テクノ・オリエンタリズムは再創造しても変わらず…映画『ザ・クリエイター 創造者』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2023年)
日本公開日:2023年10月20日
監督:ギャレス・エドワーズ
恋愛描写
ザ・クリエイター 創造者
ざくりえいたーそうぞうしゃ
『ザ・クリエイター 創造者』あらすじ
『ザ・クリエイター 創造者』感想(ネタバレなし)
ギャレス・エドワーズの原点回帰
「人工知能(AI)」が急速に私たちの日常を侵食し始めています。
それは単にAIにイラストを描いてもらうとかそんな話では終わりません。ハリウッドでも大規模なストライキが起きるほどに労働環境を脅かしていますし、ありとあらゆる方面で人間の生活に多大な影響を与えるのは不可避です。
2023年10月には、世界保健機関(WHO)は医療分野などでAIを使う際に考慮すべき指針をまとめ、発表しました(朝日新聞)。このように各業界は大慌てでAIとどう向き合うかを考え出していますが、後手後手なのが実態です。実際のところ、皆さんも「AI、どう対応しますか?」と言われても「いや、具体的には何も考えてないですけど…」みたいな人も多いはず。
映画でもAIを描いた作品はこれまでも数多くありましたが、今後はどんなふうにAIが映画で描かれるのか、注視していきたいものです。
そんな中、2023年のビッグなAI映画が登場しました。
それが本作『ザ・クリエイター 創造者』。
本作はまず監督から紹介しましょうか。イギリス人の“ギャレス・エドワーズ”です。生粋のSFオタクであり、『スター・ウォーズ』を観てこの業界に入ることに決め、VFX畑から飛び立ちました。
そんな“ギャレス・エドワーズ”が一躍マニアの間で話題となったのが2010年の『モンスターズ/地球外生命体』。低予算ながらもその映像センスは多くのオタクの心を掴み、注目のクリエイターとなります。
そして2014年のハリウッド版『GODZILLA ゴジラ』の監督に抜擢され、そこから2016年に『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』でも監督を経験。大作を2連発で突き進みます。
その“ギャレス・エドワーズ”監督がまたしても『モンスターズ/地球外生命体』的なポジションに舞い戻って作られたのが本作『ザ・クリエイター 創造者』です。製作費はもちろん『モンスターズ/地球外生命体』よりもはるかに巨額なのですが、スタイルは大作ながらもまるで小規模製作のようになっており、しかもオリジナル作品。“ギャレス・エドワーズ”監督が自分のやりたいようにやりまくり、作家性を爆発させてきたとあらば、SFファンには無視できません。
『ザ・クリエイター 創造者』は、高度なAIが普及してロボットなどの技術と合わせて社会に浸透するも、ある事件のせいで人類とAIの関係性に歪な亀裂が入ってしまった世界を舞台にしています。「AI×戦争」映画…みたいな趣です。『ターミネーター』×『アバター』といった感じかな。
そんなに難解なわけでもないですし、ちゃんと娯楽作として見やすい構成です。
俳優陣ですが、主人公を演じるのは『マルコム&マリー』『ベケット』の“ジョン・デヴィッド・ワシントン”。『TENET テネット』といい、SFが絡む作品だといつも何かに巻き込まれて大変なことになっている役になりますね…。
共演は、『エターナルズ』『ドント・ウォーリー・ダーリン』の“ジェンマ・チャン”、『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』の“渡辺謙”、『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』の“アリソン・ジャネイ”など。主要なキャストの少なさはやっぱり小規模作品らしいです。
『ザ・クリエイター 創造者』は映像面も派手なシーンが髄所にあります。映画館のスクリーンで観たときの迫力は格別ですね。
後半の感想では本作を「テクノ・オリエンタリズム」の視点で掘り下げています。
『ザ・クリエイター 創造者』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :ジャンル好きなら |
友人 | :SFマニア同士で |
恋人 | :ロマンスあり |
キッズ | :子どもでも観れる |
『ザ・クリエイター 創造者』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):”Nirmata”を探して
ロボットの技術発展は人類に革命をもたらしました。高度な人工知能(AI)に支えられ、ロボットは人型に姿を変えて、人間の肌そっくりのスキンを身にまとい、社会に溶け込みます。医療、ボクシング、陸上、労働、治安維持…その活動範囲は多岐にわたり、無限に広がっていき…。
