製作国:アメリカ(2019年)
日本:2019年にAmazon Primeで配信、2019年12月20日に劇場公開
監督:ニール・バーガー
THE UPSIDE 最強のふたり
じあっぷさいど さいきょうのふたり
『THE UPSIDE 最強のふたり』あらすじ
前科があるデル・スコットはそこまで働く気もないまま、偶然、資産家のフィリップ・ラカッセの面接にやってくる。フィリップは四肢の麻痺を抱えており、頭だけを動かせて、電動車椅子のアシストが必須。常に手足となってくれる介護者を必要としていた。フィリップは何を思ったのかデルを介護者として採用。境遇は全く異なる二人の共同生活が始まる。
『THE UPSIDE 最強のふたり』感想(ネタバレなし)
最強のふたり、アメリカでも
2018年の米アカデミー賞で作品賞を受賞した『グリーンブック』。日本では2019年3月に公開されましたが、その内容の素晴らしさから日本でも評判となり、着々と観客を集めて、ついに日本国内で興行収入が18億円を達成したとのお知らせが舞い込んできました。なんでもアメリカ以外の海外興行成績では中国に次ぎ日本が第2位だったようです。これは映画ファンとして素直に嬉しいかぎり。こういう大手ではない映画もたくさんの人に観てもらえるのは本当に大事なことです。
一方、この『グリーンブック』の日本でのヒットはそこまで驚きのことではありません。なぜなら日本ではすでに前例があるんですね。
異なる人種同士のほのぼのした空気も漂うバディもののヒューマンドラマである『グリーンブック』と同じタイプで過去に日本でも口コミでヒットを記録した作品がありました。
それが2011年のフランス映画『最強のふたり』です。
この作品は、パリに暮らす大富豪だけども頸髄損傷で首から下が全く動かせない初老の白人が、介護にやってきた黒人の若者と、価値観の違いをぶつけ合いながら友情を深めていくという心温まる物語。完全に路線は同じです。ただ、こちらの『最強のふたり』はフランス製作の作品であり、フランスのセザール賞や東京国際映画祭で賞をとったりはしましたが、アカデミー賞のような栄光には輝いていません。有名な俳優も出ておらず、宣伝材料は決して揃っていない状況。にもかかわらず、当時は16.5億円もの好成績を叩き出しました。このアタリが日本の配給側にも大きくインパクトを与えたのでしょうね、いまだに日本で映画の宣伝に『最強のふたり』のタイトルを使うことがあります。
やっぱり日本人的にもこういう「異なる人種同士のほのぼのした空気も漂うバディもののヒューマンドラマ」(ましてやそこに病気や障がいの要素が加わると)はウケやすい法則があるのでしょうか。まあ、感動のロジックとしてはこれ以上ないくらいわかりやすいですからね。
そんな日本の映画ビジネスにおけるヒット作のお手本のような『最強のふたり』がアメリカでリメイクされました。それが本作『人生の動かし方』です。
このアメリカ・リメイク版。公開にいたるまで苦難がありました。リメイクの企画自体はオリジナルの『最強のふたり』公開時の2011年からリメイク権も獲得して進められていたようですが、度重なる監督と脚本の変更を繰り返し、2017年9月にトロント国際映画祭でプレミア上映されて、やっとひと安心…と思いきや。この映画、配給がワインスタイン・カンパニーだったのです。そう、あのハーヴェイ・ワインスタインの性的暴行告発が10月に起き、会社自体が経営危機に見舞われるという、会社の首から下が動けないような騒ぎに(“首から上”が消えたので)。結果、配給会社を変えてのなんとか公開に至った…というてんやわんやっぷりです。
たださすがに海外配給の余裕はなかったのか、残念なことに、日本では劇場公開されずに「Amazon Prime」の独占配信というかたちでの公開になりました(クレジットには「In Association with AMAZON STUDIOS」とある)。今のところ「Amazon Prime」で映画がこうして扱われるのは珍しいですね(今後も増えるのかな?)。日本で劇場公開されていればじゅうぶんお客さんの関心を集めやすい魅力があったのに、惜しいものです。
