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『ホワイト・ヘルメット シリア民間防衛隊』感想(ネタバレ)…行動は雄弁である

ホワイト・ヘルメット シリア民間防衛隊

行動は雄弁である…ドキュメンタリー映画『ホワイト・ヘルメット シリア民間防衛隊』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The White Helmets
製作国:イギリス(2016年)
日本では劇場未公開:2016年にNetflixで配信
監督:オーランド・ボン・アインシーデル
ホワイト・ヘルメット シリア民間防衛隊

ほわいとへるめっと しりあみんかんぼうえいたい
ホワイト・ヘルメット シリア民間防衛隊

『ホワイト・ヘルメット シリア民間防衛隊』物語 簡単紹介

政権側と反体制側の内戦が2011年から続くシリアにて、人命救助に奔走する民間のボランティア団体「民間防衛隊」、通称「ホワイト・ヘルメット」の活動に密着。ノーベル平和賞の候補にもなったその活動は壮絶だった。自らの命を危険にさらしても人々を救う彼らの過酷な実状を生々しい緊張感と共に浮き彫りにする。その映像に映っていたのはあまりにも衝撃的な生と死の狭間を走り回る人間たちの姿だった。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ホワイト・ヘルメット シリア民間防衛隊』の感想です。

『ホワイト・ヘルメット シリア民間防衛隊』感想(ネタバレなし)

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“撮った”というだけでも衝撃

2017年4月6日、アメリカはトランプ大統領の許可により、シリアの空軍基地を標的に巡航ミサイルを発射しました。これはシリアのアサド大統領が主導したという疑いがある反政府派支配地域への化学兵器攻撃の報復措置ということになっています。

そんな渦中のシリアでは、空爆が日常茶飯事です。今回のアメリカもたびたび政権側への攻撃として空爆を実施していますが、政権側も反体制地域へ連日のように爆弾を降らせています。日本は「今日は雨降るかな、傘持っていこうかな」とか考えながら外に出るわけですけど、こういう紛争地では爆弾が降ってくるのが普通なんですよね。全く信じられません。

当然ながら民間人への被害も甚大ではなく、「21世紀最大の人道危機」とも呼ばれ、シリアが難民の最大の発生地となっている主因です。

その空爆で瓦礫に埋もれた人を救助している団体に密着した短編ドキュメンタリーが本作ホワイト・ヘルメット シリア民間防衛隊。第89回アカデミー賞で短編ドキュメンタリー映画賞を受賞したことでも注目を集めました。短編ドキュメンタリー映画賞というのはその名のとおり、時間の短いドキュメンタリー作品を対象としたもので、非常に注目度は少なめで、おそらくアカデミー賞の模様をワクワクしながら見ている人の大半は関心がないのでスルーしているでしょうけど、素晴らしい作品の宝庫です。長編ドキュメンタリー以上にセンセーショナルなテーマを扱ったものもいっぱいあります。ここから予算を獲得して、長編尺のドキュメンタリーになったり、劇映画化したりすることも珍しくありません。

『ホワイト・ヘルメット シリア民間防衛隊』で主題となっている、民間人を救助している団体、通称「ホワイト・ヘルメット」。これはただの医療団体ではなく、ましてや公的なレスキュー隊でもない。あくまで自主的に動き出した救援の動き。さぞ称賛されているのかと思いきや、反政府側に偏っているだとか、アルカイダとつながりがあるだとかで、プロパガンダ的だとして一部で非難する声も実はあります(詳しくはネットで検索するといくらでもでてきますが…)。

そうしたネット上の喧喧囂囂を、本作は吹き飛ばせるだけのパワーを持っている…私は本作を観てそんなふうに感じました。

とにかく映像の衝撃度が半端じゃない。よく撮ったなと唖然。というか、カメラマンの人、これひょっとして死んでしまっているのでは?と思うほどです。若干40分の映像ですが、これだけ濃い40分はそうそうないでしょう。できれば巨大な画面で見てもいいですし、別にパソコンの画面で見ても問題はないのですが、これがリアルだとはにわかに信じがたい、そういう映像を安易に飲み込みたくない気持ちにさせるインパクト。これはもう賞をとるのも当然。撮っただけで偉業なのですから。

