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『バッドガイズ』感想(ネタバレ)…ワルな動物たちが颯爽とアニメーションで心を奪う

バッドガイズ

ワルな動物たちが颯爽とアニメーションで心を奪う…映画『バッドガイズ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The Bad Guys
製作国:アメリカ(2022年)
日本公開日:2022年10月7日
監督:ピエール・ペリフェル

バッドガイズ

ばっどがいず
バッドガイズ

『バッドガイズ』あらすじ

天才的な泥棒のスキルを持つウルフ、ベテランの金庫破りのスネーク、変装の達人シャーク、肉体派のピラニア、天才ハッカーのタランチュラの5人(5匹?)による怪盗集団・バッドガイズ。これまで派手な盗みを次々と成功させてきた彼らは、史上最悪の犯罪者として名を残すべく、注目のお宝「黄金のイルカ」を狙う。ところがそこに思わぬトラブルが発生し、バッドガイズの存続に関わる決断を迫られることに…。

『バッドガイズ』感想(ネタバレなし)

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動物版「ルパン三世」 in 2022

海外のアニメ作品を評するときに「これはこの日本のアニメ作品を参考にしている!」と自慢げに言及するのは私はあんまり好きじゃないです。なんかアニメ愛国主義的な「日本スゴイ論」の典型に乗っかっている感じがするので…。でもとくに日本のメディアが海外アニメ映画を語るときはもはや定番の切り口になってしまっていますね。しょっちゅう見かけます。

いや、もちろん実際に日本のアニメが参考にされているならそれを紹介するのもいいと思うのですけど、単に「これは日本のアニメが参考にされています!」と高らかに自惚れるだけでなく、それがどの部分が同じで、そして一方でどこを変えていて、それはどういう意図や歴史があり、社会などとどう重なるのか…そういうことまで深く分析して初めて意味のある言及だと思うのです。

私もそのことを意識しつつ、感想を書いていきたいなと自分にあらためて言い聞かせておきます…。

ということで今回の紹介するアメリカのアニメーション映画の話題に移ります。

それが本作『バッドガイズ』です。

『バッドガイズ』はズバリ言ってしまうと、アメリカのアニメーション業界が「私たちが2022年に『ルパン三世』を作ったらこうなりますよ」と宣言して作り上げたような映画です。「おお、こんな風になるんですね!」とこっちも興奮するくらい、本作にはそこかしこに『ルパン三世』っぽさが散りばめられています。

主人公は“盗む”ことに関しては誰にも負けないと豪語する怪盗集団であり、それぞれがスキルと個性を持ち、わいわいがやがやと盗みを達成し、世間の話題のマトとなっています。

『バッドガイズ』が『ルパン三世』と明確にビジュアルで異なるのはキャラクターが「動物」だということ。『バッドガイズ』の主人公である怪盗たちは、それぞれオオカミ、ヘビ、サメ、ピラニア、タランチュラと大小さまざまな(ちょっと世間で嫌われがちな)動物たちです。このあたりはいかにもカートゥーンですね。

ただ、『ズートピア』『SING』なんかとは違い、全てが動物オンリーの世界観というわけではなく、普通にそこに人間も混じっています。『ボージャック・ホースマン』みたいに。でも『バッドガイズ』には擬人化された動物キャラもいれば、完全な動物そのまんまな生き物もいて、なんだか統一感とか全く気にしていない自由奔放な世界観リアリティになっており、そのバカバカしさがまたこの本作の持ち味になっています。

実際に観てみればわかるのですが、とにかく良いバランスにおさまっており、『スパイダーマン スパイダーバース』を意識したようないかにもコミック風のアニメーションの動きの気持ちよさも相まって、独特の個性が確立しています。

私も『バッドガイズ』にそんなに注目していなかったし、たぶんそういう人は少なくないと思いますが、いざ鑑賞してみると「あれ、これ、想像以上に面白いぞ…」と良い出会いができたことに喜びを感じるはず。

『バッドガイズ』は「ドリームワークス・アニメーション」の制作で、このスタジオは最近も『ヒックとドラゴン』『トロールズ』『ボス・ベイビー』と続編ものばかり手がけてきており、近年の完全新作は2019年の『スノーベイビー』だけでしたが、久々に新しい勢いのある作品を掘り当てたんじゃないでしょうか。これは間違いなく今後のドリームワークス・アニメーションの代表作になる予感…。批評家&観客の評価ともに高いしね…。

一応、原作があって、2015年から出版されている“アーロン・ブレイビー”の児童文学が基になっています。比較的最近の作品ということもあるせいか、そんなに古臭さは感じませんね。

『バッドガイズ』の監督は“ピエール・ペリフィル”というフランス人で、本作で長編映画監督デビュー。これまでドリームワークス・アニメーションのいくつもの作品でアニメーターとして実績を積んでのいよいよの監督抜擢。今回、見事にその初戦を大成功させたので、キャリアが一気にロケットスタートを決めたのではないでしょうか。