邦題は「人生の動かし方」というなんか自己啓発セミナーみたいな感じになっていますけど、オリジナルの邦題「最強のふたり」も変といえば変なネーミングでしたからね。どっちもどっちか。ちなみに元の原題は「The Intouchables」で、“触れてはならない”という意味で、非常に深い解釈のできる良いセンスなのです。
監督は『幻影師アイゼンハイム』や『ダイバージェント』の“ニール・バーガー”。この人でいくのか…っていうチョイスですよね(多少言葉を濁す)。
身体的ハンディキャップを抱えた白人を演じるのは、“ブライアン・クランストン”。最近だと『GODZILLA ゴジラ』や『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』などが印象深いですが、ストップモーションアニメ映画『犬ヶ島』でも声をあてていました。
介護ヘルパーをする黒人を演じるのは、“ケヴィン・ハート”。最近はアカデミー賞の司会を降りたり、トラブっている感じもしますが、アメリカのトップコメディアンとして大活躍中ですので、たいしたダメージでもないでしょう。映画でも人気。今作も、まあ、アメリカでリメイクするなら“ケヴィン・ハート”だよね…という安定感。
『最強のふたり』好きなら気になる一作。『最強のふたり』を見ていなくて本作から入ってみるのも全く問題ありません。
オススメ度のチェック
ひとり | ◯(オリジナル好きの人も) |
友人 | ◯(適度なエンタメで時間つぶしに) |
恋人 | ◯(気楽に見られます) |
キッズ | ◯(子ども向けのギャグは少ないけど) |
『THE UPSIDE 最強のふたり』感想(ネタバレあり)
基本は変わってはいない
本作は話の大筋は元になったオリジナルの『最強のふたり』とほぼ同じです。そこまで大胆な改変はしておらず、堅実なリメイクといった感じ。
冒頭。夜の街を車で猛スピードで疾走する二人。警察に追われ、車を止められると、運転していた黒人が取り押さえられる。すると、もうひとりの乗っていた人が障がい者だと判明。しかも、発作らしきものが起こり、なんか苦しそう。焦る警察。警察に先導してもらいます。しかし、これは嘘の演技。見事に騙してやってしたり顔の二人。
そして時勢が飛んで、過去の話に。この二人がいかにして出会ったかが語られていく…。
以降もだいたいは共通しています。
まあ、もちろんオリジナル版ですでにかっちりしたシナリオの骨組みが出来上がっているので、壊すのはもったいないから、そのまま使ったということなのでしょうけど(そもそもそれがリメイク企画のビジネス上の強み)。
また、根本的なことを言えば、実話をベースにしているオリジナル版は実話から結構な改変をしてしまっているんですよね(実際は10年くらいの出来事を1年にまとめたり、登場人物の関係性や生死の時期も変更しています)。なので米リメイク版でさらに改変でもしようものなら、実話からは原型をとどめない完全なる別物になってしまい、それもどうなんだという危惧もあった…のかもしれません。
どちらにせよオリジナル版を知っている人には既視感たっぷりのストーリー展開なので、先が読めてしまい退屈だという気持ちもわかります。そこのあたりはリメイク映画の宿命な部分なので、少し大目に見てほしいところですけどね。
さりげなくないAmazonの宣伝
では、逆に違うところは? 全体は同じでも、細部はちょこちょこと変わっています。
例えば、意外に本作で重要な音楽要素。
冒頭の夜のドライブのシーン。オリジナル版ではここでEarth, Wind & Fireの「Septemper」がノリノリでかかりだすという軽快なオープニングが始まるのですが、この米リメイク版は曲は使われず、この時点で陽気な感じにはならず、そのまま過去パートへ。最初にテンションをあげてくれません。
