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『バッド・スパイ The Spy Who Dumped Me』感想(ネタバレ)…女の友情をバカにしないでくれる?

バッド・スパイ

女の友情をバカにしないでくれる?…映画『バッド・スパイ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The Spy Who Dumped Me
製作国:アメリカ(2018年)
日本では劇場未公開:2020年にDVDスルー
監督:スザンナ・フォーゲル

バッド・スパイ

ばっどすぱい
バッド・スパイ

『バッド・スパイ』あらすじ

オードリーは破天荒な親友モーガンと平穏な人生を送っていたが、ひょんなことから元恋人のドリューが国際的なスパイで、同業者たちから命を狙われていることを知る。そして、2人が同居しているアパートでスパイ同士の戦闘に巻き込まれた2人はパニックを起こし、機密事項の入ったメモリを手に逃げ出してしまう。ごく普通の女コンビは激しいスパイ合戦の世界に乱入してしまい…。

『バッド・スパイ』感想(ネタバレなし)

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名作スパイ映画のパロディ?

「女の友情」とインターネットで検索すると、びっくりするくらい同じような内容のことばかりが書かれたサイトがヒットします。中身はこんな感じです。

女の友情は、「もろい」「薄情」「嫉妬深い」「感情的」…。男ができれば同性の友情はおざなりになるとまで…。

それに対して「男の友情」はやたらとポジティブなことが語られがちです。喧嘩しても友情が回復しやすいだとか、会ってなくても友情は消えないとか、悩みを語らず協同作業で団結できるとか…。

そして女性が友情を保つには相手と距離をとり、親密になるなとまで書かれています。まるで女には友情なんて期待するものではないと言いたげです。

もちろんこの世間に流布している「男女の友情の違い」などは全くのデタラメであり、極めてステレオタイプな偏見でしかありません。そもそもこんなものは女性の連帯を否定するものでしかなく、男性のホモ・ソーシャルという歪みにすら一切合切目を向けていないのですから。悪意しかない誤謬と言ってもいいくらい。

でもこれを鵜呑みにしてしまう人はきっといるでしょう。もし小学生の女子がこうした偏った「女の友情」論を信じ込んで人生を台無しにしていったら…とか、あの文章を書いた人は少しは考えなかったのでしょうかね。

そんな無責任で差別が染み込んだメディアよりも、偏見を吹き飛ばす「女の友情」を真っすぐ描いた映画を観る方が100倍マシです。そこで今回紹介するのが本作『バッド・スパイ』です。

日本劇場未公開作でビデオスルーになってしまった本作。なんとも味気の無い邦題がついていますが、原題は「The Spy Who Dumped Me」です。これはスパイ映画に造詣が深くなくてもすぐにわかる人はわかると思いますが、『007 私を愛したスパイ』(原題は「The Spy Who Loved Me」)のパロディになっているタイトルですね。だったら邦題も「私をすてたスパイ 女の友情は永遠に」や「私をすてたスパイ 男は二度死ぬ」みたいに遊んでほしかったな…。

物語自体はビジュアルでわかるとおり、スパイ映画の皮を被ったコメディです。ごくごく普通の友人同士の女二人が、まさかの各国のスパイ組織の諜報&極秘ミッションに巻き込まれていく…というお話。

それだけ見れば特段のオリジナリティもないのですが、どんな時でも絶対に友情だけは捨てない女同士のフレンドリーシップが輝く、そんな作品でもあります。『バッド・スパイ』にとっては、“女の友情は脆く壊れやすい”などという考えは愚論でしかないのです。

俳優陣は、まずメインとなる女主人公二人を演じるのが、“ミラ・クニス”“ケイト・マッキノン”。ウクライナ系で『ブラック・スワン』で賞ステージにも跳ね上がった“ミラ・クニス”は、ここ最近は『バッド・ママ』シリーズなどに出演していました。一方の『サタデー・ナイト・ライブ』仕込みのコメディエンヌである“ケイト・マッキノン”は『ゴーストバスターズ』(2016年)を始め、いろいろなところで大暴れ。最近は『スキャンダル』での社会派ドラマでの真面目な演技も印象深いです。

このほぼ同じ年の二人を組み合わせるというペアリングで、まずはこの映画は完成されているところがあり、凸凹コンビとしての相性がなんとも最高です。
さらに『X-ファイル』でおなじみの“ジリアン・アンダーソン”も、完全にキャスティングオチみたいな感じで登場し、存在感だけでウケをとってきます。

他には『ブラッドショット』の“サム・ヒューアン”、実写版『わんわん物語』で主役犬の声を務めた“ジャスティン・セロー”などが出演。個人的には意外に大作に出ているアイスランド俳優の“オラフル・ダッリ・オラフソン”が今作でも割としょうもない役で登場するのが面白かったです。

なお、本作ではある実在の人物(役者が演じているので本人ではないですけど)が突拍子もなく登場するので要注目です。

監督は“スザンナ・フォーゲル”という人で、これが長編監督デビュー作になります。ただこの“スザンナ・フォーゲル”は『Booksmart』という非常に評価の高い映画で脚本を手がけており(共同脚本のひとりですが)、今後公開予定のいろいろな作品にすでに引っ張りだこなので、着目しておくに越したことはないでしょう。

