あらすじは見えても、SSUの未来は見えない…映画『マダム・ウェブ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
日本公開日:2024年2月23日
監督:S・J・クラークソン
まだむうぇぶ
『マダム・ウェブ』物語 簡単紹介
『マダム・ウェブ』感想(ネタバレなし)
SSUはミームにはなるけど…
公開前の映画がインターネット・ミームになるのは、宣伝には都合がいいことに思えるかもしれません。でもそれで映画が大ヒットするのが保証されるわけでもないので、ミームはしょせんミームです。
2024年公開のこの映画もミームの洗礼を受けました。
それが本作『マダム・ウェブ』です。
『マダム・ウェブ』の予告動画(トレイラー)が初めて公開されると、映像よりもあるセリフに関心が集まりました。といっても映画の展開を考察するためでもなく、あまりに「アメコミのスーパーヒーロー」というジャンルを象徴しているセリフだという半分冷めた視線だったのですが…(The Mary Sue)。
そのセリフは以下のとおり。
“He was in the Amazon with my mom when she was researching spiders right before she died.”(彼は私の母が亡くなる前に蜘蛛の研究をしていたときにアマゾンで一緒にいた)
実にこのジャンルらしい強引で過剰な設定の盛り込みがこのセリフひとつに全部詰まってました。
そして実際そんな感じの映画としか言いようがない中身だったので、これ以外の話題にできることも乏しいのですけど…。
はい、『マダム・ウェブ』の本編の話に戻りましょう。話題は…まだある! たぶん!
まず「ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース(Sony’s Spider-Man Universe; SSU)」の第4作目となります。SSUの第1弾は2018年の『ヴェノム』であり、第2弾はその続編の『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』、第3弾は2022年の『モービウス』。2024年はストライキで延期となった『クレイヴン・ザ・ハンター』も控えているので、一気にSSUの展開が加速した感じがします。
2024年は「ディズニー&マーベル」も「ワーナーブラザース&DC」も映画を1作しか公開しない予定なので、まさかのソニーが一番多作という立場に…。
でもいまだにSSUはどういう方向に進んでいるのかわからないですよね。
『マダム・ウェブ』はヴィラン系ではない主役映画としてSSUの新機軸になりそうですが、発表された当初はコミック・ファンもちょっと困惑してました。なぜなら「マダム・ウェブ」というキャラクターはコミックでもそんなに有名でもないし、特段人気があるわけでもないからです。「え? マダム・ウェブの映画を作るの?」という微妙な空気が漂って…。
それでも実際に観賞すると「ソニーはそれをやりたいのね」と、まあ、意図はわかりました。詳しくは後半のネタバレ感想で…。
事前に言っておくことがあるなら、本作は従来のアメコミ映画のようなド派手なアクション要素がほぼないです。出し惜しみで予告で見せていないのではなく、本当に無いのです。そこは期待しないでください。
『マダム・ウェブ』を監督するのは、ドラマ『ジェシカ・ジョーンズ』やドラマ『ある告発の解剖』の“S・J・クラークソン”。本作は劇場長編映画ではデビュー作となりましたが、過去にテレビ映画の『Toast』を監督しています。
主役を演じるのは、『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』『ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢』の“ダコタ・ジョンソン”。さらに若手陣として、『リアリティ』で素晴らしい演技をみせた“シドニー・スウィーニー”、『87分の1の人生』の“セレステ・オコナー”、『ロザライン』の“イザベラ・メルセード”も重要なポジションで抜擢されています。
『マダム・ウェブ』でSSUの未来が決まる…ことはないかな。
『マダム・ウェブ』を観る前のQ&A
A:特にありません。
オススメ度のチェック
ひとり | :俳優ファンなら |
友人 | :暇つぶしに |
恋人 | :恋愛要素なし |
キッズ | :エンタメ不足かも |
『マダム・ウェブ』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
1973年。アマゾンのジャングル。多様な野生生物で溢れるこの熱帯雨林に、ひとつの調査グループが足を踏み入れていました。その中心メンバーであるエゼキエル・シムズとコンスタンス・ウェブは、クモの研究をしていました。コンスタンスは熱心に蜘蛛の巣を写真におさめ、記録をとります。コンスタンス自身は妊娠中ですが、研究意欲は誰よりも真面目です。
