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『タミー・フェイの瞳』感想(ネタバレ)…神に代わって伝えたかったこと

タミー・フェイの瞳

ありのままのテレビ伝道師の素顔…映画『タミー・フェイの瞳』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The Eyes of Tammy Faye
製作国:アメリカ(2021年)
日本では劇場未公開:2022年にDisney+で配信
監督:マイケル・ショウォルター
性描写 恋愛描写

タミー・フェイの瞳

たみーふぇいのひとみ
タミー・フェイの瞳

『タミー・フェイの瞳』あらすじ

タミーは信仰心の強い女性であり、その宗教への熱意だけに人生を捧げていた。そして学生のとき、運命的な出会いを果たす。それはジム・ベイカーという同年代の男性で、自分と同じく宗教への熱い想いを抱え、饒舌な人だった。すぐに2人は打ち解け合い、伴侶となる。1970年代から1980年代半ばにかけて、タミーは夫のジムと一緒にテレビ伝道師として活躍して、たちまちアメリカのお茶の間に愛されていくが…。

『タミー・フェイの瞳』感想(ネタバレなし)

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ジェシカ・チャステインの熱演

「リバイバル」と言えば、映画では旧作が再上映されることを指しますが、宗教用語として「リバイバル」という言葉が使われることもあります。これは主にキリスト教で用いられ、急激な信仰者の増加をもたらす信仰運動のことです。とくに信仰者をより敬虔にし、宗教との結びつきを強めるという結果を生み、こうした信仰運動をする人を「リバイバリスト」と呼びます。

その昔からキリスト教の伝道は行われてきました。当初は地道に宣教師などのリバイバリストが各地を巡るしかありませんでした。しかし、メディアの発達がその様相を変えます。ラジオの登場によってラジオで伝道する人が出現。そしてテレビの普及が流れを完全に激変させました。

テレビさえあれば国中の人に一斉に伝道できるのです。しかも、寄付もしてもらいやすく、視聴率を稼げばテレビ局も喜ぶので、強力な連携が完成します。

こうして「テレビ伝道師」と呼ばれる人たちがアメリカでは1950年代あたりから登場し、お茶の間の顔になっていきました。有名なテレビ伝道師としては、絶大な影響力を持っていたビリー・グラハムや、カリスマ性を発揮したオーラル・ロバーツ、「クリスチャン・ブロードキャスティング・ネットワーク(CBN)」という伝道のための専門テレビネットワークを設立したパット・ロバートソンなどが挙げられます。

キリスト教がテレビとべったりな関係になったことで世論は宗教の影響を大きく受けるようになりました。例えば、政治的影響力も無視できません。また、当時はテレビ伝道師が同性愛者への偏見をばらまいていたことはドキュメンタリー『テレビが見たLGBTQ』でも指摘されているとおり。

そんな中、多くのテレビ伝道師とは趣の異なる変わった人がいました。今回紹介する映画は1970年代から1980年代半ばにかけて活躍したその特異なテレビ伝道師を題材にした伝記作品です。

それが本作『タミー・フェイの瞳』

本作が主題とするテレビ伝道師、それがジム・ベイカータミー・フェイという夫婦です。とくに妻の方であるタミーの視点で映画は構成されています。この夫妻は学生時代にひとめ惚れして互いに愛を育み、双方とも信仰に身を捧げていたので、そのままテレビ伝道師としてキャリアを進めます。そして持ち前のチャーミングさとエンターテイナーっぷりで瞬く間にアメリカのテレビの前の家庭に愛されるようになっていったのです。

ではこのタミー・フェイのどこが他のテレビ伝道師と違うのか。それは映画を観てのお楽しみということで。知らなかった人にすれば「こういう人だったのか~」と発見があって面白いと思います。

その主役であるタミーを演じたのが、ベテランの“ジェシカ・チャステイン”。今作では非常にメイクにこだわり、“ジェシカ・チャステイン”の面影がないくらいにタミーになりきっています。賞レースでも主演女優賞のステージにあがる候補として筆頭です。なんでも本作はドキュメンタリーの映画化なのですが、その映画化の権利を“ジェシカ・チャステイン”が持っていたみたいですね。よほど映画にしたかったのだろうな…。“ジェシカ・チャステイン”は『355』といい、最近は俳優業のみならず精力的にプロデュースにも参加しており、リーダーシップが全面に出ていますね。

共演は、タミーの夫のジムを演じるのが『tick, tick…BOOM! チック、チック…ブーン!』の“アンドリュー・ガーフィールド”。『ハクソー・リッジ』と『沈黙 サイレンス』に続いてまたも宗教に打ち込むキャラクターですね。

他には、ドラマ『ジェイコブを守るため』の“チェリー・ジョーンズ”、ドラマ『倒壊する巨塔-アルカイダと「9.11」への道』の“ルイス・キャンセルミ”、ドラマ『ラチェッド』の“ヴィンセント・ドノフリオ”など。