女の友情をバカにする奴は痛い目を見るのです。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(俳優ファンは観ておこう)
友人 ◯(気軽につまめるエンタメ)
恋人 ◯(ちょっとした気分転換)
キッズ ◯(大人のギャグがチラホラ)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『バッド・スパイ』感想(ネタバレあり)

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カレシはスパイだった…

リトアニアのピリニュス。人でにぎわう市場にて、ある男が鏡で背後を確認。そこには不審な追跡をしてくる男たちが映っています。すると戦闘が突然勃発。静かな市場は騒然。発砲とともに次々と男が襲来。その場を逃げていきますが…。

一方のロサンゼルス。バーでは「ハッピーバースデートゥーユー」と30歳になるオードリーの誕生日を女友達であるモーガンが祝っていました。二人は大の仲良し。とくに今は友情が必要なタイミング。なぜならオードリーはカレシであるドリューと別れたばかりであり、一方的なフラれたメールだったので傷心を癒すことが最優先だったからです。なおも落ち込むオードリーにテキトーに男を見つけて立ち会わせるモーガンですが、ろくな男がいないので意味なし。

ずっと凹んでいてもしょうがないので、オードリーとモーガンは家に残っているドリューの持ち物をひたすらに燃やして、鬱憤を完全焼却します。私物とともに思い出も消し炭に。

一応、ドリューと電話してこちらからも絶縁でもつきつけてやろうと思いましたが、なんかむこうは緊迫している雰囲気です。さっぱりわからないですが、でも知ったことではありません。

しかし、そうも言ってられない事態が起きました。ある日、オードリーがレジで働いていると、ある男が話しかけてきます。ナンパなのかな?と思って荷物運びに付き合わされていると、いきなりバンに押し込まれることに。その車内でとんでもない情報を聞きます。なんとドリューはCIAだと言うのです。にわかには信じられないことですが、写真を見せられて困惑。昨夜電話があったと白状しますが、頭はパニックです。

ひとりで悩んでもどうしようもない。こういうときはやっぱりモーガンです。彼女に家で相談しますが、そこに窓から入ってきた男。誰であろうドリューでした。

「スパイなんでしょ」と真実を聞きだそうとしますが、途端に警戒しだすドリュー。そして考える暇もなく、いきなり外から銃撃。机の下に避難しますが、ドリューは撃たれました。さらにトロフィーが敵に渡るとマズいとそれを手渡ししてきます。「カフェ・シーラでヴァーンという人物に会え」「誰も信用するな」…そう言い残してドリューは撃たれて死ぬのでした。

ちんぷんかんぷんなままに窓から逃げるオードリーとモーガン。車に乗りながら茫然状態から覚めつつ、状況を整理します。といってもわかっていることは何もありません。ヴァーンという人間に会うしか方法はなく、ここにいても追っ手にやられるだけ。

二人はオーストリアのウィーンに飛びました。そこのカフェにてオードリーはセバスチャンと名乗る男に遭遇。机の下で銃を突きつけられ、トロフィーを渡すように迫られます。彼がヴァーンなのか。MI6だと説明はしていましたが…。そう思った矢先、またも謎の潜んでいた襲撃者との間で銃撃戦が勃発。

車で脱出した女二人はなんとか執拗な追跡を逃れ、一度落ち着くと、トロフィーの中にUSBフラッシュドライブがあることを発見します。これを探し求めていたのかと納得する二人。

このままではまたすぐに捕まるので、とりあえずモーガンの両親のつてで家族の友達であるロジャーの家に泊めてもらうことに。プラハにあるその場所に到着し、食事をご馳走になっていると、そのロジャーが偽物であることが発覚。本物はバスタブで息絶えていました。そこに謎の女スパイらしき怖そうな奴が乱入し、二人はあっけなく拘束されてしまいました。

もう逃げるに逃げられない、自分たちには把握できないスパイ同士の抗争に巻き込まれていることを嫌でも痛感した二人。

この特別なスキルもない女二人組は絶体絶命のシチュエーションを乗り越えることはできるのか。

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女の友情だけが武器です

『バッド・スパイ』は雑に分類すれば「女スパイ」映画ですが、『アトミック・ブロンド』や『レッド・スパロー』、『ANNA アナ』のようなクールにアクションを決める本格プロフェッショナルなスパイ映画では全くありません。それを期待して本作を観た人はあまりいないと思いますが…。

しいて言うならば、『SPY スパイ』のような女性主人公のコメディ映画になりますが、それよりも『バッド・スパイ』はもっと、こう、なんというか、ずぼらと表現すべきか…。なぜなら本作の主人公二人はスパイ業界とは全然関係がない人だからです。ただの一般ピープル。なのでグタグタになるのも当然です。

本作は凡人がスパイの世界で大暴れ!系の部類に位置づけられる一作ですが、特徴的なのは男女の関係性だと思います。

スパイ映画から少し話が逸れますが、最近のロマコメは「男が平凡な女を導いてキャリアアップさせる」系の定番からの脱却が大きなトレンドになっています。既存のステレオタイプに根付いた男女関係を見つめ直しているわけです。