クモの多様性は未知なことも多く、中には不思議な能力を持ったクモもいると考えられていました。それを見つけることができれば科学的な大発見です。
ある日、珍しいクモを見つけたと、コンスタンスは調査グループのテントで報告します。しかし、そのとき、エゼキエルは豹変し、銃を向け、仲間に発砲。わけもわからずコンスタンスも撃たれて、致命傷を負います。
エゼキエルの狙いはこの希少なクモを独占することで、クモの入った瓶を奪って逃げてしまいました。
残された瀕死のコンスタンスはたまたまその場に駆けつけた身軽な先住民族に助けられ、クモに噛まされて一時的に延命し、出産。けれども、コンスタンスは命を落としてしまい…。
年月は流れて、2003年、ニューヨーク。カサンドラ・“キャシー”・ウェブは救急救命士として毎日忙しく街を走り回って働いていました。
疲れながらも帰宅。ひとり暮らしで、猫がいるだけの部屋。奥にしまってある母の写真を取り出します。母の調査記録手帳にはクモの絵がいっぱいで、母は自分よりもクモに夢中だったのかと感じながら、今を生きています。
別の日。橋での事故現場に駆け付けます。ひっくり返った車からドライバーを救出。その瞬間、キャシーが車内にいる状態で車ごと水に落ち、奇妙な臨死体験のようなものを経験します。
同僚のベンジャミン・“ベン”・パーカーが水中から助け出してくれたのでなんとか一命はとりとめましたが、それからというもの、感覚がおかしい違和感が残ります。ベンが同じことを言っている…さっき見たことがまた繰り返されているような…。同じような経験をその後も何度か味わい、頻度は増していきます。
そして、別の現場で、同僚のオニールが事故に巻き込まれるイメージが頭をよぎり、直後にそのとおりのことが起きてしまい、オニールは亡くなってしまいました。
もしかして未来が見えるのか。それなら助けられる命があるかも…。そう漠然と感じ始めるキャシー。
一方、あのクモの力で財力と権力を手にしたエゼキエルは3人の若い女性の能力者に倒される未来を視て焦っていました。調べると、ジュリア・コーンウォール、アーニャ・コラソン、マティ・フランクリンという10代の少女だと判明。なんとか排除しないといけません。
キャシーは出発前の列車に乗っていると、その列車内で3人の10代の少女たちが謎の男に襲われる感覚を感じます。これも未来なのか…。
無視するべきか、それとも行動をとるべきか。意を決してキャシーはそれらしい3人に降りるように促します。
安心したのもつかの間、今度は謎の黒いスーツを身にまとった人物がクモのように天井を這って出現し…。
ミステリー…の要素はあった?
ここから『マダム・ウェブ』のネタバレありの感想本文です。
『マダム・ウェブ』は見てのとおり、昨今のアメコミ映画の中では異例で、派手なアクション・シーケンスがほとんどないです。例えば、ストーカーと化しているエゼキエルの黒スパイダーマンが襲ってくる場面は何度もありますが、スパイダーマンらしいスウィングはなく、なんだか突然降って沸いてくるスタイル(むしろこっちのほうがリアルのクモっぽいけど)。アクション・パートはあるのですが、肝心のアクロバットなモーションは省略している感じです。
最終戦だけは派手なドンパチはあるにはあるけど、無理やり花火工場を舞台にして派手さを演出している精一杯な気まずささえあります。
こうなった理由ですが、これは私の推測にすぎないですが、たぶん製作段階の過程で予算は大きくカットされたのではないかな…と。インタビューによれば初期の脚本は全く違うものだったそうで、おそらくそちらにはもっとアメコミ映画の大作らしいアクションが盛り込まれていたのでしょう。
しかし、昨今、映画企業は利益重視で企画を縮小する傾向があって、アメコミ映画も免れません(DCの『アクアマン 失われた王国』も広報が大幅削減されたばかり)。『マダム・ウェブ』は報道されている製作費よりも実際はかなりコストカットが随所でなされた気がします。
車で突進するシーンだけやけに何度もあるのは、それは案外とコスト低いのかな…。女性主人公の救急車アクションなら『アンビュランス』のほうがまだよくできてたような…。
別に製作費が少ないことがただちに悪い結果になるわけではないのですが、問題はクリエイターが納得してその予算内で最高に面白いものを作ろうとしているのか、それとも上からの指示でやむを得ず妥協しているのか…その違いですよね。
少なくとも私の感触では、本作はかなりの上からの圧で中抜きされた創作物に見えました。
そのせいか、宣伝も全く機能していません。本作は日本では「マーベル初の本格ミステリー・サスペンス」と打ち出されています。
でも実際に観ても「どこにミステリーの要素あった?」という印象しか…。だいたい冒頭10分くらいでもうこの映画の全体のあらすじが読めるのです。未来予知とか要りません。
エゼキエルが黒幕なのはわかるし、キャシーの出自も見え見えです。キャシーは混乱していますけど、クモに噛まれると特殊能力に目覚める設定は観客はもう見飽きるほどに知っています。わかりきっている物語が、そのとおりに展開していくのを眺めているだけになるので、ハラハラドキドキしません。