しかし、2055年、このロボットとの前向きな関係性が崩れ去った事件が起きます。突然のAIの暴走でロサンゼルスで核弾頭が爆発。政府は発表します。方針を転換し、AIと距離をとり、危険因子として排除すると…。
2065年、ニュー・アジアのコ・ナン。深夜、ジョシュア・テイラーは妊娠中の妻のマヤと仲睦まじくリラックスして過ごしていました。
ところがこの穏やかな村に、水中から特殊部隊が潜入。ハルン率いるドロイド部隊は瞬く間に村を制圧し、目的のために尋問を開始します。
実はジョシュアもこの部隊と関わっており、潜入捜査をしていたのです。それを知らなかったマヤは驚き、失望します。「愛している」となだめるジョシュアですが、マヤは武器を向けて、問いただします。ジョシュアは「愛はリアルだ」と言い聞かせますが、他のAIたちと逃げようとマヤは戦闘の最中に駆けだします。マヤは小舟で海へ。必死に追うジョシュア。
そのとき、宇宙空間間際にある上空の宇宙ステーション「USS NOMAD」が危険分子を捕捉し、迎撃。灼熱の爆発がマヤのいた一帯を吹き飛ばします。大切な人を目の前で失い、叫ぶしかできないジョシュアでした。
5年後、ジョシュアはロサンゼルスでひとりトラウマを抱えて生活していました。薬が手放せない日常。ロサンゼルスのグラウンドゼロの廃墟地帯で清掃作業員として仕事し、残骸からロボットを回収する作業をするだけの日々。そのロボットが動き出し、何やら家族の名前を叫んでいましたが、ジョシュアは淡々と機能を停止させます。
そんなジョシュアのもとにアンドリュース将軍とハウエル大佐が訪れてきます。AIの創造主とされる「Nirmata」がNOMADを破壊する計画をたてているらしくそれを阻止する極秘のチームに参加してくれと言われます。ジョシュアは断りますが、マヤがニュー・アジアの研究所で兵器開発している映像を見せられ、妻に会えるかもしれないという希望が微かに湧いて、やむを得ず加わることに…。
飛行機でチームは向かい、闇夜に紛れて素早く上陸。幼い子どもを含めた地元住民にも容赦なく銃口を向けて、地下の隠されたラボに進むチーム。かなり広く、研究者たちを撃ち殺します。ジョシュアはチームから離脱して必死に妻の手がかりを探していました。
チームは兵器があると思われるエリアに到着し、重々しいドアのロックを解除。マヤの存在を期待してジョシュアがゆっくり近づくと椅子に座ってテレビを観ているロボット少女がいるだけでした。困惑するジョシュアは負傷した研究員に撃たれてしまい、その隙に少女は逃げ出します。
ジョシュアは外でマヤを探すも、一方でチームの飛行機は撃墜され…。
翌日、生き残ったジョシュアはこの正体不明のロボット少女にアルフィーと名づけ、行動を共にします。
その2人をハウエルとその部下たちが追跡しており…。
全世界のクリエイターを励ましてくれる
ここから『ザ・クリエイター 創造者』のネタバレありの感想本文です。
『ザ・クリエイター 創造者』の魅力は何と言っても“ギャレス・エドワーズ”監督が凝りにこだわって作り上げたその世界観のビジュアルでしょう。
別にAIによって高性能化したアンドロイドが人間社会に溶け込んでいるなんていう設定は、とくに真新しくもないのですけど、今作の場合はものすごく丁寧に表現されていて、オタク心を掴まれます。
冒頭のロボット進化の歴史を映像でドキュメンタリー風に見せるシーンもとても良いですし、そこからの衝撃的な事件(核爆発)へと繋げる流れもインパクト大。
そんな中、実用化されて戦闘に参加させられているロボットがいくつか登場するのですが、そのデザインといいモーションといい、どことなく漂わす愛嬌は『スター・ウォーズ』っぽくもあり、でも現実味もあるという、ちゃんと“ギャレス・エドワーズ”監督流のロボットが構築されていましたね。
後半の村を襲撃される際の、ドラム缶的なロボットの自爆ダッシュ突撃だとか、やっぱりロボットがでてくるたびに楽しい絵面になります。予算的にこれ以上は無理なんだろうけど、もっとこの世界のロボットが観たかったな…。
こんなふうにロボットに愛情を感じさせてしまうのもプロット上は欠かせないもので、なにせ実はこの世界のAIはそんな悪いことはしていなかったということが明らかになります。
逆に脅威となるのがあの「NOMAD」という宇宙ステーション型の兵器。正直、ここはかなりツッコミどころはあって、こんな巨大兵器を運用している方がAI以上に危険じゃないか?とか、これが落っこちてくる方がミサイルよりも壊滅的な被害を与えないか?とか、いろいろ思うところはあるんですけども、まあ、そこは置いておこう…。
あの巨大構造物である「NOMAD」は、今回の怪獣的な存在感であり、同時に怪獣から生命を抜きとったような怖さを持ち合わせています。無機物的に殺戮していく姿にはどこにも愛せる拠り所はありません。
