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『ようこそレクサムへ』感想(ネタバレ)…サッカーやろうぜ!まず買収な!

ようこそレクサムへ

ちなみにサッカーはよく知らない!…「Disney+」ドキュメンタリーシリーズ『ようこそレクサムへ』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Welcome to Wrexham
製作国:アメリカ(2022年~)
シーズン1:2022年にDisney+で配信
シーズン2:2023年にDisney+で配信
ようこそレクサムへ

ようこそれくさむへ
『ようこそレクサムへ』のポスター。

『ようこそレクサムへ』簡単紹介

ウェールズの都市であるレクサムを本拠地とするサッカークラブ「レクサムAFC」。歴史あるサッカークラブであり、地元に愛され続けてきたが、経営的に厳しくなっていた。そんなとき、予想外の買収提案が飛び込んでくる。それはハリウッドで活躍するライアン・レイノルズとロブ・マケルヘニーという2人の俳優がこのクラブのオーナーになるというものであった。半信半疑になる世間だったが、当人は真面目で…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ようこそレクサムへ』の感想です。

『ようこそレクサムへ』感想(ネタバレなし)

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買収しちゃった

人類はボールを蹴るのが好きだったらしいです。

オーストラリア先住民は大昔から「Marn Grook」という動物の皮で作ったボールを蹴る遊びがあったそうです。これは最古のボール蹴りのひとつだと言われています。

そして今や「サッカー(フットボール)」として、世界中を熱狂させ、子どもも大人も楽しむスポーツとなりました(汚職もね!)。

でも私は正直なところ全然サッカーに興味ない…。感想、終わり。

いや、そうなりません。そんな私でも面白くて夢中になったサッカーのスポーツ・ドキュメンタリーがあります。これはもう人生でベストのスポーツ・ドキュメンタリーなんじゃないだろうか…。

それが本作『ようこそレクサムへ』です。

本作を長ったらしい日本のサブカル作品タイトル風に説明すると、「サッカーを全然知らない俺たちがイギリスのサッカークラブを勢いで買収してプロのトップを目指してみた」という感じ。ほんと、このとおり。

イギリスを構成するウェールズの都市であるレクサム。ここを本拠地とする「レクサムAFC」というサッカークラブがあります。舞台はここです。

「レクサムAFC」は1864年に設立され、 ウェールズで最も古いサッカークラブであり、世界でも3番目に古い歴史があるのだそうです。

でもそんなに有名ではありません”でした”(過去形)。なぜなら成績はそんなに良くなかったからです。

ここでイギリスのサッカーのリーグの仕組みについて説明しないといけないのですけど、やはりフットボール本場のイギリスだけあって、クラブ・チームの数は非常に多く、リーグもいくつもの部で上下構造があります。最上位は「プレミアリーグ」と呼ばれ、20チームだけが参戦できる頂点の世界です。勝てば昇格、負ければ降格。その1年の成績で、属する部が決まります。

  • 【1部】プレミアリーグ
  • 【2部】EFLチャンピオンシップ
  • 【3部】EFLリーグ1
  • 【4部】EFLリーグ2
  • 【5部】ナショナルリーグ
  • 以下、6部、7部、8部…とひたすら続く

「レクサムAFC」は2022年時点で5部の「ナショナルリーグ」止まりでした。このリーグは、ほとんどがプロのクラブであるものの、一般的に1部から4部がプロの本格的なリーグとみなされており、5部は若干後ろめたい屈辱的な印象があるとのこと。だから「レクサムAFC」もいち早く昇格したいのです。でも勝てない…。

しかも、経営状況は悪化しつつありました。 というか、2004年に一度、経営破綻しており、なんとか首の皮1枚で存続してきましたが、ギリギリの状況にありました。コロナ禍も追い打ちをかけました。

そんなとき、ウェールズから遠く離れたアメリカで、ある動きが起きます。始まりは、ドラマ『神話クエスト』の撮影現場。

このドラマに出演していたロンドン出身の俳優の”ハンフリー・カー”は、イギリスのサッカーの大ファンでした。撮影の合間にもよく試合の中継を視聴していて、それがそのドラマの主演&製作である“ロブ・マケルヘニー”の目にとまります。“ロブ・マケルヘニー”はアメフトの「フィラデルフィア・イーグルス」のファンでしたが、サッカーは当時はよく知りませんでした。サッカー通の”ハンフリー・カー”にいろいろ教えてもらい、『オール・オア・ナッシング ~マンチェスター・シティの進化~』のようなサッカーのクラブを追ったドキュメンタリー・シリーズも見せてもらいました。

