スーパーマン家族は2020年代も頑張ってます、子育てでも…ドラマシリーズ『スーパーマン&ロイス』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2021年~)
シーズン1:2022年にNHKで放送(日本)
製作総指揮:グレッグ・バーランティ、トッド・ヘルビング ほか
恋愛描写
スーパーマン&ロイス
すーぱーまんあんどろいす
『スーパーマン&ロイス』あらすじ
『スーパーマン&ロイス』感想(ネタバレなし)
スーパーマンは知名度はあるけど…
2021年10月、アメコミ界のとあるニュースが話題になりました。それは「スーパーマン、最新号で両性愛者を告白!」というもの。このニュースは日本でも大手メディアが報じ、やっぱりスーパーマンだけは別次元で知名度が高いんだなと実感させてくれる出来事でした。
このニュースに一部の差別的な人たちは「そんなのはやりすぎだ!」「絶対に変えるべきではない!」「過剰なポリコレだ!」と案の定な激烈に拒否反応を見せ、その該当する最新号は売れるわけないとバッシングを加熱させました(実際は順調に売れました)。
たぶんこの「スーパーマン・バイセクシュアル騒動」に触れた人の多くはアメコミをあまり知らない層なのだろうとは思います(大きく報道されましたから)。キャラクターが性的少数者として描かれるのは今やアメコミ界ではごく普通です。DCでもLGBTQのキャラはたくさんいます。それを知っているコアなファンにしてみれば、今さらスーパーマンごときで何を騒いでいるんだという感じでしょう。
あと、これはそもそもな話ですけど、今回の最新作コミックでバイセクシュアルとして描かれたのは厳密にはスーパーマン(クラーク・ケント)ではなく、その息子のジョン・ケントです。ところが反発を見せた人の多くはスーパーマンがバイセクシュアルだと勘違いしてしまっており、いかにも“普段はアメコミに興味もない人たちがここぞとばかりに騒いでいる”という状況を浮き彫りにさせました。
でも、別にホモフォビアな人を擁護するつもりは微塵もないですが、スーパーマンの近況をアメコミ趣味ではない最近の一般層が知らないのも無理はないのかなとも思います。だって一般の人がアメコミ・コンテンツに最も触れる機会であろう映画において、2017年の『ジャスティス・リーグ』以降、スーパーマンが登場していないのですから。
DCは『ジャスティス・リーグ』以降も映画を作り続けているのに4~5年も実写のスーパーマンがでていない。これはなかなかに異常事態。DCの顔となるヒーローのはずなのに。
ただ、実のところ、スーパーマンは映画ではなくドラマの方で活躍していました。2015年からの『SUPERGIRL/スーパーガール』では“タイラー・ホークリン”がスーパーマンを演じ、従妹のカーラ・ゾー=エル(スーパーガール)をサポート。
このドラマではあくまで先輩としての支援側でしたが、今度は自身が主人公のドラマシリーズが2021年から始動しました。
それが本作『スーパーマン&ロイス』です。
本作はスーパーマンであるクラーク・ケントとその妻であるロイス・レインの、新婚ではないたっぷり年数が経過した夫婦生活が描かれており、すでにティーンとなった息子が2人いるという設定です。つまり、かなりベタなアメリカの家庭モノのホームドラマになっており、そこにアメコミらしいアクションやヴィランとの対決がプラスされているというスタイルです。なのでクラークとロイスが出会ったばかりの頃を描いた1993年のドラマ『LOIS&CLARK/新スーパーマン』とは差別化が図られています。
『スーパーマン&ロイス』でスーパーマンを演じるのは『SUPERGIRL/スーパーガール』と同じく“タイラー・ホークリン”。でも世界観は独立しています。なので他の作品を観ないと話がわからないということはありません。DCのドラマは「アローバース」とか「アース・プライム」がどうとかマルチバースで相当に複雑になっていたのですけど、そういうのは一切気にしないでください。
DCドラマは日本で見づらいという欠点がありました。マーベルは今や「Disney+」で全部観れる時代になりましたが、DCはそういうお手軽さは皆無です。この『スーパーマン&ロイス』も日本で視聴できるのかと不安に思っていましたが、まさかNHKで放送されるとは思わなかった…。
