鹿が教えてくれる…映画『子鹿のゾンビ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:イギリス(2025年)
日本公開日:2025年8月29日
監督:ダン・アレン
ゴア描写
こじかのぞんび
『子鹿のゾンビ』物語 簡単紹介
『子鹿のゾンビ』感想(ネタバレなし)
バンビ、参戦!
環境省のデータによれば、2023年度に日本では鹿が狩猟と駆除で72万頭以上も捕獲されているそうです。1日だけでも約1972頭もの鹿が人間の手で殺されている計算になります。冷静に考えると凄まじい数ですよね。まあ、でも鹿の繁殖力も凄いので、個体数自体は深刻なほど減少はしていないのですが…。
そうは言ってもですよ。それだけ殺してたら…鹿に呪われないんですか? もしかして2025年がやけにクソ暑いのは鹿の怨念のせいでしょうか(いいえ、気候変動のせいです)。
日本人は熊ばかりにパニックになってますけど、鹿が狂暴化することを想定したほうがいいかもしれません。何を言っているんだって? いいんです、話に付き合ってください。
今から強引にこの映画に結び付けようとしているんですから。
ということで本作『子鹿のゾンビ』の感想です。
始まりは、2023年に劇場公開された”リース・フレイク=ウォーターフィールド”監督の『プー あくまのくまさん』。“A・A・ミルン”の「くまのプーさん」の著作権切れに便乗して堂々と参上したこのスラッシャー映画は、ネタありきながら低予算だからこそのヒットで成功。2024年には2作目となる続編『プー2 あくまのくまさんとじゃあくななかまたち』も公開されました。
それに飽き足らず、「よし、いろんな童話をホラーにしてクロスオーバーさせちゃえ!」ってことで「Twisted Childhood Universe(TCU)」というシェアード・ユニバースが始動。
2025年は、ディズニーがアニメーション映画化したことで非常に有名な“フェーリクス・ザルテン”の「バンビ」をホラー化した『子鹿のゾンビ』がやってきました。
ちなみに今回は著作権が切れたからホラー映画の挑戦ができたわけではありません。そもそも原作は1923年に出版されていますが、著作権の解釈が長年曖昧で、ずっと法廷闘争になってきました。むしろディズニーのほうが著作権ギリギリのことをしています。結局、ヨーロッパでは2016年、アメリカでは2022年に小説の著作権は切れたことになっています。
すでに「バンビ」はソ連とフランスで実写映画化されていて(もちろんホラーではない)、フランスの2024年の映画は完全に本物の動物を使っているそうです(私は観たことがない)。
話を映画『子鹿のゾンビ』に戻しますが、本作がやっているのは「バンビ」が人を襲う…単純明快です。今作はスラッシャーというか、モンスターパニックですね。
なお、邦題は「ゾンビ」となっていますし、一部の宣伝では「ゾンビ化した」と述べられていますが、ゾンビの要素はありません。「ゾンビ」と「バンビ」の言葉を引っかけるただのギャグです。日本はタイトルが『プー あくまのくまさん』の頃から本編と関係ないダジャレで押し切っているけど、これでいいんだろうか…。というか、どっちかと言えばゾンビだったのは前回の「プーさん」のほうだったじゃないか…。
監督は『プー2 あくまのくまさんとじゃあくななかまたち』の編集を担当した“ダン・アレン”となっています。2017年に『Unhinged』という映画で長編監督デビューしています。
主演は、『クライモリ デッド・パーティ』の“ロクサンヌ・マッキー”で、他にも結構登場人物が多いのですけど、どうせ死ぬ役なのでね…。
シェアード・ユニバースと言っても、本作『子鹿のゾンビ』で単品として独立していますので、気にせずに鑑賞してください。
『子鹿のゾンビ』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
基本 | 野生動物を虐待する描写があります。 |
キッズ | 残酷な殺人の描写がたくさんあります。 |
『子鹿のゾンビ』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
