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アニメ『T・Pぼん』感想(ネタバレ)…その歴史認識で大丈夫?

2.5
T・Pぼん

その歴史認識で大丈夫?…アニメシリーズ『T・Pぼん』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:Time Patrol Bon
製作国:日本(2024年)
シーズン1:2024年にNetflixで配信
監督:安藤真裕
人種差別描写 恋愛描写
T・Pぼん

たいむぱとろーるぼん
『T・Pぼん』のポスター。

『T・Pぼん』物語 簡単紹介

平凡な人生を送っている日本の中学生の並平凡は、学校では友人たちと過ごし、家では両親と暮らすというごく普通の毎日を繰り返していた。しかし、ある日、「T・P(タイムパトロール)」と呼ばれる未来の組織の隊員の少女であるリーム・ストリームと出会い、転機が訪れる。歴史の中で死から救える人々に手を差し伸べるため、並平凡は見習い隊員となり、数々の任務を遂行することになる。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『T・Pぼん』の感想です。

『T・Pぼん』感想(ネタバレなし)

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未完の作品が2024年にアニメ化

1989年と2020年の間くらいの過去からうっかり2024年にタイムスリップしてきた人へ。これを読んでいるなら伝えたいことがあります。

『T・Pぼん』は2024年にもアニメ化されます。今度はシリーズです…。「Netflix」で配信されます…。あ、2007年より前の時代から来た人は「Netflix」が何なのかわからないですね。動画配信サービスというのがあるんです。あ、インターネットが何かわからない人もいますか…。あのインターネットっていうのは…。あ、「オアシス」も再結成するんですよ…そうそう…。

面倒くさいな…。タイムスリップしてきた人に配慮するの…。

ということで本作『T・Pぼん』の話です。

最近は昔の作品がリバイバルのように再アニメ化する事例が日本でも多数連発していますが(たいていはIPの更新のためというのが実情でしょうけども)、この2024年にアニメシリーズとして「Netflix」で独占配信された『T・Pぼん』はちょっと異なる背景があります。

原作は、1978年から”藤子不二雄”名義(実際は”藤本弘”、のちの”藤子・F・不二雄”による単独執筆作)で発表された漫画です。

「タイムパトロール(T・P)」という時空を超えていろいろな時間軸の歴史で“ある使命”をもとに仕事をする組織の隊員を描いたSFタイムトラベル・アドベンチャーとなっています。

そう聞いて、「あれ? ”タイムパトロール”って”ドラえもん”にでてこなかった?」と思ったかもしれませんが、そのとおり。『大長編ドラえもん』にたびたび登場する「タイムパトロール」のある意味では元ネタです(でも同一世界線ではない)。1969年から始まっている『ドラえもん』とは雰囲気がかなり似ていて、未来のひみつ道具みたいなものもたくさんでてきます。

ただ、この原作漫画のほうは1986年までとりあえず掲載されたものの、途中で止まってしまい、”藤子・F・不二雄”が1996年に亡くなったことで未完となってしまいます

そんな作品ながら1989年に2時間のスペシャル枠でアニメ化しました。とは言え、やはりエピソードを絞ったもので、未完の作品がさらに部分的に抽出された映像化という感じでした。

そうした過去を持つ『T・Pぼん』が2024年に再アニメ化。しかも今度はちゃんとアニメシリーズで、原作寄りの構成と展開になっています。リバイバル・ブームのおかげで救済された作品となりましたね。ちょうど”藤子・F・不二雄”の生誕90周年とのことです。

1部と2部に分かれるようなかたちで、それぞれ12話ずつ、計24話となっています。

原作を知っている人なら気になるところですけど、原作ではヒロインが2人いて、途中で交代してしまうのですが、2024年のアニメ版では2人のヒロインを1部と2部でそれぞれ描き、上手く繋いでいます。

また、原作では1979年が舞台でしたけども、今作のアニメ版では2024年の視聴者にとっての現代となる時代が基点の舞台となっています。それでも作品全体の設定としては矛盾は大きくは生じていませんし、原作どおりの空気感です。良かったですよ、2024年にタイムマシンが実現してなくて…。

