上手に飛べました…実写映画『ヒックとドラゴン』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2025年)
日本公開日:2025年9月5日
監督:ディーン・デュボア
恋愛描写
ひっくとどらごん
『ヒックとドラゴン』物語 簡単紹介
『ヒックとドラゴン』感想(ネタバレなし)
ドリームワークス・アニメも実写化の時代に
「アニメーション映画を実写化する」と言えば、ディズニーの専売特許な感じだったのですが(アニメの実写化は日本もすでに散々やってますけどね)、2025年、もうそうは言えなくなりました。
これは「アニメーション映画の実写化」ブームの第2ステージの幕開けとなってしまうのか…。
それが本作、実写映画の『ヒックとドラゴン』です。
2010年に『ヒックとドラゴン』というCGアニメーション映画が公開されました。「Rotten Tomatoes」によれば当時の「ドリームワークス・アニメーション」史上でも最高評価を記録するほど、スタジオを象徴する大ヒット作となり、華々しく羽ばたきました。
2014年に続編となる『ヒックとドラゴン2』が、2019年には3作目の『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』が公開され、3部作としてこれ以上ない綺麗な完成形を遂げたのも記憶に新しいです。
そのアニメ映画『ヒックとドラゴン』について2020年代から配給の「ユニバーサル・ピクチャーズ」が実写化を検討し始め、ついに2025年にお披露目となったのが本作です。
今やアニメーション映画の実写化はディズニーが散々手を付けているので珍しくもなんともないのですが、本作『ヒックとドラゴン』が特徴的なのは、オリジナルのアニメ映画のほうで監督と脚本を務めた“ディーン・デュボア”がそのまま実写映画でも続投していること。
“ディーン・デュボア”自身は昨今の「アニメーション映画の実写化」の連発にあまり良い気持ちはなかったそうですが、どうせやるなら他人に改変されるよりは自分でやりたいということで、今回の実写映画『ヒックとドラゴン』に帰ってきました。
ちなみにディズニーのほうは“ディーン・デュボア”が以前に手がけた『リロ・アンド・スティッチ』を実写化した『リロ&スティッチ』を2025年に公開していますので、今年は“ディーン・デュボア”直々の実写映画と、“ディーン・デュボア”の手を離れた実写映画の、象徴的に対比される2作が並ぶ1年になりました。
今回の『ヒックとドラゴン』の実写映画は1作目のアニメーション映画の物語をほぼそのままなぞっており、あの“ジョン・パウエル”の音楽も同じで、感動体験がよりダイナミックになって味わえます。
まあ、一番の変化は当然、人間キャラクターは俳優が生身で演じるようになったことですけどね。
実写映画『ヒックとドラゴン』で主人公に抜擢されたのは、『ブラック・フォン』の“メイソン・テムズ”。さらに実写映画『ダンボ』の“ニコ・パーカー”がヒロインを好演しています。
大人勢は、“ジェラルド・バトラー”が一見すると本人だとわからないくらいに体格のいい髭モジャの父親を熱演し、“ニック・フロスト”がそこに並んでいます。
また、他の若者組だと、『ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル』の“ジュリアン・デニソン”、ドラマ『Bodies/ボディーズ』の“ガブリエル・ハウエル”、ドラマ『ロックウッド除霊探偵局』の“ブロンウィン・ジェームズ”、ドラマ『スター・ウォーズ:アコライト』の“ハリー・トレバルドウィン”などが参加。
日本では知名度がなおも低くも、熱烈なファンが下支えしているシリーズでしたが、今回の実写映画でもっと知られるようになるといいですね。元のアニメーション映画を知らない人は、この実写映画からぜひ。
『ヒックとドラゴン』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
基本 | — |
キッズ | 子どもでも問題なく観れます。 |
『ヒックとドラゴン』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
多彩なバイキングの一族が集まって暮らすバーク島では、もうどれくらいになるのかわからないほどに長年にわたって人間とドラゴンが戦いを繰り広げていました。
