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ドラマ『窓際のスパイ Slow Horses』感想(ネタバレ)…ゲイリー・オールドマンは屁をこく

窓際のスパイ

屁をこくけどスパイです…「Apple TV+」ドラマシリーズ『窓際のスパイ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Slow Horses
製作国:アメリカ(2022年)
シーズン1:2022年にApple TV+で配信
監督:ジェームズ・ホーズ
恋愛描写

窓際のスパイ

まどぎわのすぱい
窓際のスパイ

『窓際のスパイ』あらすじ

ロンドン郊外のスラウハウスでMI5の落ちこぼれ部隊として働くイギリスの諜報員たち。リーダーのジャクソン・ラムは、頭は切れるが短気な性格の人物で、とてもだらしがない。失態により出世コースを外れてしまったリヴァー・カートライトは、この惨めなスラウハウスに異動となってしまい、苛立ちを抱えつつ地味な仕事をこなしていた。ある日、人質事件が発生し、その犯人をカートライトは独自に追いかけるが…。

『窓際のスパイ』感想(ネタバレなし)

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窓際でもいいじゃないですか

「窓際族」という日本語の言葉がありますけど、今も使われているのかな?

この「窓際族」というのは、職場において閑職に追いやられた社員を指し、そういう状況になると窓際の席でどうでもいい仕事とかを淡々をやって時間を潰して帰るだけになる…そういう背景の皮肉めいた呼び方です。1970年代頃に使われ始めたようですね。

でも今の日本は経営が苦しい企業が多く、雇用するのさえ厳しいでしょうから、そんな悠長に何もしない社員を雇っている余裕はないでしょう。もしくは労働者不足なのでどんなベテラン社員でもその気になれば現場でせっせと働かせるでしょうし…。または、差別やハラスメントで追い詰められた社員は職を退かされるだけ…。

こうやって考えると「窓際族」って平和な言葉だったのかな…。そんな窓際でボーっとしているだけで給料を貰えるなら嬉しいなと私は思いますけどね(いくらでも映画の感想とか書いてられるよ)。

今回紹介するドラマシリーズもそんな「窓際族」が邦題タイトルの由来になっているのかな。

それが本作『窓際のスパイ』です。

『窓際のスパイ』は“ミック・ヘロン”という有名なイギリスの犯罪小説家の作品が原作です。英国推理作家協会からも高く評価されており、とくに人気なのが「The Slough House」というシリーズ。この作品は、イギリスの国内治安維持を担当する情報機関「保安局(MI5)」に所属する職員の中でも、不祥事を起こしりと何かと問題視された者だけが送り込まれる架空の最下層の部署「スラウ・ハウス(Slough House)」を舞台にしたスパイ物語です。「Slough House」というのは「泥沼の家」の意味で、ここは事実上の左遷させられた落ちこぼれの溜まり場という軽蔑的な呼び名ですね(MI5の本部はテムズハウスにあるのでそれと対比させているのだと思います)。その「The Slough House」シリーズの最初の小説である2010年の「Slow Horses」をドラマ化したのが本作です。

イギリスのスパイものといっても『007』シリーズとはまるで違います。その真逆と言っていいレベルです。まさしく窓際に追い込まれてやる気なく事務的に仕事をこなしているだけの奴らが主人公であり、全体的に覇気もなく、派手な展開なんて起きようもなく…。しかし、そんな落ちこぼれMI5の集団が、イギリスで起きたと思われる人質事件をきっかけに、なんか大変なことになっていく…そんなお話。

『原潜ヴィジル 水面下の陰謀』みたいな緊迫のポリティカルサスペンスという感じでもない。

『窓際のスパイ』は、けだるい感じのクライムサスペンスが見たい人にはぴったりです。

このドラマ『窓際のスパイ』で主役のひとりである落ちこぼれMI5を率いる、だらしのないオッサンを演じるのが、あの“ゲイリー・オールドマン”。2017年の『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』でアカデミー主演男優賞を受賞し、2020年の『Mank/マンク』でも素晴らしい名演を披露していた、ベテラン中のベテランです。

“ゲイリー・オールドマン”がドラマにでるなんて珍しいなと思っていたら、どうやらテレビシリーズのレギュラー出演はこれが初らしいです。60歳を超えてキャリア初めての試みとは…。

共演するのは、『ダンケルク』の“ジャック・ロウデン”、『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』の“クリスティン・スコット・トーマス”、『われらが背きし者』の“サスキア・リーヴス”、『レディ・プレイヤー1』の“オリヴィア・クック”、『どん底作家の人生に幸あれ!』の“ロサリンド・イレアザル”、ドラマ『Waterloo Road』の“クリストファー・チョン”、『The Contract』の“アントニオ・アキール”、『2人のローマ教皇』の“ジョナサン・プライス”など。