しかし、やっぱりこの2024年に『T・Pぼん』をどう物語化するかという観点は無視できないです。たぶん”藤子・F・不二雄”は1970年代後半から1980年代の子どもたちにどうやって漫画で科学や歴史の面白さを届けるかということを試行錯誤して考えていたのでしょうし…。本作の2024年版『T・Pぼん』がこの2020年代の子どもたちにだからこそ届けたいことは何なのか、それは上手く描かれているのか…そのあたりが評価の分かれ目になるのではないかな、と。

正直、大人(とくに一定の年齢以上の世代)が鑑賞してもノスタルジーを喚起するだけになるところはありますしね…。これ、本作『T・Pぼん』だけの問題じゃないのですけども、こういうリバイバル系のアニメは「IP更新したい」という企業側の都合と「ノスタルジーに浸りたい」という視聴者側の都合の、一種の共謀みたいな感じはあるので。最近は原作も以前のアニメも知らない若い視聴者層もそのネームバリューから鑑賞に手をだしてくれるところもあり、かなり狙い目のアニメ企画になっているのが業界事情として透けて見えます。

こういう業界の傾向は日本もハリウッドもそんなに変わらないなぁ…。

ひとまずこの『T・Pぼん』を2024年に評価できる機会を味わうことにします。

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『T・Pぼん』を観る前のQ&A

✔『T・Pぼん』の見どころ
★原作が上手くアニメシリーズとして再構成されている。
✔『T・Pぼん』の欠点
☆タイムトラベルものとして今となっては平凡。
日本語声優
若山晃久(並平凡)/ 種﨑敦美(リーム・ストリーム)/ 黒沢ともよ(安川ユミ子)/ 宮野真守(ブヨヨン) ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:気軽に眺めて
友人 3.5:ファンなら話が弾む
恋人 3.5:見やすいエンタメ
キッズ 3.5:やや流血暴力描写あり
セクシュアライゼーション:一部あり
↓ここからネタバレが含まれます↓

『T・Pぼん』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤)

男子中学生の並平凡は巨大な杉の木の切り株の上で寝転がっていました。樹齢は800年近いとみられる大きな木です。きっと歴史をずっと見てきたのでしょうが、2020年代を生きる少年には想像もできません。

起床し、慌てて登校。並平凡はテストも平均点、何をしても平凡、部活もしていない、特別な趣味もない、そんな人間でした。高校受験のために親から勉強しろと言われていますが、それも惰性です。

柳沢白石鉄男白木陽子らのいつもの同級生と帰ろうとすると、安川ユミ子が友人の白木陽子に元気に話しかけてきます。ユミ子は部活で充実している様子。自分とは大違いです。

帰宅し、5時まで勉強しようとしますが、なかなか時間は進みません。そのとき時計の針がもうスピードで回転、空が夜になったような気がします。びっくりしますが何も起きていないように感じます。

考えてもわからないので気分転換に外へ。すると公園の休憩スペースの屋根に女性がひっかかっているのを発見。同年代くらいのその若い女性は起き上がると「弱ったなぁ」といなくなってしまいます。

さらに道を歩いていると、黄色いフワフワしたものが話しかけてきて、すぐに消えてしまいます。自分は精神的に滅入っているのかと不安になります。

鉄男のマンションの部屋に訪問した並平凡。しかし、鉄男が誤ってベランダから落下し、地面に叩きつけられ血塗れで横たわる姿に並平凡はショックで顔面蒼白。

ところが、ふと気が付くと時間が巻き戻っていました。鉄男は隣で美味しそうにスイカを食べていて、ベランダの真下には死体はないです。

またあの切り株で困惑していると、草むらに変な乗り物を見つけ、乗ってみます。急に動き出し、飛び上がると、地面に逆戻り。ふと周りを見渡すと切り株もないし、風景を一望できるはずの街がなく、乗り物も消えていました。