それは実はスパイ映画にも同じような典型的な男女関係構造が昔からありました。プロフェッショナルな男スパイが何もわかってなさそうな女をリードする…みたいな。最近もアナ・ケンドリック主演の『バッド・バディ! 私と彼の暗殺デート』(2015年)なんかがまさにそうで、平凡な女が男スパイの導きでスパイに覚醒していく話であり、コミカルに描かれていました。

この『バッド・スパイ』はその定番だったスパイ映画内の男女関係をぶち壊した作品なんですね。これは“スザンナ・フォーゲル”監督もインタビュー内で意識していると語っていましたが、本作では終始「女の友情」だけが不変で信用できるものとして存在し続けます。

男たちは冒頭から殺し合い・騙し合いをたくさんしまくっており、いつもの感じですけど、オードリーとモーガンは序盤でも言っていましたが「信頼し合っている」仲です。「誰も信用するな」なんて言われようともこの女の友情だけはノーカウント、例外なのです。

オードリーとモーガンが作中で喧嘩別れすることは一度もありません。常に相手を心配し、相手を励まし、支え合います。

オードリーは最終的にセバスチャンと良い感じのロマンスになっていますが、それも決してメインで描こうとはしておらず、あくまでオマケ。モーガンはそれを素直に祝福するのみで、そこで嫉妬展開になることもないです(なお、“ケイト・マッキノン”本人はレズビアンですけど、作中でモーガンが同性愛者だとは明確に示していなかったと思う)。

この「女の友情」に対する絶大な信頼が本作の気持ちよさになっているのだと思います。

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そこに隠せるのは便利だよね!?

『バッド・スパイ』はそういう観点で見ればいわゆる「ウーマンス」(女の親密な友情を描くこと)にカテゴライズしていいのですが、どうしてもそういう作品群はピュアなイメージが付きまといがちです(それこそ“百合”みたいに)。

しかし、本作にピュアさは一切ゼロ。アメリカの映画がこうやって女性同士でもしっかり下品に描いてくれるのが毎度ながら良いですね。女でも下品でいいんだ…という、下ネタを言い合って友情を深めるのは男の専売特許ではないことをハッキリ示せるわけですから。

作中でもオードリーとモーガンはほぼ女二人旅みたいなノリで各地を周っていくことになります。まさかラストは東京にまで来られるとは…。その道中での危機の乗り越え方がなんとも女にしかできない技をナチュラルにぶっこんできます。

USBメモリを膣に隠して持ってみせたり(あのフラッシュドライブ、絶妙に膣に入れるにはあれな大きさと形状をしているのがシュール)、相手の切り落とした指をマニキュアに入れて携帯したり…。モーガンがヴィーガンだと見栄を張って、それが意外に功を奏したり(まあ、結局はやられるのですが)…。なんだかんだで女なのに必要性を考えて女二人組の旅行者が狙っているのも皮肉なギャグですが…。

あとやっぱり“ケイト・マッキノン”にかかれば一気に彼女の独壇場ですね。空中ブランコでのハチャメチャさとかは“ケイト・マッキノン”にしかできない体当たりギャグですし。

動作もイチイチ面白く、例えばとくに強調もされない何気ないシーンですが、モーガンが足をあげて股の下から車のロックをかける場面があり、“ケイト・マッキノン”もあらゆるところでギャグをぶっこもうとしているのがわかります。

モーガンがアメリカ国家安全保障局 (NSA) および中央情報局(CIA)の元局員でアメリカの過剰な情報監視を暴露したことで有名なエドワード・スノーデンに電話するシーンは、アホすぎるの一言ですが、まあ、別にいいか。というか、スノーデンもこうやってギャグのネタになっていく時代なんだなぁ…。

“ジリアン・アンダーソン”演じるMI6のボスを見て、モーガンが「007のMみたい」と大はしゃぎするように、今作は「何の変哲もない女でもスパイになれますか?」という問いへの答えを提示する物語。そこはフィクションの力でハッキリと「YES」と答えてくれる、そんな映画があってもいいでしょう。

本作を観て女同士のお下劣な友情モノの作品をもっと見たくなったら、他にも探せばいっぱい出てくるのでぜひ堪能してください。個人的な近頃のオススメは、海外アニメシリーズ作ですけど『トゥカ&バーティー』とかいいんじゃないでしょうか。

もう一度繰り返しますけど、女の友情は脆くありません。友情の強度は性別で決まらない。自分がスパイに追われてもついてきてくれる友人がいるなら、その人は本物のベストフレンドでしょう。そんな事態になりたくはないものですけど…。

『バッド・スパイ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 49% Audience 57%
IMDb
6.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★
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・『SPY スパイ』

作品ポスター・画像 (C)2018 Lions Gate Films Inc. All Rights Reserved スパイ・フー・ダンプト・ミー

以上、『バッド・スパイ』の感想でした。

The Spy Who Dumped Me (2018) [Japanese Review] 『バッド・スパイ』考察・評価レビュー