というか、オリジナル版ではあくまで気分をアゲアゲにするために使われていた音楽でしたが、米リメイク版では明らかにデル・スコットの人種的背景を象徴するキーワードとしてピックアップされていました。ソウル歌手のアレサ・フランクリンが二人を繋ぐ大事なキーパーソンとなり、音楽要素は盛り上げよりも、物語面の誘導役を担った感じでしょうか。ここは好みが大きく別れる部分。個人的には「夜の女王のアリア」に感動する“ケヴィン・ハート”という絵がチグハグで面白かったですけど。
あと全体的な肌触りに関することで言えば、米リメイク版は説明要素が増えて、それぞれの登場人物の現状や今の苦労している問題などを解説するようなシーンが増えました。オリジナル版だと夜のドライブ・シーンからいきなり面接シーンに変わるのですが、米リメイク版はそうはならずフィリップとデルの置かれている状況をひとつひとつ見せていくつくり。そのため、初心者向きといえばそうなのかもしれません。これもアメリカの一般客層を考えてのことなのかな。そのぶん上映時間も少し増えました。
また、これは非常にアメリカらしいことですが、登場する人種が多様です。フィリップのパーソナル・アシスタントのイボンヌを演じるのは、オーストラリア系の“ニコール・キッドマン”。フィリップのパーソナル・トレーナーであるマギーを演じるのは、『パターソン』でも印象的な演技を見せたイラン系の“ゴルシフテ・ファラハニ”。
ちなみにAmazonのスマートスピーカーの「アレクサ」を搭載した「Amazon Echo」が随所で顔を出していましたね。確かにフィリップのような人には強い味方になるけど…だからAmazonは関わったのか…(真偽不明)。
「白人と黒人」よりも大事な要素
ただ、この米リメイク版『人生の動かし方』における、私の考える最大の改変ポイントは「白人と黒人」という設定だと思います。え、オリジナル版も「白人と黒人」では?と思うかもしれませんが、そうなのですけど、オリジナル版はただの“黒人”ではなく、あちらは“移民”なんですね(元の実話はアルジェリア系の移民青年です)。つまり、この物語の肝は少なくともオリジナル版では「“典型的な富裕層の白人フランス人”と“典型的な貧困層の移民黒人”」という二人の関連性で成り立っています。
ところが、米リメイク版はいかにもハリウッドでありがちな「白人と黒人」の友情モノに収まっているので、ハードルとしては逆に下がったくらいです。
こうなってくると新規性もないばかりか、デルの立場が白人に従属する黒人(&オモシロ黒人)に表面上は(実際は物語上の配慮があるとしても)なってしまうので、ステレオタイプすぎないかという疑問点も出てきます。それを意識過ぎるせいか、今作の“ケヴィン・ハート”も若干の“綺麗な”ケヴィン・ハートでしたね。
欲を言えば、本当ならヘルパー役には“移民”を持ってくるべきだったのかなとも思います。ましてやそれこそ今のアメリカの一番にホットなトピックなわけですから。まあ、映画製作時はそこまで注目度もなかったにせよ、このトピカルなテーマを見逃すにはもったいないです。
あとこれは完全に個人の好みですが、映画の終わりに拍手を入れるのはないだろうと。観客に“感動したでしょ、拍手してね”と催促しているみたいで説教臭いったらないです。
メイン二人の役者の相性は全く悪くなかったぶん、作品の根幹にもっとアイディアと挑戦心が欲しかったところです。
日本も外国人労働者がわんさか国内に流入してくることですし、日本版『最強のふたり』もできるんじゃないですか。誰か、やってください(願望)。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 40% Audience 84%
IMDb
6.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★
作品ポスター・画像 (C)2019 STX Financing, LLC. All Rights Reserved.
以上、『THE UPSIDE 最強のふたり(人生の動かし方)』の感想でした。
The Upside (2019) [Japanese Review] 『THE UPSIDE 最強のふたり(人生の動かし方)』考察・評価レビュー