特殊な機能でもないかぎり!…映画『ツイスターズ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
日本公開日:2024年8月1日
監督:リー・アイザック・チョン
自然災害描写(竜巻) 恋愛描写
ついすたーず
『ツイスターズ』物語 簡単紹介
『ツイスターズ』感想(ネタバレなし)
2024年のトルネード警報!
エルニーニョ現象は終息しました。次はラニーニャ現象です。
2024年の日本は台風の最初の発生が遅れましたが、8~9月が本格的な台風シーズン。この2024年からはラニーニャ現象の影響下となります。要するに西太平洋熱帯域の海面水温が上昇するという変化があり、結果、台風が西寄りで発生しやすくなるそうです(日本気象協会)。
これは日本の話。場所が変われば、自然災害も変わります。
アメリカでは猛威を振るう自然災害と言えば「トルネード」…竜巻です。ただ、注意しなくてはいけないのは、アメリカ全土でトルネードが起きているわけではないということ。毎年約1000のトルネードが発生しますが、そのほとんどはグレートプレーンズ地域の「竜巻街道」と呼ばれている一帯で観察されています。
そんなトルネードですが台風と比べると小規模なので、発生予測シミュレーションが極めて難しく、被害防止は難しいです。気候変動の影響などのメカニズムもいまだによくわかっていません(National Geographic)。立ち向かう相手とするには手強い存在ですね。
子どもの頃はトルネードって、風がグォーっ!と渦巻いているだけのスゴイやつ…くらいの漠然とした印象だったけど、複雑な現象なんだなぁ…。
今回紹介する映画はそんなトルネードの猛威に挑む命知らずの人たちを描くディザスターパニックです。
それが本作『ツイスターズ』。
「ツイスター(Twister)」は「トルネード(竜巻)」の別名。ちなみに「ハリケーン」はアメリカ英語で台風のことです。違うものですからね。
本作『ツイスターズ』は、どっかで聞いたことがあるタイトルだと映画ファンなら気づくかもしれませんが、1996年の映画『ツイスター』の続編…ということに一応はなっています。『ツイスター』は当時はCGがハリウッドに革命を与え始めた時期で、そのVFXでリアルに表現された竜巻が映像的見どころでした。この映画は大ヒットし、ディザスターパニック映画のジャンルの代表作として語り継がれることに…。
それにしても1996年のハリウッドの興収は『ツイスター』は『インデペンデンス・デイ』に負けてトップの座を譲ったんですね。スゴイ戦いだな…。
そんな映画が2024年に帰ってきました。と言っても『ツイスターズ』は独立した物語なので、続編としての繋がりはないです。コンセプトを継承しているだけです。
日本の宣伝はポスターにデカデカと「超巨大竜巻vs人類」と書いていて、『デイ・アフター・トゥモロー』みたいな勢いがありますが、そういう映画じゃないです。オクラホマ州の一部地域だけを舞台にしたスケールがピンポイントなディザスターパニックという前作と同じです。
『ツイスターズ』は『トップガン マーヴェリック』の”ジョセフ・コシンスキー”が企画をたて、“スティーヴン・スピルバーグ”の「アンブリン・エンターテインメント」が制作を引っ張り、何度か企画を再考しながら、脚本は『ミッドナイト・スカイ』の“マーク・L・スミス”となりました。
監督に抜擢されたのは、『ミナリ』で高評価を受けた”リー・アイザック・チョン”。こんなビッグ・バジェットの大作を手がけるとは…。
俳優陣ですが、主役級で物語を牽引するのは、『ザリガニの鳴くところ』の”デイジー・エドガー=ジョーンズ”。真面目な気象研究者の役です。そこに並ぶのは、『恋するプリテンダー』など今最も大人気な若手ナイスガイ白人の”グレン・パウエル”。今回の役柄はテンション高いですよ。全裸にはなりませんけど、竜巻もタジタジです。
共演は、『イン・ザ・ハイツ』の“アンソニー・ラモス”、『HOW TO BLOW UP』の“サッシャ・レイン”、次の新作『スーパーマン』映画の主役に大抜擢された“デヴィッド・コレンスウェット”、ドラマ『ガールフレンド・エクスペリエンス』の“トゥンデ・アデビンペ”など。
自然災害が主題で、作中では災害で人命が奪われるシーンも生活を破壊された住人を映すシーンもありますが、全体的にカラっとした引きずりすぎないトーンになっているので、わりと見やすいんじゃないかなと思います。
もちろん映画館向きの迫力が最大の売りの作品です。スクリーンでトルネードを体験してください。4DXで観るのが一番最高の体験なんだろうけど、機会が少ないからな…。
