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『undone アンダン 時を超える者』感想(ネタバレ)…ロトスコープはここまでできる

undone アンダン 時を超える者

ロトスコープはここまでできる…ドラマシリーズ『アンダン 時を超える者』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Undone
製作国:アメリカ(2019年)
シーズン1:2019年にAmazon Primeで配信
製作総指揮:ラファエル・ボブ=ワクスバーグ、ケイト・パーディ ほか

アンダン ~時を超える者~

あんだん ときをこえるもの
undone アンダン 時を超える者

『アンダン 時を超える者』あらすじ

テキサス州サン・アントニオに暮らす28歳のアルマという女性は、普通すぎる日常にどこか虚しさを感じていた。しかし、死んだはずの父を目撃して、交通事故を起こしたことをきっかけに、自分の不思議な力が開花する。やがてそれはアルマ自身の秘密へとつながり、現実と過去が交錯する体験をしながら、父の死の真相を探ることになる。

『アンダン 時を超える者』感想(ネタバレなし)

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アニメと実写の境界はどこへ

アニメと実写の境界がどんどんあやふやになっていく…そんな感覚を味わうことが増えてきた気がします。それもこれもアニメ映画業界でCGが主流になり、技術の発展にともない、フォトリアルな映像が実現するようになったがゆえ。ついには2019年公開の『ライオン・キング』のように、アニメというべきか実写というべきか製作陣たちすらわからない作品が生まれるような時代です。

ただ、これはアニメの歴史を見ていくと、ひとつの到達点として予想の範疇でもあったかもしれません。例えば、ウォルト・ディズニーが『白雪姫』で革命を起こしたように、実際の人間の演技をアニメーターがつぶさに観察してトレースしたり、はたまた『メリーポピンズ』のように実写とアニメを融合したり、アニメはリアルとどう付き合うかを常に模索してきました。

そんな中で、最もリアルとシンクロしているアニメーション表現手法が「ロトスコープ」です。これは実際の人間等のモデルの動きを撮影した画像や動画をそのままトレースすることで、作画としてアニメーションさせる手法で、要するにリアルを絵にダイレクトに変換しているようなものです。その歴史は古く、マックス・フライシャーにより考案されて、1919年に作品が生まれました。当時は簡単にリアルなアニメを作れるという目的での導入を考えていたみたいですが、その活用はしだいに多岐に拡大。アニメ、実写映画、ドラマ、CM…最近だとバーチャルYouTuberのアバターのように、FaceRigなどのツールでリアルタイムに人間の動きをアニメ風にできたりするように。

それでも長編作品をフルタイムでロトスコープで創作するのはなかなか見られません。岩井俊二監督の『花とアリス殺人事件』(2015年)やドキュメンタリーの『テキサスタワー』のように、どうしても限られてきます。独特の生々しさがあるので使い勝手が難しい部分も多いのでしょう。

しかし、ロトスコープ史において、またひとつ大きな意味のある作品が登場しました。それが本作『アンダン 時を超える者』です。

本作はなんと全編ロトスコープのドラマシリーズ。全8話(各話22~24分)で、合わせて約3時間。もちろん1秒1秒全てがロトスコープで表現されています。

しかも、そのクオリティもいかにも“ざっくりトレースしました~”みたいな雑なものではなく、非常に手の込んだ洗練されたロトスコープとなっており、その使い方もストーリーとリンクしており、斬新です。『アンダン 時を超える者』はタイムスリップ的な要素をメインにしたSFなのですが、そのジャンルとロトスコープの相性が抜群で、“なるほど”と感心させられます。原題の「undone」とは「undo」という動詞の過去分詞ですが、「undo」は「元に戻す」や「ほどく、はずす」という意味です。

この異色の奇想天外作品を作り上げたのは、Netflixオリジナル作品として話題となったこれまた異色のアニメシリーズ『ボージャック・ホースマン』の生みの親である“ラファエル・ボブ=ワクスバーグ”“ケイト・パーディ”。『ボージャック・ホースマン』は絵としては普通のアニメですが、タブーをものともしない豪快な風刺力が売りの作品で、高い評価を得ました。

『アンダン 時を超える者』は方向性は全く違いますが、業界に喧嘩を売るような挑戦的なスタイルはやっぱり内包しています。また、会話の節々や演出に、ダークな遊び心があるのもこの製作陣らしいですね。なので完全に大人向けの作品です(子どもは別の作品を見てね)。

ロトスコープ・アニメなので演じている役者がいます。主演しているのは『アリータ バトル・エンジェル』で印象的なバトルヒロインを演じた“ローサ・サラザール”。その作品に続いて『アンダン 時を超える者』でも、自分の素の姿が加工されて使われる役ですね。これじゃあ“ローサ・サラザール”の顔、ちゃんと見たことがない人も普通にいるだろうに…。

