2020年代からアメリカでは「禁書」が問題視されています。
特定の本を禁止とする「禁書(ban)」は昔から行われてきましたが、現在のアメリカでは保守勢力(主に宗教右派)がその禁書を主導的に政治の場で推し進めています。
そうは言っても表現の自由や言論の自由があるので、一般の書店から特定の本を強制的に排除することはできないのですが、政治権力の手を伸ばしやすい公立学校や公的な図書館からその禁書の政策に着手している状況です。
表現の自由が脅かされていないかを監視している人権団体の「PEN America」によれば、2023~2024年度に公立学校で1万冊以上の書籍が禁止されたとのことで、1950年代のマッカーシー政権下での赤狩り以来は見られなかった数だと述べています。その多くは、人種民族差別、暴力的な内容、性的な内容、LGBTQ+などを扱っている本ばかりで、保守勢力にとって「気に入らない描写」を排除していることがわかります。「国家主導の検閲」とも呼ばれる一連の禁書運動は2021年から激化し、極右団体が背後にいます(The Guardian)。2025年から始動した第2期の“ドナルド・トランプ”政権もこの禁書運動を黙認、さらには助長しており、「ポリコレ(woke)」のイデオロギーとレッテルを貼って、規制する根拠となりうる大統領令をいくつかだしています(ACLU)。詳細については、『絵本戦争 禁書されるアメリカの未来』(太田出版, 堂本かおる 著, 2025年)といった日本語文献もあるので参考にしてください。
そんな中、実は日本の漫画もこのアメリカの保守勢力による禁書のターゲットにされています。日本の漫画が占める割合としてはごく一部で少ないですが、いくつかの有名な作品がリストにあがっています。
日本の漫画の禁書が目立つ地域として先駆けとなっているのがテネシー州です(The Mary Sue)。2024年に「Age-Appropriate Materials Act」という法律が改正され、「ヌードを含む、性的興奮、性行為、過度の暴力、サドマゾヒズム的な虐待の描写」のある書籍は禁止されたことで、この曖昧な規制が禁書に拍車をかけました。他の州がこのテネシー州に倣う動きも観察されています。
日本ではあまり報道として話題になりにくいですが、今回は、このアメリカの保守勢力によって禁書の対象となっている日本の漫画を整理しています。
以下の一覧は、主に「EveryLibrary Institute」が集約している禁書リストのスプレッドシートを参考にしています。
- 『青の祓魔師』
- 『AKIRA』
- 『ありす19th』
- 『暗殺教室』
- 『イジらないで、長瀞さん』
- 『犬夜叉』
- 『ヴァンパイア騎士』
- 『炎炎ノ消防隊』
- 『All You Need Is Kill』
- 『おやすみプンプン』
- 『海獣の子供』
- 『寄生獣』
- 『機動戦士ガンダム サンダーボルト』
- 『黒執事』
- 『小林が可愛すぎてツライっ!!』
- 『佐々木と宮野』
- 『citrus』
- 『呪術廻戦』
- 『シュナの旅』
- 『ジョジョの奇妙な冒険』
- 『進撃の巨人』
- 『ソウルイーター』
- 『チェンソーマン』
- 『デュラララ!!』
- 『東京喰種トーキョーグール』
- 『ドラゴンボール』
- 『七つの大罪』
- 『鋼の錬金術師』
- 『HUNTER×HUNTER』
- 『ブラッドラッド』
- 『BLEACH』
- 『ブルーピリオド』
- 『文豪ストレイドッグス』
- 『僕のヒーローアカデミア』
- 『BORUTO-ボルト- -NARUTO NEXT GENERATIONS-』
- 『魔女』(五十嵐大介)
- 『名探偵コナン』
- 『やがて君になる』
- 『約束のネバーランド』
- 『憂国のモリアーティ』
- 『らんま1/2』
- 『烈火の炎』
- 『ロザリオとバンパイア』
『青の祓魔師』
英題「Blue Exorcist」【対象地域:テネシー州】【2024年~】
『AKIRA』
英題「Akira」【対象地域:テネシー州】【2024年~】
『ありす19th』
英題「Alice 19th」【対象地域:テネシー州】【2024年~】
『暗殺教室』
英題「Assassination Classroom」【対象地域:テネシー州、フロリダ州、テキサス州】【2023年~】
『暗殺教室』は最も多くの地域で禁書対象となった日本の漫画のひとつとして不名誉(?)な実績があります。その理由は「学校での銃乱射事件を助長するため」とのことですが(The Beat)、保守層は銃規制を避けるためのスケープゴートとして暴力的な漫画などを槍玉にあげることがしばしばあります。
『イジらないで、長瀞さん』
英題「Don’t Toy with Me, Miss Nagatoro」【対象地域:テネシー州】【2024年~】
『犬夜叉』
英題「Inuyasha」【対象地域:テネシー州】【2025年~】
『ヴァンパイア騎士』
英題「Vampire Knight」【対象地域:テネシー州】【2024年~】
『炎炎ノ消防隊』
英題「Fire Force」【対象地域:テネシー州】【2024年~】
『All You Need Is Kill』
