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『ロスト・ドーター The Lost Daughter』感想(ネタバレ)…Netflix;いつかは終わる?

ロスト・ドーター

マギー・ギレンホール監督デビュー作…Netflix映画『ロスト・ドーター』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The Lost Daughter
製作国:アメリカ・イギリス(2021年)
日本では劇場未公開:2021年にNetflixで配信
監督:マギー・ギレンホール

ロスト・ドーター

ろすとどーたー
ロスト・ドーター

『ロスト・ドーター』あらすじ

静かな海辺の町をバカンスで訪れたひとりの中年女性。ここでのんびりとした時間を過ごすつもりだったが、近くの別荘に滞在する若い母親とその幼い子の姿を目で追ううちに自らの過去の記憶が蘇ってしまい、穏やかな休暇に不穏な空気が漂い始める。その記憶は思い出として簡単に閉じ込めておけるようなものではない。その整理しきれない感情をともなう過去が現在の自分の心を落ち着かなくさせていく。

『ロスト・ドーター』感想(ネタバレなし)

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2021年ラストの傑作

年末は誰に頼まれたわけでもなく今年の個人的な映画ベスト10を各自で発表していくのが映画ファンの習わしのようになっています(まあ、別に発表しなくてもいいのですけど)。どの日に発表するかは個人差がでます。もう12月になりだしたらさっさとベスト10を決めてしまう人もいるし、1年の終わりまでギリギリ粘って考える人もいる。これもその人の個性ですね。

私はかなり最後まで粘りに粘って映画を観まくってベスト10を考えだす性格で、たいていは12月の30日とか31日にベスト10の記事を書いてサイトにあげたり、SNSで公開したりするですけど、2021年はちょっと厄介でした。

なぜなら自分のベスト10にランクインしそうな映画が12月31日に配信されたからです。なんでよりによってこの大晦日に配信するんだよという感じもあるのですが(サービス側としてはお正月3が日とかに視聴してほしいのかもだけど)、この日に配信されるのだからしょうがない。私は31日も配信で新作映画を観るという普段と何ら変わらない時間を送っていたのでした。

で、その映画とは本作『ロスト・ドーター』です。

本作は2021年の注目のインディペンデント映画の筆頭でした。ゴッサム・インディペンデント賞で作品賞を受賞し、まさしくその年の傑作インディペンデント作品として名を連ねたわけであり、これを見逃すわけにもいきません。ヴェネツィア国際映画祭では脚本賞に輝き、その評価は上々。2021年のアカデミー賞は前年と違ってインディペンデント系の作品には冷たそうなのでノミネートは厳しいかもしれませんが、本来であれば主要部門にぐいぐいと食い込んできてもおかしくないほどに素晴らしいクオリティの一作です。

とくにこの『ロスト・ドーター』で特筆したいのは監督。2021年も女優が映画監督デビューする事例が目立ちました。ハル・ベリー初監督作の映画『ブルーズド 打ちのめされても』、レベッカ・ホール初監督作の映画『PASSING 白い黒人』…。

今では男優にばかり道が開いてきたこの「俳優→監督」というキャリア。フェミニズムの後押しもあってついに女性俳優にもこの道がやっと出現してきたわけですが、「こんな才能の持ち主だったのか!」と驚くような名監督っぷりを発揮する人ばかりで…。やっぱり才能ある人にはちゃんと監督業の機会を与えるべきですね。

そしてこの『ロスト・ドーター』で映画監督デビューを果たしたのが“マギー・ジレンホール”(マギー・ギレンホール)。2002年の『セクレタリー』、2009年の『クレイジー・ハート』、2011年の『ヒステリア』など、俳優としては評価されてきましたが、そこからさらにキャリアが飛躍することはあまりなく…。しいてあげるならば、2018年の『キンダーガーテン・ティーチャー』やドラマ『DEUCE/ポルノストリート in NY』で出演のほかに製作していたくらいなのかな。

社会活動は積極的にやっている人なんですけどね。当初からイラク戦争には断固として反対の姿勢を表明していたし、人権保護にも熱心だし…。

父親があの映画監督の“スティーヴン・ジレンホール”ですから典型的な映画業界ファミリーなのですが、その“マギー・ジレンホール”でさえも道幅は狭いのか…。

そんな中の『ロスト・ドーター』での監督としてロケットスタート。これで弟の“ジェイク・ジレンホール”を一気に超えましたね。

『ロスト・ドーター』では“マギー・ジレンホール”は監督だけでなく製作&脚本も担当。脚本でも高評価を得ていますし、もはやその実力は疑いようもありません。

本作は「ナポリの物語」が代表作として有名な“エレナ・フェッランテ”が2006年に上梓した小説「La figlia oscura」を原作としており(残念ながら現時点で邦訳はでていないようです)、主人公の中年女性がバカンスで海辺の町を訪れ、そこで出会った若い母親&娘をきっかけに、過去を思い出していくというストーリー。ゆったりした物語に思えますが、その中身は心理的にえぐるようなドラマになっており、鑑賞後は心はざわざわすると思います。『マイ・ハッピー・ファミリー』のような中年女性の息苦しさを映し出す一作ですね。