『スーパーマン&ロイス』のシーズン1は全15話。DCドラマはちょっと長いのが推奨しづらいんですけど…。
『スーパーマン&ロイス』を観て、とりあえずスーパーマンには息子がいるってことは認知されておいてほしいですね。
『スーパーマン&ロイス』を観る前のQ&A
A:クリプトンという遠く離れた星からやってきた男。ものすごいパワーを持ち、怪力、目からビーム、超高速飛行など、何でもできる。スーパーヒーローとして地球で活動中です。最近の映画では2013年の『マン・オブ・スティール』以降は“ヘンリー・カヴィル”が演じていました。
A:特に無いです。
オススメ度のチェック
ひとり | :アメコミ好きの人なら |
友人 | :ファン同士で |
恋人 | :家族ドラマが好きなら |
キッズ | :子どもでも観れる |
『スーパーマン&ロイス』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):お父さん、スーパーマンだったんです
クラーク・ケントは普通の人間ではありません。故郷はクリプトン星。その星が崩壊したので、小型のロケットに乗せられて赤ん坊のときに単身で地球に避難してきます。辿り着いたのは地球のカンザス州のスモークビルという田舎町。そこでケント夫妻に育てられ、立派な大人に成長します。都会のメトロポリスに移り住み、デイリー・プラネットで記者として働き始め、その裏で「スーパーマン」として正体を隠しつつ、特殊なパワーを活かして人命救助などをしていました。
そこで気鋭のジャーナリストのロイス・レインと出会い、恋に落ちます。そして自分はスーパーマンであると真実を伝え、2人は結婚。双子が生まれました。名前はジョナサンとジョーダン。双子の息子はスクスクと成長し、今では10代の高校生です。
クラークは原子力発電所事故を強大な氷塊で冷やして解決。今日もひと仕事を終え、帰宅。ところが記者の仕事は窮地に陥ります。変化するメディア業界の流れでリストラになってしまったのです。
加えてクラークの育ての母のマーサが亡くなったという知らせが…。葬儀のために地元のスモールビルに戻ります。
久しぶりに地元の知り合いが集い、高校が一緒だったラナとも再会。彼女はカイルと結婚し、娘のサラとソフィがいました。今このスモールビルでは大物実業家のモーガン・エッジがなぜか財政支援をしてくれているそうです。
その地元でのしばしの平穏。ある日、納屋のルーターを調べようとジョーダンは高いところから落ち、それを咄嗟に助けようとしたジョナサンごと鉄パイプの下敷きになりますが、不思議と傷ひとつ負いませんでした。もしかしてジョナサンにはスーパーパワーがあるのでは…? しかし、自分がスーパーマンだと明かしてすらいない中、真実を告げるのをクラークは躊躇います。
一方、双子の息子は何かがおかしいと納屋を独自に調べ、地下で小型の宇宙船を発見。ジョーダンが手を差し出すと謎の石が出てきて、さすがに2人は父が何かを隠していると勘づきます。
クラークはしょうがないので白状します。メガネを外し、パワーをみせるために上空に浮かび上がります。かつてロイスにもやったように…。
でもジョーダンは失望し、「親としては失格だ」とクラークも落ち込みます。
双子は炭鉱での野外パーティーに参加。ジョーダンはサラを気に入り、なんとなくそういう雰囲気かと思ってキス。ところが実はサラにはカレシがいて、その男に殴られてしまいます。そのとき、ジョーダンは目からビームが放たれ、幸い誰にもバレませんでしたが周囲は騒然。スーパーパワーを受け継いだのはジョナサンではなく、ジョーダンでした。
その頃、クラークは謎のアーマーの敵と交戦。その敵はスーパーマンの弱点であるクリプトナイトで攻撃してきます。なぜそんな武器を…。
そのアーマーの男はキャプテン・ルーサーと呼ばれており…。
シーズン1:スーパーマン物語の前半はカットします
ドラマ『スーパーマン&ロイス』は本作から見始めても問題はない入門的な作品だというのは前述の紹介で説明しましたが、とはいえ「スーパーマン」ならではの大胆な構成もあります。
なにより「いかにしてクラーク・ケントはスーパーマンになり、育ての父ジョナサンの死を経験し、ロイスと出会い、ヒーロー人生を享受するようになったか」という「スーパーマン」物語の前半部を本作は第1話のそれも冒頭5分で瞬く間に語り終えるのです。超高速ですよ。スーパーマン史上最速では?
