血だまりアパートに入居しますか?…映画『死霊のはらわた ライジング』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2023年)
日本では劇場未公開:2023年に配信スルー
監督:リー・クローニン
ゴア描写 自然災害描写(地震)
死霊のはらわた ライジング
しりょうのはらわた らいじんぐ
『死霊のはらわた ライジング』あらすじ
『死霊のはらわた ライジング』感想(ネタバレなし)
お盆は死霊を呼び寄せよう
1981年に公開されたホラー映画『死霊のはらわた』。この作品はカルト映画として、ジャンルのアイコンとして、ホラー界隈では今も愛されています。
若者たちが息抜きに森の小屋を訪れ、そこで「死者の書」を発見し、呪文で悪霊を蘇らせてしまい、大惨事に…。親しみやすいオカルト・ホラーの定番の型を確立し、一般に浸透させた原点です。
この『死霊のはらわた』で長編映画監督デビューを飾った“サム・ライミ”はこの成功で一躍ホラー映画監督の先陣となり、後のハリウッドにおけるホラーの盛況の土壌を作りました。その後に『スパイダーマン』シリーズも成功させるので、今のアメコミ映画ブームも『死霊のはらわた』あってこそだと言っても過言ではない(そういうことにする)。
『死霊のはらわた』のほうはと言えば、シリーズ化し、『死霊のはらわたII』(1987年)と『キャプテン・スーパーマーケット』(1992年)に直接的な続編が作られました。そして2013年にはふわっとリブートとさせた『死霊のはらわた』が公開。この2013年版の 『死霊のはらわた』を監督した”フェデ・アルバレス”も後に『ドント・ブリーズ』で注目され、一気にホラー映画界で引っ張りだこになりました。
2015年から2018年にはドラマ『死霊のはらわた リターンズ』が放送され、フランチャイズは拡大します。
『死霊のはらわた』にマーベル・キャラクターをゲスト出演させた『ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス』もあったし…(違う)。
まあ、「死霊のはらわた」と名がつく(もしくには似たタイトル)けど『死霊のはらわた』シリーズと全然関係ない作品はわりとあるから混乱しやすいですよね…。
そんな中、2023年、またしても『死霊のはらわた』新作映画が登場しました。こっちは正真正銘のオフィシャルのシリーズ作です。久しぶりの映画ですね。
それが本作『死霊のはらわた ライジング』。原題は「Evil Dead Rise」です。
他のシリーズ作品との立ち位置はどうなんだという話ですけども、『死霊のはらわた ライジング』は、1981年からの3作、2013年版、そのどれとも直接は繋がらない、新規スタートの一作となります。
なので「『死霊のはらわた』って有名らしいけど全然見たことない…」という人でも、この『死霊のはらわた ライジング』からの入学でOKです。
もちろん『死霊のはらわた』シリーズ好きが観れば、お約束ネタにいっぱい気づけて楽しいですけどね。
今回の『死霊のはらわた ライジング』の特徴として、ネタバレなしで紹介するなら、「シリーズのレガシー」と「これまでにない新しさ」をユーモアとセンスで上手く混ぜ合わせており、とてもバランスのいい2020年代版になっていると思います。
その『死霊のはらわた ライジング』を監督したのは、“リー・クローニン”。2019年に『ホール・イン・ザ・グラウンド』という映画で長編監督デビューしており、そちらでも独特のセンスの良さを発揮していたのですが、『死霊のはらわた』の扱いも見事なものでした。
俳優陣は、『Monolith』の“リリー・サリバン”、ドラマ『ヴァイキング 〜海の覇者たち〜』の“アリッサ・サザーランド”が大人勢として出演。子どもの役として、“モーガン・デイビス”、“ガブリエル・エコールズ”、“ネル・フィッシャー”も共演しています。ちなみに“モーガン・デイビス”はトランスジェンダー男性で、こういうホラーでトランス俳優が普通にでてくるのは珍しく、クィア・コミュニティは称賛しています(PinkNews)。
”ブルース・キャンベル”は? ”ブルース・キャンベル”は!?…と往年のファンは前のめりになっているかもですが、落ち着いて…。きっとあなたには聞こえるはず…。
『死霊のはらわた ライジング』はホラー映画ファンにとっては見逃せない一作なのですけども、残念ながら日本では劇場未公開でビデオスルー。忘れずに死霊参りでもしましょう。お盆だし!。
こども家庭庁はこういう映画を推薦すればいいと思います!