夜になるとどこからともなくドラゴンの群れがやってきて、家畜を狙って襲ってくるのです。ドラゴンの種類はさまざまですが、どれも人間にとっては脅威です。バイキングたちは武器で応戦するしかありません。
今日も、夜中にドラゴンが襲来。族長のストイックが先導し、みんなで荒々しく武器を手に迎え撃ちます。ここのバイキングにとってはドラゴンと勇ましく戦ってこそ1人前です。
しかし、ストイックのひとり息子である16歳のヒックは、あまりそういう荒々しい戦い方が得意ではなく、どちらかと言えば発明が好きな、ここでは変わり者扱いでした。周囲からは戦闘には役に立たないと思われています。
ヒックもなんとか認めてもらおうと、鍛冶屋ゲップに発明をみせるも、大人しくしてろと言われる始末。ゲップは片手と片足はなくとも義手と義足で戦いに混ざっていってしまい、ヒックは取り残され、家でひとりです。
外では火事を機転で見事に消した同年代の女子のアスティ(アストリッド)に見惚れます。なんとか自分も強いところをみせたい…。
ドラゴンにはいろいろな種類がいるのですが、とくにナイト・フューリーと呼ばれる希少なドラゴンは強力とされ、あまりの素早さに誰もその姿をじっくり見たことがないほどです。今回の襲撃でも高速の攻撃しか視認できません。
ヒックは自作の投石器を広場に持ち出し、星空に向けて発射してみます。偶然にもそれはナイト・フューリーらしきドラゴンを撃墜したかのようにみえ、それは少し離れた山に落ちていきました。
でもそのヒックのまぐれの一発でさえも誰も見ていません。そうこうしているうちに他のドラゴンから情けなく逃げるハメになり、父が勇ましく肉弾戦で追い払ってくれました。
ひと段落し、同じ年頃の、スノット、フィッシュ、タフ、ラフにも笑われ、ヒックは惨めな気持ちでした。
バイキングの大人たちはドラゴンにやられるばかりではなく、その拠点にこちらから出向いて攻撃しようと計画を練っています。
とりあえずヒックは森へひとりで行き、ナイト・フューリーを本当に撃ち落とせたのか確認してみることにします。
そして森の奥に本当に1頭の黒いナイト・フューリーが網に絡まって動けなくなっており…。
オリジナルの良さを再確認

ここから『ヒックとドラゴン』のネタバレありの感想本文です。
もともとのオリジナルのアニメーション映画があまりに完成度が高かったので、今回の実写映画『ヒックとドラゴン』はそれをブラッシュアップさせることで、あらためてそのオリジナルの良さを再確認できる機会になった感じでした。
私の思う『ヒックとドラゴン』の良さは、王道な物語を補強する誠実さです。
このシリーズでは、ドラゴンをよくあるファンタジーもののように「怪物(モンスター)」として扱わず、自然に生きる「野生動物」として扱っています。その身近な野生動物と人間の間に軋轢が生じている…というのが本作の導入です。人獣被害が発生するなんて、現実でいうところの「熊との軋轢」なんかと一緒です。要するに、このシリーズは一貫して動物保全学…ワイルドライフ・マネジメントをテーマにしているんですね。
対象の動物を「危険だ」と騒ぐだけなら誰でもできる。でもその「問題」を突き詰めると、人間側の態度の問題じゃないのか?という視点を浮かび上がらせる…。
「共生できるか?」なんて上から目線ではなく、「軋轢を減らすための努力を私たちはやっているか?」という当事者の自覚意識(責任)ですよね。
もっと言えば、本作は「恐怖を乗り越えた先にこそ新たな未来がある」というビジョンを掴み取る物語でもあります。
これは動物だけに限らず、ついあらゆる他者に恐怖して対立しようとしてしまう私たち社会の抱える脆弱性です。
そのうえ、本作はそこにマスキュリニティも絡んでいることを捉えてもいます。あのバーク島のバイキングのコミュニティでは「ドラゴンをぶちのめすこと」が男らしさの証です。それが「勇気」だとしか認識していません。
でもヒックは「ドラゴンの恐怖を乗り越えること」こそが「勇気」なのではないかと全く別の価値観を提示します。これは男らしくあれという親からの継承から外れた少年が新しい世界の規範を築くストーリーと言えると思います。
日本公開版ではヒックのパートナーとなるナイト・フューリーの名前が「トゥース」なのですが、オリジナルでは「トゥースレス(Toothless)」であり、「“歯”無し」と随分弱そうな名前です。「ヒック」のオリジナルの名前も「Hiccup」(「しゃっくり」の意味)であり、二者を合わさるととても間抜けで最弱そうなネーミングのコンビになります。