しかも、刀を持って人を斬り殺す男に襲われます。もうダメだと思った瞬間、「タイムロック!」の声とともに時間停止。現れたのはあの公園で見かけた女性です。あの黄色い宙を飛ぶ変な奴もいます。

助けてくれたようで、ここは鎌倉時代だと説明されます。杉の木はまだ芽がでて少し育った程度。確かに過去に来てしまったようです。

タイム・パトロールのリーム・ストリームだと彼女は自己紹介し、黄色いのはブヨヨンという名だそうです。

何でもタイム・パトロールはいろいろな時間軸で不幸な死に方をした人を助ける仕事をしており、ただし歴史に影響のない人だけしか助けられないという条件があるのだとか。フォゲッターで記憶を消すので、普通はタイム・パトロールを目撃しても覚えていないはずですが、並平凡は特殊ケースで、記憶が消えていません。

並平凡の処分を本部が検討した結果、「時間軸にいなかったことにする」…つまり生まれないことになるという決定がなされます。

リームは実行しようとしますが並平凡は抵抗。ところが、並平凡の将来を詳しく調べると重大な歴史に関わっていることが判明。しかたなくタイム・パトロールの隊員に加えると告げられます。

こうして並平凡は平凡ではいられなくなりました…。

この『T・Pぼん』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/09/05に更新されています。
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平凡なあなたでも歴史を学べる

ここから『T・Pぼん』のネタバレありの感想本文です。

2024年版『T・Pぼん』は、主人公の並平凡が、歴史は平凡な人たちの積み重ねであることを学び、「平凡ってかっこいい」という肯定感を得る物語でした。後輩から先輩へと成長し、短いストーリーボリュームながらも基本的なパーソナルなドラマが揃っています。

2024年に配信するにあたって現在が舞台になっていても、並平凡が何ひとつ時代性を感じさせない主人公であるだけで、それ以外はわりと”藤子・F・不二雄”作の70年代・80年代テイストを継承。安川ユミ子のマドンナ的存在感も今や古風です。

たぶんこのタッチだと、並平凡が1970年~1980年代にタイムトラベルしても時代の違いを上手く描き切れない気がする…(スマホくらいしか目立った差がない)。原作制作時の時代に飛ぶみたいなオリジナル展開がありそうと思いながら観ていたんだけど、なかったなぁ…。

それはさておき、本作の原作からの醍醐味である「歴史を楽しく触れる」という入門的なSFの面白さはきっちり確保していました。紀元前4千年紀のシュメールでコンプレックス・トークンという文字の前身を目にしたり、紀元前のエジプトのピラミッド建設の現場だったり、紀元前800年の外洋航海であったり、近代オリンピックの原点となった紀元前490年のマラトンの戦いを身をもって体験したり…。歴史トリビアは豊富です。

もちろん教科書どおりで真面目すぎるところはあります。「Netflix」には教養的な歴史ドキュメンタリーがいくつもあるので、それを見るほうが情報量は充実しています。今は歴史冒険系のタイムトラベルものも無数にあり、『ドクター・フー』などと比べると、尖り具合はないです。

でもこういう初心者向けの1年生編みたいな作品もあってもいいと思います。

それに中身は表面上は簡単そうに見えますが、この内容をアニメーションで作るのは大変です。なにせ毎話、いろいろな時代を描くのです。そのたびその時代の背景やキャラクターの衣装を作らないといけませんし…。本作は各時代で専門家の考証を入れているようですが、原作が古いので歴史の知見の更新チェックも含めて本当に細かいところまで仕事量が多そうでした。

その世界観の質を維持しつつ、リーム・ストリームと安川ユミ子のヒロイン2人をバランスよく配置し、原作を適度に脚色して1本のアニメシリーズとしてオーソドックスにまとめてあったと思います。

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イマイチ納得できない組織の倫理観

ただ、これは2024年版『T・Pぼん』に限らず、原作そのものの根本的問題なのですが、あの「タイムパトロール」という組織の職業倫理です。

タイムパトロールは、過去の歴史で不幸な死を遂げた者をタイムトラベルして助けます。しかし、「航時法」で定められた規則に則る必要があり、1章1条には「歴史の流れに影響ある者を救助してはならない」…つまり歴史上で死ぬべき定めなら見殺しにしないといけない…という絶対原則があります。その理由は「歴史が改変されてしまうから」と説明されます。