『死霊のはらわた ライジング』を観る前のQ&A
A:とくにありません。シリーズ未見の人でも、この映画からいきなり観ても問題ないです。
オススメ度のチェック
ひとり | :シリーズ初見でも |
友人 | :気軽にホラーを |
恋人 | :一緒に怖がって |
キッズ | :残酷描写多め |
『死霊のはらわた ライジング』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):アパートが地獄と化す
静かな湖。ヘッドホンをして桟橋でエミリー・ブロンテの小説「嵐が丘」を読みながら佇むテレサに迫るのは…小型ドローン。それを操作するのは、後ろから気楽に笑いながらやってくるケイレブです。ケイレブの恋人のジェシカと3人で森の小屋にバカンスに来たのでした。
ジェシカは着いて早々体調を崩して寝込んでいます。テレサは小屋に見に行くと、彼女はベッドで寝ているようで、優しく声をかけますが、返事はないです。
テレサは部屋の隅で本を読むのを再開。しかし、ジェシカの体がビクっと動いて、急に座り込み、何かを復唱し始めます。それはテレサが今開いている本のページの内容です。
明らかにおかしいので「ジェシカ!」と大声で止めると、ジェシカは床に倒れ、何かを吐きながら痙攣。心配して近づくと、首を絞めてきて、さらに髪を掴んでテレサの頭皮を剥ぎます。
外のケイレブのもとにやってくるジェシカ。異様な雰囲気です。ドローンのプロペラを自分の顔にあてて湖に消え、ケイレブは助けようと飛びこむものの、逆に首だけになって帰ってきます。
ジェシカは湖から浮かび上がり、不気味な姿を露わに…。
ところかわって、演奏音でうるさい建物奥のトイレ。ベスは妊娠検査薬を片手に困り果てていました。
一方、ベスの姉エリーはタトゥーアーティストで、アパート暮らし。DJにハマっている長男のダニー、長女のブリジット、人形の首を切るのが趣味な幼い次女のキャシーと、一緒に住んでいます。
隣人のジェイクとスコットが一緒に映画を見ないかと玄関ドアまで来て誘ってきますが、ブリジットは断ります。兄姉妹3人で仲良く過ごすのが一番です。
そこにベスが急に訪問してきます。久しぶりの妹との再会にエリーは心配しますが、ベスはやけにふざけて元気そうに振舞ってきます。
みんな集まって談笑。ただ、エリーの夫は数カ月前に家族を捨てて出ていったらしいと知って、ベスはちゃんと繋がってこなかったことに後ろめたさを感じます。ベスとエリーの間にはわだかまりがあり、ベスは上手く寄り添えません。
そのとき、地震が発生。ちょうど子どもたちはピザと飲み物を買ってマンションの地下駐車場にいました。地面にヒビが入り、陥没穴が生じたのに気づきます。
ダニーは中をライトで照らし、好奇心のままに入ってみます。明らかに空間があり、秘密の金庫のようでした。箱を開けると、いくつもの手紙、神父の写真、レコード…。何か物音がしたと思ったら、巨大な十字架のイエスが降ってきます。やたらと小さな十字架もいっぱい吊るされています。
石棺の中に古びた本を見つけ、ダニーは持ち帰ることにします。
エリーは子どもたちを心配していましたが、子どもたちがエレベーターで戻ってきて、安心して抱きしめます。
さっそくダニーは部屋で本を調べます。無理に開けようとして指から出血し、本はその血を吸い上げ、ゆっくりと開き…。
死霊災害映画の幕開け
ここから『死霊のはらわた ライジング』のネタバレありの感想本文です。
2013年版『死霊のはらわた』はオリジナル映画と舞台もキャラ構成もほぼ同じくして、順当にリメイクした(少しエグさを追加してるけど)作品でした。
対する今回の『死霊のはらわた ライジング』は、まず冒頭、シリーズ定番の流れるように進むカメラワーク…でもそれはドローンでした…という、おふざけから始まります。このオープニング・パートは完全にオリジナル映画をなぞっているわけですが、真っ昼間なのが注目です。ほんと、この死霊さん(英語では「Deadites」と呼ぶ)、日が出てても元気だな…。
そして湖からまさに「Rise」しての、堂々のタイトル。この仰々しさ。今回はアホっぷりが開幕から突き抜けていてテンションあがります。景気のいい死霊ですよ(なんだそれ)。
ここからメインストーリーで『死霊のはらわた ライジング』の新しい部分が目立ちます。今度の舞台は古びたアパートです。
アパートならどこから「死者の書」が見つかるのだろうと思ったら、まさかの地震でできた陥没穴の奥底でした。でもこの地震ってところが今作のポイントで、つまり今回は災害映画的な作りなのです。アパートという身近な舞台で、最も安心するべき居住空間が、人間にはどうしようもできない力で滅茶苦茶にされていく。逃げ場も無く、翻弄される。死霊ディザスターです。