せめて「ミステリー」と名乗るなら、あの黒スパイダーマンの正体が不明で終盤までわからないとか、もっと多くの10代の少女を出演させて、そのうちの誰がスパイダーウーマン(スパイダーガール)になるのか最後になるまで判断できないとか、そういう謎が主軸にあるべきでしょう。
結局、本作はミステリー映画としては構想されたものじゃないのだと思います。アクション映画だったけど、諸々の理由でいろいろカットして、こういう完成形になった…という、そんな産物。それをどんなに宣伝でデコレーションしても、やっぱり空振りするだけで…。
表象も、雑な先住民描写や、都合のいいディサビリティ設定の獲得など、イマイチなクオリティではあったし…。
歪んだ構造を助長するのはやめて
『マダム・ウェブ』もいくらでも面白くなる可能性に溢れていたと思います。
女性キャラクターのまとめ役を軸に若い女性ヒーローがチームアップするなんて、かつてない新鮮な挑戦ですし、SSUの『アベンジャーズ』的な位置づけになれたはず。完成した映画は、ただハメを外して怒られた若い女子ってだけになってます。
私は思い切って原作どおり、高齢者のマダム・ウェブを見たかったですよ。高齢者主人公のアメコミ映画だったら、成功すればめちゃくちゃ斬新になれました。
しかし、このスカスカな完成形をみると、そのせっかくの可能性を台無しにした感じしか残っていません。あのジュリア・コーンウォール、マティ・フランクリン、アーニャ・コラソンという3人のスパイダーウーマン(スパイダーガール)だって、原作コミックでは魅力的なオリジン・ストーリーがあるのです。なのにこの映画では全く映されない。
こうなってしまうと、一作でお得感をだして”まとめ売り”で儲けようとしている商品セットみたいです。それはあまりにキャラクターを無駄にしています。ソニーは何のためにマーベルから映像化権利を買っているのか…。
そもそもソニーは『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』や『スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース』で大成功を収めたのですから、その経験を活かせばいいのです。つまり、かけるべき予算を投じ、キャラクターとストーリーを最高に盛り上げる。それが成功の未来を保証する最善のルートでしょう。
今回の『マダム・ウェブ』で何が残念かって、こういう予算縮小の憂き目に遭うのが、女性監督&女性メイン・キャスティングの作品だということです。
そうやって不十分な映画が作られると、一部のミソジニーな観客は「ほら、女性監督とか、女性メインのキャラにするから失敗したんだ。エンタメはやっぱり男のために作らないとダメなんだよ」と得意げに言ってくる…そんな輩が出没します。毒蜘蛛よりも有害無益なトキシック・ファンダムです。
現状、批評の世界も「人種的にマジョリティなシス男性」が多くを占めており、批評自体も偏向していることが指摘されています(The Mary Sue)。加えて先にも挙げたとおり、一部のファンも偏向しまくっています。
ましてや、現在、ソニーがAmazonと共に製作しているスパイダーマン系列実写ドラマシリーズの『Silk: Spider Society』が「男性視聴者向け」に作り直される企画変更が起きているという、信じたくない噂もあります(The Mary Sue)。
明らかに今、ハリウッドでは、「Me Too」以来、最悪の反動的バッシングが起きており、それを引き起こしているのは男性中心の映画大企業と有害なファンとメディアです。
ハッキリ言ってそんなフェミニズムや多様性を嘲笑うだけの連中に映画業界が媚びたところで、そんな連中がますますニヤニヤするのみ。この流れに屈すると業界の未来は本当に大事なものを失いますよ。
私はメディアが話題として使いたがる「スーパーヒーロー疲れ」という空虚な言葉も嫌いで、なぜならその表現自体が「女性や多様性を包括するスーパーヒーロー作品に疲れたんだ」という差別感情をカモフラージュするレトリックに使われている一面もあるからです。
私は映画ファンとなってもう長いですが、業界とファンのそういう歪んだ構造には心底失望し続けています。
でも声をあげるのは止めません。歪んだ構造があるなら、その責任を追及し、それを正すのを恥とは思いません。
大いなる力には大いなる責任が伴うのですから。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 13% Audience 55%
IMDb
3.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)& TM 2024 MARVEL マダムウェブ マダムウエブ
以上、『マダム・ウェブ』の感想でした。
Madame Web (2024) [Japanese Review] 『マダム・ウェブ』考察・評価レビュー
#アメコミ #マーベル #SSU #ダコタジョンソン #シドニースウィーニー