このタイムパトロールが守っている「歴史」の概念がイマイチ釈然としないんですよね。そもそもどんな生物でも未来に繋がる歴史を形作っているひとつのピースなのではないのか、と。だからどんな介入であろうと、生死を変えたら歴史は変わるのではないか…。実際、並平凡もバタフライ効果のような些細な作用を与えていましたし…。

要するに、本作は「歴史に繋がる生命」と「歴史に繋がらない生命」を切り分けてしまっており、かなり直球で選民思想(優生思想)になってしまっているとも言えます。作中のタイムパトロールは規律的には掲げているのは反歴史修正主義にみえて実のところの中身はごりごりに歴史修正していて、自己矛盾してるような…。セミクジラの回なんかはことさらその矛盾が隠せてません。ゲイラは「タイムパトロールは神じゃない」と言いますけど、やってることは”神”気取りに他ならないです。

並平凡や安川ユミ子のような新人は最初はそのタイムパトロールの倫理観に抵抗感を示すのですけども、なんだかんだ組織に順応してしまうのですよね。

1947年の台風増水で避難遅れるおばあさん、紀元前のアテナイのミノタウロスへの生贄、マヤ文明の生贄、1185年の関門海峡の壇ノ浦の戦いでの身投げの子、紀元79年パレスチナの鉱山奴隷…いろいろな可哀想な人を助けることでの満足感は確かにあって、そっちで上書きされて当初の違和感はしだいにうやむやになって…。

1945年の沖縄で特攻隊を助け、負けることの意義を説き、米軍に降伏させるエピソードは本作でベスト級に良質です。そうなんだけどもね…。

こういう時空の管理者的な存在は最近の作品だと『ロキ』といい、『タイム・バンディット』といい、最終的には反逆すべき権威主義として描かれることが多いです。

『T・Pぼん』は原作が未完というのはありますが、今回の2024年版もその組織の使命への疑問は不問にさせてしまっていて、お行儀が良すぎるところは否めません。

あと2024年版ならではの不満を挙げるなら、現代的な要素との絡め方が下手すぎるという点。とくにワースト・エピソードだと思うのは、第5話の魔女狩りの回です。冒頭で白石鉄男がスマホでSNSを始めたと報告しているシーンで嫌な予感はしましたが、案の定、白石鉄男が何かしらの理由でSNSで炎上し、それを「現代の魔女狩り」と重ねる、いかにも無知なネット上で流布しやすい安直なレトリックのオチに…。

う~ん、第5話では恋愛が実らない男の恨みによってセリーヌが拷問されるというミソジニーが魔女狩りの構造的背景にあることをちゃんと描いているのに、なんで男子中高生のネット炎上と同一だと作り手は思ってしまったのか…。全然歴史を学んでいないじゃないか…。

また、第17話の後期石器時代でネイティブアメリカンの祖先を描き、それを現代の白人の子のルーツとして描き、「人類みな兄弟」というオチもさすがにどうなんだ、と。生物学・人類学と人種問題の交差性を気楽に無視しすぎでしょう。

なんか製作陣の歴史認識で疎い部分がもろに作品にあちこち滲み出てしまっていて、やっぱり歴史を描く作品はリトマス紙になるなと実感しました。

現代人はもっと歴史を勉強しないといけませんね。

『T・Pぼん』
シネマンドレイクの個人的評価
5.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
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関連作品紹介

歴史ドキュメンタリーの感想記事です。

・『アレクサンドロス大王 神が生まれし時』

・『アフリカン・クイーンズ クレオパトラ』

・『エルドラド:ナチスが憎んだ自由』

作品ポスター・画像 (C)Netflix TPぼん

以上、『T・Pぼん』の感想でした。

Time Patrol Bon (2024) [Japanese Review] 『T・Pぼん』考察・評価レビュー
#タイムトラベル