そこまでボリュームもないですから、時間がある時にぜひ見てください。Rotten Tomatoesでは批評家100%という超高評価作品で、ユニークさはピカイチ。変わった作品を見たと明日から自慢できます。

「Amazon Prime Video」で配信中です(Amazonは『高い城の男』とか良質SFを定期的にプレゼントしてくれて嬉しい)。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(SF好きは要チェック)
友人 ◯(話のネタになる)
恋人 ◯(暇つぶしにちょうどいい)
キッズ △(大人向けの物語)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『アンダン 時を超える者』感想(ネタバレあり)

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頑張りすぎないように頑張る

『アンダン 時を超える者』の舞台はテキサス州のサン・アントニオ

冒頭、いきなり意味深なシーンからスタート。無残に泣きながらひとり車を運転する女性。この女性が主人公のアルマなのですが、この時点では何のことやら。しかし、運転中にハッと何かを見て驚きます。それは何なのか、視聴者にはまだわかりません。一方、アルマは完全に油断してしまい、その隙に他の車に追突され、交通事故を起こします。

そして、場面は一転。どうやら過去のシーン。アルマはバーで飲んでいて隣にいるのはベッカという名の妹。どうやらリードという男性と婚約したらしく、実に嬉しそうに指輪を見せながら、それを報告します。幸せオーラ全開です。全くこのリア充めが!と言わんばかりの姉妹トークを繰り広げた後、アルマは帰宅。

実はアルマは普通の人生に漠然と不安を抱えているようでした。別に孤独ではありません。家に帰れば恋人のサムがいて、ごくごく平凡なカップルらしくイチャイチャしています。傍から見ればアルマもじゅうぶん幸福そうです。保育園で子どもの面倒を見る仕事もしています。しかし、結婚して、子どもを産んで…そんなありきたりな日常を歩む生き方は嫌だと口にするアルマ。そんなアルマをとりあえず優しく受け止めるサム。

アルマにはカミラという母がいますが、父のジェイコブはアルマが子どものときに交通事故で亡くなってしまいました。それはハロウィンの夜。まだ幼く我儘な妹と喧嘩しつつも優しい父に愛されていたアルマは、夜に父と二人でお菓子をもらいに外にいきます。しかし、父に電話がかかってきて、何やら緊急の用があるらしく、アルマを置いて行ってしまい…そして、二度と帰ってくることはありませんでした。

そんな過去を抱えつつ、今、少し距離感のある母と会話をするアルマ。何気なく見つけた父の1枚の写真の中で、父がタバコを吸っている姿に驚きつつ、自分の知らない親の一面があるのではとまたもや不安がよぎります。

そして、仲は良かったものの、恋人のサムと別れることにしたアルマ。そのことを妹に報告し、バーテンダーのトーマスも交えてハシャぎまくる3人。そのまま結婚式を控えているはずの妹はトーマスと体の関係を持ってしまうのでしたが、アルマはまるで見なかったように…。

翌日の教会。あんなことがあった妹は遅れてきて、動揺気味。そんな妹と激しく口論し、その帰り道で例の冒頭の車事故のシーンです。この時、アルマが目にしたのは、タバコを吸っている父の姿でした。

ふと目覚めるとそこは病室のベッド。心配そうに見つめる母と妹、そして隣には…父が座っています。「なんでシートベルトしてなかったの?」そんな小言を言われつつ、父がいるという事態が呑み込めないアルマ。しかも、父は自分しか見えないようで…。

タイムループ、異空間、謎の現象を次々体験し、ますます混乱を深めるアルマ。彼女の人生は特別な力によって解放されていたのでした。そして、実在しているのかもあやふやな父は言います。私が死んだのは車の事故でなく、誰かに殺されたのだ…と。その真相を突き止めてほしい…。

だいたいこのあたりまでで第1話から第3話です。

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ロトスコープでやる意味

『アンダン 時を超える者』は前述したとおり、ロトスコープ・アニメーションです。

このロトスコープは明確な特徴があって、それは動きが非常に生々しいこと。リアルだけどリアルじゃない、正直、不気味です。何の考えもなしに導入すると気持ち悪いだけに見えたりもします。つまり、何らかの狙いがないと、このロトスコープは上手く活きてきません。

その点、『アンダン 時を超える者』はこの手法が世界観にピタリとハマっています。なぜなら、アルマの父も言うように、アルマは特殊能力を有しており、“狭間”の世界で時間さえも凌駕した行動がとれるわけです。言うなれば、ちょっと現実とは違う現実に近似した空間。このイレギュラーなワールドを表現するのに、ロトスコープは最適なんですね。

リアルだけどいつ何時、リアルを飛び越えたアブノーマルな出来事が起こってもおかしくないとも思えるビジュアルですから。実際、作中では気持ちがいいくらいポンポンと非現実的なことが起こります。過去にサッと戻ったり、別の場所に瞬間移動したり…。