主人公を演じるのは、『女王陛下のお気に入り』や『ファーザー』、ドラマ『ザ・クラウン』で抜群の名演を披露してきた“オリヴィア・コールマン”。当然ながら『ロスト・ドーター』でも文句なしに上手い。上手すぎる…。

その主人公の若い頃を演じるのが、『ワイルド・ローズ』『もう終わりにしよう。』、そしてドラマ『チェルノブイリ』でも見事な存在感を発揮してきた“ジェシー・バックリー”。彼女もこの『ロスト・ドーター』では最高の演技を見せていて…。

さらにまだいる。その主人公の心を揺れ動かす若い母親を演じるのは、『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』『ネクスト・ドリーム ふたりで叶える夢』の“ダコタ・ジョンソン”。彼女もキャリアベストじゃないかというくらいに素晴らしい演技で…。

この3人の女性俳優の名演連発で一気にドラマに釘付けになるのがこの『ロスト・ドーター』です。

『ロスト・ドーター』は正月のまったりムードで鑑賞を忘れそうになると思いますが、ぜひとも鑑賞してみてください。正月に家族親戚が大勢集まる中で疎外感を感じるような立場の中年女性の心情にぴったりフィットするかもしれないですね。

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『ロスト・ドーター』を観る前のQ&A

Q:『ロスト・ドーター』はいつどこで配信されていますか?
A:Netflixでオリジナル映画として2021年12月31日から配信中です。
日本語吹き替え あり
山像かおり(レダ)/ 白石涼子(ニーナ)/ 瀬戸麻沙美(若いレダ)/ 山内健嗣(ライル)/ 渡部俊樹(ウィル)/ 和優希(カリー)/ 落合弘治(ハーディ)/ 赤石考(ジョー)/ 藤井隼(ヴァシリィ)/ 深田愛衣(エレーナ)/ 田中智士(トニ)/ 千葉彩子(マーサ) ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり5.0:人生を振り返りたくなる
友人3.5:信頼できる相手と
恋人3.5:恋愛ムードは消えるかも
キッズ3.0:大人のドラマです
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『ロスト・ドーター』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ロスト・ドーター』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):ヘビみたいに皮をむいて

夜中の真っ暗闇。ひとりの女性が浜辺をうろつき、その場に倒れ込みます。

なぜこうなったのか。それは少し前の出来事。

サングラスをかけたレダ・カルーソは車を運転しながら、ギリシャにある海辺の町の空気を満喫。部屋に到着し、管理人の人が荷物を運んでくれます。本が入っているので荷物は重いです。窓から夜の灯台の光が差し込みます。

「あんたは物書き?」「教授なの」「キオペリへようこそ」

管理人のライルは立ち去り、静かな部屋をひとり味わいます。

翌朝。砂浜でのんびりと過ごしていると、ビーチハウスで働いている若い男がチェアを日陰へと移動させてくれました。ウィルという名前だそうです。

アイスを食べながら優雅に時間を消費。すると賑やかな集団がやってきました。さっきまでの静かな空気はすっかり吹き飛びました。

ふと娘を連れている女性が目に入ります。「ニーナ」と呼びかけられる女性。レダはニーナという名前をノートに書き留めます。

その日からそのニーナという女性とその娘の姿をずっと目で追うレダ。少し動揺したのか、レダはウィルに水をもらいます。

夜。ベッドの枕元に1匹のセミが鳴いており、そっと窓から外に出します。

また日中、海辺で泳いでいるとモーターボートの集団がやってきて、そこから降りたひとりの男はニーナの抱く娘にキス。ニーナに麦わら帽子をプレゼントし、熱いキスをかわしていました。

ある日、その大所帯となった集団のひとりの女性に「場所を移ってくれる?」と言われます。断るレダ。口汚く罵られますが、気にしません。その後、先ほどの女性が謝ってきます。誕生日らしく、妊娠中です。

「お子さんはいないの?」と話しかけられ、「娘が2人いる。ビアンカが25歳。マーサは23歳」と答えるレダ。「ずいぶん若い頃に産んだのね」「私、48歳よ」…そんなやりとりをしつつ、その女性は「私はカリー、カリスト」と名乗ります。レダも謝罪します。レダは「子育ての責任って人を押しつぶすものよ」と言い残して立ち去ります。

そして、ある時、いつものビーチでニーナの幼い娘であるエレーナが行方不明になってしまい…。

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「最高だった」

『ロスト・ドーター』はその出だしだけを見ていると、中年女性のおしゃれなバカンスでも始まるのかなという気楽さです。ケンブリッジからやってきた比較文学・イタリア文学の専門の教授という肩書だけでも、それなりのキャリアがあるのはわかりますし、書籍を持ち込んで優雅にここで過ごすというのも羨ましいじゃないですか。バカ騒ぎするのでもない、静かに嗜むスタイルもいい感じだし…。

