嵐だ! そうだ、強盗だ!…映画『ワイルド・ストーム』(ワイルドストーム)の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2018年)
日本公開日:2019年1月4日
監督:ロブ・コーエン
ワイルド・ストーム
わいるどすとーむ
『ワイルド・ストーム』あらすじ
アメリカ西海岸に史上最大規模の巨大ハリケーンが迫り、住民たちが避難する中、大災害の混乱に乗じて、ある犯罪計画が進行していた。それは武装集団が財務省の紙幣処理施設を襲撃し、6億ドルにもおよぶ現金を強奪するという前代未聞のものだった。
『ワイルド・ストーム』感想(ネタバレなし)
ワイルド・ハリケーンだよね
「いや~、ちょっと天気が荒れてきたね…。嵐だってニュースでも言ってたし…」
「どれ、ちょっと外でも見てくるか」
これが死亡フラグなのは、常識のある皆さんならわかるはずでしょう。台風が直撃する日に、畑を見に行ってもいけないし、川も海もダメ。SNSでウケそうな写真や動画を撮りに行くのもご法度です。でも、人間というのは欠陥品なもので、こういうときに限って“危機察知センサー”がオフになるんですね。自然災害に見舞われた2018年も避難をしなかった住民が多数を占めたという報告もありました。
そんななか、「よし、強盗に行ってこよう!」なんて火事場泥棒的な人たちは実際にいるんでしょうかね。だって、上記のとおり、避難すら全然していないんですよ。強盗する側にしてみれば、何もメリットないじゃないですか。
しかし、本作『ワイルド・ストーム』の悪者は違いました。カテゴリー5の巨大ハリケーンが迫る日に、財務省の紙幣処理施設から6億ドルを奪ってやるぜ!と計画。それが大胆な戦術なのか、はたまた無謀という名のバカなのか、それは映画を観て確認してもらうとして、まあ、一応言っときますけどマネしないでくださいね。
アメリカのハリケーンのニュースでよく聞くこの「カテゴリー5」とかいう言葉。これは「サファ・シンプソン・ハリケーン・ウィンド・スケール(SSHWS)」という基準に従ってハリケーンを分類した等級のひとつです。風速が33-42m/sなら「カテゴリー1」、43-49m/sなら「カテゴリー2」、50-58m/sなら「カテゴリー3」、59-69m/sなら「カテゴリー4」、70m/s以上なら「カテゴリー5」となります。気象庁によれば風速30m/s以上で“猛烈な風”と予報用語で表現し、40m/s以上で住家が倒壊するとのこと。つまり「カテゴリー5」は尋常ではない脅威だというのがわかります。
命が助かれば儲けものですよ。でも強盗します。するんです。
監督は『ワイルドスピード』と『トリプルX』という二大アクション映画の代表を手がけた“ロブ・コーエン”。今ではすっかり勢いありきのぶっとんだアクション大作になってしまった感もありますが、この2作は初期の頃はまだ比較的、地に足のついた映画でしたね…(しみじみ)。なので、『ワイルド・ストーム』もわりと堅実なところもあります。でも、派手なシーンもちゃんとあるのでお楽しみに。
ところでこの邦題の「ワイルド・ストーム」。監督過去作の『ワイルドスピード』から命名しているのでしょうけど(公式の愛称は「ワイスト」)、それ以前のツッコミがあるので、言わせてください。
宣伝ポスターには「トルネード」が描かれているのです。でも、本作は「ハリケーン」の映画なんです。ちなみに「ハリケーン」というのは特定地域で発生した風速の強い熱帯低気圧のことで、「トルネード」は要するに竜巻のこと。別物です。日本の配給は気象学とかどうでも良かったんでしょうね。原題は「The Hurricane Heist」なのですし、本来の内容に即するなら「ワイルド・ハリケーン」というタイトルにすべきなのだけど…。
ということで、1996年の『ツイスター』や2014年の『イントゥ・ザ・ストーム』とは違って、ハリケーンの話だということを念頭に置いて、鑑賞してみてください。
『ワイルド・ストーム』感想(ネタバレあり)
“やりすぎない”スタンス
2018年の1月も『ジオストーム』というディザスター映画が公開されており、日本の映画業界は1月を災害映画の月にでもしたいのでしょうか(もしかしたら台風の少ない時期に公開するという配慮なのかもしれないですが)。
ただ、ハチャメチャ災害映画といっても過言ではなかった『ジオストーム』と比べて、本作『ワイルド・ストーム』はまだ筋があるというか、とりあえず派手なディザスター・シーンだけを見せておけばいいやなんていう開き直りの境地には達していません。いや、達しなくていいのですけど。
だから、純粋にド派手な映像だらけを満喫したかった人は物足りないかもしれません。
でも、災害シーンは丁寧に作ってあったと思います。
例えば、冒頭の主人公兄弟の少年時代の場面。ハリケーンによって大きなトラウマを負う重要なエピソードですが、ここの“家ごとグワッと持ちあがる”感じは本当に怖いですよね。安全だと思える家ですら全く安心を保証してくれないというのは、被災における最悪な恐怖のひとつでしょうし。まあ、あの髑髏みたいな雲はやりすぎのような気もしましたが…。
ディザスター映画だとよくありがちな現象として、「さすがにこれはないだろ…」みたいな、ひたすら際限なくインフレしまくる災害映像という問題がありますが、本作はその落とし穴にはハマっていなかったのではないでしょうか。最後のカーチェイス・シーンで、最高級の見せ場を用意してくれていましたが、あの災害描写もまだ自然な方だったと思いますし(コンテナが都合よくドーンと落ちてくる程度は愛嬌です、愛嬌)。