自然災害時にSNSで虚偽の救助要請するような非道な輩よりも(朝日新聞)、この映画で描かれる誠実な人間がひとりでも増えますように…。
『ツイスターズ』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :映像をじっくり満喫 |
友人 | :俳優好き同士でも |
恋人 | :気軽に見やすい |
キッズ | :災害描写は怖いけど |
『ツイスターズ』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
気象学研究に熱中する若きケイト・カーターはオクラホマ州で竜巻を追いかけていました。仲間には、恋人のジェブ、そしてハビ、アディ、プラビーンがいます。ケイトはいち早く空の異変に気づき、クラクションで寝ている仲間に知らせます。
ケイトは動画撮影の前で意気揚々と現状を説明。有意義なデータを取れそうでワクワクしていました。
車を走らせ、トルネードの発生しそうな場所へ向かいます。車内では笑顔もこぼれ、みんな興奮が高まっていきます。空はどんどん暗くなり、風は強まってきました。雨も激しくなります。トルネードの前兆です。
ケイトたちはポリアクリル酸ナトリウムを使ってトルネードの威力を弱める作戦でしたが、車が牽引していたドラム缶が強風で横倒しに。そんなアクシデントでもケイトたちは終始ハイテンションです。
ドラム缶を設置し、遠くで待機するハビに連絡。ところがトルネードは勢いを衰えさせるどころか、さらに強大になっていきます。そしてあっという間に最大規模になってしまいました。これはケイトたちには想定外。
ケイトたちの乗る車に巨大トルネードは急接近。このままでは飲まれてしまいます。
車はコントロールを失い、4人は車を捨てて走って逃げます。人間ひとりなど造作もなく吹き飛ばせる暴風。アディとプラビーンは飛ばされ、ジェブも軽々と吹き飛んで消えます。最後に残ったケイトは必死にしがみつくことしかできず…。
なんとか生き残ったケイトでしたが、大切な人たちを失い、絶望に沈みます。
5年後、ケイトはニューヨーク・シティのアメリカ海洋大気庁(NOAA)のオフィスで働いていました。もうフィールドに出ていません。
そんなある日、移動式竜巻レーダー会社「ストーム・パー」で働いていたハビが訪問してきます。新しい竜巻の分析システムをテストするために、ケイトを参加させたいようです。しかし、ケイトは学生時代のあの頃の未熟さとはすっかり決別してしまったので、提案を断ります。
けれども、故郷のオクラホマ州がまたトルネードの脅威に晒されていると知り、参加を決意。
ハビのビジネスパートナーであるスコットを含むオクラホマ対応のチームに加わり、現地にやってきました。
そこへ、現在、YouTubeで大人気のストームチェイサーで「トルネード・ラングラー」として知られるタイラー・オーウェンズも到着。ファンが多いようで、到着早々に大騒ぎです。タイラーはカウボーイハットを被った調子者。彼の仲間には、ブーン、ダーニ、デクスター、リリーがおり、イギリス人ジャーナリストのベンも同行しています。
こうして相容れないような集団と一緒にトルネードを追うことになりますが…。
1996年との映像的繋がり
ここから『ツイスターズ』のネタバレありの感想本文です。
『ツイスターズ』の冒頭、なんか既視感があるなと思ったら、『セーヌ川の水面の下に』です。研究者が無邪気にフィールド活動をしていると、急転直下、一気に壮絶な悲劇が襲う…。
今作も「恋人含む大切な人を失ってトラウマを抱える女性研究者」のパターンですよ。はいはい、これね…と開幕数秒で察しました。
たまにはもうちょっと違うキャラクター背景でもいいんですよ。現実の女性のフィールド系研究者なら「野外調査と事務作業の往復でメンタルが疲れ果てている人」とかのほうがリアリティありそうな気がする…。
まあ、1996年のオリジナル映画『ツイスター』の主人公(”ヘレン・ハント”演じるジョー・ハーディング)も家族の死というトラウマを抱えていたので、それをなぞってはいるのでしょうけども。個人的にはジョー・ハーディングの背景のほうが好きだったかな。トルネードに執着する狂気じみた暗さを滲ませているのが良かったんです…。
そんなベタすぎる今作のケイトという主人公設定はさておき、絵作りはかなり今の時代には特異でした。近頃のディザスターパニックはVFX頼みでギラギラに映像濃度高めに作られることが多い中、『ツイスターズ』はやはり1996年のオリジナル作を意識しているのでしょう。35mmフィルムで撮っているので、2024年の大作とは思えない肌触りがあります。