オリジナルの英語の声を担当しているのは、“サム・ロックウェル”、“マーク・マロン”、“オークワフィナ”、“クレイグ・ロビンソン”、“アンソニー・ラモス”など。他にも“リチャード・アイオアディ”、“ザジー・ビーツ”、“アレックス・ボースタイン”も参加しています。

なお、『バッドガイズ』と同名もしくはよく似たタイトルの映画がいくつかあるので邦題だけ見ると混同しかねないのですけど、『バッドガイズ』はアニメーション映画なのでそんなに心配はいらないかな。やけにカッコつけた動物たちが映っていたらそれは本作です。

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『バッドガイズ』を観る前のQ&A

✔『バッドガイズ』の見どころ
★『ルパン三世』風のキャラクター&アニメーション。
★児童文学原作ながら大人も楽しめる爽快な物語。
✔『バッドガイズ』の欠点
☆突出したオリジナリティは無い。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:意外な良作
友人 4.0:気軽に楽しめる
恋人 4.0:ロマンス要素はほぼ無し
キッズ 4.0:子どもも当然満足
↓ここからネタバレが含まれます↓

『バッドガイズ』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):もう怖くないだろ?

いつもつるんでいるウルフスネークはダイナーで他愛もない雑談をしていました。今日はスネークの誕生日ですが、スネークは誕生日ケーキは嫌いだと吐き捨てます。そうこうしているうちにスネークは口から時計を吐き出し、時間だと知らせます。

2人はレジで会計しようとするも客も従業員も怯えていました。そのまま店の外に出ると街の通行人すらもみんな逃げ出します。

そして2人はしれっと銀行へ。「ただの強盗だ」と軽く告げて…。

こうして2人は狙いの金庫をかっさらい、あらかじめ用意していた車で逃走。スネークは金庫破りの天才です。車内で金庫を開けようとしますが、何台ものパトカーが追ってくるのが背後に見えます。

そのとき、仲間のタランチュラが信号の色を操作。彼女は天才的なハッカーです。さらに変装の達人であるシャークが建設作業員に化けており、逃走を支援。お次はキレると手が付けられないピラニアがパトカーを撃退。見事にチームは全員合流しました。

ウルフの見事なドライビングテクニックで警察署の前に停車。いつも目の敵にして追ってくるミスティー・ラギンズ署長を挑発して退散します。

今日もウルフたち怪盗団は盗みを成功させたのでした。

秘密のアジトには、これまで盗んできたものがいっぱい山積みに。さっそく誕生日ケーキでスネークを祝い、記念撮影。冷蔵庫には写真がたくさん貼ってあります。

ウルフがテレビをつけるとニュースで自分たちが取り上げられていました。「バッドガイズ」と呼ばれ、良い気分に浸るウルフでしたが、次に画面に登場したダイアン・フォクシントン知事が記者会見で「バッドガイズたちは確かに悪人ですが愚かです」とボロクソに批判。これにはウルフも屈辱を感じます。

そこで思いつくウルフ。テレビではルパート・マーマレード4世教授が善人に送られるゴールデンドルフィン賞を受賞したとの報道。この賞のトロフィーを奪ってやれば、史上最高の犯罪者として名を残せるはず。

すぐに行動に着手。美術館で行われる式典に潜入です。セキュリティをどう突破するか。まずは変装で堂々と入ります。署長だけが持っているカードキーは盗めばいいです。網膜スキャンは、ウルフがダイアン知事に接近し、写真を撮って、それを利用します。

ついでに会場内でウルフは参加者の金品をコソコソと盗みます。あるひとりの高齢女性に目を付け、その鞄を盗もうとしたところ、階段から転び落ちそうなその高齢女性をつい助けてしまいます。すると「ありがとう」と言われました。なんだろう、この気持ち…尻尾がフリフリと止まらない…。

とにかく盗みを再開です。会場でトロフィーがお披露目される前に盗み出さないといけません。ウルフはそのトロフィーの保管場所に忍び込み、なんとか仲間のアシストもあって、盗むのに成功。

後は会場を華麗に去るだけ。しかし、盗まれたことに気づき、騒然となっている会場でマーマレードは「賞のためではありません。良いことをすると心が救われるのです」と発言。そこでやはりウルフの尻尾がまたフリフリと動き出してしまい、そのまま会場を警備する警察たちに見つかってしまい、包囲されます。

あえなく逮捕となったバッドガイズ。ここで終わりになるわけにはいかない。連行されるウルフは知事に許しを請います。そこにマーマレードはやってきて「更生の機会を与えよう」と言います。チャリティーイベントで証明するというのはどうかということになり、「バッドガイズをグッドガイズに変えてみせます」と宣言するマーマレード。

まんまと上手くいったとウルフはニヤけますが、事態は思わぬ方向に…。

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“ケモノ”キャラのフェチをくすぐる

『バッドガイズ』はジャンルとしてはベタであり、テンプレなロサンゼルス舞台のケイパーものです。それでいて伝統のカートゥーン・アニメーションとしても成立させています。