本作ではハリケーンをあくまで背景の効果として使うことに徹しており、そのかいあって、自然災害としては普通にリアルな描写にとどまっています。それだと面白くないのではと思うのですが、強風を利用して手裏剣のようにモノを投げ飛ばして攻撃するなど、意外な工夫で、ハリケーンを活用していたのも面白かったです。ちょっと『イコライザー2』とネタかぶりしている部分もありましたけどね。
ハリケーンの暴風雨を演出に使おうという製作者の“やりすぎない”スタンスが、映画までもを災害のテンションで暴走させないように抑制を効かせており、さすが“ロブ・コーエン”監督、確かな腕だなと感心しました。
6億ドルよりも大変な問題
災害描写だけが突出して暴れないように制御したぶん、人間ドラマとサスペンスが最高に面白ければ言うことなしなわけですが、じゃあ、どうだったかと言えば、うん…。
まず、私は盛大に勘違いしていました。鑑賞する上で前情報は極力見ていなかったのですが、てっきり強盗する側が主人公なのかと思っていたのです。強盗を食い止める側だったんですね。強盗する側が主人公の方がシンプルで面白く見せられるのではとも思いますが、まあ、そこは見せ方の問題。きっと逆転につぐ逆転の連続でハラハラさせてくれるのかなと思っていると…。
この強盗する側と強盗を食い止める側の対決がそれほど盛り上がらない。
強盗する側についてですが、観客にしてみれば「こんなときに強盗するなんてアホじゃないの?」と若干思いながら観ることになるわけです。そこで「でもコイツらはめちゃくちゃ賢い!」ってことを見せれば、見直すのですけども、実際はやっぱり計画ミスなんじゃないかと思わざるを得ないですよね。トラブルで手間取るし、そこまで戦闘のエキスパートでもないし、あげくに高潮で大量の水流が押し寄せちゃったりして、たぶん「案の定この日に強盗するのは間違いだった」と誰でも思ったはずです。
一方、食い止める側の主人公チームですが、少数のわりにはやたらと有能。ウィルは気象学者だからハリケーンにも熟知している…これはまだわかる。施設職員のケーシーはなぜあんな“ランボー”スタイルで戦うのか。作中で一番銃を気持ちよく乱射していたのは、強盗グループではなくこのケーシーでしたよ。本当、よく撃っていたなぁ…。
しかも、この二人には災害用特殊車両“ドミネーター”という最強の武器がありますからね。「最新の衛星技術とサバイバルグッズを搭載し、1000馬力のパワーとスピードを兼ね備え、10トンの重量を誇る特別なスペックを持つ車両」という説明文のとおりモンスター級。
その装甲車を有する主人公側の方がどう考えたって強いのですが、でも敵は頑張る。カーチェイスで逃げ回る中盤シーン。固定モードで地面に車両をロックし、敵車両が激突して大破。ここだけ『ワイルドスピード』。敵が可哀想になってきます。なんで車内の人間は大丈夫なんだとか言ってはいけない。ほら、主人公側はきっと衝撃吸収能力の持ち主なんでしょう、ね。世の中に蔓延る煽り運転にもこれくらいの反撃をしたいものです。
あと根本的なことを言いますけど、本作のサスペンスの要である「6億ドルの現金を強奪する」という計画。いまいちどうでもいいと思ってしまうのです。だって、2017年にアメリカを襲った3つのハリケーンの総被害額は2680億ドルだったんですよ。それに比べて「6億ドル」って、正直、無視できる金額じゃないですか。一体、強盗する側と強盗を食い止める側の双方は何を焦っているんだという感じですし、少なくとも主人公たちは他にすべきことがありましたよね。
そんな風に考えたら、急に茶番に思えてくるのでした。
失ったもの(リアル)
あとはキャラクターたちも豪快なシチュエーションを引き立てるほどの魅力にはいまひとつ届かないのも残念。いや、俳優陣には何の罪もないのですけど。
ウィルを演じる“トビー・ケベル”は、最近だと『猿の惑星:新世紀』で悪者側に傾くチンパンジーのコバを演じたりしていたのが個人的には印象に残っていますが、『ワイルド・ストーム』では善人側。体を張った活躍をしているわりにはあまり目立った記憶に残らなかったなと。
その理由はたぶんこのヒロインのせいです。乱射癖のあるケーシー。演じているのは、リュック・ベッソンの『96時間』シリーズでリーアム・ニーソンがなりきる主人公の娘役を演じた“マギー・グレイス”。そうか、だから銃の扱いに慣れていて容赦ないのか(違う)。
『ワイルド・ストーム』でウィルとケーシーに出番を食われて、あまり単独の派手な見せ場に乏しかったブリーズを演じたのは“ライアン・クワンテン”。私はこの俳優、全然知りませんでした。良い人そうな顔をしていますね(テキトーすぎる感想)。
悪役サイドは、“ラルフ・アイネソン”や“メリッサ・ボローナ”といった濃そうなメンツが揃っているのですが、揃っただけで終わった感じ。
もうひと手間を加えればもっと面白くてユニークな映画になったかもしれません。惜しいです。最初は対峙していたけど、最終的には全員で強盗を完遂させようと協力し合う関係になって、巨大ハリケーン襲来に立ち向かう!とかだったら、アツいのに…。
本作は興行的に大コケしており、製作費の回収もできない可能性もある悲惨な状況。ハリケーンと一緒にお金も吹っ飛んだのです。
災害って怖いなぁ…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 44% Audience 24%
IMDb
5.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 3/10 ★★★
(C)CATEGORY 5 FILM, LLC 2017
以上、『ワイルド・ストーム』の感想でした。
The Hurricane Heist (2018) [Japanese Review] 『ワイルド・ストーム』考察・評価レビュー