ドラマ『窓際のスパイ』を監督するのは、ドラマ『エイリアニスト』や『スノーピアサー』のエピソードを手がけた“ジェームズ・ホーズ”。脚本はコメディアンなどマルチに活躍する“ウィル・スミス”(ビンタしたあの“ウィル・スミス”ではないですよ)。

シーズン1は全6話(1話あたり約50分)で、「Apple TV+」で独占配信されています。話数も少ないですし、ミステリー要素があるといってもそんなに難解でもないので、あまり頭を使わずに観れるでしょう。ダラダラしながら見ると、画面のキャラクターと一致するので親近感が湧くんじゃないですか。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:地味なスパイ劇が好きなら
友人 3.5:派手さはないけど
恋人 3.5:趣味が合うなら
キッズ 3.0:大人のドラマ多め
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『窓際のスパイ』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『窓際のスパイ』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):落ちこぼれMI5

空港の搭乗待合場。そこに落ちつかない佇まいの男がひとり。「“犬”は?」と忍ばせた通信機で連絡し、エージェントが配置についたことを確認。ターゲットの受け渡しの可能性があると推測するも、清掃員が邪魔でそのターゲットが見えません。そうこうしているうちにターゲットは動きだし、確保許可がでます。一斉に動き出すエージェントたち。そして飛行機の搭乗寸前で男を取り押さえます。

しかし、バックを確認すると爆発物は無し。標的をミスしたのか。服の色を間違えたことに気づき、落ちつかないエージェントの男は独断でダッシュ。退避警報が出る中、ターゲットを駅のホームまで追いかけ、銃を向けます。けれども、ターゲットはスイッチを手にし、それを押してしまい…。

リヴァー・カートライトのMI5エージェントとしての人生の輝かしい道はそこで終わりました。

ロンドンのとある建物。穴のあいた靴下を履くジャクソン・ラムは盛大に屁をしながらソファからみっともなく起き上がります。この陰気臭いオフィスが職場。キャサリン・スタンディッシュが出勤してきて「全員いるか?」とラムはやる気なさそうに聞きます。「リヴァーとシド以外は」「最後の奴はトイレ掃除だ」

カートライトはその職場に入るなり、回収してきたゴミ袋を広げて中身をかきまわします。ここはMI5…の外れ者が異動させられる部署「スラウ・ハウス」です。カートライトの今の仕事は極右記者のロバート・ホブデンを監視すること。だからこうして彼のゴミを漁っているわけで…。

カートライトはラムに呼ばれます。「大勢を爆死させておいて…」と嫌味を言われつつも、確かにあれは訓練ではありましたが失態でした。そんな自責の念にかられていると、同僚のシドが入ってきて、カフェでホブデンに接触してUSBのデータをコピーしてきたのでそれを渡します。

ラムはMI5長官代理のダイアナ・タヴァナーに電話して報告します。

次に本部に届けるようにケースを渡され、その渡す相手はウェブだと言われます。カートライトにとっては元同僚で、ウェブだけ昇進したのが許せません。道中で中身をこっそり確認し、ちゃっかり抜き取ります。

本部に着くと受付はカートライトをよそ者扱いで、入館証を渡してきます。今は人事部のウェブに封筒を渡すと「お前が間違えて指示したんだ」とあの時のことで揉め合う2人。

夜、スラウ・ハウスの面々はみんな三々五々で帰途に。カートライトはあの記者について独自に調べることにしました。真の敵はマイノリティやポリティカル・コレクトネスだと煽るホブデンは典型的な差別思想の持ち主であり、移民への敵意を大袈裟にメディアで語っています。確かに面倒な奴だけど、こいつはMI5が注目するほどの人間には見えない…。

就業時間外にシドと喋っていると「勝手に捜査はするなよ」とラムにきつく言われます。

カートライトは祖父のもとへ。祖父もまた元MI5です。スラウ・ハウスに来てもう8カ月。悩みを打ち明けます。なぜ本部はホブデンなんて小物に注目するのかと祖父に聞くも「何か理由がある」と口にするだけでした。

ところが事態は思わぬ方向に動き出します。あるパキスタン系のコメディアンの若者が何者かに拉致され、その拘束されている姿がライブ映像としてネットに流れたのです。マスコミは連日のように報道しますが、どうやら犯人は極右グループのようです。

これは偶然なのか、それとも何か繋がりがあるのか。居ても立っても居られないカートライトは独自に動き出しますが…。

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シーズン1:内輪揉めしかしない奴ら

『窓際のスパイ』はでてくる奴らが揃いもそろってダメな連中ばかりで呆れてしまうくらいです。ほんと、どうしようもない。しかも、内輪揉めが勃発する始末です。

まずシーズン1の一応の犯罪の実行者である極右集団「アルビオンの息子たち」。彼らはハッサン・アフメドを拉致し、真の愛国的なイギリスを取り戻すべく、その手本を示そうと行動に出ます。動機は軽いもので、いかにも過激なネットの論調に刺激されて行動にでてしまったタイプの奴ら。