『タミー・フェイの瞳』の監督は、『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』『ラブバード』を手がけた“マイケル・ショウォルター”です。

『タミー・フェイの瞳』はサーチライト・ピクチャーズ制作の映画でしたが、日本では劇場未公開で「Disney+」の独占配信ということになりました。

宗教モノというよりは芸能スキャンダルモノであり夫婦ドラマでもあるので、わりと観やすいと思います。テレビ伝道師の素顔を覗いてみてください。

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『タミー・フェイの瞳』を観る前のQ&A

Q:『タミー・フェイの瞳』はいつどこで配信されていますか?
A:Disney+でオリジナル映画として2022年2月2日から配信中です。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:クィアな人にも
友人 4.0:俳優ファン同士で
恋人 3.5:夫婦ドラマです
キッズ 3.5:こんな人もいたのです
↓ここからネタバレが含まれます↓

『タミー・フェイの瞳』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):信仰に身を捧げる夫婦の門出

1952年、ミネソタ州。教会を外の窓から覗く女の子がひとり。名前はタミー。中では「イエスに救われぬ者は悪魔に憑りつかれ悪魔を体に宿すのだ!」と熱心に指導者は熱弁し、信者が大袈裟な身振りで祈りを捧げていました。タミーの母はそこでピアノを弾いています。でもタミーは中に入れません。妹は中にいるのに…。

家での夕食。「私も救われたい」と両親に懇願しますが、親は冷たい顔。「私が再婚前にできた子だからダメなの?」と素直に疑問をぶつけると、母は「お前が来たらまた離婚を叩かれ家族ごと追放よ。あんたの弟や妹も地獄で焼かれる」と言い放つだけでした。結局、タミーは家でひとり祈るしかありません。

次の集会で思い切って教会の中へ立ち入ってみるタミー。憧れの十字架の前。タミーは興奮して両手をあげ祈り、気持ちが高ぶり、変な感覚に…。母は心配して駆け寄ってきますが、「奇跡の子だ」とみんなは盛り上がっていました。

1960年。学生となったタミーはノースセントラル聖書大学に通っていました。聖堂で座っていると「ヨハネの第三の手紙」の第2節を読み上げる若い男が立ちます。その男は「夕べ神が現れてこの1節を語った」と高揚して言い、その独特の語り口に笑みをこぼすタミー。すっかり調子に乗って「ハレルヤ!」とノリノリです。化粧がふしだらだと周囲に指摘されても笑みを絶やさないタミーは、その男、ジム・ベイカーと気が合いました。

芝生で座って身の上話を語り合う2人。ジムも「君みたいな人は初めてだ」とタミーを気に入り、ジムは「ラジオDJを目指していた。ドミノ・ファッツとか」と身の上話を語ります。2年前に恋人とデートしていてラジオに夢中になってしまい車で少年を轢いたこと。少年の肺は潰れたこと。そして神に人生を捧げることにしたこと。少年の命は助かったこと…。

こうして人前も気にせず2人は踊り、愛し合い…結婚しました。母にジムを紹介。学生結婚したので大学に戻れません。両親にジムのことを絶対に気に入ると太鼓判を押し、神学は自力で学ぶと豪語し、「ジムが説教し、私が歌う。オーラル・ロバーツみたいに」と目を輝かせます。

ジムも勢いで車を購入し、あちこちをそれで回り、伝道する日々を送ります。タミーは人形で子どもたちを楽しませます。ジムは得意の語り口で聴衆を満足させます。

1965年。モーテルに泊まっていると、パット・ロバートソンという伝道師をテレビで見ます。「地味だ」とタミーは感想を言いますが、ジムはその姿から学ぼうとしていました。タミーは「私たちにもできる」と夫を鼓舞します。

翌日、モーテルの前から車が消えていました。思わぬピンチにその場で祈り始める2人。そこに男性がやってきて、なんとパット・ロバートソンと番組をしていると言います。「興味あるか?」…2人はチャンスを掴みました。

1969年。タミーとジムはCBNの番組内でコーナーを持ちました。2人は順調に人気を集めていました。その本番内でタミーは「赤ちゃんを授かった」とジムにも内緒で報告。

こうしてタミーは妊婦となり、一時的に番組から離れますが、やはりジムと何かしたいという気持ちは抑えられず…。

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神はありのままのあなたを愛しています

『タミー・フェイの瞳』は最近であれば『愛すべき夫妻の秘密』と同じ、芸能の世界で活躍する夫婦の馴れ初めと破局を描くというスキャンダラスなドラマです。しかし、『タミー・フェイの瞳』の場合はそこに信仰という要素が重要な意味を帯びてきます。

タミーとジムは典型的なテレビ伝道師ではあるのですが、序盤からある傾向が見て取れます。それは宗教的規範をあまり気にしていないこと。例えば、なかなかに欲に忠実です。出会ってすぐさま結婚してしまい、風呂場での“あれ”とか、淫らなロマンチック・ムードを常にプンプンさせています。一般的なキリスト教としてはそこはモラルとして抑えないとダメなはずなのに、わりとテキトーな論理でそこを正当化していたり…。

