次はロバート・パティンソン主演…映画『THE BATMAN-ザ・バットマン-』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年)
日本公開日:2022年3月11日
監督:マット・リーヴス
自然災害描写(津波) 恋愛描写
THE BATMAN ザ・バットマン
ざばっとまん
『THE BATMAN ザ・バットマン』あらすじ
『THE BATMAN ザ・バットマン』感想(ネタバレなし)
今度はロバート・パティンソンです
突然ですが、なぞなぞです。
悪いことをしていないのに交代させられる人ってだ~れだ?
…はい、答えは「バットマン」です。
そう、最近のバットマンは色々と踏んだり蹴ったりでした。1940年代の連続活劇から映画化の歴史は始まる「バットマン」。1989年の“マイケル・キートン”主演による『バットマン』、1995年の“ヴァル・キルマー”主演の『バットマン フォーエヴァー』、1997年の“ジョージ・クルーニー”主演の『バットマン & ロビン Mr.フリーズの逆襲』、そして2005年からは“クリストファー・ノーラン”監督&“クリスチャン・ベール”主演の『バットマン ビギンズ』から始動した「ダークナイト」三部作は大成功をおさめ、フランチャイズをさらなる高みに到達させました。
その後に続いたのが“ザック・スナイダー”主導で企画された「DCエクステンデッド・ユニバース」というシリーズであり、2016年の『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』で“ベン・アフレック”主演のバットマンがお披露目。これはかつてない壮大なバットマン・ストーリーが始まると誰もが期待しました。
ところが思いのほか不調に…。製作のイザコザもあり、ヒーロー大集結映画『ジャスティス・リーグ』の低調がトドメとなり、シリーズ体制はまるでゴッサムシティのように暗雲立ち込める危なげな雰囲気になり…。当時、“ベン・アフレック”主演のバットマン単独映画が予定されていたのですが、これがまさかの企画消失。
すっかり“ベン・アフレック”主演のバットマンを無かったことにしつつ、全く新しい「バットマン」映画が再スタートすることになったのです。
で、その新作となるのが本作『THE BATMAN ザ・バットマン』。
その肝心の新バットマンを演じる大役を任せられたのが“ロバート・パティンソン”です。彼と言えば『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』(2005年)でセドリック・ディゴリー役を演じ、『トワイライト』シリーズでもメインキャラを演じて、そのハンサムな存在感で確実にファンを集めていました。それ以降は『シークレット・オブ・モンスター』とか『グッド・タイム』とか『ライトハウス』など比較的小規模な作品で地道に活躍していて目立たなくなっていきます。
そんな中で『TENET テネット』で良い役回りで観客の心をつかみ、そこからの本作『THE BATMAN ザ・バットマン』ですよ。キャリアアップがまた全力だしてきている。これはもう“ロバート・パティンソン”にメロメロになる人がまた続出しそうだな…。
今回の“ロバート・パティンソン”が演じることからもわかるように『THE BATMAN ザ・バットマン』の若い頃を描いています。それだけでなくこれまでの映画化とトーンが違い、最もダークでシリアスな雰囲気を漂わせており、ジャンルとしては探偵ノワールになっています。かなりコミック・ファンの硬派な観客にヒットしそうな作りなのですが、“ロバート・パティンソン”を据えることで新規ファンも開拓できそうではありますね。
明らかに企画の難易度が高そうな『THE BATMAN ザ・バットマン』。私も上手くいくのかなと思っていたのですが、それとしっかり成功させたのが“マット・リーヴス”監督でした。あの誰も期待してなかった(失礼)「猿の惑星」のリブート版をまさかの最高クオリティに仕上げていたので私も信頼はしていたけど…。でも本当にやり遂げるとは…。
“ロバート・パティンソン”以外の俳優陣は、キャットウーマン役として『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』にも出ていた“ゾーイ・クラヴィッツ”が熱演。おなじみのゴードン警部補役には“ジェフリー・ライト”、執事のアルフレッド役には“アンディ・サーキス”がキャスティングされています。そして本作の悪役としてなぞなぞをだしてくる殺人鬼リドラーを怪演するのが、『ワイルドライフ』で監督デビューもしたばかりの“ポール・ダノ”。加えて過去に実写映画でも登場している悪役ペンギンを今回は“コリン・ファレル”が渾身の特殊メイクで変貌して演じています。
『THE BATMAN ザ・バットマン』は新規の人にも入りやすい入門です。ただ、上映時間が175分もあるのでトイレとの闘いを覚悟しないといけない人もいるかもですが…。
