海底11265mに潜むのは?…映画『アンダーウォーター』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2020年)
日本では劇場未公開:2020年にDVDスルー
監督:ウィリアム・ユーバンク
アンダーウォーター
あんだーうぉーたー
『アンダーウォーター』あらすじ
海面下約11000m。海底研究所でエンジニアとして働くノラは、ある日、激しい揺れと衝撃に遭遇する。それによって施設は壊滅的な損傷を受けてしまう。なんとか生き残ったノラと他のクルーたちは、潜水服を着て近くの中間基地まで危険を覚悟で避難することを決める。そんな絶体絶命の緊迫した状況の中、得体のしれない恐怖がさらに追い打ちをかけてくる。
『アンダーウォーター』感想(ネタバレなし)
サメじゃないよ!(事前忠告)
どれくらいの深さまで水を潜ったことがありますか?
私は…バスタブやプールで全身を水に沈めたくらいしか…だから、この場合は何メートルだろう…。
そんな私はどうでもいいんです。人によってはダイビング経験があったりするでしょう。数メートルの深さの水中体験もしちゃっていたり…。
しかし、海底11265メートルは未体験のはず。「いや、私、経験あるよ!」という方がいたら、本当に申し訳ないのですけど…(そんなアクアマンみたいな人、このブログ、読んでいるんですか?)。
今回の紹介する映画はそんなただでさえ未知といえる深さの環境下で、さらにとんでもない恐怖を味わうパニックスリラーです。それが本作『アンダーウォーター』。
舞台は海面下7マイル(約11265m)に設営された施設。もうこんな場所に建物を設置しただけでも凄いのですが、そこはあえて不問にしておいてください。そこで突然、甚大な揺れが発生し、施設はズタボロになってしまいます(ほんと、どういうリスク想定のもとマネジメントしていたんだろう…)。
それだけでも「終わった…」と絶望感を感じるにはじゅうぶんすぎる出来事なのですが、そこで終わりません。さらに得体のしれない恐怖が襲ってくるのです。
とまあ、こんな感じでボカすしかないのですが、ネタバレになるとつまらないしね…。でも『海底47m』では襲ってきたのはサメでしたが、この『アンダーウォーター』はサメではありません。それだけは言っておきます。ほら、今の時代、どこでもサメが出没するからね…。
あんな映画ファンの人に観てほしいな…という想いはあるのですが、その“あんな映画”に言及するとやっぱりネタばらしになってしまうから…どう魅力を伝えればいいのか。とにかく深海でとんでもないことが起きるのです。『MEG ザ・モンスター』クラスの大パニックが襲来します。しかも、ジェイソン・ステイサムはいないんですよ。おしまいだ…。
『アンダーウォーター』を監督するのは“ウィリアム・ユーバンク”というクリエーターで、これまで『地球、最後の男』(2011年)、『シグナル』(2014年)などを手がけてきました。この『アンダーウォーター』は監督のフィルモグラフィの中でも最大規模の予算が投入されていると思われますが、それでも構成自体は小規模で、閉鎖環境でのシチュエーション・スリラーになっています。
そして本作に主演しているのは“クリステン・スチュワート”です。『トワイライト』シリーズで大ブレイクし、一気に有名になりましたが、最近も実にバラエティ豊かな作品に顔を出しています。『エージェント・ウルトラ』や『チャーリーズ・エンジェル』のようなコテコテのアクション映画で暴れたかと思えば、『カフェ・ソサエティ』や『パーソナル・ショッパー』のようにアート派な監督とも仕事するし、『モンスターズ 悪魔の復讐』や『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』のような実話ベースの作品でも名演を見せる多才さ。クールでワイルドな風貌から女性人気も高く、メロメロになっている熱狂的ファンもよく見かけます。私は“クリステン・スチュワート”の、どんな映画に出ていてもブレない芯の強さが好きで、すっかり安心感を持てる感じに思います。
『アンダーウォーター』は“クリステン・スチュワート”のパワフルさの部分が全力発揮されており、主人公としてずっと画面に出っぱなしなので、ファンは濃厚に堪能できること間違いなし。こういうパニックスリラー映画に出演するのは珍しいですが、もともと脅威を寄せ付けない強さをまとった人物なのでピッタリでしたね。
他の俳優陣は、まずハリウッドや韓国映画でも活躍しているフランスの俳優“ヴァンサン・カッセル”。そして『デッドプール』シリーズでおなじみの“T・J・ミラー”、『ミスエデュケーション』の“ジョン・ギャラガー・Jr”、『ワインは期待と現実の味』の“ママドゥ・アティエ”、『Godzilla vs. Kong』にも出演を予定している“ジェシカ・ヘンウィック”など。登場人物は内容が内容だけに少ないです。
撮影は2017年の春に行ったらしいのですが、おそらくポストプロダクションに時間がかかったのと、配給の20世紀フォックスがディズニーに買収された一件でゴタゴタし、なんとか2020年1月にアメリカで公開。日本では劇場未公開で配信スルーになってしまいました。
