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『ストーンウォール』感想(ネタバレ)…ローランド・エメリッヒ史上最大の問題作

ストーンウォール

ローランド・エメリッヒ史上最大の問題作…映画『ストーンウォール』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Stonewall
製作国:アメリカ(2015年)
日本公開日:2016年12月24日
監督:ローランド・エメリッヒ
LGBTQ差別描写
ストーンウォール

すとーんうぉーる
ストーンウォール

『ストーンウォール』物語 簡単紹介

同性愛者やトランスジェンダーなどLGBTQの人々が社会から忌み嫌われていた1969年のアメリカ。ゲイであるがゆえに居場所を失くして故郷のインディアナ州を追われ、ニューヨークのクリストファー・ストリートへとやってきたダニー。ダニーは、この街の片隅で社会の抑圧に負けじとエネルギッシュに精一杯暮らすセクシュアル・マイノリティの人々と出会い、感化されながら新しい世界に触れていく。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ストーンウォール』の感想です。

『ストーンウォール』感想(ネタバレなし)

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2015年にまた起きたストーンウォールの反乱

日本では未だに「ホモ」=「すぐ男を“襲う”淫らで野蛮な人」だったり、「オカマ」=「ピエロにように嘲笑されるための人」だったりと、LGBTQに対する差別的なイメージがしぶとく残り続けています(念のために書いておきますけど、ホモもオカマも差別表現ですよ)。しかし、欧米ではすっかりLGBTQを差別する人のほうが「野蛮」で「嘲笑」される人となりつつあるほど、立ち位置が逆転しています(まだ差別はしぶとく残っているけど)。こうなってくると、LGBTQがどのように差別されていたのかをリアルタイムで知らない人が逆に現れたりするのでしょうか。

でも、さすがにそんな新時代はまだまだ先なのか…2015年にLGBTQを題材にしたとある映画が大きな議論を巻き起こしていました。その映画が本作『ストーンウォール』

本作は「ストーンウォールの反乱」と呼ばれる、1969年6月28日にニューヨークのゲイバー「ストーンウォール・イン」が警察による踏み込み捜査を受けて同性愛者らが暴動を起こし、抵抗運動に発展した事件を描いたもの。この事件はLGBTQの社会進出につながる出発点となり、今のLGBTQにとって大きな価値のある出来事として語り継がれています。この時代はLGBTQの差別が最も過酷な時期でもあり、精神病として扱われ、店で酒も飲めず、集会を開けない酷い有様でした。本作はそれを描くということで、黒人差別問題における『それでも夜は明ける』や『グローリー 明日への行進』のような、LGBTQのカウンター映画として重要な作品になるだけの価値がありました

また、この作品、なんといっても監督があの『インデペンデンス・デイ リサージェンス』など大作ディザスターパニックでおなじみの“ローランド・エメリッヒ”というのも特筆されるところ。大味バカ映画の監督だとなにかと笑われる“ローランド・エメリッヒ”監督ですが、自身がゲイだとカミングアウトしている彼が今回自費を投じて製作までしたというのですから、さすがに安易にバカにはできないなと襟を正したくなるものです。もしかしたら彼の評価が一変するかもですし。

ところが。“ローランド・エメリッヒ”、やっちゃいました…。

本作は公開前から大ブーイングの嵐。SNSでボイコットを呼びかけるキャンペーンさえ展開されるほど。いつも作っている大作ディザスターパニックなんかよりもはるかに批判されてしまったわけです。

その理由は明快。主人公です。

史実の「ストーンウォールの反乱」で中心にいた人物は、黒人ドラァグクイーンのマーシャ・P・ジョンソンという人と、プエルトリコ系のトランスジェンダーのシルビア・リベラという人だと言われています(実際は詳細な人物は不明なのですが、とりあえず有色人種の人だったのは確か)。当然、「ストーンウォールの反乱」を描く本作でもこの有色人種が主軸となって話が進むのかと考えます。しかし、何を思ったか“ローランド・エメリッヒ”監督は主人公を白人青年の架空人物にしてしまったのです。一応、この白人青年はゲイなんですが、それでも…ねぇ。しかも、マーシャ・P・ジョンソンは劇中で少ししか登場せず、シルビア・リベラに至っては全く登場しない(もしかしたら背景でモブキャラとしていたのかも)という大胆さ。

これは「ホワイト・ウォッシング」という批判に、言い逃れ出来ないのではないですか。同じように「ホワイト・ウォッシング」と非難された『キング・オブ・エジプト』『グレートウォール』は、世界観がファンタジーなので個人的にはまだ(問題が多いとはいえ)気にならなかったですけど。これは…。ストーンウォールの反乱が2015年にまた起きちゃいましたね…。

ただ、当時のLBGTQコミュニティは魅力的に描かれているので、そこを楽しみに本作を観るのはOKだと思います。“ローランド・エメリッヒ”史上最大の問題作、開き直って観るしかないです。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ストーンウォール』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):この地で声を上げる

1969年6月28日。怒り狂う群衆が声を荒げ、物々しい警官隊に動じることもなく衝突する。なぜこんなことになったのか。時は3カ月前に遡ります。

クリストファー・ストリートにやってきたひとりの青年。ダニーは慣れない街並みを見渡し、落ち着かない様子です。ダイナーで食事をしていると、「ゆっくり休む場所が要るでしょ? そこに快適なところがある」と親切に教えてくれる人が現れます。それを「結構です」と断るダニー。