そうしているうちにサッカーに興味を持ち始め、「サッカークラブを自分たちで買ってみないか」という話に…。

しかし、サッカークラブの買収は途方もなくおカネがかかります。TVスターの“ロブ・マケルヘニー”でも財布は足りません。映画スターでもないと…。あれ、そう言えば知り合いに最近『デッドプール』とかいう大作映画で大ヒットして調子に乗っている俳優がいたな…。

そういうわけで引っ張り込まれたのが“ライアン・レイノルズ”。彼もサッカーは全然知らず、「まあ、やってみるか!」ってことで、苦境の「レクサムAFC」を買収。「RR McReynolds」という会社を立ち上げ、”ハンフリー・カー”がクラブのエグゼクティブ・ディレクターとなり、“ロブ・マケルヘニー”と“ライアン・レイノルズ”はオーナーになっちゃいました。

『ようこそレクサムへ』はそんなまさかの新体制の「レクサムAFC」を追いかけたドキュメンタリーです。「RR McReynolds」直々の製作なので直球の宣伝広報作品とも言えます。

普通に考えると「マジかよ!?」というネタ扱いで終わりそうなこの企画。ところが予想をはるかに超えて面白く、深く染み入るものになっていました。

私みたいにサッカーに全然興味ない人間でも面白いと感じられるのは、本作自体が「サッカーに熱中していない人」側からみたサッカー批評のようになっている点もありますし、それでいて凄く誠実で、包括的な作りになっているのも理由なんじゃないかなと思います。とても正直な映画で、その素直さが魅力です。もちろん、あのオーナーですからユーモアもしっかりありますけど…。

ある意味、ドラマ『テッド・ラッソ 破天荒コーチがゆく』をリアルで実現しちゃってる感じですかね。

百聞は一見に如かず。『ようこそレクサムへ』の観客席はいつでも空いてます。

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『ようこそレクサムへ』を観る前のQ&A

✔『ようこそレクサムへ』の見どころ
★サッカーに対する誠実で包括的な批評性。
★初心者にもわかりやすい語り口。
✔『ようこそレクサムへ』の欠点
☆エピソード数のボリュームが多い。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:サッカー初心者でも
友人 4.0:サッカー好き同士で
恋人 3.5:関心あれば
キッズ 3.5:少し長いけど
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ようこそレクサムへ』感想/考察(ネタバレあり)

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シーズン1:信頼されること

ここから『ようこそレクサムへ』のネタバレありの感想本文です。

『ようこそレクサムへ』は、「レクサムAFC」の本拠地であるレースコース・グラウンドの芝生を、”ロブ・マケルヘニー”と”ライアン・レイノルズ”が踏んで実感を噛みしめるシーンから始まります。

しかし、これは「カネ持ちがビッグ・マネーで買い占めた」という単純で乱雑な話ではありません。

”ロブ・マケルヘニー”&”ライアン・レイノルズ”陣営(長いのでRR陣営と略す)がまず真っ先にクリアしないといけないのは「信頼を得ること」です。これが最初にして最大の試練でした。

なにせいきなりハリウッド・セレブのアメリカ人とカナダ人が、しかもサッカーをたいして知らない素人が、ウェールズの歴史あるサッカークラブを買収したいとか言い出すんですよ。普通に考えて「バカにしてんのか!?」と反応されるのも無理ないです。

手続き的な件でも買収を成立するには「レクサム・サポーターズ・トラスト」という当時のオーナーに了承されないといけません。その投票での承認を乗り越えても、今度は実質的な現場での信頼構築に努めないといけない。手探りの苦難の連続…。

同時に買収して終わり…ではなく、経営中もずっと資金面での悩みが続きます。RR陣営もアホじゃないので、無尽蔵に財布からカネはだせないことはわかってます。作中でも示されていましたが、ナショナルリーグは資金的にもじわじわとキツイ立ち位置なんですね。

下手をすれば、ファンもチームも分裂して、経営資金も破綻し、最悪の崩壊を起こす可能性さえあります。ただでさえ、「レクサムAFC」は2004年の破綻時に実業家に買収されて資産扱いで蹂躙された屈辱を経験しており、トラウマです。

それに対してRR陣営は謙虚に向き合い続けるというスタイルを貫きます。経営も学ぶ。ウェールズの歴史も学ぶ。そして、新米のファンとしてゼロからサッカーの醍醐味を知っていく…(ブロマンスも育んで…)。

RR陣営が初めて現地でサッカーの生観戦をするエピソードは象徴的です。よりによってアウェーを観戦しているのですが、相手観客に”ライアン・レイノルズ”が盛大んディスられる中、重圧と興奮を味わい、痛感する姿。そして”ライアン・レイノルズ”が「最初は慈善のつもりだったけど…」と吐露しながらも、この世界に夢中になっていく変化がリアルタイムで見られます。

