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『消えない罪』感想(ネタバレ)…Netflix;サンドラ・ブロックの迫真の名演

消えない罪

サンドラ・ブロックの毎度のような迫真の名演…Netflix映画『消えない罪』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The Unforgivable
製作国:イギリス・ドイツ・アメリカ(2021年)
日本:2021年にNetflixで配信、11月26日に劇場公開
監督:ノラ・フィングシャイト

消えない罪

きえないつみ
消えない罪

『消えない罪』あらすじ

殺人の罪で服役して20年の刑期を終えて出所したルース・スレイター。しかし、罪を償って社会に出たはずの彼女を待ち受けていたのは、過去の罪への厳しい目線だった。社会に溶け込むことができずに孤立し、安息を求めて訪れた故郷の地でも厳しい批判にさらされ、行き場をなくしていくルース。そんな彼女の頭の中にあるのは、逮捕される前にとある理由で置き去りにしてしまい、離れ離れになってしまった妹を捜すことだった。

『消えない罪』感想(ネタバレなし)

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サンドラ・ブロック、またも迫真

昔のハリウッドでは女性の俳優がキャリアアップするには美貌でアピールするしかありませんでした。それは今もそうかもしれませんが、以前はもっとその傾向が酷いものでした。その「女優=見た目が全て」という偏見から脱却するのに多くの俳優が苦労して…。

そのひとりが“サンドラ・ブロック”です。

ドイツで幼少期を過ごして俳優業としてこのアメリカの地に立ち、最初に大成功したのは1994年の『スピード』。“キアヌ・リーブス”との共演によって瞬く間に美男美女のお約束の注目を集めることに。その後は案の定というか、定番のラブコメでの活躍ばかりで、1995年の『あなたが寝てる間に…』であったり、2000年の『デンジャラス・ビューティー』では色気のないFBI捜査官の主人公がミスコンに潜入してセクシーになっていくという変化球な役どころだったり、型にはまった仕事が多め。加えて当時はストーカー被害だったり、夫の不倫・離婚だったり、スキャンダラスなマスコミの囲い込みもあり、本人もいろいろ大変だったことが窺えます。

しかし、その“サンドラ・ブロック”はその不本意な路線を抜け出していきます。2009年の『しあわせの隠れ場所』ではイメージを一新する役で、アカデミー主演女優賞を受賞。2013年の『ゼロ・グラビティ』では過酷な状況に追い込まれる宇宙飛行士を熱演して高評価。2018年の『オーシャンズ8』といい、今やすっかり女性差別が跋扈するハリウッドを正面突破してきたファイターの代表格です。

その“サンドラ・ブロック”が主演&製作を兼任した映画が今回の紹介する作品。それが本作『消えない罪』です。

本作は実はリメイクで、元になっているのはイギリスで有名な“サリー・ウェインライト”というプロデューサーが手がけた2009年の“サラン・ジョーンズ”主演で『Unforgiven』というタイトルでミニシリーズとなった映像作品。なんでもイギリスのこのミニシリーズの好評を受けて、2010年頃からアメリカでは長編映画化の企画が進行していたそうなのですが(この時の監督候補は“クリストファー・マッカリー”)、企画はいつのまにやら頓挫し、どこかへ消えていました。それが2019年に再始動し、Netflix製作で一気に進んでいった…という流れのようです。

『消えない罪』の物語はざっくり紹介すると、殺人の罪で刑務所を出所した主人公の女性が新しい人生を再起させていく姿を描くという、日本だと『すばらしき世界』と同じような構図の内容です。

ただし、この『消えない罪』の場合はその主人公の罪に秘密があって…というサスペンスドラマが展開されていき、社会問題を描くリアルなドラマというよりはフィクションとしての勢いに傾くジャンル寄りと言えるかもしれません。

“サンドラ・ブロック”は『ゼロ・グラビティ』でも酷い目に遭って、『バード・ボックス』でも最悪を経験するのですが、今作『消えない罪』もまたまた辛そうな姿で…。でも毎度ながらこういう映画では迫真の演技を見せてくれます。

共演は、『ビリー・ザ・キッド 孤高のアウトロー』の“ヴィンセント・ドノフリオ”、『マ・レイニーのブラックボトム』の“ヴィオラ・デイヴィス”、ドラマ『パニッシャー』の“ジョン・バーンサル”、ドラマ『NCIS: ニューオーリンズ』の“リチャード・トーマス”、ドラマ『Lodge 49』の“リンダ・エモンド”、『ウェアド・ユー・ゴー、バーナデット』の“エマ・ネルソン”など。また、“サンドラ・ブロック”の役の過酷さにも負けず劣らずな『ナイチンゲール』で凄まじい迫真っぷりをみせた“アイスリング・フランシオシ”(アシュリン・フランシオーシ)も本作『消えない罪』でキーパーソンとして登場します。