すると「クィーン・トゥーイー、やめなさい。また下手な歌で若い子に構ってるの?」と別の人が店に入ってきます。レイという名のその人物は、まるで世間を知らない感じのダニーと打ち解け、自分の身の上話をしてくれます。出身はカンザス州で、牧師の父親がいて…。

ダニーはインディアナ州出身で、コロンビア大学に行く予定です。でもレイには察しがついています。わざわざニューヨークでもクリストファー・ストリートに来た理由。ダニーは家を追い出されたのでした。その性的指向を理由に…。

レイは気にすることないと仲間を紹介してくれます。遠くの島から来たというクイーン・コンガ、ビートルズ・ファンのポール、痩せているリー、そしてアニー

そうこうしているうちにレイとアニーは言い合いになり、レイは「ジャスティンの話はしないで!」とアニーを突き倒します。

食事に行こうと誘われ、荷物をボブに預け、街へ。クイーン・コンガはショーウィンドウの窓を割ったり、急にみんなで踊りだしたり、自由奔放。やりたい放題です。

ダニーはどうしても人の目が気になってしまいますが、みんなはそんなことをこれっぽっちも気にしていません。『オズの魔法使い』のドロシーは私たちだ…とトークも弾みます。

そこに現れたのは、マーシャ・P・ジョンソン。みんなに愛されているドラァグクイーンのようで、とても親しげでフレンドリーです。

レイは仕事に行くと言って車で出かけてしまいます。他のみんなも散り散りに。ひとり残されたダニー。ここで新しい人生を送れるのだろうか…。おカネはない、住む家もない、家族にも見放されている、そんな自分が…。

でも昔の学校での生活よりはマシなはず。そこではゲイへの差別が当たり前のようにあり、同級生はいつもゲイを嘲笑い、異常者として扱っていました。ダニーは息苦しさを感じながら、じっと耐えるしかできませんでした。

ダニーにとって声をあげるなど論外。しかし、それが一変する事態が起きるとは…。

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ストレートはそこまで愚かじゃない

本作『ストーンウォール』における、史実から改変されたこと、描写の気になるポイント、LGBTQの人たちから見た反応など、諸々の問題点は、以下のサイトで綺麗にまとめられているのでそちらを参照すると良いと思います。

私の第一印象は、やっぱり“ローランド・エメリッヒ”監督作だったな…と。結局のところ、本作はいつもの“ローランド・エメリッヒ”監督らしい娯楽映画なんです。社会派映画を作ろうとはしていないと思います。社会派的題材に娯楽映画のアプローチで臨んでしまったために、いろいろミスマッチが起きたということでしょう。

おそらく“ローランド・エメリッヒ”監督の中では社会派的題材に娯楽映画のアプローチを持ち込めば大衆受けできる映画になるという算段があったはず。実際にインタビューでも本作はストレートの人(ゲイじゃない人)に感情移入してもらいやすいように作ったと語ってます。

要は主人公のダニーという登場人物は言うなればTVゲームでプレイヤーが操作するキャラクターみたいなものです。劇中でLGBTQコミュニティと触れ合っていき次々と体験していくダニーの体をとおして、ストレートの人たちにもLGBTQの世界をロールプレイングさせたいのでしょう。だからダニーをオーソドックスな存在にとどめているし、ひととおり体験した後は帰っちゃうのです。

なおこの映画の時代には「LGBT」や「LGBTQ」という言葉は存在せず、普及もしていません。

そんなダニーに反乱の口火をきらせるのは、“ローランド・エメリッヒ”監督としてはストレートな人たちにも行動してほしいという思いの表れなのかもしれません。そう考えると、理解できなくもないです。

ただ…ストレートに理解してもらうなら白人にしないとダメだろうという作り手の考えが本作の根底にあるのなら、それは“ストレートをバカにしすぎ”だと思います。

たとえ主人公がマイノリティでも大衆に受けることは可能ですよ。黒人のゲイが主人公の『ムーンライト』がアカデミー賞で作品賞に輝き、NASAで働く黒人の女性たちに焦点をあてた『Hidden Figures(ドリーム)』がアメリカで大ヒットしているのですから。『ムーンライト』はLGBTQに不寛容だとされる日本でもちゃんと高い評価を得たくらいです。

そして有色人種LGBTQである当事者をもっとバカにしすぎでしょう。

観客を信じてください。当事者に任せてください。今の時代はもっと高い志を持っていいと思いますよ、“ローランド・エメリッヒ”監督。

本作『ストーンウォール』も面白いところはあって、集団生活をおくるストリートの若者たちやゲイバー、マタシン協会などLGBTQコミュニティの描写は良かったです。レイたちの貧しいけどでも楽しそうな生活は見てて幸せになるし、何よりLGBTQといっても一枚岩ではなくていろいろな価値観を持った人がいるのがいいですね。LGBTQのなかにも多様性がある…本作はこれについてはしっかり描けています。

LGBTQからもレンガを投げつけられた“ローランド・エメリッヒ”監督、名誉挽回したいなら、次のディザスターパニック大作の登場人物を全員マイノリティにするくらいしないとダメかもですね…。

『ストーンウォール』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 10% Audience 86%
IMDb
5.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 3/10 ★★★
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関連作品紹介

LGBTQの歴史を知ることができるドキュメンタリーの感想記事です。

・『マーシャ・P・ジョンソンの生と死』

・『テレビが見たLGBTQ』

・『祈りのもとで:脱同性愛運動がもたらしたもの』

作品ポスター・画像 (C)2015 STONEWALL USA PRODUCTIONS, LLC

以上、『ストーンウォール』の感想でした。

Stonewall (2015) [Japanese Review] 『ストーンウォール』考察・評価レビュー