本作はこの「アルビオンの息子たち」のメンバーをものすごくマヌケというか、幼稚さが駄々洩れている姿で描いています。そもそもこの犯行グループの各人物の名前…カーリー、モー、ラリー、ゼッポ…という名ですけど、このうち前者3名の名はたぶん有名なコメディアンの「三ばか大将」に由来しています。だから意図的にアホっぽく描いているんでしょう。第5話の車内でハッサンに笑わせてみろと要求して爆笑する空気になるくだりとか、完全にギャグだし…。

一方で誇張して極右側を描いているわけでもなく、これはこれでかなりリアルだなと思います。極右ライター&論客がいて、極右政治家がいて、極右支持者集団がいる。そんな奴らが表面上は慣れあっているけど、いざ取り返しのつかない事件が起きてしまうと急に仲間割れし出す。その中でも過激なメンバーがどんどん暴走したり…。日本でも見ますよね、こんな光景…。

対するMI5も酷いもんです。実はこの誘拐は本部が仕組んだ偽旗作戦だと判明。パキスタン軍統合情報局の副司令官の甥であるハッサンを救出できれば恩ができる…そんな下心でスパイであるアラン・ブラックをモーの名で送り込み、誘拐事件を誘導していたのでした。ただ、あまりに犯行グループが暴走してきたので収拾がつかなくなってしまったのですけど…。

本作はあくまでフィクションとは言え、実際にこういう感じなんじゃないのかと思ってしまいますよね。MI5くらいのプロフェッショナル集団にとっては極右の小物はそんなに巧妙な存在ではないので簡単に尻尾を掴めるし、その気になればコントロールもできる。けれどもそんな舐めた態度で野放しにされて、一番困っているのは極右的な思想に苦しめられる弱者の人たちであって…。

ダメ連中が社会を腐らせるのがよくわかるドラマでした。

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シーズン1:とりあえず働く

そして主人公である「スラウ・ハウス」、あだ名は「スロー・ホース」の面々。こいつらがそんなダメ連中に一発説教をぶちかます…わけではないのがこのドラマ『窓際のスパイ』。

この「スラウ・ハウス」の連中もまた堕落しているわけです。完全にやる気を失った元ベテランのエージェント、トラウマを背負って抜け出せない女性、協調性ゼロのハッカー、わりとヘマばかりのアホカップル、無能なままに捕まる面倒な男、そして汚名返上で空回りする必死すぎる奴…。

“ゲイリー・オールドマン”演じるラムとか、こんな上司、いるもんなぁ…。

こいつらも正義なんてものを持っていない。普段やっていることは「とりあえず働く」という姿勢だけ。惰性です。今回の人質事件捜査もしょうがないので取り組むかというノリでゆったり始動します。積極的にやりたくはないが、やるしかない、なぜなら仕事だから…このスタンスですよ。

でもこれもこれできっとリアルで…。なんか疲弊している現場の感覚というのは、どこの国でも業界でも同じなんだろうな…と。

こういう立ち位置で世間を冷笑主義的に眺めるようになったらそれはそれで終わりだと思うのですが、本作の主人公たちは最後の最後で“正しい姿”を見せます。犯人を射殺しておしまいにしようとするMI5本部のヘリに対して身を挺してかばう「スラウ・ハウス」。手柄はMI5のものですが、正義を捨てなかったことでどんなに窓際でも信念は守りました。

一方で最後はしっかりスパイものらしい不気味さも見せます。

序盤で退場したシド(シドニー・ベイカー)はロディの分析によれば入院記録もなく存在しない人間だということが判明。これぞ正真正銘の本物のスパイという隠密っぷりにちょっと怖くなる…。

そしてラムの過去。スタンディッシュの夫チャールズを殺害したのは実はラムであり、そのラムの隣にいたのはカートライトの祖父で…。一体このスパイたちにはどんな昔の因縁があるのか。それは封印されたままですが、いつかその戸棚が再び開くことはあるのか…。

ドラマ『窓際のスパイ』はシーズン2はもう製作が始まり、元の原作である「The Slough House」シリーズも11巻くらい続いていてどんどん新作も増えているので、まだまだいくらでも作れそうです。

『窓際のスパイ』
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 94% Audience 87%
IMDb
7.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0

作品ポスター・画像 (C)Apple

以上、『窓際のスパイ』の感想でした。

Slow Horses (2022) [Japanese Review] 『窓際のスパイ』考察・評価レビュー