『THE BATMAN ザ・バットマン』を観る前のQ&A
A:ありません。ここから新しい物語が始まります。日本の宣伝では『ジョーカー』と関連ありそうな書き方をされていますが、世界観は別物なので気にしないでください。
オススメ度のチェック
ひとり | :ここからファンになるも良し |
友人 | :ファン同士で一緒に |
恋人 | :ロマンスは薄めだけど |
キッズ | :やや暴力的だけど |
『THE BATMAN ザ・バットマン』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):正義は嘘にまみれている
双眼鏡で建物を覗く人物。その窓には大物の男がいました。ゴッサムシティの市長であるドン・ミッチェル・Jr.は自身の政治基盤ばかりを気にしています。ニュースでは新たな市長候補で若さと新しさのあるベラ・リアルが注目を集めており、楽観視はできないかもしれません。
そのドン・ミッチェル・Jr.は室内の自分の背後にひとりの不審者が立っていることに気づきません。その覆面で見るからに怪しい人物は急に襲いかかってきて、鈍器で滅多打ちにし、ドン・ミッチェル・Jr.は床で息絶えます。そして不審者は馬乗りになり、はぁーと息を吐き、テープを取り出し…。
10月31日。ゴッサムシティは仮装した人で溢れかえっていました。こんな日でも犯罪者はそこらじゅうにいます。むしろみんなが仮装しているので正体を隠しやすく好都合でした。店で強盗する者、銀行を襲う者、列車で好き勝手する者…。
そんなこの街の犯罪者の間で少しずつ恐怖を植え付けている者がひとり…。それは月夜にコウモリのサインが浮かび上がると現れるとか…。
駅で一般男性をいじめていた集団。何かの気配を感じます。すると暗がりから全身黒ずくめで覆面を被った男が歩いてきます。そして集団を容赦なく倒していき、相手は蜘蛛の子を散らすように逃げていくのでした。
この覆面男はバットマンと名乗り、今はゴッサム市警察のジェームズ・ゴードン警部補と協力しながら街の治安を密かに守っていました。
今日は新しい殺人現場に案内されます。現場を警備していた警官はバットマンを怪しみますが、ゴードンは通すように言います。そこには顔をぐるぐる巻きにされたドン・ミッチェル・Jr.の遺体。「LIES」と赤い文字で書き記されており、犯人はリドラーと自称していました。ピート・サベージ本部長は、自警だかなんだか知らないバットマンという輩がここにいることを怒り、追い出します。
バットマンは自らの基地に戻ります。彼の正体は億万長者の社交界の名士ブルース・ウェインでした。両親亡き今この財産を受け継いだ彼は、執事のアルフレッド・ペニーワースと共にこの自警団活動を始めて2年目です。
例の殺人者リドラーの手がかりを探していると分析結果からUSBメモリが発見され、その中には犯罪王であるカーマイン・ファルコーネが、ナイトクラブ「アイスバーグ・ラウンジ」の支配人であるペンギン(オズワルド・“オズ”・コブルポット)と、そしてドン・ミッチェル・Jr.も含めて一緒にいるところが映った画像がでてきました。
これはどういうことなのか。さっそくクラブでペンギンに会いに行くも答えてはくれません。しかし、そこでウェイトレスとしてクラブで働いていたセリーナ・カイルにただならぬ怪しさを感じたバットマンは彼女を監視します。
それはこの街の闇を暴く捜査のまだ序盤でしかなく…。
社会人2年目の憂鬱
『THE BATMAN ザ・バットマン』は鑑賞前はこれまでの作品の中でもかなり暴力的に踏み込んでいると聞いていたのですが、実際に見るとそんなでもなかったような…(私が麻痺しているだけかも)。少なくとも視覚的な暴力描写はそれほど強烈ではなかったです。
本作の特徴は「ダークナイト」三部作以上にバットマンというキャラクターの内面的な心理葛藤を主軸にしているところでしょうか。
まず本作のバットマンはバットマン活動歴2年目という部分がポイントですね。1年目でもない。つまり、本作はオリジン・ストーリーでもなければ、エピソード・ゼロでもありません。2年目という言ってしまえばものすごく中途半端な立ち位置になっています。
これはおそらくもうあのブルースの両親が犯罪者に殺されて…という何度も観たくだりを繰り返すのはさすがに観客も飽きただろうという考えもあったと思うのですが、この2年目が人の心を揺さぶるのに一番ちょうどいい時期でもあるのでしょう。
なんか今回のバットマンは就職して2年目で「ほんとにこの会社で働いていていいのかな…でも今さらまた就職活動はしたくないし…」と悶々としている若手社員みたいです。とにかく暗い。目に輝きがないし、顔色も悪い。残業で死にかけている人間の雰囲気がでている…。億万長者のプレイボーイという感じはゼロです。むしろ全財産をうっかり投資で溶かしてしまって絶望している人の顔なんですけど…。
なにせ住みたくない街No1であるゴッサムシティにいるのですからね。引っ越せばいいのに…。