少なくともネットで雑文も書き流している私のような人間には、ホワイト・ヘルメットの人たちの姿は、どんな映画のヒーローよりもヒーローに見えましたが…。

皆さんはどう思うかは、実際にその目で観て確認してみてください。本作はNetflix配信です。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ホワイト・ヘルメット シリア民間防衛隊』感想(ネタバレあり)

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フィクションが消し飛ぶリアル

感想を書きたいのは山々なのに、本作の衝撃を言葉にするのはとてつもなく難しい…。自分の語彙力のなさが恨めしい。

『ホワイト・ヘルメット シリア民間防衛隊』は私の語彙力を失わせるのにじゅうぶんな衝撃を与えてくれました。ヘルメットでは防げない衝撃です。

よくある食事中の光景かと思いきや、軍用機の飛行音と空爆の轟音とともに部屋を駆け出すホワイト・ヘルメットの人たち。駆け出すんですよ、机の下とかに隠れるのではなく。皆さん、火事だ!ってなってその燃え上がる家に何のためらいもなく突っ込んでいけますか? 活動するホワイト・ヘルメットの人たちの目の前に着弾する爆弾。粉塵と吹き飛ぶ人間。瓦礫から救出される生後1週間の赤ん坊。

映像自体は断片的で、決して巧みな編集ではないのですが、映像力ひとつで持ってかれてしまう。まさに映像が全てです。リアル。リアルの暴力です。

こういうのを見てしまうと、ほんと、映画のフィクションが霞みます。こうした体験は、アメリカ同時多発テロの世界貿易センタービル倒壊などでも感じましたが、フィクションがリアルに負ける瞬間です。これから映画は何を描けばいいのか、映画をどう観ればいいのか…考えてしまいます。

ともあれ、ホワイト・ヘルメットの真っすぐな姿勢には心打たれました。「相手がどんな人であろうと家族と思って救助する」など言葉がいちいち響きます。ネットではいくらでも綺麗事は書けます。偽善的であろうと、人気取りであろうと、そんなのはお構いなしで言ったもの勝ちなところがあります。でも実際に行動する人はやっぱり凄い。行動は雄弁で、誰の詭弁も敵わない。本当にそれを痛感します。

ホワイト・ヘルメットのモットーは「1人の命を救うこと、それは全人類を救うこと」というイスラム教聖典コーランの一節だそうです。悪いイメージを持たれがちなイスラム教ですが、もちろん全くもってそんなことはない。というか、イスラム教やムスリムに1ミリでもネガティブなイメージを持っている人はこのドキュメンタリーを観てもまだそう思えるのかっていう話です。

彼らが誰から支援を受けていようが、元は何をしていた人だろうが、そんなのは関係ない。“偽善”では決してとれない行動なのは疑いようがない…それは映像でこれでもかと伝わってきます。

最近の「ヒーロー論に悩むアメコミヒーローたち」もぜひお手本にしてくださいよ…。いや、真面目な話、こういう実際のヒーローというのはフィクションのヒーローのベースになっていくでしょうし、まさにあらゆる善の原点になりうるんですよね。

『ホワイト・ヘルメット シリア民間防衛隊』を手がけた“オーランド・ボン・アインシーデル”監督。2015年には『ヴィルンガ』という、コンゴ民主共和国のヴィルンガ国立公園におけるゴリラの保護活動に密着した長編ドキュメンタリーを製作しています。こちらもなかなかの衝撃映像です。

それにしても、商業的成功が重視される昨今の映画業界、本作のようなドキュメンタリーは厳しい立ち位置にありますが、それを先頭で引っ張ってくれているのが、「Netflix」という商業的成功を果たした新鋭企業であるというのも、新しい時代になったなぁ…としみじみ。むしろ以前よりもドキュメンタリーに触れることが簡単になっており、確実にアクセシビリティは向上しています。しつこいようですが、これを活用しない手はないですよ。

今後も頼みます、Netflix。日本にもこういう大企業、現れないかな…。

『ホワイト・ヘルメット シリア民間防衛隊』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 100% Audience 84%
IMDb
7.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)North Kivu Film Production Ltd. 2016

以上、『ホワイト・ヘルメット シリア民間防衛隊』の感想でした。

The White Helmets (2016) [Japanese Review] 『ホワイト・ヘルメット シリア民間防衛隊』考察・評価レビュー