ただ、それこそがタミーのテレビ伝道師としてのアイデンティティになっていくんですね。CBNで番組出演し始めた時も妊娠を出演中に発表。たぶん当時は妊娠の話題は公ではタブーでしょうし、ましてやここは宗教番組内なのですが…。

そしてタミーは男たちにも臆することはありません。パット・ロバートソンの屋敷でのパーティーに招かれた際も、ズカズカと男たちだけのテーブルに入り込み、大物であるジェリー・ファルウェル牧師が「リベラル、フェミニスト、ホモセクシュアルと戦うんだ」と宣う中で、「みんな同じ人間では?」とタミーは言ってのけます。

まさしく今の保守層の思想を構築したのは他ならぬこの当時のキリスト教の男性指導者たちなのですが、タミーは全然迎合しないのです。

作中ではタミーはエイズを患って苦しむゲイのキリスト教信者と番組で対談するシーンがありますが、あれも実話。タミーはLGBTQフレンドリーな稀有なテレビ伝道師となり、後にプライド・パレードにも参加するほどにLGBTQコミュニティに支持されていきました。

タミーにとって「隣人を愛しなさい」とは「全ての人を愛しなさい」ということであり、その姿勢の裏にはおそらく女性への抑圧に内心では苦しんでいた母の無念を晴らしたいという思いがある。この母娘のささやかな交流が本作のドラマをグッと味わい深いものにさせているんじゃないでしょうか。

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これが私のアメリカ、これが私のキリスト教

一方のタミーの夫、ジム・ベイカーですが、彼は当初はいかにも人当たりの良い好青年なのですが(この爽やかで初心な感じの佇まいが“アンドリュー・ガーフィールド”は本当に上手いですね)、しだいに雲行きが怪しくなってきます。

テレビ伝道師として成功し始めるとキャリア優先となり、夫婦として最初は対等だったのに、いつのまにやら明らかに上下関係が生まれ始めます。作中ではタミーのことをガスライティングするような一幕もあったり…。

ガスライティングというのは、心理的虐待の一種で、被害者(主に女性)に対して男性が「(女である)お前が悪い」と思い込ませて、被害者の正常な認識を疑わせてしまうように仕向ける手法のことです。

そうこうしているうちにジムは資金流用など数々の不正行為にまで手を染めてしまっています。そしてあの一度は決別したはずのジェリー・ファルウェル牧師とべったりな関係に。この場面なんか、“アンドリュー・ガーフィールド”と“ヴィンセント・ドノフリオ”という俳優の組み合わせなので、スパイダーマンがキングピンに懐柔されたみたいですよね。

そしてトドメの性的暴力疑惑。これによってファルウェルは「PTL」を乗っ取ることに成功。ダメ押しで、「ジムは同性愛者の疑いがある」とまで会見で言ってのけるという非道(ちなみに本当に同性愛者だったかは不明で、証拠はないようです。作中では助手のリチャード・フレッチャーと良い関係そうに見える雰囲気だけ漂わしていましたが…)。

そうやって夫が愛ではなく権力に溺れて失墜してしまった中、タミーはそんな夫にも導きを与えようとします。タミーの厚化粧を笑うという決定的な亀裂を描きつつ、それでもなぜジムを見捨てないのか。そこにはもう夫婦というよりは、タミーは伝道師として務めを果たす目的意識があり、夫を上回っているとも言えます。

映画のラストは実に挑発的でした。オーラル・ロバーツ大学での特別ゲスト講演。アメリカ国旗がギラギラと輝く中で幻のコーラスを背景に、威風堂々と歌い上げるタミー。これが私のアメリカ、これが私のキリスト教、これが私の人生です!…と宣言するかのような姿は、きっと保守層には見たくもない光景かもしれません。でもタミーは揺らがない。まさしく伝道師として貫いた生き方を映画は活写していました。

なお、映画のエンディングで説明されるようにジムは出所後にまた伝道師として活動を再開。でもドナルド・トランプ大統領を支持し、戦争が始まるぞと銃武装を煽り、その過激な言動はキリスト教コミュニティからも批判される始末。あげくに新型コロナウイルスに効くと謳うサプリメントを販売しだし、ボロクソに非難されているのが今の姿です。こっちはもはや伝道師でも何でもなく、ただの詐欺紛いの極右論客になり下がってしまって、「神は彼を救わなかったんだなぁ…」とこっちは遠い目になりますね…。

『タミー・フェイの瞳』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 68% Audience 87%
IMDb
6.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0

作品ポスター・画像 (C)Searchlight Pictures タミーフェイの瞳 ジ・アイズ・オブ・タミー・フェイ

以上、『タミー・フェイの瞳』の感想でした。

The Eyes of Tammy Faye (2021) [Japanese Review] 『タミー・フェイの瞳』考察・評価レビュー