英題「All You Need Is Kill」【対象地域:テネシー州】【2024年~】
『おやすみプンプン』
英題「Goodnight Punpun」【対象地域:アイオワ州】【2024年~】
『海獣の子供』
英題「Children of the Sea」【対象地域:テネシー州】【2024年~】
『寄生獣』
英題「Parasyte」【対象地域:テネシー州】【2024年~】
『機動戦士ガンダム サンダーボルト』
英題「Mobile Suit Gundam Thunderbolt」【対象地域:テネシー州】【2024年~】
『黒執事』
英題「Black Butler」【対象地域:テネシー州】【2024年~】
『小林が可愛すぎてツライっ!!』
英題「So Cute it Hurts!!」【対象地域:テネシー州】【2024年~】
『佐々木と宮野』
英題「Sasaki and Miyano」【対象地域:フロリダ州】【2024年~】(Anime News Network)
『citrus』
英題「Citrus」【対象地域:ミズーリ州】【2022年~】
『呪術廻戦』
英題「Jujutsu Kaisen」【対象地域:テネシー州】【2024年~】
『シュナの旅』
英題「Shuna’s Journey」【対象地域:ミズーリ州】【2023年~】
『ジョジョの奇妙な冒険』
英題「JoJo’s Bizarre Adventure」【対象地域:テネシー州】【2024年~】
『進撃の巨人』
英題「Attack on Titan」【対象地域:テネシー州】【2024年~】
『ソウルイーター』
英題「Soul Eater」【対象地域:テネシー州】【2024年~】
『チェンソーマン』
英題「Chainsaw Man」【対象地域:テネシー州】【2024年~】
『デュラララ!!』
英題「Durarara!!」【対象地域:テネシー州】【2024年~】
『東京喰種トーキョーグール』
英題「Tokyo Ghoul」【対象地域:テネシー州】【2024年~】
『ドラゴンボール』
英題「Dragon Ball」【対象地域:テネシー州】【2025年~】
『七つの大罪』
英題「Seven Deadly Sins」【対象地域:テネシー州】【2024年~】
『鋼の錬金術師』
英題「Fullmetal Alchemist」【対象地域:テネシー州】【2024年~】
『HUNTER×HUNTER』
英題「Hunter × Hunter」【対象地域:テネシー州】【2024年~】
『ブラッドラッド』
英題「Blood Lad」【対象地域:テネシー州】【2025年~】
『BLEACH』
英題「Bleach」【対象地域:テネシー州】【2024年~】
『ブルーピリオド』
英題「Blue Period」【対象地域:テネシー州】【2024年~】
『文豪ストレイドッグス』
英題「Bungo Stray Dogs」【対象地域:テネシー州】【2024年~】
『僕のヒーローアカデミア』
英題「My Hero Academia」【対象地域:テネシー州、コロラド州】【2024年~】
『BORUTO-ボルト- -NARUTO NEXT GENERATIONS-』
英題「Boruto」【対象地域:テネシー州】【2024年~】
『魔女』(五十嵐大介)
【対象地域:テネシー州】【2024年~】
『名探偵コナン』
英題「Case Closed」【対象地域:テネシー州】【2024年~】
『やがて君になる』
英題「Bloom Into You」【対象地域:テネシー州】【2024年~】
『約束のネバーランド』
英題「The Promised Neverland」【対象地域:テネシー州】【2024年~】
『憂国のモリアーティ』
英題「Moriarty the Patriot」【対象地域:テネシー州】【2024年~】
『らんま1/2』
英題「Ranma 1/2」【対象地域:テネシー州】【2024年~】
『烈火の炎』
英題「Flame of Recca」【対象地域:テネシー州】【2024年~】
『ロザリオとバンパイア』
英題「Rosario and Vampire」【対象地域:テネシー州】【2024年~】
今回は漫画に限定しましたが、テキサス州では漫画だけでなくアニメも含めて、特定の作品の所持が禁止されかねない法律も保守派の政治家によって起草されています(The Mary Sue)。
本来、子どもに何を見せるかは各家庭が適切な合意のもとで決定することです。学校や図書館は子どもの年齢に合わせたきめ細かなゾーニングをすでにしています(Anime News Network)。それなのに政治が一方的に介入することは検閲となるでしょう。
現在、アメリカではこの禁書運動は漫画コミュニティの間では重大な問題であり、パネルディスカッションなどでもテーマになっています(Anime News Network)。
これらの事例はあくまで特定の州の一部の場所での規制であるため、全土で規制が蔓延する可能性は低いとみられています(ScreenRant)。
しかし、悪しき前例は良い未来を招きませんので、警戒するにこしたことはありません。何よりも現在のアメリカにおける保守的な勢力の動向は注視する必要があります。