この規範から逸脱したコンビが、まずはコミュニティの教育(ゲップによる対ドラゴン授業)から変革を起こしていき、ティーンエイジャーが古い考え方のこびりつく大人たちを変えていくのも象徴的です。
ヒックとトゥースのコンビは「欠けている者同士で補い合えば全く新しい扉を開ける」というメッセージを体現する存在ですが、このメッセージに絡めながら、本シリーズは身体障害(ディサビリティ)に対して前向きな表現になっていて心強いです。
トゥースはヒックが原因で傷を負って飛翔能力に制限が生じ、ヒックは終盤の戦いの怪我で片足を失います。しかし、よくありがちな「障害を負って絶望する」というテンプレな描写はありません。あの片足を失くしたとわかる瞬間のシーンは、観客に衝撃を与えるためのものではなく、その事実がわかっても妙に心穏やかでいられます。
その理由は、それまでの物語をとおして、私たちに「恐怖を克服する」ことの心理的なハードルをしっかり下げてくれているからなのでしょう。確かにこれから苦労はたくさんあるだろうけど、異なる者同士で支え合うことができるなら、それほど打ちのめされるような気持ちになる必要もない、と。
こんな感じで、このシリーズは、一見すると「人間とドラゴンが仲良くなりました」という単純な理想論を安易に描いているように見えますが、きめ細かなキャラクター関係性や展開の積み重ねで、説得力をじゅうぶんに増している…そこが私にも感動を与えてくれました。
次は勇気をもって新しいことを
では話を今回の実写映画『ヒックとドラゴン』としてはどうなのか?というところに移しますが、オリジナルの良さを再確認する以外の際立った面白さは正直言ってあまりないです。
もちろん映像のダイナミックさはパワーアップしています。とくにヒックとトゥースの飛翔の興奮と躍動は何にも変えがたいエモーショナルな体験です。実写のリアリティがこの体験を損なうことはありませんし、アニメーション的な表現をオリジナルで完成させているぶん、俳優の生身の演技が加わっても何も違和感はなかったです。
ちなみにあのシーンでヒックを乗せたトゥースが通り抜けるフィールドは、本当に実在する「トレンカルニル」という海食柱です。観光しに行くこともできる場所なので、ファンの聖地巡礼スポットですね。
トゥースのデザインも良いですね。実写にするからといって、極端に生々しくリアルにせず、爬虫類と哺乳類の中間のようなキャラクター感を保持しており、オリジナルを好きなファンは「ああ、私たちの大好きなトゥースだ」と安心できます。
この実写映画『ヒックとドラゴン』、真の理想的な「ポケモン」の実写化の模範解答なんじゃないだろうか…。
実写映画『ヒックとドラゴン』で個人的に気になるのは、オリジナルのリスペクトに肩入れしすぎるあまり、この実写化というチャンスに挑戦する姿勢を失っている点でしょうか。“ディーン・デュボア”監督の思いもわかるのですけど、クリエイティブな野心は感じづらい感触にはなってしまいますよね。そもそもこの作品は「勇気をもって新しいことをするために飛び出せ」と訴えているのに、作品自体の製作方針がわりとそのテーマに反して逃げ腰にみえてしまうし…。
例えば、今作ではバーク島のバイキングはより多民族的であり、世界中から祖先を持っていることを説明する短いシーンがあります。だったらその多民族性を以てしてもいかに恐怖に保守的になってしまうのかをもっとじっくり描き出すアレンジもできたはずです。テーマはより深みを増すでしょう。
このシリーズのもともとの数少ない弱点は、物語がヒック主導すぎるというところにあると思うので、どれだけ今後の続く実写映画シリーズで、そのあたりを改善できるかは腕の見せ所じゃないでしょうか。
そして「ドリームワークス・アニメーション」は他のアニメ映画も実写映画化するのかという点も気になりますが…『ヒックとドラゴン』の成功はそれを後押しするでしょうね…。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
作品ポスター・画像 (C)2025 UNIVERSAL PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED. 実写ヒックとドラゴン ハウ・トゥ・トレイン・ユア・ドラゴン
以上、『ヒックとドラゴン』の感想でした。
How to Train Your Dragon (2025) [Japanse Review] 『ヒックとドラゴン』考察・評価レビュー
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