好きな人にはこの『アンダーウォーター』の世界観は大好物でしょう。海底11265メートルでどんな出会いが待っているのか、ウキウキしながら視聴してみてください。映像が凝っていますから、なるべく大きい画面で迫力たっぷりに観るのがオススメです。
オススメ度のチェック
ひとり | ◯(好きな人はハマる) |
友人 | ◯(スリルを友達と共有) |
恋人 | ◯(ほどよく怖い気分に) |
キッズ | ◯(多少の残酷さはあるが) |
『アンダーウォーター』感想(ネタバレあり)
何か…いる
世界で最も深い海溝と言われるマリアナ海溝。この最深部の海底に「ケプラー・ステーション」という研究および掘削施設が設置されていました。タイタン・インダストリーズという企業が運営しており、300名以上のスタッフが働いている巨大な施設です。
ノラはそこで勤務するエンジニアのひとり。ここは地上から離れた海底の深く。昼と夜の感覚もなくなりながらここで仕事するノラは、少し気が滅入っていました。企業側は福利厚生を掲げていますが、実際のところ、良質な労働環境とは言えません。
ひとり寂しく歯みがきをしていると、洗面所の流しに小さなクモ(ザトウムシかな?)が1匹、出られなくなっているのを発見。水で流そうとしますが、ふとそれをやめて、助けてあげました。
部屋から出て廊下に出ると、天井から水がポタポタと垂れているのに気づきます。なぜ? そう思った瞬間、急に激しい揺れとともに、施設全体がとんでもない衝撃に襲われます。ノラはなすすべもなく翻弄されながら、パニックになりつつも、隔壁で密閉するために操作パネルをいじります。ロドリゴもやってきてノラに早くしろと焦らせますが、閉じようとしている通路のに逃げている人がいるのが見えます。苦渋の決断でしたが、待ってられないので、閉めるしかありませんでした。間一髪。しかし、最大級の衝撃とともに、ノラは気絶してしまいました。
目が覚めると、水びたしの床で倒れている自分の状態を確認。仲間のひとりであるロドリゴも近くにいて、状況を理解しようとします。「地震だったのか」…そう考えますが、よくわかりません。とりあえず通信を試みますが、コントロールセンターに救援を求めるものの通じる気配もなく…。
そうこうしているうちに不吉な音が聞こえ、ここもいつまで持つかわからないことは明白でした。
脱出ポッドにいかないとダメだと判断し、2人は向かいます。施設は滅茶苦茶で、機械に詳しいノラは調べますが、いろいろ絶望的な損傷があることしかわからず、とにかく脱出ポッドの位置を特定しました。瓦礫の合間を這って進むと、誰かの声が聞こえ、同僚のポールを救いだします。
3人で這って進むとコントロールルームに到着。そこにはキャプテンのルシアンがぽつんと座っていました。脱出ポッドはもうありません。キャプテンは残ったらしく、もうかなりの数を脱出させたとのこと。
あとは他にエミリーとリアムのみ。状況は絶望的で、原子炉がメルトダウンを起こすかもしれないらしく、一刻も早く行動しないといけません。キャプテンはローバック・ステーションに行こうと提案してきます。それはここから離れた施設。しかし潜水艇もなく、歩いていくしかないです。酸素も不十分でスーツも頼りないとなると、厳しいのではないか。けれども激しい揺れが断続的に続く中、やるしかないまでに追い詰められていました。
6人は信頼できるかわからないスーツを着込み、貨物用エレベーターで下に向かいます。水が充満し、スーツに水圧の負荷が容赦なくかかってきます。するとロドリゴのヘルメットにヒビが入り、一瞬で身体ごと破裂。一同、絶句の中、悲しみにくれる暇はありませんでした。
一旦、体勢を立て直しつつ、外の海中付近を分析すると、外に反応があることがわかります。生存者かもしれないので、ポールとリアムが見に行きます。真っ暗な海中で2人はモヤモヤしたものが漂っているのを発見。見たことがないものです。そして遺体を発見しますが、突然、なんだか変な生物に襲われました。
その生物を倒して持って帰ってきた2人。小さいですが、獰猛そうです。エミリーは新種の生き物だと思うと解析し、一同は嫌な予感を感じます。その予感は的中し、どうやらその謎の生物は他にもいて、海中をうようよしているようです。これでは外に出られない…。
しかも、災難は続きます。上にあるケプラー・ステーションの原子炉がメルトダウンを起こし、大爆発とともに施設の一部が降ってきました。もはや謎の生物の心配をしているわけにもいきません。全員でがむしゃらに外に出て、地獄のような大混乱の中、必死に逃げだします。
これ以上の恐怖はもういらない。誰もがそう思っていましたが、まだ最悪の存在に遭遇していませんでした。巨大な恐ろしい“あれ”が自分たちを見下ろしていることに…。
移動すれば死ぬ、移動しなくても死ぬ
『アンダーウォーター』は、“ウィリアム・ユーバンク”監督のパニック演出がシンプルながら上手いなと思いました。
まず特段の説明もなく、主人公のノラが映り、観客は舞台となった施設の全容が不明なまま、パニック状態に陥る光景を見せられます。ここでは横移動の激しいシーンが連続し、奥行きを活かしたカメラワークが恐怖を盛り上げます。
続いて一同が集結し、スーツを装着し、今度は下に沈んでいくという縦移動。ここでは不意打ちで恐怖演出が文字どおり炸裂。あんなに一瞬でジ・エンドになる展開もありなのか、と観客も油断できなくなります。