昔、バンビという名の子鹿は住処の森で母親と幸せに暮らしていましたが、どこからともなく密猟者の銃弾が飛んできて、母親は殺されてしまいます。血だまりの中で無残に横たわる母の亡骸の傍で悲しみ続けることもできず、バンビはなおも執拗な銃弾から逃れるために森の奥へと独りで駆け去ります。
狩猟者がいなくとも自然だけでも過酷です。それでも孤独ながらもたくましく育ったバンビは、立派な角を持った大人へと成長。雌鹿と出会い、子どもも1頭生まれました。
3頭で仲良く森で暮らしていましたが、森林は人間の手によって開発され、見る影もなく汚染されていきました。鹿たちにはどうすることもできません。
そしてある日、雌鹿は廃棄物を乗せた1台のトラックに轢かれ、絶命。その場にいたバンビも車を降りてきた人間によって気絶させられ、その間に子鹿は消えていました。探しても全く見つかりません。
またもや大切な存在の死を経験し、怒りと悲しみに包まれていたバンビは、傍の水を飲みます。その水は不法投棄された有毒物質で汚染されており、バンビの身体はみるみるうちに変貌していきました。復讐心だけは変わず…。
ところかわって、人間のザナはゲームに夢中な息子のベンジーを連れて、夫のサイモンの実家に行くべく、タクシーに乗りました。感謝祭の集まりです。サイモンは何か用事があると言い訳を述べ、ザナとベンジーを放置です。
サイモンの実家は森の中にあり、彼の兄弟のアンドリューとジョシュア、アンドリューの妻のハリエット、アンドリューの息子のハリソン、サイモンの母で認知症のメアリーが待っています。
夜中の道路を走っていると、運転手のよそ見のせいで対向車線の車にぶつかりそうになります。ヒヤっとしましたが、とりあえず無事です。少し降りて休むことにします。ベンジーは今の家族の状況に不安を感じているようです。ザナは安心させる言葉を口にするくらいしかできません。
そしてまた車を走らせていると、今度は前方から巨大な鹿らしき動物が体当たりし、あろうことか車体をひっくり返してしまいました。普通の鹿がこんなことできるわけはありません。熊でも無理です。
逆さまになった車の中に閉じ込められ、その巨大な鹿は前脚で車を潰そうとします。運転手はぺしゃんこになるも、ザナとベンジーはギリギリで逃げ出します。鹿は仁王立ちでこちらを見降ろしています。明らかな殺意を感じます。このままでは殺される…。
2人は暗闇の森を一目散に逃げます。
それがあの復讐に染まったバンビだとは知らずに…。
タタリ神(鹿)

ここから『子鹿のゾンビ』のネタバレありの感想本文です。
ハンガリー出身のオーストリアの小説家である“フェーリクス・ザルテン”の原作の時点から、無垢な子鹿が突然の暴力で親を失うというショッキングさを強調しており、作品の根幹となっていました。後世の批評家からは、この展開は、当時のヨーロッパのユダヤ人が直面した迫害を寓話化したものと解釈されています。“フェーリクス・ザルテン”はユダヤ人で、実際にこの後、ナチスから逃れるために亡命することになります。
この原作の「幼い頃に純真さを暴力で喪失させられる」という暗いテーマを、本作『子鹿のゾンビ』はより強化している作品だと言え、むしろディズニーのアニメーション版よりも、その点においては原作に忠実なくらいかもしれません。
ジャンルとしてはモンスターパニックである以前に、エコ・ホラーとして堅実に作られており、「どうせ珍作なんだろう」と舐めていると「あれ? 普通にしっかりできているな…」と戸惑う感じすらあります。正直、フランチャイズの「プーさん」のほうは、原作を素材にネタに走りすぎているところはあるのですけど、この『子鹿のゾンビ』はその逆のような…。この2作を同じ世界観でクロスオーバーさせて大丈夫なのかと心配になる…。
エコ・ホラー…つまり、何らかの環境保全が背景にあり、例えば環境破壊の結果で恐怖が生み出される…といった構造を持つこのジャンルは、往々にして野生動物と相性がいいです。
本作は密猟者に親を殺されただけでなく、住処の森を汚染させられ、鹿のバンビにしてみれば、世界のすべてをズタズタにされてしまっています。