本作は1996年のオリジナル映画『ツイスター』の“なんちゃって”続編です。繰り返しますが物語の接続は無く、キャラクターの再登場も無く、リブートというわけでもありません。でも『ツイスターズ』を観ていて「『ツイスター』の続編を観ている気がする…」という感覚に浸れるのはこういう映像の空気のおかげなのかも。
舞台をオクラホマ州にとどめているのもいいですね。今作も現地ロケ撮影なのかな。オクラホマの匂いをそのままに詰め込んで物語内で活かしています。”リー・アイザック・チョン”監督はこういう映像センスは得意なんでしょう。
この大作予算映画で、ここまで映像がオールドクラシックな感じを貫いているのも珍しいです。
一方で、映像はオールドクラシックですけど、竜巻に対する対処法はめちゃくちゃSFになってます。今作ではポリアクリル酸ナトリウムとヨウ化銀を組み合わせてトルネードを消失させるという大胆な技を仕掛け、最終的に成功させます。
こんなこと実際にできるの?と疑問に思うでしょうけど、理論上は可能ですが、現実的には竜巻の複雑なメカニズムゆえに実行は限りなく困難なのだそうで、実現はしていません(Slate)。
つまり、本作はそんな「ほぼあり得ないトルネード封じを確立しました!」というSFです。
本作のさらなる続編が作られるかはわかりませんが、この世界線ではトルネードという自然災害を実質は克服したも同然になっちゃったので、次はどうするんですかね。次作があるならトルネードを人工的に発生させる悪者とかでてくるんだろうか…。
本作の最大瞬間風速ベスト・シーン
『ツイスターズ』は登場人物が多くてわちゃわちゃしていますが、メインはケイトとタイラーの2人です。
この手の竜巻や嵐を題材にしている作品は、その危険な自然災害に登場人物が巻き込まれるか、自ら突っ込む理由づけが必要になってきます。『イントゥ・ザ・ストーム』 や『ワイルド・ストーム』、2023年の『ツイスター スーパー・ストーム』も…。
そんなプロット上の避けられない理由づけにぴったりなのが「ストームチェイサー」という役柄で、これがもう「これしかない!」というくらいに多用されますね。
『ツイスターズ』も定番どおり、ケイトは研究者としてストームチェイサーであり、タイラーはYouTuberとしてストームチェイサーです。2人のチェイサー(追跡者)、タイトルどおり、「ツイスター”ズ”」というわけですね。
タイラーのチーム初登場時が面白くて、ケイトのチームもなかなかに危険なことをしているのに最初はテンションが高くて、観ている側としては「大丈夫なのか!?」とハラハラさせますが、タイラーはそれを上回るエンジョイっぷり。もはや絶叫アトラクションに乗ってるパリピ状態。
物語が進むとこのタイラーも被災者のことを考える良い奴だったということが判明し、タイラーのナイスガイらしさが光りだします。タイラーは典型的なアメリカン・カウボーイ白人なのですが、表面上は保守層にも受けそうなビジュアルで、中身は良心で幅広く観客の心を射止める…ズルい男ですよ。”グレン・パウエル”がハマりすぎている…。
本作ではこのケイトとタイラーのキス・シーンも撮っていたらしいですが、“スティーヴン・スピルバーグ”の判断でカットになったそうです。
でもそのおかげでラストの2人のシーンがより引き立って良かったと思います。空港というロケーションを上手く利用し、ロマンスの王道の構図をチラつかせながら、爽やかにストームチェイサーのタッグが飛び出していく。本作の最大瞬間風速のベスト・シーンは、石油精製所炎上によるバーニング・トルネードでもなく、このエンディングでした。
『ツイスターズ』はハリウッドのディザスターパニック映画としては史上最高の興行収入を塗り替えたらしいので、今後はディザスターパニック大作が各スタジオで作られやすくなるのかな。私はディザスターパニック映画チェイサーになるしかない…。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
作品ポスター・画像 (C)2024 UNIVERSAL STUDIOS,WARNER BROS.ENT.& AMBLIN ENTERTAINMENT,INC.
以上、『ツイスターズ』の感想でした。
Twisters (2024) [Japanese Review] 『ツイスターズ』考察・評価レビュー
#ディザスターパニック #グレンパウエル