こんな芸当ができるのはやはりスーパーマンという知名度の高いヒーローだからこそ。他には『THE BATMAN ザ・バットマン』とか『スパイダーマン ホームカミング』などでも見られましたが、有名でもう何度も映像化しているヒーローはその誕生譚は観客は見飽きています。どうせ知っている。だったら省略してしまっていいだろうという思い切った判断。
ただ、この『スーパーマン&ロイス』は他にも省略で流していく要素がいくつもあります。例えば、鋼鉄のパワードスーツを身にまとったジョン・ヘンリー・アイアンズの登場では、彼の世界では漆黒のスーパーマンによって悲惨な目に遭っており、自然とマルチバースの話がでてくるも、こっちの世界のクラークもロイスもわりと「ああ、マルチバースね」という感じでたいして驚きもしない。もうマルチバースは一般常識なのか…。
また、ジョン・ヘンリー・アイアンズが「キャプテン・ルーサー」とAIから呼称されており、これは当然あの「レックス・ルーサー」を彷彿とさせる演出なのですが、そこに関する説明もそれほどない。たぶん本作で初めてスーパーマンの作品に触れた人は「え? レックス・ルーサーって誰?」となるはずですけど、そこはお構いなしです。スーパーマンの弱点である「クリプトナイト」の解説もほどほどでしたね。
物語が進むとモーガン・エッジ、その正体はクリプトン星のタル=ローだと判明し、Xクリプトナイトを活用した「エラディケイター」という装置でスモールビルの住人の意識を乗っ取ってクリプトン人の復活を狙っていることが判明。計画が始動し、スモールビルの一般人がみんな空を飛んで目からビームを出し始める光景はなんだかシュールですらあるのですが、そんな騒ぎも落ち着くと、みんな普通に日常に戻っていて…。
この「そんなに騒がないのか!」とツッコミたくなるような感覚も、この世界のスーパーマン認知度が高すぎるゆえなのでしょう。だから視聴者もこれくらいで動じないでねっていう…。ひとつの街しか活動範囲ではないバットマンやスパイダーマンとは違う、地球規模でヒーロー活動しているスーパーマンならではの圧倒的存在認識のなせる技ですよね。
こんなふうに本作はスーパーマン作品のリテラシーをある一定ラインまで普通に要求してくるので、ちょっと困惑するかもしれないし、冷静に考えるとなんだか変なバランスの作品なのですが、まあ、こうするほかないかなと…。
シーズン1:真面目すぎるのは長所か欠点か
ドラマ『スーパーマン&ロイス』はいろいろ起きますが基本は家族ドラマです。アメリカのオーソドックスなジャンルといえます。
大きな主題は「10代の手のかかる男子高校生2人を育てるのは大変だ」ということ。うちひとりであるジョーダンは社会不安障害であり、父母のクラーク&ロイスも慎重に接しているのですが、今回、そのジョーダンにもスーパーパワーが発覚。このパワーをどうコントロールするかという物語を通して、社会で生きることに不安を抱える10代のティーンの心の変容や葛藤を重ねて描いています。
そんな中でジョーダンとジョナサンの兄弟の絆が描かれ、2人が“男らしさ”の有害な沼地に沈むことなく健全に助け合えるようになっていく姿が微笑ましいです。同時にこれは本作のもう一組の兄弟であるクラークとタル=ローの関係性の失敗と対比されます。
また、ロイスにとってはキャリアの物語でもあり、デイリー・プラネットを退社してスモールビルの地元紙「スモールビル・ガゼット」に転職し、ソフィアと共同でジャーナリズム魂を維持しようと奮闘する傍ら、娘を流産した経験を吐露するなど、中年女性としての人生の積み重ねが浮き彫りになり、このへんも新鮮です。
苦言を言うならスーパーマン作品全般に言えることですけど、真面目過ぎる点は好みが分かれますね。今はヒーロー作品でもその中でヒーローについて風刺や批評をすることが多く、その点でこの『スーパーマン&ロイス』はそういう要素が薄く、純真な部分は個性でもあり欠点でもあり…。「良い移民になりましょう」的な善性の押し付けにも思えるし、その一方でスーパーマンのヒーロー活動もなんだか恣意的に思えるし…(さすがに地球規模で全員を守れないですから、スーパー聴力で救援需要を察知しても誰を助けるか選ばないといけない…)。
シーズン1の最終話では鉱山が最終バトル地となり(日本の戦隊モノみたいな既視感)、エッジを倒します。その後は船が飛来し、死んだと思われていたジョンの娘のナタリーが現れ、またマルチバースゆえのややこしい家族事情になりそうです。
シーズン2もNHKで放送してくれるのかな。受信料払ってるんだからそこはお願いしますよ。
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 86% Audience 73%
IMDb
7.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Warner Bros. Japan LLC All rights reserved. スーパーマン・アンド・ロイス
以上、『スーパーマン&ロイス』の感想でした。
Superman & Lois (2021) [Japanese Review] 『スーパーマン&ロイス』考察・評価レビュー