監督は、長編映画監督デビュー作『システム・クラッシャー 家に帰りたい』で強烈なインパクトをぶちこんできた“ノラ・フィングシャイト”。『システム・クラッシャー 家に帰りたい』は2019年の映画ですけど私は2021年に鑑賞したこともあって、私にとっても2021年個人的映画ベスト10にランクインするほどに印象に残っています。

『消えない罪』は重たい内容ですが、“サンドラ・ブロック”を始めとする俳優の名演を見れるので見ごたえはじゅうぶんです。Netflixで独占配信されているので、家でじっくり見るのが良いと思います。

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『消えない罪』を観る前のQ&A

Q:『消えない罪』はいつどこで配信されていますか?
A:Netflixでオリジナル映画として2021年12月10日から配信中です。
日本語吹き替え あり
本田貴子(ルース)/ 坂詰貴之(ブレイク)/ 水中雅章(スティーヴ)/ 楠見尚己(ジョン)/ 林真里花(リズ)/ 滝知史(ヴィンス)/ 仲野裕(マイケル)/ 駒塚由衣(レイチェル) ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:俳優ファンは要注目
友人 3.0:エンタメ要素は無し
恋人 3.0:ロマンス要素は無し
キッズ 3.0:大人のドラマです
↓ここからネタバレが含まれます↓

『消えない罪』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):許し難い過去を引きずって

刑務所。ルース・スレイターの出所手続きが進められ、彼女は保護観察官に引率されて久しぶりの外の空気を吸います。20年の刑期を終えたのです。

「更生に欠かせないのは仕事だ」と保護観察官に言われ、大工をやれるのでそこで働くつもりだと答えるルース。しかし、保護観察官はダメだったら水産工場もあると名刺を渡してくれ、「君が思っているほど世の中は甘くない」と忠告します。

当面の住まいはチャイナタウンにあるシェアハウスです。質素で荒っぽい住人ばかり。その環境はあまり刑務所と変わりありません。ルースに電話があり、でると無言で一言「警官殺し」と呟いて切れました。

木工店職場に行くと急に働かせられないと言われてしまい、どうやら誰かからの電話のせいのようです。いきなりの手痛い外の歓迎。自分のような前科者への冷たい現実を思い知らされます。

結局、水産場で働くことになり、そこでブレイクという男と知り合い、なぜかブレイクはこちらを気遣ってくれます。

ルースは図書館のパソコンで「ケイティ・スレイター」と検索。次に「養子縁組の記録 スノホミッシュ郡」と検索。自分の名前で検索すると、殺人の現場となった家が売りに出されたという記事を発見。

その家に行って遠くから見つめていると、その家に越してきたイングラム家の夫であるジョンが話しかけてきました。「手入れされた家を見ていた」とルースは誤魔化し、「ご近所の人ですか?」と聞かれても「いいえ、お宅で改装の作業した、昔だけど」と曖昧に返事。

「よければ中で見ていくかい?」と言われ、中へ。ジョンの妻であるリズが怪しむ目を向けてきます。

ジョンに車で送ってもらうと、彼は弁護士だとのこと。「家族法に詳しい弁護士は知らない?」と質問すると、挨拶したときから嘘をついていることを身抜かれていました。そこで正直に刑務所にいたこと、そしてケイティという妹を別れてしまい、生きているかもわからないので見つけたいことを打ち明けます。ジョンは「力になれるか考えてみよう」と名刺を渡してくれました。

人手不足な大工の仕事にも戻り、掛け持ちで働いていると、水産工場のあのブレイクがやってきて、しだいに交流が生まれます。しかし、ルースが殺人犯だと知って顔色を変え、距離をとってきて…。

一方、リズも知ります。過去にこの家でルースの父親が自殺し、立ち退かせようとした保安官をルースが撃ったという事件を…。リズはジョンを責め、二度と殺人犯を家に入れないように訴えます。

ルースが探している妹のケイティ。彼女はキャサリンと名前を変えて、マイケルレイチェルの養子となっていました。キャサリンは悪夢に悩まされ、マイケルとレイチェルの実子であるエミリーに「本当の家族を知りたいと思わない?」と言われます。ケイティは自分の出自を覚えておらず、ルースのことも忘れていました。

そんな中、マイケルとレイチェルはルースが保釈されたと知り、会いに来るのではと警戒します。

また、ルースが殺害したとされる保安官の息子であるスティーヴはその家族を奪った憎き存在が出所したことを知るも兄が「仇をうてる」と誘っても躊躇していました。しかし、スティーヴはこっそりルースのいる大工現場に近づき、さりげなく会話。親の死を経験した者の話題を持ちかけると、ルースは「人生は続く」と発言し、その呑気に思える言葉に怒りを感じます。