ところがすぐに本作は不穏さを醸し出します。レダ・カルーソがビーチで見かけた若い母&娘の2人。その姿が明らかにレダ自身を動揺させ、落ち着かなくさせており、観客にしてみれば「一体何が起きているんだろう」と不安が蓄積されていきます。単に赤の他人の親子の心配をしている様子でもない。このへんの説明なしのサスペンスの見せ方もとても巧妙です。

そしてあのニーナという若い母親が夫らしき男性と口論している間に、ひとりで人形遊びをしていたはずの娘のエレーナはその場から消えてしまいます。

ここでレダはエレーナを発見してみんなを安堵させるのですが、同時にその子の人形を盗んで持ち帰るという行為に及ぶ。この行動によってこれはただ事じゃない雰囲気が加速するようになり…。

結局、レダのこの行動の背景には自分の過去にあった2人の娘との出来事がありました。子育てに追い詰められ、キャリアを求めて子を放棄し、不倫までしてしまい、家庭をおざなりにした。その結果、レダは教授という今の地位を獲得しているのですが、でもそれは悪いことなのか。妻としての役割、母としての役割という、社会が押し付ける役目を無視したらダメなのか。

印象的なのはニーナとの交流。彼女も明らかにかつてのレダのように母親という役割で追い詰められているのですが、そんな2人の交流はシスターフッドというほどの単純さでもないです。なにせ人形を盗んでいますからね。そこには常に緊張感が漂う。それでも「子どもと離れていてどうだった?」と聞かれて「最高だった」と泣きながら答えるレダにニーナが同情するのも当然で…。

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母だけは終わらないのか

『ロスト・ドーター』、前述したように3人の女性俳優の名演が素晴らしく、物語を引き立てます。

まず“オリヴィア・コールマン”。あの内側にある苦悩を少しずつ曝け出していく中での不安定さの表現が神がかりの上手さで、すごくコントラバーシャルで共感性をシンプルに喚起するタイプの役柄でもないのに、見事に観客として心を翻弄されてしまいます。

そしてその主人公の若い時期を演じる“ジェシー・バックリー”。この回想シーンはどれも精神的にキツイ場面の連続で…。無邪気な娘によって徐々に追い込まれていくレダの姿を本当に生々しく演じていて、これが全編にわたって続くようなドラマじゃなくて本当に良かったと思ったものですけど…(別の形に変わりながら継続していくとも言えるけど)。『タリーと私の秘密の時間』的な描写なのですが、でも『ロスト・ドーター』の行き着く先はもっと現実的で…。

加えて現在まさに苦痛のど真ん中にいるニーナを演じる“ダコタ・ジョンソン”。あの自然体の中のリアルな母親像もよくて…。

演出面も上手いのですが、自然描写をサスペンスに入れ込むあたりは日本にはあまりないやり方だったかなとも。例えば、セミが不吉さを象徴として出てきますし、松ぼっくり(木の実)や人形から這い出る虫など、ちょっとホラー風味さえある怖さもあったり…。

『ロスト・ドーター』の最後の物語の着地も切ないです。「好きに生きるべき」とニーナには言ったものの、自分の中でそれでよかったのかを納得できていないレダ。人形を盗んだことを告白し、「私、母性がないの」とこぼすレダに、ニーナさえも理解できないと罵って出ていきます。

でもラストの砂浜で娘に電話すると肝心の大人になった娘たちはとても無邪気に会話をしている。その風景が嘘でないのならば、娘たちはそこまで気にしていないのかもしれない。でもレダの心には傷跡が深く刻まれています。ずっと。いつ終わるわけでもなく。子育てを終えてもその傷は生々しいままです。ひとり果物の皮をむきながら涙するのがまた苦しい姿なのですが…。

母親という役割に対する映画のオチとしてはかなり残酷ではあるのですが、それが現実なのかもしれない。いや、きっとそうであろうと思わせます。作中で、年齢に限らず男たちはその日その時の満足感ありきで生きているばかりなのとは対照的です。女性たちはどの年代でも何かの苦しみを抱えている。

正月に家族や親戚で集まる中、いつものように料理をして子育てをする時間を過ごし、表では笑顔を浮かべつつ心の中では穏やかでいられない母親はきっと今もいる。そんなあなたの苦悩に寄り添う映画でした。

『ロスト・ドーター』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 96% Audience 100%
IMDb
7.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
9.0

作品ポスター・画像 (C)Netflix ロストドーター

以上、『ロスト・ドーター』の感想でした。

The Lost Daughter (2021) [Japanese Review] 『ロスト・ドーター』考察・評価レビュー