問題はそのミックスをするにあたってどこに着地点を見い出すのかという事ですが、本作はそこに『ルパン三世』を持ってきています。とくにアニメ版の方ですね。つまり、あのハードボイルドでありながら、アニメらしいコミカルさで親しみを与える…悪者なのにワルには見えない…そんなバランスです。

ウルフのやけにオーバーな手足の動かし方とか、その一挙手一投足はルパン三世そのものですし、なんだかんだで腐れ縁な仲間たちが寄り集まって、やれやれと盗みを達成していく姿もそっくり。カーチェイスでのドタバタも、それを追ってくる警察のあからさまなモブっぷりも、共通点として明白。実は有名な怪盗クリムゾン・ポーだったダイアン・フォクシントンの鮮やかな騙しは、それこそ峰不二子みたいです。

逆にこうなってくると『ルパン三世』との違いも浮き彫りになります。

例えば、『バッドガイズ』にはセクシャルな要素はありません。少なくともキャラクターデザインや展開において、いわゆるハードボイルドにありがちな男性の目線は無いわけです。

一方で全くセクシャルではないかというとそうでもないとも思います。そもそも本作のキャラクターはケモノ・キャラのフェチをくすぐるファーリー・ファンダム大満足なデザインになっていますし、動物モノの中ではかなり凝っている部類でしょう。

ちゃんと動物的な動きを大事にしているのがわかるのがいいですね。物語の鍵になるウルフの尻尾フリフリもそうですし、タランチュラは足を全部使ってキーボード操作したり、スネークは脱皮したりと、その動物のスキルを自然に活かしているのもナイスです。シャークが「産まれる!」と会場の注目を集めるシーンは笑ってしまいましたが…。あれは一見すると男なのに女装をしているから出産できるわけないというギャグに見えつつ、別の見方をすると、サメなので卵を産むのか、それとも卵胎生なのか、ハッキリしないので「どっちだよ!」というツッコミ待ちのギャグにもなっています。スネークのモルモット食べちゃうギャグも不謹慎な勢いありきでカートゥーンならではだったなぁ…。

もちろんテクニック自体は整合性は無し。あのシャークの変装とかもあり得ないですから。それを込みしたユルさがいい。

動物版『オーシャンズ11』としての楽しさ満載でした。

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もうそれはロマンスではないか

『バッドガイズ』の重要なセクシャルな要素と言えば、カップリング。

物語上は、ウルフとダイアンが良い関係に進展するかに思えますし、実際にダンスとか一緒に踊って、映像としては目立つのですが、私が語りたいのはそこではなく…。

やっぱりウルフとスネークのカップリングです。本作はこの2人が露骨にセクシーな関係性を構築していましたね。

まず冒頭が『パルプ・フィクション』みたいなとりとめのない雑談で始まるというのが良くて、ウルフとスネークの親密さが濃厚に伝わります。そしてカメラは長回しのスタイルで2人を撮っていき、本作はなかなかにシネフィルな見せ方を披露してくれます。この時点で本作は既存の子ども向けアニメとはまた異なる絶妙な大人っぽさを漂わせます。

そしてウルフとスネークはしだいに仲間割れしていくのですが、それでもスネークはウルフを想い、最終的にはマーマレードに一杯食わす“すり替え”作戦を決行していたことが判明。ここでのキーアイテムがハート型の愛の隕石だというのも、なんだかもうロマンスの象徴になっていますよ。

ウルフも「スネーク無しではダメだ」と引き返すシーンがありますが、あれは「ワルに戻った」というよりは完全に「愛をとった」場面だとも解釈できる…。私はそう脳内で考えることにする(断言)。

悪役のマーマレードはモルモットを操るなんとも荒唐無稽な敵でしたが(『DC がんばれ!スーパーペット』に続いてまたもモルモットが敵なのか!)、このあたりもベタながら楽しいです。

そして「正義のふりをする権力者」よりも「身近な者を愛せる正しき存在になる方が気持ちがいい」という、あっけらかんとした「正しいことっていいよね!」という教訓に繋がり、あの怪盗たちは本当に更生していく…。子ども向けの教育的なメッセージとしてもこれ以上なく綺麗に物語を締めたと思います。ハードボイルド的なナルシシズムに陥らないで、ちゃんと反省して乗り越えていくあたりがこの映画の気持ちよさのポイントかな。

『バッドガイズ』の続編が今から楽しみですね。

『バッドガイズ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 88% Audience 93%
IMDb
6.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
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関連作品紹介

ドリームワークス・アニメーションの映画の感想記事です。

・『トロールズ ミュージック★パワー』

・『スノーベイビー』

・『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』

作品ポスター・画像 (C)2021 DREAMWORKS ANIMATION LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

以上、『バッドガイズ』の感想でした。

The Bad Guys (2022) [Japanese Review] 『バッドガイズ』考察・評価レビュー