本作は物語全体を通して、“ギャレス・エドワーズ”監督による「創造主たるもの、愛せる存在を生み出さないといけない」という自身もクリエイターであるゆえの心がけている信念がハッキリ現れていたと思います。
本作の当初のタイトルは「True Love」だったらしいですからね。愛が重いくらいです。
そしてこれほどの確固たるオリジナル作品をちゃんと作れたことは、おそらく多くのクリエイターには羨ましいなと思える話でもあり、全世界のクリエイターを励ましてくれる映画でもあったんじゃないかな。
テクノ・オリエンタリズムの問題
そんな『ザ・クリエイター 創造者』ですが、この映画の根本的な問題には言及しないといけません。いや、私なんかが書かなくても、もうすでに英語圏のレビューとかで散々書かれているのですが(NPR)、でも私はこれでも一応は日本人なので、だからこそ指摘する意味もあるだろうし…。
『ザ・クリエイター 創造者』のその問題とは「オリエンタリズム」…とくに「テクノ・オリエンタリズム(Techno-Orientalism)」です。
まず「オリエンタリズム」というのは、西洋的な視点から東洋(つまりアジア)を神秘的に扱うようなことを指します。これの何が問題かと言えば、大雑把に論ずるなら「他者化(othering)」です。結局、このオリエンタリズムは、西洋人を標準と捉え、東洋人やその文化は異質の存在と位置付けて崇めたり褒めたりしてきます。対等ではないわけです。
そして「テクノ・オリエンタリズム」というのは、1995年に“ケビン・モーリー”と“デヴィッド・ロビンス”が著書『Spaces of Identity: Global Media, Electronic Landscapes, and Cultural Boundaries』で定義づけた概念で、そこでは「アジアをテクノロジーの超発展と文化的退行の場所として構築する文化的論理」と説明しています。
この「テクノ・オリエンタリズム」は西洋のSFとは密接な関係があり、初期のものだと1965年の『Dune』がそうでしょう。最近のSFでも、ドラマ『See 暗闇の世界』やドラマ『インベージョン』などオリエンタリズムな要素が目立つ作品があったのですが、この『ザ・クリエイター 創造者』は全編が「テクノ・オリエンタリズム」ありきで創出されています。
何よりも作中で主な舞台となる「ニュー・アジア」という地がその典型例です。この序盤からでてくる水辺沿いの村は東南アジアっぽく(撮影地はタイらしい)、その村が襲撃されるシーンは『地獄の黙示録』のようなベトナム戦争を思わせます。
かと思えば主人公が少しバスとかで移動すると、東京みたいな都市がでてきて、普通に日本語が標準的に使われています。私は映画鑑賞中ずっと「この世界線では日本は極右政権化して、再び植民地支配を奨励して、他のアジア諸国を占領したのか?」と訝しげに眺めてましたけど…。
コスモポリタニズムにアジアがひとまとめにされている「ニュー・アジア」っていう設定自体がいかにもアジアを漠然としか認識していない西洋人的な発想であり、アジア諸国間の植民地主義の歴史とかに無頓着です。
要するに本作の物語は、西洋人がエキゾチックなアジアをめぐって己を見つめ直す精神修行の旅であり、観光とそんなに変わりません。現地のアジア人もその文化もその旅のおもてなしです。
もちろん“ギャレス・エドワーズ”監督はアジア、とくに日本が大好きなんだろうし(今作のプロモーションでも日本に来てとても楽しそうでした)、アジアの文化を敬愛しているのはわかります。悪意なんて1ミリもないです。
でもそういう一方的な愛が必ずしもアジアへの包括的な理解に繋がっているとはかぎらず、場合によっては「日本人に“北京へ帰れ”と罵倒する欧米人」とか「チャイナ・ウイルスと連呼するトランプ元大統領」とか、そういうアジア蔑視と表裏一体であることも自覚しないといけないでしょうし、それをわかってくれるまで「テクノ・オリエンタリズム」の有害性を逐一指摘しないといけないんだと思います。
「テクノ・オリエンタリズム」が全部ダメということではないですが、「テクノ・オリエンタリズム」はAIと並んで取り扱い要注意の代物なのです。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 67% Audience 76%
IMDb
7.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)2023 20th Century Studios ザクリエイター
以上、『ザ・クリエイター 創造者』の感想でした。
The Creator (2023) [Japanese Review] 『ザ・クリエイター 創造者』考察・評価レビュー