この製作陣らしいなと思う要素も多々あり、第2話の摩訶不思議空間とか、いかにも突拍子もない感じが…。また、ロトスコープで裸を見せるという(しかも子どもの前。「なんで毛が生えてるの?」)悪趣味な展開も脈絡もなくていいですし、一番アホだなと思うのはアルマが気持ちを落ち着かせるためにブラックジャックのピコピコゲームを一心不乱にどこでもやっているという展開。こんなアニメ的ダイナミックさゼロのことをロトスコープでやるという発想…。シュールすぎる…。かと思えば未来に水死するのかと思わせる子どもの幻視が見えたり、ゾッとするシーンも。

『アンダン 時を超える者』の制作では、最低限のセットと小道具で俳優に演じてもらい、そこからアニメーションに変換していったのだとか。だからこそあれだけ自由の高いSF的なあり得ない映像の連続も実現が可能で、逆に言えば、かなり細かくアニメーションを積み上げていっていることが推察できます。全体の絵の完成度を納得いくまでのレベルに高めるのは結構大変だったと思われますが、結果、素晴らしいクオリティのものが出来上がっていました。

俳優陣もロトスコープという不慣れであろう環境で、想像力を働かせて、かなり伸び伸びと演技をしている姿が伝わってきます(舞台の即興劇みたいな撮影だったのかな)。

『ダーククリスタル エイジ・オブ・レジスタンス』の感想でも似たようなことを書きましたが、ネットの動画配信サービスという、大手映画会社等とは異なる新興クリエイターの登場によって、普段はメインとして日の目を浴びなかった技術(今回はロトスコープ)が表舞台に立てる。こういう現象が起こるは、個人的には良いことだなと思います。

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ルーツを理解して、時をかける

『アンダン 時を超える者』は2話目あたりを見ていると、よくある“タイムループから抜け出せ”的なやつなのかなと思うのですが、父の死の真相を探るという目的とともに、しだいにさらに深いテーマが発掘されていき、ここが本作のオリジナリティになっています。

単なるSFとは違って、本作は「シャーマニズム」をキーワードにした“ルーツ”をめぐる自己探求の物語なんですね。

主人公のアルマは実は中南米系の先住民の血が入っていることがわかります(ちなみに演じた“ローサ・サラザール”もペルー系の血縁がある)。そして、アルマの能力も、これは理論物理学の教授であるアルマの父の仮説ではあるのですが、そういう霊能者やシャーマンと同類の“何か”なのではないかと考えています。世界各地に(それこそ日本でも)シャーマン文化はありますが、中南米にも存在します。本作で題材になっているのは「メソアメリカ文化」です。

このシャーマン(巫師・祈祷師)の能力を科学的に分析しようという研究は実際にあって、それこそ作中で語られるとおり、統合失調症との関連も取り上げられたりします。逆に呪術医なんてものも存在します。

アルマは幼い時から耳が聞こえず、手話で生活していましたが、人工内耳という“現代医学”のアイテムによって、それを克服し、その日から慣れていくことで音のある世界に変わります。そして、大人になった今、今度は何かの理由でもどかしさを抱えている自分の心を、今度はシャーマニズム的な特殊能力で変える…それが本作の物語です。

とはいってもオカルトではありません。もっと普遍的に言えばルーツを巡るストーリー。アルマはアメリカ生まれアメリカ育ちですっかり自分の祖先のことなんて知りません。しかし、能力開発の過程で自身だけでない家系の過去を認識します。本でもネットでもなく、かつてない体感で。

その最頂点に達するのが第7話。結婚パーティの会場で、メキシコ系の伝統的踊りを踊る集団に遭遇し、その中のひとりの女性から「ラ・アンティグア」という踊りについて学びます。つながるための踊り。その踊りによってついに目的のハロウィンの夜へ、文字どおりダイブする…ここのシーンはまさに本作の白眉。躍動感が凄く良いです。ちゃんとタイムトラベルを実行するための物語上のロジックがあるのがまたいいですよね。

父の死の真相は虚しいものでしたが、父の変化を促せたアルマ。そして、自ら周囲の制止を振り切ってメキシコへ向かい、あの洞窟がある遺跡で父を座って待つ。ラスト、アルマの目の前にあったのは、日の出の光か、それとも…。解釈は個々人に任せますが、ルーツを見いだせたことで、アルマの人生はすでに世界が変わったはずですし、それがひとつの終着点なわけですから、良いのでしょう。

それにしても『Fleabag フリーバッグ』に続き、『アンダン 時を超える者』でもやっぱり最後は姉妹愛がものを言う。これもひとつの時代性を象徴するシスターフッドなのかな。

女性の力エスニシティに最大の敬意を払ったSFとして異彩を放つシリーズでした。

『アンダン 時を超える者』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 100% Audience 94%
IMDb
8.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)The Tornante Company, Hive House Project, Amazon

以上、『アンダン 時を超える者』の感想でした。

Undone (2019) [Japanese Review] 『アンダン 時を超える者』考察・評価レビュー