この変化にこそ、多くのファンたちは「ああ、この人なら信じてもいいかもしれない」と心を許せるのではないでしょうか。

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シーズン1:街もファンもスタッフも

『ようこそレクサムへ』はRR陣営だけを映しているわけでもなく(経営の裏側を見れるだけでもじゅうぶん面白いのですが)、ドキュメンタリーのカメラを、選手、スタッフ、ファンも、そしてレクサムという地域全体に向けます。この姿勢が凄く包括的です。

選手も単にスポーツ技能の話で語らず、死産の経験に苦しみながら前に進もうとする姿など、人生のメンタルケアに語り口を広げていました。クラブのスタッフだと、スポーツセラピストバス運転手まで取り上げるのが本作らしさですね。

ファンの姿も多様です。シングルファーザーもいれば、癌闘病中の人もいれば、夫を失って単身の人もいる。いずれも人生や家族の歴史に「レクサムAFC」が織り込まれています。

『ようこそレクサムへ』のこうした包括性は当然、RR陣営の信頼を得ることに対する実直さの現れでもあるのですけど、だからといってサッカーのコミュニティに媚びてばかりでもありません。ちゃんとサッカーの世界の“ネガティブな部分”にも焦点をあてます。

有害なファンダムの代表格とも言える「ウルトラ」「フーリガン」を掘り下げるエピソードはあの回だけでも一本のドキュメンタリーとして成立するぐらいの価値があったのではないでしょうか。有害な行為にでてしまった当事者とその周囲の人の複雑な苦悩がああやって映されるのはなかなかないです。

もちろん今のサッカーを取り巻く資本主義の根深い問題からも逃げません。RR陣営も経営する以上、おカネからは逃げられません。「TikTok」をスポンサーにして、その企業ロゴの書かれたユニフォームを初めて見て「interesting…」と何か他に言いたいことがありそうなのをグっとこらえながらコメントする2人のシュールさ。ユーモアでその資本主義をいじったかと思えば、クラブの歴史を通して真正面から批判することもある。

2021–22シーズンは最終的に「グリムズビー・タウンFC」に負けて、昇格を逃し、5部ナショナルリーグ止まりとなってしまいましたが、コミュニティを一致団結させたという点ではとても大きな実績をだせましたね。

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シーズン2:やっぱり昇格したい

信頼を勝ち取ってコミュニティを一致団結させた前回のシーズン。でもやっぱり…勝ちたいよね?…ということで、『ようこそレクサムへ』のシーズン2は2022–23シーズンこそ昇格を目指します(というか資金的にもう追い詰められている)。チャールズ3世に媚びへつらっても意味ないのです。

今回も包括性はバッチリです。移民選手の苦難のキャリア、自死した父を抱える選手の生き方、自閉症のファンの繋がり、アルコール依存症を乗り越えたファン…。今シーズンではレクサムの女性チームにもエピソードが割り振られます。男性チームを主流とみなすサッカー業界(どのスポーツもそうなのだけど)の男性中心社会をきっちり批判します。

”オリー・パーマー”選手の父親がゲイだった家族背景に対して、“ロブ・マケルヘニー”も母親がレズビアンだった立場で、選手とオーナーというクラブ内の上下関係を越えて共感をし合えるという話も良かったです。

それにしてもオープニングでも毎度映っていましたが、レクサムはもともと炭鉱の町だったのですけど、1934年にあんな260名以上の多大な犠牲者をだす炭鉱事故があり、微妙にサッカーも関わっているとは…。

シリアスなトーンもあれば、笑いもあるのが本作。どうでもいいノリで“ロブ・マケルヘニー”が次々と法律違反したり、“ライアン・レイノルズ”が選手の「F*** THE TORIES」シューズ写真にインスタでうっかり「いいね」しちゃったり…。取締役会顧問の“ショーン・ハーベイ”は休暇が台無しになって笑えないけども…。

ライバルの「ノッツ・カウンティFC」を意識しながらの「ボレアム・ウッドFC」との決戦。まさかの昇格を達成。しかも、女性チームも昇格し、男女ともにリーグを次のステージへ更新しました。やっちゃった…やってしまった…やってやりました。

こんなフィクションのドラマよりも話が出来すぎなことある?って感じですが、これを実現してしまったのだから凄すぎる。ドキュメンタリーを観ているだけだった私でさえも、少しファンになった気分を味わえました。

『ようこそレクサムへ』
シネマンドレイクの個人的評価
8.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
△(平凡)
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関連作品紹介

サッカーを題材にした作品の感想記事です。

・『ネクスト・ゴール・ウィンズ』

作品ポスター・画像 (C)FX ウェルカム・トゥ・レクサム

以上、『ようこそレクサムへ』の感想でした。

Welcome to Wrexham (2022) [Japanese Review] 『ようこそレクサムへ』考察・評価レビュー
#ライアンレイノルズ #スポーツ #サッカー #ゲイ