そして、復讐の憎悪を膨らませるスティーヴはルースの妹であるケイティの存在を知り、狙いをつけることに…。

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こんなややこしいことにせずとも

『消えない罪』のいきなりオチの話からしてしまって恐縮ですが、本作の罪は殺人は殺人でもルースが人を殺めたわけではありませんでした。父親の自殺で子どもだけになってしまった自分たちの状況になったルースがパニックで家に立てこもり、そこで裏口から穏便に説得しようと立ち入った保安官をまだ5歳だったルースの妹のケイティがそばの銃で撃って殺してしまったという…。その幼いケイティが犯してしまった取り返しのつかない事態をルースはその身で背負い、ダイナーに妹を残して自分は逮捕されます。

この事件の真相…正直に言えば、だったら正確に真実を話せばこんなややこしい大ごとにならなかったのでは?と思わなくもないですよ。本作の舞台であるワシントン州では8歳未満の子どもを刑事訴追することはできないそうなので、いくら人を射殺してしまったとはいえ、5歳のケイティが殺人罪に問われることもないでしょう。完全に事故ですし、ケイティが撃ったことも現場の証拠で明らかになるでしょうし…。あとはケイティのメンタル面でのケアサポートを受けさせるようにすれば、ひととおりは丸く収まる話です。

なので全体的にドラマを作るための強引な展開の土台があるのですが、まあ、こういう子を想うあまりに罪をかぶってしまう大人の物語というのは定番ですし(最近もアレとか)、そのへんは目をつむっておきましょう。

実際のところ、こういう事例で逮捕されて刑期を終えた後に、その真相を打ち明けた場合に裁判のやり直しとかになるのでしょうかね。『消えない罪』のラストではケイティとついに再会し、おそらく過去の真実と向き合うことになるのでしょうけど、むしろ観客としてはそれ以降のドラマが見たいですよね。どうやって法的な問題をクリアし、どうやって家族を再建し、養父母と折り合いをつけながら、贖罪を考えていくのか…。

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何もかも失うのは本当に辛い

そのへんはさておき、ルースを演じた“サンドラ・ブロック”があまりにも迫真の演技なので、「ああ、この人ならなんか人を殺していそうだな…」と妙に納得してしまうというか、本気でこっちもビビってしまう圧の強さがありました。あそこまで強いと、助けてあげなくてもなんかどっかのグループのリーダーに成りあがって、犯罪窃盗団とか率いていけそうですよ…(それは『オーシャンズ8』の話だけど)。

そのルースを支えてあげる本作『消えない罪』の中でも最も優しい人間、ジョン・イングラム。彼を演じた“ヴィンセント・ドノフリオ”も近年はドラマ『デアデビル』でキングピンという超怖いキャラクターを熱演していたわけですが、『消えない罪』の“ヴィンセント・ドノフリオ”はなんとも無害。

また、ルースにすごい遠回しで支えようと頑張る(あのドーナッツの差し入れとか)ブレイクを演じた“ジョン・バーンサル”といい、本作の男性は牙の無い温厚さがある…。

対する本作で暴走してしまうことになるスティーヴは、その復讐のトリガーが要は妻の不倫という、ルースの事件とは全然関係のない出来事だったりして、ある種の男らしさの暴発があの誘拐事件を引き起こします。ここでケイティではなくエミリーをさらってしまい、状況はややこしさを増すのですが、もうちょっと確かめれば良かったのにね…。演じた俳優の“ウィル・プーレン”は良かったです。

他の俳優としては、今回の“ヴィオラ・デイヴィス”は物足りないパターンだったかな(“ヴィオラ・デイヴィス”が出ている映画は基本、見事に中心で熱演を披露するパターンと、出番が薄くてもったいないパターンの2種類で極端に割れる気がする)。“ヴィオラ・デイヴィス”と“サンドラ・ブロック”でもっと演技合戦を見せるために、リズにも何もかも失う恐怖を垣間見せる何かが欲しかったかも…。

私が本作で一番に謎なのはあの事件の遭った家なのですけど…。なんであんな何の変哲もない更地みたいなところにポツンと1軒ある家を、中流階級程度に見えるジョンとリズの夫妻は購入したのだろうか…。あのルースが住んでいたくらいだからもともと安そうだし、殺人があってさらに資産価値は下がっただろうし、ちょっとジョンとリズの夫妻にマッチしない気もするけど。事件が遭った以降にジョンとリズの夫妻の前に住んでいた人が相当に頑張って資産価値を上げてくれたのかな…。

こういう映画を観ても昔はそんなこと気にならなかったのに今は住宅資産のことに関心がいってしまうなんて、私もすっかり退屈な大人になって社会に毒されてしまったなぁ…。

『消えない罪』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 39% Audience 88%
IMDb
7.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0

作品ポスター・画像 (C)Netflix

以上、『消えない罪』の感想でした。

The Unforgivable (2021) [Japanese Review] 『消えない罪』考察・評価レビュー