そして身体が異様に狂暴化して人間に襲いかかってきます。ちなみに最大級のシカの仲間であるヘラジカよりも大きいくらいのサイズでしたが、ヘラジカは体は大きいですけど大人しい動物です(とは言え体格は大きいので何か行動すると思わぬ被害になりやすい)。
本作のバンビを突き動かすのは人間への憎しみ。要するに『もののけ姫』の「タタリ神」とそう変わらないです。スケールを大きくしていけば、本当に『もののけ姫』のイギリス版になりそう…。
ただ、人間を八つ裂きにしていく一連のシーンはいつものこのフランチャイズらしいスラッシャーの自由奔放さでしたけどね。
序盤の車をひっくり返す豪快さは、まあ、普通。普段の車に轢かれて死ぬばかりの側だった鹿による痛快な反撃です。もうこれも笑えるシーンではありますけど。
次の家での惨劇は想定外ですね。「そんな家に平然と乱入できるのかよ!」っていう破壊の鹿と化しています。ドアノブも回せるのはさすがに笑いをとりすぎだったけども…。
後半の大爆発のシーンも絵としてのカットがとても綺麗で、よく撮れていました。
このバンビを観ているだけでも飽きないので、私はエコ・ホラーとして鹿を主題にした作品を作ってくれただけでも、もう60点は与えられる気分ですよ。
ずっと鹿の視点でもよかったのに
『子鹿のゾンビ』で「もう少しここはどうなんだ」という不満を挙げるとしたら、人間側のキャラクターとのドラマの混ぜ合わせです。
そもそも原作は人間なんてろくに関わってこないので、完全に鹿の主軸で進行します。今作はあくまでバンビは襲ってくるモンスターという扱いであり、人間のほうに視点があるドラマが展開します。
私はいっそのこと、バンビの視点で本編中ずっと物語が描かれていてもよかったとすら思います。それくらい振り切ってもよい題材だったろう、と。
だからちょっと序盤で人間側の視点に切り替わってしまったときは残念でしたね。
本作の人間側の物語は今回のオリジナルとなりますが、生存する側にいる人間キャラクターの設定はそこまで面白味はなかったです。人間の落とし前をつけるのは人間…という、人間にもしっかりしたところがある善性をみせるラストではありましたが、私はあまり人間に同情したいと思ってないタイプの輩なので、わりとどうでもよかったところはある…。
あと、ウサギ。いや、あの狂暴なウサギたちは好きですよ。『Night of the Lepus』(1972年)の再来じゃないですか。それだけでもテンションが上がります。
でもあのウサギたちも環境汚染のせいで変貌しているのだとして、そうなってくると鹿を主軸にした世界観にならなくなるので、「そこを広げても大丈夫なのか?」とは心配になります。
これ、フランチャイズ前作の『プー2 あくまのくまさんとじゃあくななかまたち』の感想でも書いたのですけど、キャラクター同士の掛け合いの面白さが著しく欠けるので、クロスオーバーさせるとより楽しくなるという将来性が全然見えないですね。
今回の『子鹿のゾンビ』はエコ・ホラーという別のジャンルで勝負してきましたけども、それも単品としては質を維持できても、セット料理だと味が台無しになりかねない難しい素材ではあるし…。
もしかしたら凄い隠し玉を考えているのかもなので、興味は失ってませんが…。
ディダラボッチみたいにさらなる巨大化する可能性もなくはないですが(巨大化は観てみたい私の願望)、それで面白いかどうかは何も保証できません。
ぜひ皆さんは森の中の路上を走る際は、日本でも鹿が飛び出してくることもあるので、注意してスピードを出しすぎないように運転しましょう。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
作品ポスター・画像 (C)2025 ITN Distribution Inc. All Rights Reserved. 子じかのゾンビ 小鹿のゾンビ 子鹿のバンビ
以上、『子鹿のゾンビ』の感想でした。
Bambi: The Reckoning (2025) [Japanese Review] 『子鹿のゾンビ』考察・評価レビュー
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