このように本作はキャラクターが横移動か縦移動すると必ず恐怖に襲われる展開が起きます。海中を歩けば謎の生物に襲撃され、アクセストンネルを進むとまたひとりやられ…。
極めつけはキャプテンとの別れ。このまま一緒に上昇すれば死んでしまう。苦しい決断ですが、ノラの手は離れ、キャプテンは死亡。ノラは真っ逆さまに落ちていきます。
移動は恐怖。でもとどまれば死ぬ。この単純な構成が本作のスリルの基本であり、前提がしっかりしているので面白いです。大混乱が起きていても何がどうなっているのかも整理しやすくなっており、ただの意味不明な映像にならないようになっています。このあたりは“ウィリアム・ユーバンク”監督の演出力の確かさではないでしょうか。
そしてラストはノラがあえて「移動しない」という選択をとるわけです。それはつまり何を意味するのかはわかっています。物語の終了を告げると同時に、それでもアイツには勝つという闘志を燃やす。そこがまたカッコいいです。
主役の魅力で引っ張る
『アンダーウォーター』の主人公であるノラ。このキャラクターの魅力がまたいいですよね。
前述しましたけど、“クリステン・スチュワート”の持つパワフルさがすでに冒頭から炸裂しています。最初は少し肌が見える姿で更衣室みたいな部屋で、ひとり佇んでいる。ここだけ見ると、何かの戦闘員なのかと思えるくらいのオーラを放っています。でも実際はこれでエンジニアなのです。パワータイプ・エンジニア…でました、最強のカードです。
で、序盤の大パニックのシーンでも、それはもう見事な退避行動を見せており、あの一連のムーブだけ見ていると「あ、この主人公、相当に強そうだから生き残れそうだな」と思えます。
要するに本作は主人公が生き残るのは明白な事実です。
そしてノラの周囲にいる他の登場人物はどこか弱そうなんですね。あのキャプテンすらもちょっと心もとない感じに見える。“ヴァンサン・カッセル”の佇まいが良い感じです。“T・J・ミラー”演じるポールとか、いつ死んでもおかしくない奴ですから。逆に案外と頑張れそうな、まだマシな強さをもっていそうだったロドリゴが先に死んでしまい、窮地としての危機感は増すばかり。
そんなダメそうなメンバーを一身で引き受けて守るのがノラです。ノラの“守ってやる”精神はキャプテンの喪失で挫けそうになりますが、エミリーとの再会ととも復活。終盤の決断につながっていきます。
“クリステン・スチュワート”だからこそ成り立つ主人公であり、変にナヨナヨした感じもないので、観ていてとてもスッキリする信頼感でした。
ここでもクトゥルフ
その人間たちに襲いかかる『アンダーウォーター』の恐怖の存在。
鑑賞した人ならわかるとおり、本作は海底版『エイリアン』です。これに関しては露骨にオマージュ満載になっているので、言うまでもないですけど。最初に謎生物と遭遇するシーンでのいきなりの飛び掛かりとか、捕まえてきたその謎生物をみんなで分析するくだりとか、『エイリアン』の場面そっくりになぞっています。
でもそれは実はミスリードでもあるんですね。終盤に観客の予想を超えるものがズシンズシンと登場。それは超巨大な生物。映画は一気に巨大モンスターパニックへと変貌します。
ここは怪獣映画っぽいと思うかもしれませんが、監督いわくあの怪物はラブクラフトのクトゥルフ神話をモチーフにしているそうです。確かに造形といい、存在感といい、クトゥルフそのものですね。『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』といい、やっぱりクトゥルフは魅力的でいいな~(出会いたくはないけど)。
それと同時にあのタイタン・インダストリーズ(この会社名もオチのネタバレになっている)はどうやらこういう存在がいることを把握したうえで隠蔽していたらしく、人間社会におけるビジネスの名のもとに労働者が酷使される惨状も根底にあるわけで…。このへんも『エイリアン』的な社会風刺ですし、そこで強靭な女性が先頭に立つのもそのままです。
『アンダーウォーター』はそこに水中ならではの環境下における息苦しさと、クトゥルフ成分を追加したのがアイディアでしょうか。
個人的には最後にもうひと捻りが欲しかったけど、それはないものねだりかな。原子炉爆発が安易に解決手段になるのもちょっとなと思いますし…(まあ、でも原発事故で大惨事を引き起こしても全然倒産しない会社もリアルに存在するしなぁ…)。
ということで結論は、デッカイ生き物が見れて楽しかったです!(急に知能指数が下がる)
水には1メートル以上、潜らないようにしよう…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 48% Audience 60%
IMDb
5.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★
作品ポスター・画像 (C)2020 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.
以上、『アンダーウォーター』の感想でした。
Underwater (2020) [Japanese Review] 『アンダーウォーター』考察・評価レビュー