エレベーターから恒例の憑りつきが始まるのも象徴的。そして今回は電線ケーブルで体を縛られます。このシーンも、エレベーターの四角い空間に、綺麗に束縛身体が配置されて、ちょっと芸術的。
“リー・クローニン”監督は、タイトル含めて、絵作りのセンスがいいですね。
例えば、憑依エリーを廊下に締め出した後、ドアの穴から廊下の地獄絵図が覗けるのですが、そこも基本は惨劇が起きてますけど妙にバカっぽさがありますし、ベスとキャシーが決死の覚悟で逃げ込んだエレベーターが血で満たされるシーンもなかなかに振り切っています。
そして「チン…!」の音と共にエレベーターが開いて血が大量にドパっと…。あそこは『シャイニング』オマージュであると同時に、出産のメタファーになっているというわざとらしい構図です。
なお、偽の血は6500リットル使ったらしいです。
このちゃんとアホなシーンを真面目にやるという部分が『死霊のはらわた ライジング』の完成度の秘訣だったんじゃないかなと思います。
そういう家族の結束は遠慮します
『死霊のはらわた ライジング』は、無警戒にノコノコやってきた若者たちが餌食になるのではなく、家族が餌食になります。事実上のファミリーの結束が試される物語です。
最初に死霊に支配されるのは母親であるエリー。家族の中心であり、それを失ったことで、この家族は弱点を突かれて崩落していきます。
憑依エリーも実にサービス精神全開で、あれこれパフォーマンスを披露してくれて楽しいです。卵でずぼらクッキングして、お風呂を一瞬で沸かして…。
その惨劇の引き金をひいてしまう今回のうっかりさん、それがダニー。DJという性質を活かして、あのレコードを回す手を止められないシーンが「ああ、やっちゃった!」という感じでたまりません。その後はじわじわと自責の念に蝕まれていて、今回のダニーは人間味溢れる良いキャラでしたね。
しかも、このレコードの神父の声は”ブルース・キャンベル”だし…。観客としても聞かずにはいられないです。
そしてボーイッシュな短髪のブリジットも努力むなしく死霊に乗っ取られ、デロデロを味わうことになります。今回は死霊憑依バージョンになってからもじっくり見せてくれるので、「あの大切な家族が奪われた!」という悲しさを刺激されますね。
後半は地下駐車場で、暗黒のファミリー結束を具現化したような死霊モンスターが襲ってきます。結束するってそういうことじゃないのだけど…。
最後は憤怒の血走った覚悟でベスが、シリーズ恒例の武器チェーンソーできめてくれます。粉砕機のトドメつきなので、今回は綺麗に血が散布され、フィニッシュです。定番のシーンですが、今作のベスはギターをしている経験のせいか、チェーンソーを持つ姿がさまになっている気がする…。
でもこの映画の悪趣味さは続く。なんと冒頭のシーンで憑りつかれていたジェシカは同じアパートの住人で、これは過去シーンでした。ジェシカは大惨事の地下駐車場に絶句しつつ、しっかり憑依され、冒頭の展開が起きます。あのタイトルはオープニングであり、エンディングでもあったのでした。だからあの死霊さん、勝ち誇っていたのか…。
ということで、今回も死霊さんの勝利でした(知ってた)。
『死霊のはらわた ライジング』のヒットを機に、またこのシリーズは連続で再稼働するのか。“サム・ライミ”や”ブルース・キャンベル”はそのつもりみたいなことを言ってますけど、結構マイペースな人たちなのでわからないですけどね。”ブルース・キャンベル”自身を本格的に登場させてしまうとアホ度が振り切りすぎてしまうのが欠点だからな…。
ただ、“リー・クローニン”監督はなかなかにセンスのいい才能を証明したので、今後の監督作にワクワクです。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 83% Audience 76%
IMDb
6.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
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・『スクリーム6』
・『Smile スマイル』
作品ポスター・画像 (C)Pacific Renaissance Evil Dead 21 Limited and Blade Rights Limited 2022. All rights reserved. イビル・デッド・ライズ
以上、『死霊のはらわた ライジング』の感想でした。
Evil Dead Rise (2023) [Japanese Review] 『死霊のはらわた ライジング』考察・評価レビュー