ともかく“ロバート・パティンソン”にしか出せない雰囲気というのがありました。今作はビジュアルデザインの勝ちです。
あの映画の後始末
その本作特有の暗さはヴィランも同じであり、今回の悪役のリドラー(エドワード・ナッシュトン)はある意味では今回のブルースと同じ“側”に立っていると言えます。社会に対するやるせない劣等感を暴力というものでぶつけているという共通点。ではバットマンとリドラーを分けるものは何なのか。そもそもその区別をするなんてできるのか。
『THE BATMAN ザ・バットマン』は『ジョーカー』に対するアンサー的な映画にもなっていて、あの『ジョーカー』はインセル的な劣等感が暴力へと開花していく姿を描いていました。まさにヴィランらしいストーリーです。しかし、あの映画の公開後、アメリカでは議事堂襲撃事件が起こるなどもはやフィクションでは済まない社会情勢となり、ああいう後始末のないカタルシスを素直に浮かれてエンタメで楽しむわけにもいかなくなってきました。
その結果としての後始末の役目がこの『THE BATMAN ザ・バットマン』に回ってきたようなものであり、それは作品として必然なのですが、なかなかに荷が重いことです。今回のブルースがあんなに暗くなるのも納得ですよ。解決しようがない難題を丸投げされているんですから。
それでもやらなければならない。大衆を導かなければならない。そのこんな時代だからこそのバットマンの在り方というものが、終盤のリドラー信者との乱戦、そして人命救助に込められていたと思いました。
だから2022年ならではの「バットマン」映画でしたね。今のバットマンはこういうトーンになっちゃうものなんでしょう。
個人的な苦言を言えば、キャットウーマンの活躍はもっと新時代を切り開けるものがあり得たのではないかなと思います。本作のキャットウーマンは俳優の言及からもバイセクシュアルのキャラクターを想定しているみたいですけど、でも同性ガールフレンドのアニカは死んでしまうし、結局は異性愛的なシーンばかりで、レプリゼンテーションとしてはちょっとステレオタイプだったのも残念。2022年の表象としてこれはね…。私たちはDCではもう『ワンダーウーマン』を経験しているわけで、これを超える女性表象を欲しているのですが…。
私のマイベスト「バットマン」映画は『レゴバットマン ザ・ムービー』なのは揺るがないかな。
やっぱりシェアード・ユニバースしたいのでは…
DC&ワーナー側はライバルのMCUを意識してか、最近は「シェアード・ユニバースにこだわらず、クリエイターを優先する」と言っています。でも本作を観ていてもそう思いましたが、やっぱり内心はシェアード・ユニバースしたいんだろうな、と。
この『THE BATMAN ザ・バットマン』だって3部作の1作目で、しかもスピンオフとしてペンギンを主役にしたドラマシリーズは製作決定済み。そして今作のラストでアーカムに収容されたリドラーがジョーカーらしき男と会話するシーンのサプライズ。今回のジョーカーはあの“バリー・コーガン”ですよ。一体どれだけ同時期にジョーカーを出す気なんだ、DC…。これもアーカム・アサイラムを舞台にしたドラマを企画しているそうなので、そこであの2人も描かれるのかな。
とにかく『THE BATMAN ザ・バットマン』を軸に「バットマン」シェアード・ユニバースは拡大します。おそらくDC&ワーナーは全作品を網羅して世界観を繋げる気はなく、小さいプランターで複数のシェアード・ユニバースを育てていく戦術でいくんでしょうね。他にも「スーサイド・スクワッド」シェアード・ユニバースも展開しているし、「フラッシュ」シェアード・ユニバースも今後はやってくる。こうやってリスク分散しつつ、観客の反応がいいユニバースに投資していくつもりなのでしょうか。まあ、マルチバースという概念があるので、その気になれば何でもできるのですけど…。
この『THE BATMAN ザ・バットマン』の世界観はどこまで広がるのか。“ロバート・パティンソン”の顔はずっと暗いままなのかな…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 86% Audience 89%
IMDb
8.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
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DC映画の感想記事です。
・『ザ・スーサイド・スクワッド 極悪党、集結』
作品ポスター・画像 (C)2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (C) DC ザバットマン
以上、『THE BATMAN ザ・バットマン』の感想でした。
The Batman (2022) [Japanese Review] 『THE BATMAN ザ・バットマン』考察・評価レビュー