング的な手口です。だからこそこれを「愛」だと正当化できないような嫌な後味を観客に残します。ジョエルとデビッドは何が違うのか…。
このドラマ版ではジョエルがかなり自分の“男らしさ”を内省するシーンが増え、自分の弱さをトミーに吐露し、老いを認めます。
しかし、やはりジョエルには暴力しかない。エリーとは「大切な人を失った」という共通点がありますが、これだけでは2人は対等な関係には決してなれない。「大人の男と少女」の安易な理想化を砕きます。なにせ一番かけ離れている2者なのですから。同時に、規範を作り直すってものすごく難しいよねというお話なのかなと私は思ったり…。
まあ、このへんの最大の課題の先延ばしがこの後の物語に続くのですが…。ゲームでは続編が作られましたが、ドラマもシーズン2が決定(シーズン3もあるっぽい雰囲気)。でもこの製作陣なら絶対にまた最高のドラマを作ってくれると確信がある。この安心感、心地いいな…。私も生き延びないとなと今からナイフさばきを練習しますよ。
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 96% Audience 89%
IMDb
9.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)HBO ザラストオブアス
以上、『THE LAST OF US』の感想でした。
The Last of Us (2022) [Japanese Review] 『THE LAST OF US』考察・評価レビュー